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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
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第6話

 おはようございます。

 セーラです。

 只今、朝御飯の料理に勤しんでいます。

 少年には、馴染んだ料理のがよいですよね。

 コンソメスープに目玉焼き。

 ウィンナーを焼いて、サラダを作りました。

 後は、パンケーキです。

 かなりの枚数を焼いていきます。

 我が家は大食漢な方々がいますので、作りがいがあります。

 ギディオンさんとイザベラさんも、昨夜は寮に帰らず工房の二階に泊まりました。


「おはよう。手伝う」

「では、配膳をお願いします」


 リーゼちゃんは大量なお皿を器用に持っていかれました。

 カトラリーは先程、ラーズ君が運んでくださいました。

 私はパンケーキの種が、無くなるまで焼き続けていきます。

 コンロが複数あって良かったです。


「セーラも食べる」

「これで、最後の一枚です」


 パンケーキをお皿に盛り付けました。

 皆さん、よく食べてくださいました。

 料理のしがいがありますよ。


「ジェスが、鳴いています。跡片付けは、僕らがしますよ」

「では、お願いします」


 ジェス君が鳴いている。

 何か不安になる要素がありましたか。

 跡片付けをお願いして、食堂に行きました。

 食堂には、少年の姿がありました。


「あっ。ご飯ありがとうございます」

「どういたしまして」


 律儀に少年に、頭を下げられました。


 ふみゃあ。


 〔セーラちゃん。ジェス、おいていった〕


 胸元にジェス君が飛び付きました。

 あら。

 まだ、熟睡していたジェス君をお任せしましたが、料理を張り切り過ぎました。

 台所はジェス君の入室は禁止されています。

 つい、もふりたくなる魅惑な尻尾の持主のラーズ君は、入室が許されています。

 この、違いは多分ですが、ジェス君が幼いからです。

 言い渡したのはトール君です。

 ジェス君の言動が、幼児に見えて仕方がないらしいです。


「ジェス君が寂しくないように、アッシュ君にお願いしましたよ。それでも、駄目でしたか?」

 〔起きたらセーラちゃんいなかった〕


 きっと、寝惚け眼で探されたのですね。

 仕方がありません。

 次回は、ポーチに入れて移動しましょう。

 撫でてあげると落ち着いていきました。

 ご飯も食べていないので、椅子に座らせます。

 ジェス君を撫でたのを見ていたリーゼちゃんが、おしぼりを渡してくれました。

 ありがとうございます。

 手を拭いて食事をします。

 私が食べるのを見たジェス君も、朝御飯を口にしました。


「今日の予定を発表するぞ。ラーズとリーゼは店番。ギディオンは買い物後に、店番に慣れろ」

「うっ。とうとう来た」

「午後には僕はギルドに納品です。帰りに買い物をしてきます」

「店番、了承」

「ほんでもって、セイは俺と役所に行くからな」

「えっ。あ、はい。分かりました」


 自分が呼ばれると思わなかった少年が、驚きながらも返事を返しました。

 少年。

 トール君に、身内扱いされているのですよ。


「何で役所に行くかと言うと、セイは身分証がないからな。ギディオンとイザベラに俺の保証で、新しい身分証を作りに行く」

「身分証ですか、帝国で作りましたよ」

「うん? アッシュが偽装して死んだ事になっているぞ」

「ええぇ。ぼく、死んでいるのですか?」

「そうだ。帝国と縁を切るには死んだ方が良い」


 アッシュ君はニホンゴを僅かにしか解しません。

 きっと、説明不足なところがあったのでしょう。

 少年自体も混乱をしていましたし。


「ここ、ミラルカは他種族が多く暮らす。身分証がないと、投獄も有りうるからな。牢獄には入りたくないだろう」

「はいっ。分かりました。身分証は新しく作ります」


 牢獄には入りたくなさそうです。

 勢いよく立ち上りました。


「おう。その元気なら安心した」

「すみません」


 良かった。

 少年に、悲壮感はありません。

 状態異常耐性が効いていますね。

 少年は気付いていませんが、言語理解の耳飾りには、耐性があがる効果もあります。

 悲観していては、前には進めないからです。

 この世界は勇者召喚に巻き込まれた人物には優しくありません。

 少年のや、トール君のお父様のように、平気で見捨てられます。


「あのぅ。聴きたい事があります」

「なんだ。遠慮なく聴いてくれ」


 おずおずと、少年が切り出しました。

 何か疑問があるみたいです。


「なんで、ぼくに優しくしてくるのですか? トールさんのお父さんの事は、聞きました。ぼくと似たような経緯で放り出されたようですが、皆さんにぼくを保護する義務はないはずです」

「……」


 少年の疑問は、至極当たり前です。

 帝国とトール君の、切れない縁を知らないからでもあります。

 お父様の一件から所有物扱いされているトール君です。

 双黒の賢者。

 トール君の名声を自国のモノにする為に、帝国が声高に所有権を主張しています。

 それは、未だに続いています。

 邪神討伐に関わるよう書状を寄越してくる、帝国の不遜な態度には辟易しています。

 トール君は、これを機に何やら企んでいます。

 が、少年の保護はアッシュ君の独断でした。

 簡単な説明では納得がいかないようです。


「理由は簡単だよ。君が未成年の子供だからだよ」

「子供ですか?」

「うん。そう。子供は大人に保護される。君のいた世界では違うのかい?」


 ギディオンさんが優しい笑顔で、少年の頭を撫でました。

 比護欲が沸いているのですね。

 ギディオンさんは人見知りがありますけど、種族的に守るべき事態には率先して先陣に立ちます。


「いえ。ぼくは未成年で親に保護される年齢です」

「なら、同じだよ。君がトールのお父さんと同郷で、困っている。その縁でアッシュに助けられた。帝国にいたら、本当に君は命を無くしていただろう」

「はい」

「トールのお父さんみたいに、命が掛かっていたら才能が発露するかもしれない。上層部には、そう考えられたかもだけどね。帝国はいつもやり過ぎる。他者の命は軽いんだよ」


 ギディオンさんの視線が私やラーズ君、リーゼちゃんに向けました。

 三人ともに、両親を帝国に奪われました。

 悲劇は胸に刻み込まれています。

 忘れようがありません。


「朝からする話ではないかもしれないけどね。勇者召喚には、生命を対価に支払い異界から召喚される。教えて貰ったかい? 今回は罪人の生命を対価に君達が召喚された」

「いいえ。祭事場には、神官と帝国の宰相がいただけでした。ぼくらが無害だと知ると、風呂場に追いやられ丸洗いされました。着替えさせられ、持ち物を取り上げられました」

「多分だが。邪神討伐に期待されていないな。次の召喚の道標に持ち物を使う気だ」


 トール君が眉根を寄せました。

 勇者の聖遺物として神格化させる。

 自国の野心にそぐわないと知ると、平気で見捨てる。

 帝国のやり方には虫唾が走ります。


「そんなに簡単に勇者召喚はされるモノなんですか。何の為に、ぼくは召喚されたんですか」

「セイ。落ち着いて。君が望むなら帝国は勇者召喚を封じられるよ。何せ、トールとアッシュには奥の手があるから。願ってごらん。下らない権力闘争の駒にされた、セイの願いは叶えられるよ」

「……。……帰りたいです。家に。父さんと母さんに会いたいです。もも、いちご、みかん。猫達に。本当に苦しかった。痛くて痛くて、でも、誰も助けてくれなかった」


 穏やかなギディオンさんに、促されて少年は願いを言葉にだしました。

 椅子に深く座り、膝の上で握りしめた両手。

 うつむき、ひと言ひと言吐き出します。

 その言葉をトール君は待っていました。

 神々の御使いとされる天人族には、神に準じる力を保有しています。

 ですが、地上においては力を無限に使用は出来ない決まりがあります。

 天人族は神域か天上の浮島を活動拠点にしています。

 地上には滅多に降りては来ません。

 トール君は地上で、活動する只一人の天人族になります。

 普段は余りある能力を封じられています。

 少年の懇願は、トール君の封印を解いてくれます誓願になりました。


「ははは。誓願受け取った。これで、全力で帝国を叩き潰せる」

「確かに、聞き届けた。おれも了承した」


 トール君とアッシュ君に、少年の懇願は届きました。

 双黒の賢者様と最凶な英雄様が、揃って動き出します。

 帝国は、本気なお二人を止められないでしょうね。

 未来は明るくないです。


「さて。誓願を承った。セイの持ち物を奪い返さないとな」

「それなら、司祭から預かっている。適当な遺骸で偽装してきたが、慎重に調べられたら分かってしまうからな」

「アッシュ。どう偽装してきた?」

「牢獄近くの厨房から失火した風を装った。逃げ延びられない牢獄には焼死体を何体か置いてきた。事前にヒューバートに人体に近い人形を作製してもらった」


 ヒューバートさんは人形師です。

 精巧な作りの人形は、技術を惜しみなく尽くしたら、人と見間違えてもおかしくないのです。


「それなら、多少の時間稼ぎになるか。しかし、司祭の身辺は大丈夫か? 危うい気がする」

「使い魔を張り付かせている。が、司祭は近々左遷される。帝国の帝都から放り出されるだろうな」

「地方へ追いやられても、不安があるな。いっそのこと、いや、駄目だな」


 ミラルカへの移住は難しいと思われます。

 勇者教の司祭さんには悪いですが、相容れないです。

 ミラルカの住人には勇者教や、帝国に迫害された種族が多々います。

 恨みを晴らされないとも限りません。


「本人は勇者教を離れる気はなさそうだ。地方へ跳ばされても試練と受け止めるだろう」

「そうか。殉教する覚悟か」

「殉教って。司祭さんは死んでしまうと言うことですか?」

「そうなるな。助け手を出しても拒否されるだけだ」


 少年には、理解出来ないかも知れません。

 勇者教の恐ろしさは、殉教率にあります。

 至高の神の試練として、どんな理由でも、死さえも受け入れてしまいます。

 少年の世話人に選ばれたからには、最期まで付き合う所存でしたでしょうね。


「司祭さんには、迷惑かけ通しです」


 少年の嘆きにギディオンさんが、肩を抱き寄せます。


「勇者教の司祭さんの恩に報いたいなら、君は帝国への意趣返し的何をするべきだと思うかい?」

「分かりません」

「生きることだよ。そして、五体満足で家に帰るんだ」

「家に帰れますか」

「帰れるよ。神々は万能ではないけど、力ある存在だ。だから、言葉に縛られる。その神が虚偽を言った。自身の存在を掛けて、代償を支払わないといけないんだよ」


 光の神は至高の神ではありません。

 実りの女神は大地の女神では、ありません。

 少年に語った虚偽を断罪されなくてはいけません。

 私はお母さまにも、報告しました。

 トール君とアッシュ君も事実無根の情報を知りました。

 少年の願いは必ず叶えられる。

 貴方は神々も、恐れる人物に助けられたのです。

 安心して、日々を過ごしていたら良いですよ。


 にゃあん。


 ジェス君が得意気に鳴きました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今まで何も出てこないけど初めから数人で作ったのならともかく違うのなら創造主や最高神が居てその下に管理するものを置くよね
2021/05/10 07:08 退会済み
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