第6話
エルフ種の私と幻獣種のラーズ君とリーゼちゃんは、同時期に親を帝国に奪われました。
ラーズ君の両親は、私もついもふりたくなる見事な毛皮を目当てに。
リーゼちゃんの両親は、竜殺しの名声と財を目当てに。
私の両親は、母が海の妖精族なので里帰り中に氏族ごと根絶やしにされました。
それ故、リーゼちゃんは奪われる・喪うといった感情に、理性を無くすほどの衝動に襲われる為、感情表現を極端に抑制してしまっています。
対してラーズ君は物腰は丁寧ですが、やはり妹分の私達に何事かあれば、容赦なく敵対行動を取ります。
そんな二人はいま、効率良い神官及び神殿の潰し方を模索しています。
私達3人幼馴染みが、よく行動を共にしているのは周知の事実ですから、如何にして身元が割れたりしないか話し合っています。
私は竜であるリーゼちゃん並みに魔力はありますが、内側から外側へ放出させることができず、魔法が発動しない体質なのです。
ハーフエルフなのに、精霊術も魔術も使えないポンコツぶりを披露し落ち込みました。
しかし、救いは魔導具や巻物は難なく起動できますので、然程不便は感じてはいなかったです。
それでは身を守るのには危ういと、保護者様方に判断されてしまい、武術の訓練と同様に、属性や適性を調べた結果が召喚魔法でした。
魔石や手作りの料理の類いに魔力を付与することができ、魔力さえ流し込めれば秘蔵されている神器さえ起動できました。
そして、自身が使えない魔法も、契約召喚体に魔力を渡して魔法を使用してもらう。
所謂生きた魔力貯蔵庫ですね。
適性が解るや否、二人は契約を強要してきました。
勿論、魔力目当てではなく、庇護欲に駆られてなのでしたが。
普通、逆だと思うのですが。
私の方がお願いする立場にありますよね。
それほど、二人の親愛の情は深く重いものでした。
「ラーズ君、リーゼちゃん。そろそろ移動しませんか? 日が暮れそうです。神殿のその後も気になりますが、猫君の治療をきちんとしてあげたいのです」
森の中での治療は応急処置の様なものでした。
魔力を生命力に転嫁して生き延びた猫君です。
この際神殿の件は後回しです。
早く安全な場所で、治療を再開してあげたいのです。
「幻獣の子供ですか」
「幸運猫。また、珍しい子拾った」
拾ったというより、託されたのだと思います。
酸欠にならないように、開け放したままのポーチの蓋を、驚かせないよう静かに覗き込みます。
安心しているのか、猫君は眠りについていました。
「眠ってる」
「はい、猫君は最初から懐いてくれました。少し警戒心が薄くて、逆に私の方が危なっかしくて不安です」
「……そうでもないと思います。セーラは自分で気が付いてないだけで、滲み出る魔力波形は穏やで安心感を与えてくれます」
「そう、側に居ると落ち着く。猫もその気持ち良さで眠ってる」
そうなのですか?
初耳ですよ。
幼馴染み歴は長いのですが、今まで教えて下さらなかったのは、何故でしょう。
何か理由でもありましたか?
「トール先生に、自分で気が付くまで黙っているようにと、厳命されました」
トール君は保護者様方の一人で、クロス工房の主です。
鍛冶と魔導具製作の職人として、私達に思い付かない奇想天外な発想し、数多くの発明品を世に送り出しては、生活水準の効率を上げた天人族です。
そんなトール君ですから、きっと笑いながら言いそうですね。
「街に行くのは賛成しますが、幻獣の子供はどう説明するのです?」
「正体が判れば取り上げられそう」
「簡単です。申告しなければ良いのです。野生の猫だと主張します」
街に入るには、神子捜索の検問が厳しいと思われますが、見た目子猫の猫君にまで、注意はそう惹かないと思います。
何せシルヴィータが重要視しているのは、神子なのですから。
それに、私達には交渉事が得意な頼りになるラーズ君がいます。
何とかなります。
そう言葉にしますと、ラーズ君は苦笑いです。
他力本願と言われてしまいそうですけれども、猫君を保護した責任は取りますよ。
私自身後見人様方に養育されている身ですが、立派に育ててみせます。
改めて決意しました。
「それでは、移動しましょう。此方に近づく複数の音がしてきました。不審がられないよういつもの設定でお願いします」
「了解」
「解りました」
フィールドワーク中の調薬師の私と護衛のラーズ君とリーゼちゃん。
地元のミラルカではお馴染みの光景です。
ですが、ここは私達3人を知らない、神子誘拐を企てたシルヴィータ国です。
気を引き締めていかなければいけませんね。
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こればかりですね。
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