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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
61/197

第10話

 下級ポーション、10000本。

 中級ポーション、10000本。

 上級ポーション、1000本。

 上級ポーション改、10000本。

 特化型ポーション、1000本。

 常態異常回復ポーション、1000本。

 万能薬、1000本。

 各種耐性薬、各1000本。

 これぐらいあれば、たりますかね。

 即時で出きる範囲で用意しました。

 作りおきしていた薬品もありますが、短時間で調合したのは肩が凝りました。

 後は、フランレティアでも調合出きるように、各種薬草と簡易型調合釜を持っていけば、準備万端です。

 今のフランレティアがどういう常態なのか、気になります。

 フランレティアに入るなりの拘束も、あり得るかもです。

 不測な事態に備えておきましょう。

 迷宮で使ったスパイス入りの目眩ましでも作りましょうか。

 悩みます。


 にゃあ。


 調合台から離れた定位置のジェス君が鳴きました。

 むむ。

 勘づかれましたか。

 あれは、ジェス君にも被害がありましたね。

 止めておきましょう。


「セーラ。出発は明日に伸びた」


 あら。

 トール君は、今にも飛び出して行きそうでしたが。

 調合しているに間に、何かありましたようです。


「客人が疲労で寝た」

「食事も満足にとれていませんでしたし、無理ありませんね」

「ん。先生も反省中。花瓶を直しがてら、頭を冷やす」


 シシリーの花瓶を直してくれるのは、嬉しいです。

 お気にいりだったのです。

 予約なしで買おうものなら、何年間待たなくては行けないことか。

 私のおこづかいで買える金額でもないですし。

 いえ、霊薬エリキサーを販売すれば、買えてしまうのですが。

 霊薬はアッシュ君から、販売を禁止されています。

 魔力過多症を癒す霊薬は、それこそ値が付けられません。

 金銭に苦労しない富裕層は救えても、一般庶民には手がでません。

 そんな中に霊薬が出回れば、作製者の私が庶民の憎悪の対象になりかねません。

 下手をしたら、クロス工房にも迷惑が掛かります。

 無償での提供はトール君が、赦してはくれないです。

 砂糖に群がる蟻の様になるのが目に見えていますから。

 だから、私は一般庶民が手に入れる価格での魔力過多症を癒す薬を開発中なのです。

 中々、進展がありませんが。


「明日、夜が空けたら出発」

「分かりました。なら、もう少しポーションを作製しておきます。お店の分を忘れていました」

「ん。弓と長戦斧(バルディッシュ)出して。整備する」

「はい。フランレティアでも戦闘は起きそうですね」

「水竜は比較的温厚。眷属のリザードマンは好戦的。それに、勇者も直ぐにやって来る」

「トール君の第六感ですね」


 天人族の種族特性に未来視があります。

 混血なトール君には引き継がれませんでしたが、第六感は外れたためしがありません。


「後、神子衣装出して。先生の指示」


 神子衣装?

 シルヴィータで脱いだままになっています。

 この指示も第六感でしょうか。

 疑問が沸きます。

 言われるがままに、武器と衣装をリーゼちゃんに渡します。

 嵩張る衣装に、四苦八苦するリーゼちゃんです。

 全身を隠すローブとベールを畳んでいたら良かったです。


 みゃっ。


 ヒラヒラの衣装に、ジェス君が遊びたがる素振りを見せました。

 調合より、ジェス君の退屈を解消するのが先ですね。

 私も数時間調合室に籠っていましたから、気分転換をしましょう。

 ジェス君を抱いてリーゼちゃんの後を着いていきました。


「先生。衣装」

「おう。ありがと。ん? セーラは休憩か」


 トール君は、鍜冶場にいました。

 衣装に、火がつかないか心配です。

 リーゼちゃんは無造作に、衣装をトール君に渡します。


「リーゼ。もう少し衣装に気を配れ」

「火除けはしてる」

「そんなのは視て分かる。が、雰囲気の問題だ」

「? 持ってこいと言ったの、先生」

「確かに、俺だ。俺だがなぁ」


 トール君。

 リーゼちゃんに繊細さを求めたら駄目ですよ。

 トール君と、どっこいどっこいですから。


 〔セーラちゃん。喧嘩?〕


 腕の中のジェス君が不安げな声を届けてきました。


「単なるいさかいです。喧嘩では、ありませんよ」


 身体を撫でてあげます。

 鍜冶場は暑いですね。

 しっとりと毛並みが濡れ始めています。


 〔セーラちゃん。暑いよう〕

「そうですね。リビングで、涼みましょうか」

 〔うん。ジェス、喉が渇いた〕

「冷たいミルクはお腹を壊しますから、駄目ですよ」

 〔はーい〕


 ジェス君はいいから子のお返事ですが、トール君とリーゼちゃんの言い合いは続いています。

 いつまで続きますことでしょう。

 暫くこのままですね。

 鍜冶場を後にします。

 一歩進むと、途端に空気が冷やされました。

 鍜冶場と居住区の境には断熱の効果が刻まれた陣があります。

 夏場だろうが冬場だろうが、一年中暑い鍜冶場を持つ工房には、無くてはならない陣です。

 開発したのは、勿論トール君です。

 本人が熱気に嫌気をさして開発したのです。

 ですから、居住区は快適な温度で室内は満たされています。


「あっ、セーラ。丁度良かった。ごめん。お茶を貰えないかな」

「いいですよ」


 リビングにはギディオンさんと少年がいました。

 ティーセットを見ると、お茶を淹れようとした後がありました。

 残念なことに、ギディオンさんもラーズ君と一緒で家事能力は皆無です。

 粉を入れてお湯を注ぐだけの簡易なお茶でさえ、渋い何とも言えない味わいになります。


「紅茶ですか、コーヒーですか。どちらが良いですか」

「僕はコーヒーでいいよ。セイはどうする?」

「コーヒーあるんですか? なら、コーヒーを下さい」

「コーヒーは、カフィと言う名でミラルカでは飲まれていますよ」


 寮の料理長が拘り抜いた嗜好品です。

 自前の焙煎をしています。

 ドリップしても良いですが、ギディオンさんは専ら粉派です。

 手早く飲めるのが好きだそうです。


「どうぞ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 私はハーブティー派ですので、じっくりと抽出させます。

 待ち時間は苦になりません。

 ジェス君には小皿にミルクを出しました。

 喉が渇いていたジェス君は、早速ミルクを飲み始めました。


「美味しい。まさか、異世界で日本食やコーヒーが飲めるなんて、思いもしませんでした」


 少年が心境を吐露しました。

 私も、異世界の人にニホン食を提供するとは思いませんでした。

 私がニホン食を覚えたのは、トール君の為です。

 トール君のお父様との記憶を風化させたくなかったのです。

 ニホン食には欠かせない味噌や醤油を、少年時代のトール君がお父様の為に作り出した様に、保護者のトール君へ恩返ししたい気持ちから始まりました。

 料理は調合と同じ、私には合っていました。

 腕をあげる私にトール君は、喜んでくれました。

 それが、異世界の少年を安堵させるとは、学んで良かったですね。


「明日からは、食事は料理長様にお願いしてくださいね。料理長様は手の掛からない簡単なニホン食なら、学んでいますから」

「ああ。出発は明日になったんだね」

「夜が空けたら出発だそうです」

「フランレティアに行ったら、そう戻ってこれないよね。店番かぁ。僕に勤まるか、不安だ」


 獅子の獣人なギディオンさんは、見掛けによらず人見知りです。

 豪奢な金髪をかきむしります。

 そろそろハーブティーは飲み頃ですね。

 ティーカップに注ぎます。

 一口。

 うん。

 美味しいです。


「セーラ、慰めてくれないんだ」

「慰めても、どうにもなりません。この機会に人見知りを克服しましょう」

「うう。無理」


 速答です。

 そんなに、接客は怖いでしょうか。

 常連な冒険者さんは、皆さん気の良い方々ばかりですよ。

 なにしろ、お店には無理難題吹っ掛けるお客さんは物理的に排除されます。


「一対一なら、なんとかなるんだけど。複数来られたら、暴れること間違いない」


 ギディオンさんも、トラウマを抱えています。

 やはり、帝国と揉めて部族を追放になりました。

 ギディオンさんの人見知りは、誰かを傷つけてしまう不安からきています。

 私もそうですが、トラウマを解消するのは難しいです。

 無理を言いました。

 ごめんなさい。


「あのう。ぼくもお手伝いします。教えて下さい。お願いします」

「良し。採用」

「トール?」


 少年が頭を下げた間際に、トール君が現れました。

 花瓶を抱えています。

 直りましたか。

 ホッと一安心です。


「セイ。アルバイトとして、ギディオンの補佐に採用する」

「トール。セイは保護したばかりだよ」

「それが、どうした。ニホンには良い格言がある。働かざる者食うべきざるだったかな。働きのないものは食うな、と言う意味だ」


 その格言は、王侯貴族に喧嘩を吹っ掛けていますけど。

 働きに似合った食事をするべきだと主張したいです。


「幸い身分証は仮だが発行した。後は、セイはこれを肌身離さず身につけていろ」

「指輪ですか?」

「そう。認識阻害と髪と瞳の色を替える魔導具だ。耳飾りと一緒で無くすなよ」

「そうだね。セイはトールと違い明るい茶髪だけど、瞳は誤魔化さないと危険だ。賢者の身内だと勘違いされて、無茶振りされかねないよ」


 ギディオンさんの、危惧は当たりそうです。

 賢者不在なミラルカにおいて、賢者を思わせる色を纏った新たな住人を取り入ろうとする種族がいないとも、限りありません。

 防犯の意味で替えるのは必要です。

 私も、左右色違いな瞳を隠しています。

 旧くから、異相は神の御使いだと言われています。

 ですので、ミラルカでも隠しています。

 看破の技能(スキル)が高い人でも、薄桃色をした両目が見えることでしょう。

 技能がない少年にも、そう見えているはずです。

 そう言えば、少年は私を見ても闇の妖精族(ダークエルフ)だと、騒ぎませんでしたね。

 髪飾りの認識阻害が働いていましたか。

 えーと。

 このままで良いですね。

 少年には情報を与えない方が、身の安全に繋がりますね。

 トール君も、何も言いませんし。


「うん。その色も似合うよ。違和感はないよ」

「本当ですか。良かった。保護してくれた皆さんに迷惑が掛からないなら、嬉しいです」


 少年は髪色は自前で、瞳の色がギディオンさんと同じ琥珀色になりました。

 ギディオンさんの、縁戚と偽るみたいです。

 人見知りなのに、少年のことは親身になるギディオンさん。

 良い保護者が見つかり、安心です。


「ほい。頼むから、高価な壊れものは自室でお願いしたい」


 ほんわかしたギディオンさんと少年を尻目に、トール君が花瓶を差し出してきました。

 自室には沢山あるのです。

 だから、食堂に飾って置いたのですが。

 客間に移動しましょう。

 花瓶は割れた以前と遜色がありませんでした。


「雛菊シリーズは直せなかった。すまん」

「良いですよ。陶磁器はいつかは壊れてしまいます。怒っていません」


 片手を挙げたトール君に笑い返しました。

 お気にいりシリーズはまだ眠っています。

 だから、そんなに凝縮しないでください。

 本当に怒っていないですから。

 少しだけ可哀相に思っただけです。

 くすん。


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