第12話
金曜投稿です。
会議室は何とも表現しがたい空気にが包まれました。
外務大臣が自国の王に断りなく妖精姫捕縛の命令を下し、動こうとした近衛兵はアッシュ君の魔法に拘束されました。
これ、立派な職権濫用ですよね。
この場の上位者は国王です。
命令系統に不備がある処では、ありません。
騎士団長さんは、制止を命令しました。
アッシュ君が拘束した近衛兵は、無視して剣を抜こうとしていました。
近衛がどうして、外務大臣の指示に従ったのか。
人物鑑定の結果は、黒です。
外務大臣程ではありませんが、帝国の思想に染まっていました。
〔セーラ狙った。潰したい〕
〔同感ですが、抑えてください。この場は先生に任せましょう〕
私はリーゼちゃんの腕にしがみついて、動きを制限しました。
こうしておけば、リーゼちゃんは私を振り払うことはしません。
今はまだリーゼちゃんが暴れる必要はないのです。
ラーズ君はアッシュ君が拘束したので、静観な構えです。
「フランレティア国王。こいつの異変は、いつからだ」
「何だと。貴様、私を愚弄するのか」
トール君は呆れた調子で問いました。
フランレティアは帝国の属国ですが、自治は認められています。
帝国の貴族と縁戚とは言え、外務大臣の歪さに気付いていないのでしょうか。
いくら外務大臣でも、国が招いた客人に対しての態度は酷すぎです。
「あんた。少し黙っていろよ。後で、たっぷり相手してやるから。【沈黙】【睡眠】」
とうとう、実力行使になりました。
外務大臣は、その場に崩れ落ちました。
咄嗟に騎士団長さんが受けとめたので、怪我もなく椅子に座らせられました。
「賢者殿、やりすぎではないか」
「そうだ。外務大臣は我が国を守る為にだな……」
「そいつみたいに、なりたくなかったら、あんた等も黙っていろよな」
威圧を込めた眼差しで、トール君は他の大臣の批判を黙らせました。
外務大臣は孤立無援で声高に、帝国擁護を謳っていたのではないのですね。
外務大臣派と見ました。
帝国擁護派と、国王擁護派の比率はどうなのでしょう。
宰相補佐官さんが言ってました。
帝国はフランレティアの王族を処刑して、富を独占するのだと。
大臣の中には王族の首を差し出して、自分だけは助かろうとする腹づもりでしょう。
甘い考えです。
帝国は、裏切りには寛容ではないはず。
貴族位は剥奪されて、一般庶民に落とされるのは確実です。
それか、何らかの因縁を付けて、処断されるかです。
「宰相、国王。会議は帝国からの独立だろう。さぞ、反対意見がたっぷり出て紛糾していただろうな」
「賢者殿の言う通りですな。我が身可愛さに国を売ろうとする大臣がおります。外務大臣はその先鋒です」
宰相さんの言葉に顔色を変える大臣がいます。
赤くなったり、青くなったり。
それぞれ、違います。
「外務大臣として、職務で帝国に頻繁に行き来しはじめたのが、丁度今年に入ってから。聖女様の依頼で水の精霊石を献上した辺りから、性格が豹変致しました」
宰相さんから、聖女さんの話が出てきました。
シルヴィータでは、トリシア領主の側近が隷属されていました。
段々と権力を握る相手を隷属していますね。
あれ?
でも、外務大臣を隷属しているのは皇帝ですよね。
トリシアでは、聖女さんのお兄さんでした。
聖女さんは皇帝に反旗を翻して、皇帝の弟を新皇帝に推していたはずです。
何だか、混乱してきました。
もしかしたら、聖女さんの行動は皇帝の掌の上で、踊っていそうです。
「聖女か。直に会ったが、あれは己の欲望には正直すぎて、策を講じるなんて高尚な考えはないな」
「賢者殿の仰有る通りです。聖女様は、少々度が過ぎますが、無邪気な子供です」
トール君は毒を吐き、宰相さん同感しています。
無邪気な子供扱いには納得です。
自信の欲望には忠実な、我が儘娘ですよね。
精霊を駒扱いしたり、ジェス君を道具扱いしようとしたりしていました。
思い出したら、腹が立ってきました。
「実感こもっているが、何をやらかした」
「先程述べた水の精霊石の件です。鶏の卵より大きく、美しい精霊石を要求してきました」
「阿呆か。それを、献上しろと?」
「はい」
宰相さんと国王さんが、揃って頷きました。
本当に阿呆です。
精霊石は賢者の石と同様に希少です。
価格は賢者の石に劣りますが、それなりに高額です。
また、小ぶりなのが主流です。
卵より大きな精霊石は滅多に出回りません。
国が独占するからです。
そんな、逸品を無償で要求するなんて、本当に子供です。
恐ろしくて私には、出来ません。
だいたい、水の精霊石はリザードマンとの公益でもたらされるものです。
フランレティア側から、口出しできる訳がありません。
「幾度か交渉して、なんとか融通して頂きました。それが、一月前の事です」
シルヴィータ入りする前ですね。
精霊石なんて所持していたでしょうか。
あの気味が悪い魔力ばかり気にしていましたから、気付きませんでした。
直に会ったトール君なら、気付いているかもです。
「精霊石か。普通なら癒しの系統になるな。だが、所持していてあれなら……」
「トール。いつまで、待たせる気だ」
「アッシュ?」
「余計な知恵を披露している場合なのか。違うだろう。ここで、駄弁っていたら、何が失われる」
「! 悪い、そうだった。悠長にしている場合ではなかったな」
辛辣なアッシュ君の言葉には棘がありました。
トール君は、アッシュ君に何を依頼したか思い出したようです。
私もこのまま空気になって良いのか、疑問でした。
「取り敢えず議論は後回しだ。おたくらの食料事情はどうなっている?」
「申し訳ない。席も勧めずにいたな。大臣達会議は中断だ。明日再開しよう」
「騎士団長。外務大臣を頼む。執務室の仮眠室に運んでくれないか」
「はっ。了解致しました。が、拘束された近衛兵は如何致しますか」
床に5人転がっています。
宰相さんは、一睨みしては嘆息しました。
「近衛兵は、装備を外して留置場に入れて置きなさい。後日、背信罪で訊問しよう」
「了解致しました」
近衛兵が近衛騎士に捕縛されました。
魔力の鎖に拘束された近衛兵は、抵抗虚しく連行されていきます。
「そうだ。財務担当な大臣と、食料事情に明るい大臣は残ってくれ」
「財務大臣と、農業大臣。賢者殿に従って下さい」
「……了解致しました」
席を立ち掛けた両大臣が座り直しました。
お二人は、トール君に反論しない方でした。
呼ばれてはいない他の大臣、特に外務大臣に加担していると思わしき大臣は、残された意味を鑑みて嫌な笑みを浮かべています。
残念ですが、悪い意味ではありません。
これから、犬人族の商人さんの出番です。
商人さんは私達と一緒に空気になっていました。
気配を極限まで消していましたから、存在を感知されていないことでしょう。
大臣が退出した会議室に、新たな椅子が運び込まれてきました。
他人が座っていた椅子には座りたくありますんでした。
この采配には嬉しいですね。
ですが、リーゼちゃんは座りませんでした。
私の背後に立っています。
まだ、近衛の騎士が国王の警護に残されています。
警戒感を露にしています。
アッシュ君も、座りませんでした。
何時でも、動ける体勢です。
「改めて、賢者殿の来訪に感謝致します」
フランレティア国王が頭を下げました。
続いて宰相さんと、残された大臣さんも倣いました。
「いいさ。あんた等が、誰に唆されて賢者を召喚したかは分かっている」
「それは、アレクシスから聴きましたか」
「まあな。だが、この際それは置いといてだな。まずは、財務大臣」
「はい」
「輸入先を変更しないか」
「はあ?」
何気なく話を持っていきましたね。
それは、驚きますよ。
「帝国は輸出を止めたんだろう。新しい販路を開拓しないとならないだろうが」
「それは、外務大臣の勤めになるかと」
「あれが、承知するか? 難癖つけてしないだろうが。だから、直に財務大臣に売り込んで見たんだがな。どうだ、定価の二割減で小麦を買わないか。値引きした理由は、豊作で捨てる程ある事と、魔王領で栽培された小麦だ」
「……その小麦は、人が食しても大丈夫なのですか?」
「勿論だ」
にこやかなトール君と対照的に、財務大臣さんは眉間に皺がより始めました。
農業大臣さんも、目を見張っています。
魔王領でも人族と同じ、小麦や野菜を食しています。
希に、毒草に分類される植物を主食にしている種族もいますが。
概ね、人族が食しても害がない食事をしています。
勇者教の教典では魔王領の植物には、全てが毒を持ち焼き尽くすべきとあります。
財務大臣さんも、その事実を信じているのですかね。
「陛下。如何致しましょうか」
「私は、賢者殿の提案に乗るべきだと思います」
財務大臣さんは、決定権を国王に丸投げです。
そこへ、宰相補佐官さんが力説しました。
彼に出した食事はミラルカ産の白米を出しました。
追加で、魔王領産の豚肉やお野菜も提供しました。
空腹でしたから、難なく食べてしまいました。
事前に、通告しておけば良かったですね。
「恥ずかしながら、妖精姫お手製な食事を頂いております。確かに美味でした」
「アレク。体調に異変はないかい?」
「ございません。処か、すこぶる良好です」
「財務大臣。どうだろう。我が国は選り好みは出来ないものだ。賢者殿の提案は、願ってやまない筈だ」
「確かに、そうでございますな」
国王に恭順している財務大臣さんですが、今一反応が鈍いです。
何が懸念材料でしょう。
人が食しても害がないと払拭したはずです。
まだ、疑いを持たれています?
「どうした。言葉の割に不服なようだな」
「宰相補佐官は悪食です。確かな、被験者とはなりません。それに、定価の二割減と言う話には裏があるよう思えて仕方がありません」
「ならば、此方が提供した食材で料理を作ればいい。無論、料理人は其方の人間でだ」
「何故、そこまで帝国の属国の我々に手を差し伸べてくださるのですか?」
財務大臣さんの、懸念はそこでしたか。
トール君には、お父様の恩を返す大義名分があります。
フランレティアは、その縁を知らないでいるのですね。
世代交代の中で失われた縁です。
賢者様に窮状を訴えた背景には、帝国の代官がいます。
先の会議では、姿をみていません。
少し気になります。
「ああ。あんた等は忘れ去られたようだがな。フランレティアが、帝国の属国になった理由を作ったのは、俺の親父にある。だから、恩を返すつもりで来た。俺はフランレティアが助けを求めるなら、手を貸すと決めた」
さぁ、どうする?
トール君は真剣な眼差しで、フランレティアの方々を睥睨しました。
帝国からの独立を、本当に望んでいるのか。
真義を問い質したのです。
フランレティア側がどう答えをだしても、介入する気は満載です。
ブックマーク登録ありがとうございます。




