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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
フランレティア編
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第3話

 適度に休憩を挟み、冒険者ギルドに納品する薬品を作り終えました。

 ラーズ君が手伝いを申し出てくれましたので、本日中に完了出来ました。

 頑張りました。

 頑張り過ぎてしまいました。

 ジェス君も手伝いをしたがりましたが、猫の手を借りる程ではありませんよ。

 遠回しに断りましたら、意気消沈してしまいました。

 残念ですが、薬品に異物を混入する訳にはいかないのです。

 ごめんなさい。

 ジェス君。


「明日、僕が納品にいきます。セーラはリーゼと留守番していてください」

「分かりました。お願いします」


 まだ、外出禁止は解けてはいません。

 心配性なお兄ちゃんですね。

 ラーズ君とリーゼちゃんが一緒なら、買い出しに行っても良いと思います。


「帰りに買い物があれば、事前に教えてください」

「なら、お野菜と鶏肉をお願いします」


 ジェス君は、鶏肉が好みです。

 お魚より肉派です。

 今も、尻尾が揺れています。

 鶏肉は明日のご飯ですよ。

 本日はお魚料理を予定しています。

 今朝新鮮なお魚を入手したのです。

 ミラルカは内陸部ですから、魚介類はお値段が高めです。

 顔馴染みなお魚屋さんがわざわざ売り込みに来てくださいました。

 まぁ、狙いはジェス君だと思いました。

 話題もそれとなく出したがっていましたし。


「野菜の種類はなんでも良いのですか?」

「貯蔵庫を確認してからで良いです?」

「納品するまでに教えてくださればよいですよ」


 調薬室を出てリビングに移動します。

 ラーズ君は、工房と店舗の閉店準備に行かれました。


 〔セーラちゃん。お疲れ?〕


 まったりとソファに沈みますと、ジェス君に心配されました。

 そうですね。

 適度に休憩を取りましたが、少々気を張りすぎましたね。

 後で気づきましたが、なにも今日一日で作製しなくても良かったのですね。

 お馬鹿です。


「多少疲れましたが、心地よい疲労感ですよ」


 膝上から見上げてくるジェス君を撫でます。

 ジェス君は頭を擦りつけてきました。

 可愛い仕草に癒されます。

 疲労感が吹き飛びます。


「おっ。お疲れさん。今日中に依頼を終えたんだな」

「トール君もお疲れ様です」

「おお。充実した店番だったぞ」


 お店番を終えたトール君がリビングにきました。

 角のソファに座りました。

 ジェス君がトール君の方を伺いましたので、膝に乗せてあげました。

 お昼時にも甘えていました。

 ジェス君にとりまして、トール君はお父さん代わりですね。

 早く念話が伝わると良いのです。


「うりゃ。今日はジェス目当ての客が多かったぞ。人気者だな」


 前肢の脇に手をやりジェス君を持ちあげるトール君。

 ジェス君が伸びています。

 大分成長してきています。

 ポーチよりも多きくなりましたら、肩の上が定位置になりますかね。

 それとも、ポーチの空間拡張をたのみましょうか。

 資金はあります。

 結局虹晶貨は無限収納(インベントリ)の中です。

 ギルド貯金に入金すれば良いかと提案しましたら、要らない詮索を買うだろうとの意見があがりました。

 商業ギルドは守秘義務が曖昧ですから、ギルド内で噂に上がるのは確実ですね。

 冒険者ギルドでも依頼外で入手した金銭については、事情を申告しないと預かってはくれません。

 どちらのギルドに貯蓄しようにも、話題に昇ります。

 ポーション販売で儲けたとは、嘘は言えません。

 黙っていたとしましても、利に敏感な商業ギルドは秘密を暴こうとしますね。

 もしくは、幸運猫(フォーチュンキャット)の御利益かと疑われそうですね。

 んん?

 あれ?

 待ってください。

 迷宮の鉱脈で希少価値の高い鉱石が発掘できましたのは、ジェス君がいたからでもありますか。

 私達にとりまして、ジェス君は末弟です。

 幸運猫として見てはいませんでした。

 あり得そうです。

 黙っていましょう。


 〔なあに、セーラちゃん〕

「何でもありませんよ。ジェス君が多きくなったら、ポーチに入らなくなるのかと、思案していただけですよ」

「ああ、それな。アッシュから依頼されているぞ。やたら、注文が煩かったが、なんとか仕上がった」


 アッシュ君に先読みされていました。

 私は空間拡張を主に居心地が良い環境になります、ポーチが欲しかったのですが。

 アッシュ君は、どれだけ注文をつけたのでしょう。


「アッシュがいないけど、渡して良いかな」


 トール君の無限収納からポーチと、緻密な彫りがはなされたプレートが着いたチョーカーがでてきました。

 チョーカーは以前に依頼していると言っていました品ですね。


「鑑定しても良いですか」

「いいぞ」


 断りをいれまして、チョーカーを手にします。

 鑑定結果は、凄いの一言に付きました。


 ▽  守護のチョーカー


 物理・魔法・状態異常攻撃無効


 依頼するアッシュ君もアッシュ君ですが。

 作製してしまえれるトール君もトール君です。

 なんて品を作りあげてしまうのでしょう。

 仔猫用のチョーカーに、無効の効果が付いた品です。

 どれだけジェス君の安全を考慮したのですかね。

 私の髪飾りも状態異常耐性が高めですが、小さなプレートに緻密な陣が刻み込まれています。

 裏側には私の名前が、彫られています。

 迷子防止ですか。


「こっちが対のアミュレット。一定の距離が離れたら、魔力を流せば対の場所が分かるようにした」

「召喚具に似ていますね」

「アッシュの指示で似せた」


 お座りした仔猫のアミュレットです。

 瞳は魔晶石が嵌め込みされています。


 〔ラーズ君と、リーゼちゃんと一緒だね。ジェスは嬉しい〕


 アミュレットをチェーンベルトに付けました。

 計6個のアミュレットが並びました。

 ラーズ君とリーゼちゃんと違いまして、他の子は普段は休眠状態になっています。

 人見知りが激しいのと、外には出せない事情を抱えているのです。

 特に騎士型の2柱はリーゼちゃん以上に、敵対者には容赦がありません。

 邪神討伐でも出番がないことを祈ります。


「んでだな。ポーチの外観は、いつものと変わりがないようにしといた。空間拡張に環境適応、重量軽減。スリ対策に攻撃無効な」


 只のポーチでは、無くなりました。

 いえ、空間拡張も只のポーチでは、無いのですが。

 無限収納に等しい財産になりますよ。

 テーブルに置かれたポーチに、ジェス君が潜り込みました。


 ふにゃあ。


 〔快適だよ〕


 どうやら、お気に召したようです。

 蓋を開けましたら、丸くなっていました。

 おねむでしょうか。

 ポーチを取り替えます。

 重量軽減されていますので、重さは気になりません。


「ジェスはなんて言っている?」

「快適と、言っています。丸くなっていますが、窮屈さは無さそうです」

 〔窮屈ないよ。気持ちいいよ〕


 ポーチから、頭を出して念話を伝えてきます。

 トール君に向かって鳴いています。


「ありがとう、と言っています。心地よさそうです」

「なら、アッシュも満足の出来だな」


 トール君は腕を組んで得意げです。

 職人にとりましては、依頼者が満足してくれるのが、何より充分な報酬ですね。

 この場合は依頼者のアッシュ君ではなく、使用する私とジェス君の賞賛が値します。


 にゃっ。


 ジェス君がリビングの扉を見やります。

 誰かが帰宅しましたか。

 そう言えば、閉店後のお掃除が長引いていませんか。

 リーゼちゃんとラーズ君が戻っては来ません。


「飛び入りで誰かが入店したか?」


 あり得そうですね。

 ラーズ君が追い返しないところをみますと、常連さんですかね。


「セーラ。特級万能薬を二つ。急いでください」

「はっ、はい」


 ラーズ君がリビングに飛び込んできました。

 小型ポーチから、依頼の特級万能薬を取り出します。

 ラーズ君は、珍しく慌てています。

 小瓶を出すなり、持っていかれました。

 私とトール君は、唖然としています。


「何事ですかね」

「さあな。訳がわからん」

 〔アッシュ君が帰ってきたよ。お客さんを連れていた〕


 お客様?

 帝国に諜報に行かれていたのですよね。

 情報屋さんに、何事かありましたのでしょうか。


「トール、ちょっと来てくれ」

「アッシュ。訳がわからんが、急ぎか?」

「安全を約束したからな、トールを見れば信じてくれるだろう」

「トール君。ジェス君がアッシュ君は、お客さんを連れて帰ってきたと、言っています」


 言葉が足りないアッシュ君に、ジェス君が教えてくれました情報を付け加えます。


「アッシュ、お前ニホンジンを連れて帰ってきたのか」


 リビングにトール君の声が響きました。

 泰然としているアッシュ君の背後で、リーゼちゃんが誰かを担いできました。


「先生を見る」


 担がれていましたのは、茶髪に黒眼の人族の少年です。

 十代半ば位な年頃です。

 彼は何か喚いています。

 その言葉には聞き覚えがあります。

 トール君を認識した少年は、急に泣き出しました。


 [お前はニホンジンで合っているか?]


 トール君のニホン語に頷く少年です。

 リーゼちゃんは暴れる意志がないのを知ると、少年を下ろしました。

 少年は、リビングの床に座り込み泣いています。


 [何があったか聴いても良いか。それとも、暫くほっとかれた方が良いか?]

 [ひ、独りは嫌だ。見捨てないでほしい]

 [分かった。床は冷えるから、ソファに座れ]


 トール君に促されて、ソファに座り直した少年を人物鑑定をします。

 主義に反しますが、少年の姿を見ますとやらない訳にはいきません。

 少年は、傷だらけでした。

 破れた衣服の下は青アザや裂傷が有りすぎです。

 お茶よりは、傷を癒すポーションの方がよさそうです。

 小型ポーチから、上級ポーションとぬり薬を出します。

 私が渡すより、トール君が渡した方が受け取ってくれますよね。


「トール君。ポーションとぬり薬です。事情を聴くより手当てを優先してあげてください」

「そうだな。痛々しい姿だしな。ラーズ。着替えを頼む」

「はい。分かりました」

「リーゼとセーラは、席を外してくれるか」


 怪我人は気になりますが、少年の心理を考慮しましたら、はいと返事をしないといけないですね。

 お腹が空いているかもしれません。

 夕飯を作りましょう。

 郷土料理がよいですね。

 トール君のお父様が残してくださいましたレシピがあります。

 ニホンジンのソウルフウドはオコメだと、伝わっています。

 此方では白麦がオコメと呼ばれています。

 精米に難有りですが、頑張りますよ。

 美味しい食事を取れば、少年も少しは元気になりそうです。

 厄介事だとは思えない少年の惨状に、帝国に怒りが沸いてきます。

 絶対に帝国の思惑通りにしてみせません。

 絶対にです。




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