第5話
数十分後、森を抜け街道に出ました。
大地の精霊様によりますと、街の名前はトリシアというそうです。
空を見上げてみますと、やはり何らかの魔法陣が展開しています。
能力抑制の指輪をしていても、妨害系の陣だと解りました。
シルヴィータ国側は、神子が国内に転移していると確信しているのでしょうか。
それとも、別の案件によるのでしょうか。
考えていても仕方ありません。
魔法陣を詳しく解析してみます。
通信の規制と国外への無許可の転移禁止。
あれ?
もしかしたら、奥の手が使えます?
とっさに、チェーンベルトについるチェスの駒程の大きさの、チャームに手を伸ばしました。
立体的に造られたチャームは、黒と白の騎士型が2体、狐型と竜型が2体、赤い一つ眼を模した型が1体、計5体あります。
その内の狐型を外し、開いた掌の上に乗せ魔力を籠めます。
〔召喚・ラゼリオン〕
国外に転移できないのならば、国内に喚べるのではと思い付いたのです。
チャームを中心に召喚陣が展開していきます。召喚可能なら地面に相対の陣が描かれ、契約する幻獣が顕現されます。
果たして、眼前に牛並みに大きい銀毛7尾の天狐が、姿を現してくれました。
「良かった。ラーズ君……。何か怒っていませんか?」
「セーラ」
「あっ、はい」
「リーゼも喚んで下さい」
「……解りました」
安心感からふわふわの毛並みをもふろうとしましましたが、ラーズ君はあっさり10代半ばの獣人の姿に変化しました。
あぁ、もふもふがぁと心中で嘆けば、躊躇ない要求に竜型のチャームを外し召喚します。
喚ばれるのを待っていたのか、すぐに蒼穹の鱗を煌めかせた竜人のリーゼちゃんが現れました。
リーゼちゃんことリーゼロッテは、本性は幻獣種の中でも最高位に位置する竜です。
人目のない場所で召喚を試したのですが、全長数十メートルある巨体は遠くからでも目立ちます。
ラーズ君と違って、リーゼちゃんは人型での召喚をお願いしました。
リーゼちゃんも10代半ばで、二人共に冒険者風を装い、簡素なシャツとズボンに革鎧、各々愛用の武器を携えています。
ここに私を含めた3人、保護者様方命名クロス工房年少組が揃ったのです。
「セーラ、無事だった?」
「はい、怪我は一つもありません」
リーズちゃんがいつもの如く無表情で抱き付いてきます。
勘違いされる方が多いのですが、リーズちゃんは人型での感情表現が苦手なだけで、喜怒哀楽はあります。
今も眉間に皺を寄せて案じてくれています。
「無事で何よりでしたが、セーラ。もっと早く僕達に連絡取れた筈でしたよ。何故しなかったのですか」
「あれ? 」
「やっぱり、忘れてた」
「何の為の召喚契約ですか? 竜であるリーズとの血の盟約による念話は、距離や結界に影響されません」
あっ、素で忘れていました。
そうでした。リーゼちゃんと私が内包する魔力は、同種よりも桁外れで、自然回復量も尋常ではありません。
ですので、神域を除けば念話でいつでも連絡取れたのですよ。
「ごめんなさい。すっかり忘れてしまいました」
私のミスなのでしっかり謝ります。リーゼちゃんに抱き付かれたままでしたが、素直に頭を下げました。
「うん、ちゃんと謝れた。いい子、いい子」
「はい、僕達のお説教はこれで終わりです。次に、神殿で何が起きたか教えて下さい」
「そう、神子が消えたと神殿大騒ぎ」
「いいですよ。私は何ら疚しいことは、していません」
情報の共有には賛成です。
リーゼちゃんに頭を撫でられながら、これまでのことを話します。
精霊様の件で二人の顔がしかめられました。
神殿側の情報は知りませんが、粗方話終わりましたら、とても厳しい表情をされてしまいました。
「これで、跡形もなく神殿潰せる」
「同意します」
ラーズ君・リーゼちゃんの怒り具合から、神殿側がどんな説明をしたのか、解る気がしてなりません。
帝国程ではありませんが、神官の中にも種族差別はあります。
はっきりと、ハーフエルフを見下した発言をされたこともあります。
後見人様方に物理的に排除されてしまいましたが。
あの神官の方、今頃どうしていることでしょう。
思わず現実逃避したくなりました。
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