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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ミラルカ編
51/197

第23話

金曜投稿です。


 リーゼちゃんの言葉通り、神国と帝国からクロス工房宛に親書が届きました。

 帝国は邪神討伐に援助するように。

 神国は重病の患者の診療に。

 どちらも、破格な報酬を提示ししています。

 トール君はどちらの要望に応える気でしょうか。

 ミラルカの屋敷に一同が集められました。

 トール君とアッシュ君に、職人代表の錬金術師のメル先生と革細工師のギディオンさんに、保護者枠のイザベラさんとジークさん。

 私達年少組には内密な相談会が開かれています。

 お茶を出しましたら、私は浮島の薬草園の手入れに戻りました。

 ラーズ君とリーゼちゃんはお店番です。


 にゃあお。


 ジェス君は、おとなしく陽当たりの良い場所で、日なたぼっこです。

 気持ち良さげに尻尾が揺れています。

 先日の嵐で薬草園は少なからず被害を被りました。

 上級ポーションの素材となる薬草は、温室で栽培していましたので無事でした。

 その他の中級ポーションの素材となる薬草が根こそぎ駄目になってしまいました。

 嵐の風はは浮島の結界に阻まれましたが、雨水に流されてしまいました。

 今は泥まみれになった薬草を植え直しているところです。

 好奇心旺盛なジェス君も足を踏み入れたかったようでした。

 男の子は泥遊びが好きですよね。

 ですが、一歩目で前肢が泥に沈み、驚き跳び跳ねました。

 着地したと思いましたら、一目散に水場に直行です。

 器用に自分で洗っていました。

 お風呂好きな私に感化されて、綺麗好きになってくれました。

 嬉しいです。


「よしっ」


 なんとか植え直しが終わりました。

 魔導人形(ゴーレム)のお手伝いがありましたので、午前中で終了しました。

 午後は調薬に精を出しましょう。


 にゃあ。


 〔セーラちゃん。リーゼちゃんが来たよ〕


 ジェス君の念話に屋敷に視線を向けます。

 すると、リーゼちゃんが確かにやって来ました。


「リーゼちゃん。どうかしましたか」

「トール先生、伝言。リビング、集合」


 お話しあいが終わった模様です。

 さて、どうなりましたでしょう。


「分かりました。素早く身仕度します」

「泥だらけ。頑張った」


 リーゼちゃんに頭を撫でられます。

 序でに、【清潔(クリーン)】の魔法が掛けられました。

 泥汚れが無くなりました。


「大至急。セーラ、お風呂、長い」


 うっ。

 言い返せません。

 いつもは、泉で一泳ぎしたりしています。

 ちょっとだけでも、駄目ですかね。


「駄目。皆、待ってる」

「はぁい。行きます」


 渋々返事をします。

 すかさず、ジェス君が肩に飛び乗りました。

 大至急でも、ジェス君は置いて行きませんよ。

 ブーツの泥を落として、転移室に急ぎます。

 リーゼちゃんの転移魔法で、一瞬で工房の転移室に移動しました。


「お待たせしました」

「お待たせ」


 リビングにはどことなく、重苦しい雰囲気が漂っていました。

 入室しづらいでした。

 獅子族のギディオンさんが頭を抱えていますよ。

 どんな、結論に至ったのでしょう。

 対して、トール君は悪戯を思い付いた悪い表情です。


「おう。待たされたぞ」


 トール君。

 そこは正直に言う場面ではないと思います。

 むくれますよ。

 ラーズ君の隣に座りました。

 リーゼちゃんは私の隣で、いつもの並びになりました。


「結論から行くぞ。神国にはメルを派遣する。帝国にはアッシュと年少組を派遣することになった」


 妥当な判断ですね。

 神国の親書には人物の指定がありませんでしたから。

 神国には薬物にも詳しいメル先生が赴くのは、理に適っています。

 私達は帝国側です。

 と言いましても、実際は帝国領には足を踏み入れません。

 そこまでは、トール君も了承しないでしょう。


「帝国が討伐しようとする邪神の封印地が分かった。フランレティア、奇しくもシルヴィータの隣国だ」


 アッシュ君の情報と帝国からの情報で、割り出された封印地は何の因果がシルヴィータの隣国でした。

 しかも、帝国の同盟国です。

 シルヴィータの隣国が帝国の同盟国とは知りませんでした。

 昨年同盟を結んだばかりでした。

 フランレティアは良質な鉱石を輸出する鉱山の国です。

 併合ではなく同盟で済んだのは、邪神討伐を見越してのことでしょう。

 完全な帝国領では、トール君の援助は期待できません。

 双黒の賢者様は善人ではないからです。

 帝国領では悪人として語られています。

 そんな風評が流されている帝国領では、賢者様に協力的な民はいないと思います。


「フランレティアでは他種族排斥はそう聴かないが、セーラは認識阻害の魔導具は常に起動させているか、アッシュの側を離れないこと。リーゼは羽虫の言葉に無視を極め込んでいること。ラーズは適当にあしらっていること」

「「分かりました」」

「了承」


 アッシュ君がいてくれますので、ラーズ君の負担は軽いと思われます。

 が、何事にも不測な対応には、交渉役のラーズ君にお任せしたいです。

 アッシュ君ですと、力業で解決しそうです。


「んでたな。年少組がいなくなる工房には、俺とギディオンで回すとして、メルの護衛役にはジークを頼みたい」

「了承した」

「ぼくは頭が痛い」

「諦めろ。いい大人が子供に頼るな」


 ギディオンさんは獅子の獣人族ですが、気性は穏やかでやや人見知りをされます。

 決して弱いという訳ではなく、自分の覇気に呑まれて失神する他者を見たくないだけです。

 普段は覇気を抑える為に苦心されています。

 魔導具に頼らないところは矜持が高い獅子族だけあります。


「うぅ。また臨時休業にしない? ぼくに円滑な対話は無理だよ」

「イザベラが調薬師の尻を叩いたお陰で、セーラ以外の調薬師が上級ポーションを製作できるようになった。以前の様には賑わいはないだろう」

「それは、どうかしらね。上級ポーションのできばえは、セーラに及ばないわね」

「メルの言う通りよぅ。いまいちなできなのよぅ」


 そうなのです。

 冒険者ギルドで暴露しました成果が着々と出来上がってきていました。

 しかし、販売に足る品質には今一歩というところです。

 味も苦味が抜けていません。

 改良型の上級ポーションが出回るまでには時間がかかりそうです。

 イザベラさんに、ヒントをと強請れました。

 メル先生に叱られていました。

 私もそう易々と教えませんでした。


「セーラは教えてくれないしぃ。一歩進んで二歩下がるみたいなのよぅ」

「当然でしょ。レシピは開示されているのに、技術までセーラに頼るな」

「痛い言葉よねぇ」


 メル先生はお怒りです。

 でも、その通りなのです。

 レシピは開示されているのに、技術が足りていない。

 成功者に聴けば教えて貰える。

 前例を作ってしまえば、研究に勤しむ人材が減少してしまいます。

 調薬師の腕があがりませんよ。

 どうして、上昇気質な調薬師はいないのでしょう。

 私がいるからと、諦めてしまっているのでしょうか。


「あー。なんだ、ポーション類薬品は1日の販売数が決まっている。常連客も理解しているだろう」

「安心出来ない。迷宮での負傷者が多いい」

「特化型のポーションの需要が増え続けています」


 最近手足を喪う冒険者が増えているのは事実です。

 非道いと特化型ポーションを全身に使用している冒険者がいます。

 万能薬の需要もかなり、増えています。


「あの迷宮はぁ、近々入宮制限するわぁ。事前調査を頼む相手が悪かったわぁ。人食いダンジョンだと、悪評が出始めているのよぅ」


 決断は些か遅すぎましたね。

 私達同様に採掘、採取で得た情報を秘匿したパーティがありました。

 口コミで広がりまして、新人パーティが一攫千金を狙い壊滅状態に陥る話が少なからずあります。

 アマリアさんに内緒にしてしまいましたのが、仇となってしまいました。

 反省です。

 事前調査したアッシュ君は、鉱脈を発見して採掘したようです。

 普通の鉄鉱石だったとの、ことです。


「俺は、危険性を記載しただろうに」

「迷宮が産み出す利潤に目が眩んだギルドが悪い」


 メル先生がバッサリと斬り捨てました。

 段々と話の方向が違ってきていませんか。

 帝国のお話しはどうなりました。


「話がずれてきているぞ」

「そうだな」

「イザベラには、後で説教な。冒険者ギルドが冒険者を死に追いやってどうする」

「ギルド運営にはお金がかかるのよぅ」


 イザベラさんも頭を抱えてしまいました。

 冒険者ギルドも大陸にはなくてはならない組織になりました。

 ギルド運営にはギルド長の采配の手腕が問われます。

 イザベラさん、頑張ってください。


「さて、話を戻すが。なにも、明日から店番をしろとは言わない。召喚勇者も、すぐには邪神討伐には向かわないだろうしな」

「そうなのか。では、メルに店番を頼みたい」

「勿論、メルが神国から帰還すれば頼むさ。だかなぁ、邪神討伐は長引きそうな気配がしてならないんだ」

「帝国の情報屋は、勇者だと担ぎ上げられた召喚者は有頂天で、邪神討伐を受け入れたそうだと言ってきた」

「右も左も判らぬ土地でか?」

「馬鹿なお子様だ。煽てられて後悔する日が必ず来るぞ」


 帝国の勇者さんは、どんな様子で受け入れたのでしょう。

 有頂天だとのお話しですが、トール君の言う通りお子様ですね。

 彼等にも、日常があった筈です。

 召喚は拉致だと思うのですけど、ご両親の事は考えていないのでしょうか。

 私がシルヴィータに強制転移されて、リーゼちゃんは捜してくれました。

 ラーズ君にも、心配されました。

 私が親でしたら、必死で捜索すると思うのです。


「アッシュ君。気になりましたが、今回召喚された勇者さんはニホンジンなのです?」

「そういや、確認してなかったな」

「ああ、そうだな。話していなかったな。帝国も神国も双黒の少年少女が、現れているな。帝国はニホンジンだとはっきり公言している。神国は警戒心が強いらしく、意志の疎通に手間取っている」


 ニホンジン。

 トール君のお父様も、帝国の聖女さんも元はニホンジンでした。

 聖女さんは公にしていませんし、容姿も此方の世界に変貌しています。

 神国が頼るとしたら、トール君しかいませんね。


「近々トール先生にも神国から、召喚状が届くのではないですか」

「有りそうだな」

「なら、偵察に行ってみるか」


 ラーズ君も考えついた様です。

 トール君は乗り気で、明日にでも神国に行きそうです。

 評議会の議長が、ほいほいとミラルカを離れて良いのでしょうか。

 ジェス君を欲しがる評議会の議員を、実力行使で黙らせたばかりです。

 不在を聞き付けて、工房に押し掛けて来ないとも知れません。


「アッシュ。暫く工房を頼むわ」

「承知している」


 アッシュ君がいてくれるのなら、安心ですね。

 なにしろ、大陸最凶な英雄さまです。

 拠点にしている工房に、盗みに入るお馬鹿な盗賊はいません。

 ジェス君も、安心して甘えられますね。

 良かったです。


ミラルカ偏修了です。

伴いましてお休みを頂きます。

次話は10月16日です。

持病の治療に専念させて頂きます。

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