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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
55/197

第4話

 今晩のお夕飯は焼魚に肉じゃがと味噌汁に玉子焼きです。

 勿論白米を炊きました。

 手当てと身支度を整えた少年は、席につくなり両手を合わせて


 [いただきます]


 と、食べ始めました。

 それは、勢いよくです。

 少年の食べっぷりに、マナーには煩いトール君は何も言いません。

 むしろ、食べろと推奨しています。

 お話ができたのでしょう。

 身体の表面の怪我は直せても、心のキズまではポーションでは、癒せません。

 私には計り知れないキズが、食事で回復できたら良いと思います。


 [おかわりはどうする?]

 [ください。久しぶりなまともなご飯です]

 [帝国ではパンが主流で、米は庶民の食べ物だからなぁ]

 [んぐ。それもあるけど。ぼくは、省吾のお荷物扱いで、役立たずでした。そんな輩に食わせる飯はないそうです]

 [はあ? なんだ、それ。自分勝手な理由で異世界から呼び出しておいて放置かよ。だから、帝国は赦せないんだ]


 激高するトール君です。

 が、ニホンゴを解しない面々には疑問だらけですよ。

 食堂には、私達年少組とトール君にアッシュ君、ギディオンさんとイザベラさんが集まりました。


「トール。事情が私達にはわからないわぁ」

「ああ、そうだな。ほいっと」


 イザベラさんの苦情に、トール君は少年の耳に翻訳の魔術を刻みました耳飾りを装着させました。

 また、無造作にだしますが高価な魔導具です。


「これで、此方の言語は伝わるだろう。どうだ、機能しているか?」

「あっ。はい、分かります」

「発声の方も機能しているな」

「凄いです。あんなに苦労していたのが、嘘みたいです」

「トール先生は賢者の肩書きを持つ職人です。何かあれば、大抵の物は作ってくれますよ」

「いまは、特に思い付かないです」


 言語に不自由していたようですが、トール君のお父様が召喚された時代とは違いますね。

 何でも、召喚特典で魔導具がなくても会話はできたと伝わっています。

 謎です。


「まあ、今は充分に食べろ。誰も取りやしない」

「はい。助けて貰えてありがとうございます」


 少年は比較的に落ち着きましたのか、アッシュ君に向かい頭を下げました。

 次にトール君に頭を下げます。

 それからは、食事に専念しています。

 あまり食べさせて貰えていなかったのなら、消化に良いお粥の方が良かったかもしれません。

 典型的な夕ご飯にした積もりでした。

 お腹を壊さなければ良いです。


 ふみゃあ。


 〔ジェスもおかわり〕


 ほぐして小骨を取り除いた魚を、綺麗に食べたジェス君に催促されました。

 小皿に冷ました肉じゃがを入れます。

 美味しそうに食べてくれます。

 料理のしがいがあります。

 ふと、視線に気が付きました。

 少年が、此方を伺っていました。

 はて?

 猫が気になります?


「どうした?」

「いえ。猫がいるなぁ、と」


 少年の側とは対角に鎮座するジェス君です。

 ジェス君用の椅子は職人さんに発注しました。

 何時までもテーブルに座らせていましたらいけません。

 衛生に問題を起こしては駄目ですよね。


「うちの家族だからな。猫は嫌いか」

「違います。ぼくの家にも猫は3匹飼っています。何だか、無性に会いたくなりました」

「そうか」


 トール君に覇気がありません。

 少年は、ニホンに帰れると示唆しています。

 やはり、正確な情報を与えられていませんね。

 相互な理解がないと、召喚は出来ない仕組みになっているはずです。

 豊穣のお母さまが教えてくださいました。

 ですが、抜け穴がありそうです。

 帝国の主神は光を司る神です。

 トール君のお父様が巻き込まれた勇者召喚以降は、時空を司る神とは不仲であると聴いています。

 召喚された勇者が、帝国の思惑通りに他種族を排斥しました。

 滅亡へと追いやられた種族の中に、時空を司る神が庇護していた種族がいました。

 今回の勇者召喚には、時空神は関わりを持たないはずです。

 光の神と実りの神が、独断で行う予定でした。

 神国まで勇者召喚を行うとは思いもしませんでした。

 神国は複数の神々を崇めています。

 対抗する神の仕業でしょうか。


「帝国はどういう理由で召喚したか説明をしたか?」


 食後にリビングに居を移して、トール君が切り出しました。

 お茶を出し終えた私もソファに座りました。


「邪神が目覚めるから、倒して欲しいと言われました。最初はぼくと省吾は召喚の興奮のままに承諾しました。こんな事があるんだ、物語の主人公になった気分でした」


 少年は頬を紅潮させて話始めました。

 少年の名前はセイ=ミヤノと名乗りました。

 真名を名乗る行為の意味を理解していませんね。

 この場には、魔力が高い魔人族と天人族がいますよ。

 真名で支配されても仕方がなくなります。

 まあ、少年は保護された立場にあります。

 アッシュ君もトール君も、みだりに支配はしないでしょう。

 ただ、嘘はつけなくなります。


「召喚される時には神様にも会いました。至高神だという光の神様でした。あとは、他にも何人かいました。大地の女神だという神様に、聖女と力を合わせて邪神を討伐してくれと頼まれました」


 大地の女神ですか。

 実りの女神ではないのですね。

 詐称に当たりますが、良いのでしょうか。

 トール君は眉間に皺がよってきています。

 天人族としましては、許容範囲を越えているようです。


「その女神様に、邪神が危険な神と教えられました。でも、嘘だったみたいですね」

「なんで、知ったんだ。帝国は勇者には、破格の待遇をしていただろうに」

「きっかけは、省吾だったんです。ぼくと省吾は、召喚されて間もなく聖女に合わせられました。そして、聖女が転生者だと実感しました。ぼくらと話が合うんです。おかしいなと思うぼくに反して、省吾は段々と聖女に傾倒していきました」


 聖女さんの魅了ですね。

 勇者にも効いたのでしょう。

 少年が魅了されなかったのは、附与された魔法耐性にあると思われます。

 少年は魔法士の適性を附与されています。

 ならば、ショウゴ君が勇者に選ばれたのですね。


「いまでは、聖女の側を離れません。ぼくはあの甘い臭いが苦手で書庫に籠りがちでした。その書庫で初代勇者と呼ばれたニホンジンの日記を発見しました」

「日記か。よく発見できたな」

「はい。書庫に籠るぼくは見放されていたんだと思います」


 自虐的に笑う少年の話に益々、トール君の皺が増えていきます。

 帝国嫌いが極限に達していることでしょう。


「側付きの侍女さんも、勇者ではないぼくの担当を嫌がっていました。会話すら、してくれませんでした。でも、勇者教の司祭が一人だけ親身になって面倒を見てくれました。書庫に籠るのも、黙認してくれました。魔法の勉強をしていると周りに伝えてくれたんです」


 まるで、話に聴いたトール君のお父様と同じ待遇です。

 勇者ではない、それだけで差別されました。

 お父様は、知識を優先された方です。

 戦闘行為には役にたたないと、帝国や勇者教に放り出された経緯があります。

 少年は見放されていたとの事でしたが、監視の目はあった筈です。

 司祭が監視役だと思われます。


「初代勇者の日記には、帰れない怨みの籠った文章が有りました。ぼくと省吾は役目が終われば帰れると信じていたんです。神様にも帰れると保障されたから、受けたんです。なのに、帰れない。ぼくは省吾に日記を見せました。でも、遅すぎでした。省吾ははじめから帰る気がない、勇者として帝国の平和を導く存在になるのだといい放ちました」


 神が嘘の約定をした。

 これは、一大事です。

 少年は帰れない身の上を認識していました。

 約定を交わした神は少年に償わなくてはいけません。

 豊穣のお母さまに申告しなくてはなりません。

 トール君に目配せされました。

 分かりました。

 直ちに連絡をします。

 窓辺に移動しまして、伝書蝶を飛ばします。

 伝書蝶は、お母さまの神力でできています。

 私の言葉を一字一句違えずに届けてくれます。

 神子が嘘をつけないのと同様に、神族も嘘をつけない身です。

 詐称といい、神族も一枚岩ではないのがわかってきました。


「なんとか省吾と話をしようとするぼくは、煙たがれたんでしょうね。聖女のお兄さんにに罠に嵌められました」

「あいつか。頭が切れる奴だったな」

「会った事があるんですか? あの人に皇帝の暗殺犯人にしたてあげられました。訳も解らずに牢獄にいれられ、気がついたら話ができなくなりました。突然だったので混乱しました」

「会話が出来ないように、呪いが掛けられていたな。言語理解は神の加護が喪われていたから、実りの女神が奪ったのだろうな」


 アッシュ君が、推測します。

 言語理解は、異世界召喚にはなくてはなりません。

 折角召喚した相手と意志疎通ができなければ、犠牲を払ってまで召喚した意味がありません。

 それを奪うやり方に憤りしか沸きません。


「アッシュは何処でセイを保護したんだ?」

「セイを保護したのは、情報屋から依頼された。恐らく、親身になった司祭経由だろうな。牢獄辺りの結界が緩んでいたから、楽に連れ出すことができた」

「はい。牢獄にいれられてからは、毎日が訊問の日々でした。言葉はわからなくなりましたけど、一度司祭さんが助けようとしてくれたのは覚えています」


 訊問ではなく、拷問でしょうね。

 少年の身体には無数の怪我が有りました。

 皇帝の暗殺犯人にしたてあげられた恐怖は計り知れません。

 アッシュ君に助けられて良かったです。

 多分ですが、司祭さまの身の安全は喪われていることでしょう。

 帝国も囚人が牢獄から脱獄したとは、表沙汰にはしないでしょうけど、一番疑われるのは司祭さまです。


「言葉が分からないのは苦労した。トールに出会わせれば安心するかと思い連れてきた」


 アッシュ君は保護したつもりでも、少年は意志疎通ができませんので、恐怖は続いていたと思います。

 なにせ、人族ではない魔人族です。

 リーゼちゃんに運ばれてきた少年は暴れていましたし。

 安全を理解させるには、トール君に会わせるのが一番でした。

 思った通りに、トール君を見るなり泣き出されました。


「そうだな、親父似の相貌が有り難いと今日ほど思ったことはないな。安心しろ。帰還も含めて何かしらの結論が出るまでは、保護下におくからな」

「家に帰れるんですか?」

「俺の親父は帰れる気で方法を探していた。お袋に出会って諦めたがな。セイの場合は騙された確率が高い。神族には、代償を払ってもらうさ」


 なんて事もないように告げましたが、道のりは遠そうです。

 時空を司る神が無償で異界への扉を開けてくれるかは、正直に言いますと低い確率だからです。

 彼の神は神域の奥に籠りがちで、眷属の前に姿を現すのも希です。

 ですが、トール君はヤル気満々です。

 少年に、お父様の姿を重ねているのかもです。

 私も微力ながらお手伝いをしたいと思います。

 まずは、お母さまのお返事待ちです。

 神族はどういう結論を辿るでしょうか。


ブックマーク登録、評価ありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] 正真正銘の邪神をなんの措置もなく放って置くのか理解不能(笑)
2021/05/10 07:01 退会済み
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