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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
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第7話

 朝から物騒な話題がでています。

 トール君は壮大な帝国への嫌がらせを考えているようです。

 朝御飯を終えた私達は、其々の仕事に準じます。

 と言いましても、私は相変わらずに、工房の調合室でポーション作製です。


「それじゃあ、セイ。役所に行くか」

「はい。わかりました」


 いつまでも、身分証がないままではミラルカから退去させられてしまいます。

 この都市には他種族が多いですから、身分証は大事です。

 身分証がありませんと、問答無用で警ら隊の詰め所に連行されてしまいます。

 何故かと問われたら、帝国側の奴隷対策です。

 帝国は種族差別で排斥しながら、他種族を奴隷に所有するのがステイタスになっています。

 希少な種族なら尚更、手にいれたがります。

 幸運猫(フォーチュンキャット)のジェス君は、よい獲物です。

 絶対に渡しませんけど。


「では、店を開ける準備に入ります」

「ん。任せる」


 跡片付けを終えたラーズ君とリーゼちゃんが、戻ってきました。

 私もお掃除は手伝います。

 ジェス君はアッシュ君に預けていきましょう。

 本日は、お店番はしなくてよいでしょう。

 トール君も指示はしなかったですし。


「セーラは、ポーション作製もいいが、適度に休憩を挟めよ」

「はい。わかっています」


 トール君に、釘を指されてしまいました。


「アッシュ。よく監視を頼むわ」

「了解だ」


 苦笑しているアッシュ君に、頭を撫でられました。

 アッシュ君とトール君には、私の熱中癖を見抜かれています。

 そのうちに、ジェス君も監視役になるかもしれません。

 トール君と、少年を送り出しました。


「じゃあ、僕も出かけて来るよ」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 ギディオンさんも、出掛けられました。

 人見知りは大丈夫ですかね。

 少年の面倒を見る気が漫々ですから、気付いてないですね。

 馴染みの商店なら一人でも安心して送り出しできます。

 最近は工房に缶詰でしたから、よい運動になります。


「セーラ」

「はい? 何ですか?」

「トールの前では言えなかったが、ショウゴはセーラを奴隷にと考えているぞ。帝国には、海の妖精族(メーアエルフ)を敵視している森の妖精族(フォレエルフ)もいる。闇の妖精族(ダークエルフ)を奴隷に所有して、悦に入る気だ」

「……。トール君が、怒り心頭になりますね」

「帝国側の森の妖精族は、迫害から逃れる為に海の妖精族を人身御供にしたも同然だ。目の当たりして助けようと思うなよ」

「はい」


 アッシュ君が内緒話をするのは、帝国側についた森の妖精族が、私の父方の一族なのでしょう。

 母と父は友好を目的に結ばれました。

 それを、反故にしたのでしたか。

 祖父辺りが何か言ってくるのは確実性があるようです。

 私の身柄を求めて来ているのかもです。

 裏側で帝国と話がついてそうです。


「あとは、ジェスの問題だな」

「ジェス君ですか。また、誰かしらが譲れと言ってきましたか」

「評議会と商業ギルドが煩い。トールが黙らせているが、虎視眈々と狙っているな」

「商業ギルドはわかりますけど、評議会がどうしてジェス君を欲しがるのでしょう」


 自分の話題が楽しいものではないことを、ジェス君は理解しているみたいです。

 上目使いに見上げてきます。

 大丈夫ですよ。

 ジェス君は何処にもやりませんから。


「トールには、悪いが。ミラルカは自治都市として、多きくなりすぎた。迫害から逃れた他種族が、平穏に暮らせる都市の筈だったんだがな。今では、利潤に目が眩んだ評議会の思惑が、商業ギルドと手を組ませた」

「評議会の議長と副議長の認証が無くては、商売はできなくなりますよね」

「ところが、副議長は複数いる。評議会の議員の過半数と、副議長の認証があれば臨時に許可が降りる。グレゴリー商会がよい例だ」


 グレゴリー商会?

 あの、ポーション販売で暴利を貪り、私に絡んできた某氏ですね。

 私を勧誘して帝国に連れ出そうと画策していました。

 現地従業員以外はミラルカを追放処分になったようです。


「議長の許可が降りていないのに、商業ギルドの副ギルド長になった。その責任は誰が被る?」

「議長のトール君ですね。評議会はトール君と、訣別するのですか? 浅はかな策ですね」


 都市運営の評議会にトール君の名が連なっているからこそ、ミラルカは自治都市としていられるのです。

 謂わば、トール君が、ミラルカの領主の立場です。

 トール君の、魔力で都市機能は働いています。

 切られて困るのはミラルカの住人と評議会です。


「たかだが、数十年で約定を違える馬鹿を粛清したくなる」


 アッシュ君は、魔族側の裁定者です。

 トール君とは友人ですけども、役目は忘れていません。

 ミラルカは魔王領に程近い領土です。

 近場には危険な害獣指定された魔獣が棲息しています。

 迷宮や遺跡も数多くあります。

 荒くれ者の冒険者を警戒する魔王陛下は、トール君がミラルカのトップにいる限りは配下に争わないことを約定としました。

 何故ならば、荒野と化した土地が回復するとは思われていなかったからです。

 トール君とお父様二代に渡る誓願に、世界神が答えた結果が今に至ります。

 森と水源地が産み出され、荒れ地に緑が戻る。

 野生の獣が棲息し、川には魚が泳ぐ。

 なんてことのない風景は、トール君のお父様が描いたようなものです。

 功労者のトール君がいなくなれば、約定を違えても仕方がなくなります。


「お灸を据えたらいいと思います」


 思わず言葉がでます。


「俺もそうしたい。が、決定的には足りない。いっそ、トールが憤慨してくれたら、動けるのだがな」


 アッシュ君に同意です。

 私も微力ながら、お手伝いしますよ。

 工房が休業状態になりました以前を、思い出したらよいです。

 原因が評議会と商業ギルドにあると知れたら、どうなるか見てみたいです。


 にゃあん。


 〔セーラちゃん。暗い気持ち駄目〕


 ジェス君に、諭されてしまいました。

 そんなに、負の感情がでていましたか。

 いけません。

 感情に呑まれては、お母さまが心配してしまわれます。

 肩の上に移動したジェス君は、頭を頬に擦り付けてくれます。

 撫でると、更にすり寄ってきました。

 ジェス君のモフモフに癒されます。


「アッシュ君が副議長として、評議会の議員を教育してみたらどうですか?」


 ミラルカの成り立ちを一から教えてみては、どうでしょうか。

 提案して見ました。


「評議会の議員となる時には、教えているんだがな。歳を重ねると忘れてしまう。どこぞの、魑魅魍魎が跋扈する王宮ではないけど、種族贔負をし過ぎだな」

「どうしてです?」

「議員の中には少数種族出身がいる。数の不利を富を独占することで、補う傾向があってな。ジェスを寄越せと騒いでいる」


 ふみゃあ。


 〔ジェス、行かない〕

「ああ。トールも俺もジェスを他所にはやらないから、安心しろ」

 〔うん。約束〕

「約束だ」


 私には分からない約束があるのですね。

 男同士の内緒話ですか、楽しそうです。


「セーラ。ここにいた」

「何かありましたか?」

「ん。無事ならいい」


 リーゼちゃんが安堵しています。

 お店で何かあったのでしょうか。

 騒ぎが起きましたら、アッシュ君なりジェス君が教えてくれます。

 それが、ないのですから、私には関係がないのでしょう。


「アッシュ、居るかあ?」

「ここに居るが、何が起きた」


 トール君の帰宅です。

 早くありませんか。

 食堂にトール君が、人族らしき旅人さんを抱えて現れました。

 少年は荷物と思わしい塊を持っています。

 特に目立った外傷は見当たりませんが、人族さんは身動きひとつしていません。


「何が起きたんだ」

「役所で拾った」


 トール君。

 簡潔すぎではありませんか。


「あっ。セイの身分証は仮のものだが発行した」

「はい。審査に時間がかかるそうです」


 議長のトール君と、身元引き受け人の三人が揃っていても仮の身分証とは。

 お役所も融通が利きません。

 いえ、正しい行いですね。

 部外者が批判してはいけませんでした。


「んで、帰り際に役所で揉めていた人族を、クロス工房に招待した」

「その状態では人攫いにしか見えん。珍しいな、一見を中まで通すなんて」

「ああ。人物鑑定をしてみたら理由が分かるさ」


 私は底度の人物鑑定でも、詳細な情報を視てしまいます。

 あまり、したくはありませんが、致しかねません。

 トール君が促すからには、何かがあるのでしょう。


 ▽ ステータス


 名前  アレクシス=グレイル

 種族  人族

 年齢  36

 状態  疲労・空腹

 技能  嘘発見・超悪運

 追記  フランレティア宰相補佐官


 あら。

 お腹が空いているのですか。

 ならば、疲労に効いて、お腹に優しいリゾットでもつきりましょう。


「こら、待て。現実逃避するな」


 キッチンに引き籠ろうとしましたのに、トール君に見つかりました。

 だって、この上なく厄介な人ではないですか。

 フランレティア。

 邪神が封印されている国です。

 問題の国の宰相補佐官ですよ。

 大分草臥れていますが。


「あのう。私は何時までこうしていれば宜しいのでしょうか? ついでに、貴方方はどちら様でしょう」


 抱えてと言いますか、肩に担がれている宰相補佐官さんが話始めました。

 随分と呑気な話し方です。


「申し訳ありませんけども、私にはお金はありませんよ。強盗に遇いまして1シルも所持していません。それに、私にはミラルカの賢者様にお会いする使命があります」


 その賢者様は、宰相補佐官さんを担いでいます。

 言っていいのでしょうか。

 悩みます。

 だって、トール君本人が言わないのですから。


「ミラルカの賢者とは、双黒の賢者の事か?」

「はい。そうです。貴方はご存知ですか。是非、ご紹介して下さい。報酬は国本に帰りましたら、お支払い致します」

「……。あんたを担いでいるのがその賢者だが」

「……‼ 本当でしょうか。ならば、お話せねば」


 アッシュ君が、何気なく話してしまいました。

 理解された宰相補佐官さんが、暴れだしました。

 肩から降りたがっているようです。

 ですが、すぐに力が抜けました。

 何故ならば、盛大にお腹が鳴ったからです。

 宰相補佐官さんは、空腹状態でしたね。


「すみません。何か食べさせて下さいませんか」


 何とも情けない懇願に苦笑が、漏れました。

 トール君に目配せされまして、今度こそキッチンに向かいました。





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