第11話
先週の金曜日に投稿しております。
未読の方はお気をつけください。
夜が空けました。
いよいよ、フランレティアに出発です。
整備し直された武器や各種ポーションを仕舞い、準備万端です。
宰相補佐官さんを起こして、リビングに集合と相成りました。
フランレティアに行く人員は、親書を受けとりましたトール君に、年少組の私達三人。
それから、護衛担当で魔族代表のアッシュ君。
犬人族の商人さん。
アッシュ君は物資を調達するのではなく、商人さんを連れてきました。
面倒くさがりましたか、配下の商人さんかもしれません。
アッシュ君の交遊関連は多岐に渡り、トール君ですら把握してないようです。
「忘れ物はないか。なら、フランレティアに行くぞ」
「はい。ありません」
「まぁ、あっても、俺やアッシュが居れば簡単に行来できるがな」
「? あのう。これは魔法陣みたいですが……。フランレティアに直に転移できるのですか?」
「おう。フランレティア出身のあんたが居れば直行だ」
床に展開する魔法陣に宰相補佐官さんは、興味深い眼差しを向けています。
遠距離を転移しますから、態々魔法陣を魔力で描いています。
天人族や魔族でも、魔力が豊富な方でないと出来ない荒業です。
普通は見知った場所でないと、直には転移出来ないですから。
大陸を飛び回るアッシュ君なら、ひょいと転移出来そうですね。
「ほんじゃあ、行くぞ」
気負いのないトール君の掛け声が、魔法陣に魔力を練り込みます。
すると、魔力の煌めきが私達を包みました。
魔法陣が宰相補佐官さんを起点に発動します。
フランレティアに縁があるのは宰相補佐官さんですから、彼の記憶を精査した魔法陣が情報を読取りをしているのです。
煌めきが輝きに変わると、あっという間に見慣れたリビングとは違う場所に出ます。
こんなに素早く魔法陣での転移が出来るとは、トール君さまさまです。
しかも、複数人を連れてです。
魔力消費はばかになりません。
あとで、魔力回復薬のポーションでも渡しましょうか。
「なんだ? 何処から現れた。刺客か?」
呑気にトール君を賛辞していましたら、何方かに声を掛けられました。
私達が転移した場所は、細長い円卓がある会議室みたいです。
護衛の騎士が我に返り、腰の剣を抜きました。
一触即発ですか。
問答無用で斬り掛からない処を見ますと、統制はとれています。
「お待ち下さい。陛下、宰相閣下。アレクシス=グレイル、只今帰還致しました」
「アレク? 本物か」
不審者である私達を騎士が囲み始めると、慌てて宰相補佐官さんが前に出ました。
窮状を救う賢者様の不興を買うとでも、思われたかも知れないです。
ですが、不審者なのは事実です。
魔族に獣人、竜人と妖精族の集団です。
理由を知らなければ、敵意を向けられるのは当たり前です。
「騎士団長、絆石です。ご確認ください。そして、お客人には粗相のないようにお願い致します」
宰相補佐官さんが懐から絆石を取り出しました。
絆石とは魔石の一種で、双子石とも呼ばれます。
水晶のような透明度を持ち、登録者の魔力と血を含ませると色が変わります。
健康状態を色で判断できる優れものです。
重要な密使には身分証変わりになります。
「副団長!」
「はっ。間違いなくアレクの絆石です」
騎士団長さんに呼ばれた副団長さんが、相方の絆石を取り出します。
双方青色に発光しました。
副団長さんの声に、騎士は抜いた剣を鞘に納めますが、何時でも抜ける状態を維持しています。
貴人の護衛ですから、近衛の騎士ですかね。
「アレク。無事で良かった。夜盗に出くわしたと、随伴した騎士が帰還した時には胆が冷えた」
「ええ。何とか逃げ延びましたよ。これも、日頃の行いの成果ですね」
「絆石は健常だと知らせてくれたが、五体満足かは心配した」
「ガイル。心配させたのは、悪かった。ですが、お客人の前です。お小言は後回しです」
「そう言えば、お前。どうやって帰って来たんだ?」
「それも後回しです」
顔馴染なのでしょう。
副団長さんに肩を叩かれている宰相補佐官さんは、笑顔で交わします。
私達、そっちのけですね。
ですが、流石は副団長さんです。
何気に背後に貴人を庇っています。
胡散臭い不審者ですからね。
警戒は怠らないのは、良いことです。
「陛下、並びに宰相閣下。アレクシス=グレイル。双黒の賢者様のご助力を約束頂き、御前にご案内致しました」
「真か。彼の賢者様に相見えたか」
「あー。ご紹介に預かった、トール=クローヴィス。巷では賢者と呼ばれている」
出し入れ自由な天翼を広げて、頭を下げた宰相補佐官さんの隣に並ぶトール君。
羽根が宰相補佐官に当たっていますよ。
こそばゆくないですか。
「失言を御許し頂きたい」
「いや、構わない。自分でも胡散臭いとは、思うしな」
「しかし、我等只人にはない天翼は見間違いようはなく。地上にて生活する天人は賢者様のみと伝わっております」
「確かにそうだがなぁ。フランレティアは帝国の属国だろう。そんなに阿ねなくていいぞ。態々フランレティアまで足を運んで、騎士に剣を向けられて機嫌を悪くする程愚かじゃない」
「そう言って頂けるのを、有り難く思います。自己紹介が遅くなり申し訳ありません。フランレティアの国王、ヴィクトリアスと申す」
「宰相のケネス=グレイル。アレクシスの伯父です」
「自分は、近衛騎士団長のルーベンスです。御身に剣を向けた咎は、自分の首ひとつでご容赦頂きたい」
「そう言うのは勘弁して欲しい。不審者が突然現れた。あんたらは貴人を当たり前に守ろうとしただけだろう。赦すも何も無いさ」
天翼を仕舞い頭を掻くトール君です。
団長さんは体育会系にありがちな四角四面な様子。
拳で語り合う肉体言語が得意な騎士ではなく、肉の盾にならんとしているみたいです。
トール君はドン引きです。
融通が利かない、話が斜め向こうに飛んでしまう自由人を苦手としています。
「兎に角、話し合いの邪魔はしないでくれないか。フランレティアから持ち出された話題だ。今回邪神の民と迫害を受けるフランレティアの窮状を何とかすればいいんだろう」
「出来ますなら、帝国からの独立を評議しております」
「うーん。分かった。邪神問題と帝国からの独立な。邪神問題はうちの子供達が関わっているから関与するが、独立云々は指標は示してやる」
「帝国との折衝は己でやれと言うことですな」
「ああ。政には関与しない。しかし、降りかかる火の粉が此方に掛かるなら、フランレティアとも敵対は覚悟しておけ」
国王や宰相さんの、視線が私に集中しました。
ミラルカの妖精姫=豊穣の神子という図式は確定路線です。
期待されても、保護者様の指示がなければ動きませんよ。
「黙って聴いておれば、図にのりおって。賢者といえど平民風情がいい気になるな」
軽いトール君の威圧をはね除けて、大臣らしき人が突然喚き始めました。
食料事情は省みない見事な肥満体系です。
同僚の大臣に諫められていますが、聞き入れないようです。
「陛下。帝国との離別は賛成しかねます。ただでさえ、食料自給が低い我が国にとりまして唯一な取り引き先は帝国です。我等は帝国なくしては国が立ち行かないのですよ」
「外務大臣。その帝国が私達を苦しめているのだかな」
「それは、陛下が邪神討伐に勇者殿の派遣を正式に依頼しないからではありませんか。聖女様の支援を忌避しているのも、宰相閣下が止めているからに他ならない」
「あれは、代償が我が国にとってあまりにも負担が多すぎる。邪神討伐にも聖女の支援にも、無償ではない」
何やら議論が起きています。
唾を吐き出し外務大臣さんが、帝国擁護な発言をしています。
フランレティアが一枚岩ではない証ですね。
〔セーラ。外務大臣を人物鑑定してください〕
〔また、あいつ。厄介〕
再び空気になりつつある私達。
ラーズ君が眉間に皺を寄せて念話をしてきました。
本音は視たくありません。
だって、厄介事になりそうですから。
危機感が半端ありません。
仕方なく人物鑑定を行います。
うわぁ。
やっぱり、厄介事満載です。
見事に隷属状態です。
相手は帝国の重鎮な皇帝です。
それだけではありません。
犯罪歴もたっぷり。
国の予算横領に殺人教唆。
何故に捕縛されないのか不思議です。
あら。
祖母が帝国の貴族出身でしたか。
それで、帝国の後楯があり今の地位に就いたという訳ですか。
納得しました。
〔ラーズ君。真っ黒です〕
〔帝国の間者とみて間違いないでしょう〕
〔ん。間違いなし。排除する?〕
〔先生なら、とうに気付いていますね〕
ラーズ君に同意します。
トール君とアッシュ君なら、敵対者をすぐに見分けることが出来ます。
便利な技能を保持していますから。
「陛下。今なら遅くはありません。直ちに皇帝陛下の指示に従うべきです。勇者様に邪神を討伐してもらい、邪神の民との疑いを晴らし、共にシルヴィータへ派兵し、彼の地を手に入れるべきです」
派兵。
神子騒動で荒れている燐国に戦争を仕掛けるのでか。
それは、悪手ですね。
シルヴィータは大地の御方が守護する国です。
アッシュ君の情報では、王族に加護持ちが存在しています。
その方が立ちあがれば、国の守護結界が働いて弾かれるだけでしょう。
まさか、派兵失敗をフランレティアの責任にして、国王以下王族を処断する言い訳に使う腹づもりでしょうか。
悪どいですね。
「陛下。皇帝陛下に阿ねる良い手土産も手に入れたでは、ありませんか」
「外務大臣。手土産とは何だ。まさか、賢者様の事では、ないだろうな」
「勿論です。帝国に敵対する賢者よりも、喜ばれる神子です。妖精姫がいるではありませんか」
外務大臣が立ち上り、アッシュ君の背に隠れている私を指差しました。
途端にラーズ君とリーゼちゃんの殺気が膨れ上がります。
視線を集めた私は少しだけ驚いています。
認識阻害の髪飾りは機能しているはずなのに、外務大臣は真っ直ぐに私を示しました。
看破の技能が高いのかも知れないです。
侮りました。
「近衛兵。妖精姫を捕縛しろ‼」
「止めろ。外務大臣の指示に従うな」
外務大臣の指示に従う素振りを見せた騎士がいます。
剣を手に私に向かってきます。
慌てて、騎士団長さんが声を張り上げましたけれども、遅すぎました。
ラーズ君が動く前に、アッシュ君の腕が一振りしました。
「なっ」
「動かない」
魔力の鎖で逆に拘束されてしまいました。
身動きする度に身体に鎖が、食い込んでいきます。
あれ、地味に痛いのですよね。
鍛練で喰らった時には、あまりの痛さに泣きを見ました。
「愚か者には似合いの姿だな」
様子見していましたトール君が吐き捨てました。
「どういう意味だ。皇帝陛下に楯突く気か」
「あんた。フランレティアの外務大臣の癖に皇帝陛下と煩いな。今動いた騎士も誰に忠誠を誓っているんだが、分からんな」
喚きたてる外務大臣の様子に言葉もない、フランレティア国王と宰相さん。
顔が青ざめています。
なんら瑕疵のない他国の住人を手土産発言はいただけないです
トール君の逆鱗に触れてしまいました。
フランレティアの窮状を救いに来たはずですが、波乱な一日になりそうです。
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