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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ミラルカ編
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第22話

月曜投稿です。


 エリィさんが、クロス工房から脱退して5日が過ぎました。

 工房には幸運猫(フォーチュンキャット)がいる。

 その話題に工房はてんやわんやしているようです。

 毎日真贋を問う声が殺到していて、通常業務に支障がきたしています。

 私とジェス君は安全な浮島で隔離させられました。

 商業ギルドからも譲れだの、売買の対象にジェス君がなってしまいました。

 段々とつり上がっていく値段に、トール君の機嫌は最高に悪いです。

 アッシュ君の使い魔情報では、エリィさんの新居には商人が引っ切り無しに、乗り込んできているようです。

 エリィさんの工房の鍵を目当ての行為みたいですが、工房の鍵は新調されました。

 脱退時に手離さなかったのは、まだトール君に未練があったのでしょう。

 怒気が収まれば元に戻れると思ったのでしょうか。

 トール君どころか、アッシュ君の機嫌を損ねる結果になりました。

 エリィさんの復帰はアッシュ君が赦さないと思います。

 自業自得ですね。

 仲の良いメル先生も憤慨しています。


「あそこまで馬鹿だと思わなかった」


 その一言で付き合いを絶ち切ろうとするほどです。

 守秘義務を怠りましたエリィさんは、裁縫師としての腕は良いのですが、私よりも世間には疎かったようです。

 工房に属していた間は衣食住が用意されていました。

 いきなりな独り暮らしに暗雲が立ち込めないといいのですが。

 今まさに、その状態ですね。


 ふみゃあ。


 浮島のリビングで昼寝をしていますジェス君。

 ここの処、情緒不安定で睡眠があまりとれていないです。

 私かアッシュ君がついていないと鳴きっぱなしです。

 ですので、研究は一時中断です。

 日課の薬草園の手入れにも肩の上から離れてはくれません。

 泳ぐのにも一苦労していました。

 アッシュ君は、昨日魔素溜まりが発生した遠方にでかけました。

 不安定な情勢のなかでの、アッシュ君の不在に不安が募っているみたいです。

 私は心配してはいないです。

 感知できない場所で使い魔が待機していてくれていることでしょうし、何事か起これば転移魔法で帰宅してくれます。

 家族になりまして日が浅いですから、不安がるのは仕方がありませんね。


「セーラ。特化型ポーション、依頼、入った」

「特化型ですか」

「ん。迷宮、足、持って、いかれた」


 うわぁ。

 それは、一大事です。

 特化型は手足欠損を癒すポーションです。

 効果が落ちてはいけませんので、工房には置いてなく無限収納(インベントリ)に収納してあります。


「どうぞ」

「ん。ありがとう」


 お客様を待たせているのか、リーゼちゃんはすぐに工房に戻りました。

 先日の嵐も収まり浮島のリビングには静かに時が流れています。

 ジェス君の健やかな寝息が聴こえます。

 今日は眠れているようで何よりですね。

 背中を撫でていると、ピクリと耳が動きました。

 起こしてしまいましたか。

 急に頭を起こして一点を見つめています。


 シャアアア。


 毛並みが逆立ちました。


「どうしました?」


 声をかけましたが、一点を見つめるばかりです。

 その方向に何があるのでしょう。

 すると、次第に濃密な魔力の流れが感知できました。

 自然に固有技能(ユニークスキル)が発動したのです。

 慌てて窓に駆け寄り開けました。

 果たして、外では異常な光景がありました。

 天上から光の柱が降りたっています。

 それも2柱もです。

 勇者召喚。

 とうとう、実行されました。

 帝国と神国が同時期にです。

 まるで、申し合わせたみたいに同じ時間にです。

 どちらの勢力にも内通者がいる証ですね。


 みゃあ。


 ジェス君が機敏に肩の上に飛び乗ります。


 〔五人召喚されたよ。帝国に二人、神国に三人〕


「五人も⁉」


 トール君のお父様の時は二人でした。

 神国は代償にした聖職者の位階は高い人を選んだのですね。

 優位に立つ為には形振り構ってはいられない。

 神国のありようが変わってきているようです。


「セーラ、ジェス。無事か?」


 トール君が異変を察して浮島に転移してきました。


「はい。私もジェス君も無事です」


 にゃあ。


「なら、いい」


 きっと工房ではラーズ君とリーゼちゃんも、こちらに来たかったでしょう。

 念話で無事を伝えました。

 二人とも、異変を感知していました。

 工房を臨時に閉店してしまうか悩み中との事です。


「あいつら、とうとう、やりやがったな」


 トール君は、勇者召喚には否定的です。

 お父様が関わりを持っていなければ、否定も肯定もしないでしょう。

 異世界から召喚される勇者は、仕組みが変わりまして了承がないと召喚されません。

 今回は、どのような方が召喚されましたか、少し興味が沸きました。

 アッシュ君の情報を待ちます。


「少し偵察してくるかな」

「どちらにですか?」

「勿論、帝国だな」


 そうだと思いました。

 かなり、帝国の情勢に敏感になってします。

 わざわざ、魔王様にお伺いをたててまで、クロス工房に接触してきましたしね。

 何らかの企みが有りそううです。


「アッシュ君の帰りを待った方がよくないですか」

「それもそうか。あっちも、待ち伏せ位していそうだな」


 勇者召喚を罠にして、トール君を捕らえる。

 有り得そうです。

 伊達に、何十年と争ってませんね。


「トール先生。評議会からの手紙です」

「おう」

「それと、魔力持ちの魔術師からの情報です。光の柱が出現したと、外では騒ぎになっているようです」


 ラーズ君の報告にトール君は、表情をしかめました。

 アッシュ君を待っていられそうにありません。

 ミラルカの警備責任者はアッシュ君です。

 早めな帰還が待たれます。


「ちっ。評議会から呼び出しだ。ラーズ、リーゼに浮島にて待機していてくれと伝えてくれ」

「わかりました」


 踵を返したラーズ君は、すぐに工房に戻りました。

 光の柱が出現してから、幾分も過ぎてはいません。

 評議会の迅速な対応に脱帽します。


「残念ながら、勇者召喚の話ではないな。これは、ジェスについてだ」


 あら。

 ひらひらと手紙を振るトール君です。


 ふみゃあ。


 ジェス君の耳が伏せます。

 大丈夫ですよ。

 トール君に任せておけば良いのです。

 悪い事は起きません。


「評議会の連中もジェスの幸運にあやかりたいらしい。腹がたつなぁ。本物なら寄越せだと」


 みゃっ。


 〔いや。セーラちゃんと一緒にいる〕


 肩にジェス君の爪が当たります。

 頬にすり寄ってきます。


「大丈夫ですよ。ジェス君は、家族です。何処にも行かせませんよ」


 落ち着かない様子のジェス君。

 身体を撫でてあげます。

 しかし、評議会も無理難題なことを言ってきます。

 トール君を怒らせてどうするのでしょう。


「セーラの言う通りだ。ジェスは家族だからな。安心してセーラに甘えていいぞ」


 にゃあおぅ。


 トール君にも撫でられて、少し落ち着きました。

 爪が引っ込みました。

 微妙に痛かったのですが、言えません。

 撫で撫でです。


「セーラ、ジェス、無事?」

「リーゼちゃん。無事ですよ」


 心配性なリーゼちゃんに抱き付かれました。

 光の柱が出現しただけで、私達には実害がありませんよ。

 本当に過保護です。


「先生。評議会、催促、手紙」

「ああ?」


 トール君。

 がらが悪いですよ。

 ジェス君が真似したらどうするのでしょう。

 ラーズ君は今でこそ丁寧な言葉を話しますが、当初は口調は悪かったのです。

 メル先生とジークさんに、矯正されました。

 トール君とアッシュ君も、口調を真似されないよう苦心していた記憶があります。

 特にトール君は、難儀していました。


「今度はあれについてだな」

「ん。そうみたい。使者、待つ」

「分かった。ちょっと行ってくるわ」

「はい。行ってらっしゃいませ」

「リーゼ。浮島に誰か近付いて来たら撃ち落としていいからな」

「了承」


 リーゼちゃんの返事に疑問があります。

 空から誰かが近付いているのですか?

 飛竜(ワイバーン)を飼い慣らしている国はどこでしたっけ。

 ロック鳥でも巣に狙われましたのでしょうか。


「兄さん、同族、使い魔、近辺、いる」


 トール君を送り出して、リーゼちゃんにお茶を出せば、教えてくれました。

 魔人族の使い魔が何用でしょう。


「魔王、神子、捜索。勇者召喚、関係、有りそう」

「魔王様がです? 神子とは正反対な存在が何の用ですかね」

「兄さん、神国、魔王領、侵攻、企む、践んでる」


 それは、初耳です。

 帝国は邪神討伐で、神国は領土権侵攻ですか。

 どちらも、実現不可能に思えます。

 魔族にも信仰する神がいます。

 魔神様は悪神ではありません。

 必要不可欠な存在です。

 人族の中にも、善人がいれば悪人もいます。

 神族にも善神がいれば悪神がいても、不思議ではありませんよね。

 神国の主神は世界神です。

 彼の神は世界をお造りになると力尽き、世界の果てで静かにお眠りになっています。

 私達の祖は世界神の子等によって、産み出されました。

 魔神様が魔族を産み出されたように、人族は光神が産み出されました。

 光神と魔神は敵対していますから、自然に産み出された子等も不仲です。

 帝国が侵攻しようとしているのなら、大義名分があります。

 神国がなんて、俄に信じられません。


「帝国、争う、より、魔族、争う、利点、ある、言ってた」

「利点? 同盟国の求心力が低迷している、とは聴きました」

「第1に、神子の確保。神国、ミラルカ、妖精姫、神子、確信。魔族だけ、富む、業腹、みたい」


 神国は神子に固執し過ぎな気がします。

 私は特にミラルカを富ませてはいないのですが。

 確かに不作は聞き及びません。

 逆に豊作でもありません。


「第2に、シルヴィータ、代わる、穀倉地帯、確保。先日、一件、以来、シルヴィータ、農耕地帯、壊滅」


 お母さまの神罰ですね。

 分かります。

 かなりのお怒り具合いでしたし、私も諌めませんでした。

 取り成しを頼まれても無駄に終わりますよ。

 私は関わらないと決めました。

 それが、こんな結果を導くとは思いもしませんでした。


「第3に、神王、重病説。近々、クロス工房、接触、有り、確実」


 重病説ですか。

 私の造る薬品目当てみたいに聴こえますが、本当の狙いは神子にあると思いますね。


「ん。兄さん、一番重要、神子、言ってた」

「帝国も神子を探してるようですしね」

「そう。どちらも、神子、掌中、したい。馬鹿ばかり」


 今日はリーゼちゃんが辛辣ですね。

 私を抱き締めて離してはくれません。


 みゃおう。


 ジェス君も擦り寄ってきます。

 私は何処にも行きませんよ。

 安心してください。

 万が一にも拐かされたら助けに来てくれる、頼もしい家族がいるではありませんか。

 絶望視はしませんよ。

 だから、顔を挙げてくださいませ。

 ジェス君もですよ。


ブックマーク登録ありがとうございます。


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