第21話
金曜投稿です。
轟々と風が唸っています。
ミラルカは季節外れの大嵐となりました。
浮島も嵐に見舞われています。
工房兼お店は臨時休業ですが、ラーズ君とリーゼちゃんはトール君に呼び出されて、工房に行かれました。
一人での外出は禁止された私は、浮島での研究三昧に没頭していました。
新薬開発には想像していた以上に難航しています。
私が開発している新薬は、魔力過多症に効果がある薬品です。
魔力過多症は、自分の魔力が溢れだし身体の内側に巡り過ぎて、制御できずに体調を崩してしまう病です。
6歳未満の魔力が発露しはじめる幼児に起きやすい症状です。
毎年少なくない人数の命が脅かされています。
私も一歩間違っていましたら、魔力過多症に苦しめられていました。
私は魔力が外側に放出しうる機能が先天的にありませんでした。
魔力の質は高くても術として効果が発揮できないのです。
魔力過多症は、適度に魔力を放出しないといけません。
私も魔力の扱いに、物に魔力を込める附与ができていませんでしたら、危うく命がありませんでした。
気付いてくださいましたメル先生には頭があがりません。
それまでは、トール君謹製の魔導具を身につけていました。
しばし寝込む事もありまして、リーゼちゃんには大変心配をかけました。
みゃあう。
集中力が切れてきました。
調薬に集中力は欠かせません。
今日は研究はお仕舞いにしましょう。
「ジェス君。遊びましょうか」
今日は朝からの嵐で薬草園の水やりはないですし、泳ぎには適していませんから、運動不足解消に付き合ってくださいな。
抱き上げましたら、するりと定位置なりました肩の上に移動します。
にゃあ~おぅ。
すりすりと頬に艶やかな毛並みが擦り付けられました。
癒されます。
が、ジェス君が家族になってからは、ラーズ君にもふもふができていません。
あれですかね。
年頃になってきましたので、兄妹同士のブラッシングは駄目になりましたか。
そろそろ、兄離れをしないといけないのですね。
少し淋しいです。
にゃあ。
私の感情を察知しましたジェス君が、更にすりすりと甘えて来てくれます。
「ありがとうございます。そうですね、ジェス君が側にいてくれますね。淋しくないでした」
調薬室を出ます。
危険な薬品もありますので鍵を掛けます。
以前はありませんでしたが、エリィさんが侵入して薬品を入れ換えられました件に対して、トール君に付けてもらいました。
エリィさんは依頼者に渋りながら納品したらしいです。
と言いますのは、今回の罰に憤っているようで、施錠していない私の方が悪いと訴えているのです。
管理不足を指摘されました。
まさか、身内に悪戯紛いの侵入をされますなんて、予期してはいませんでした。
ラーズ君やリーゼちゃんにも、鬱憤をぶつけているようです。
安全を考慮して私は浮島にて半軟禁状態な、謹慎中となってしまいました。
友人のメル先生にも、八つ当りをしているとの事です。
メル先生にしたら、良い迷惑ですね。
エリィさんの機嫌が直りましたら、メル先生には謝りに行かないといけません。
「早めの休憩か?」
浮島の屋敷のリビングには先客がいました。
にゃ~ん。
肩から重みが無くなりました。
ジェス君が、アッシュ君に向かって飛び込みました。
「おっ。今日も元気だな」
にゃあにゃあ。
そうですね。
大分睡眠で体力回復は短くなってきています。
魔力の流れも正常に戻って来てもいます。
このまま順調にいきますと、念話でお話しが可能になります。
ジェス君とのお話しが楽しみです。
「アッシュ君も休憩です?」
「おれはセーラとジェスの護衛にだな」
「サボりなんですね」
アッシュ君はミラルカの警備責任者ではありませんか。
転移魔法で不自由しないのにも、困り事です。
副主任の方に事務仕事を押し付けたに違いありません。
大体ですね。
空を飛ばない限り、浮島まで侵入してくる他者はいませんよ。
転移室は聖女さんの眼が入り込みました事後に、厳重な結界陣が敷かれました。
鍵を持たないと入室出来ない仕組みになりました。
また、他者が転移出来ないようになっています。
お茶の準備をしながら、呑気にそう思っていました。
「工房と転移室の鍵を新調したぞ」
えっ。
何事です。
唐突にアッシュ君に言われました。
転移室だけでなく、工房もですか。
何方か袂を別ちましたか。
「エリィが抜けた」
「エリィさんですか。いきなりなお話しでなんと言っていいのか、わかりません」
「セーラにとってはそうだろうな。前々から話は挙がっていたんだ。エリィはたいそう不満が満載だったらしい」
アッシュ君にはコーヒーを、ジェス君にはミルクを、私には紅茶を淹れて出しました。
工房に属していれば、衣食住は満ち足ります。
何が不満だったのでしょう。
「純粋培養なセーラには、上手く嫌味が通じないと解ると直接的な被害を遇わせようとしていたんだがな」
「嫌味ですか? 記憶にはありませんけど。えっ。私が理由なんですか?」
「理由のひとつだな。エリィ的にはトールに関する事象は全てが気に入らないようだ」
「意味が分かりません」
本気で分かりません。
アッシュ君、説明をお願いします。
苦笑ばかりしていないでください。
「ようするに。エリィはトールの伴侶になりたかったようだ。エリィより、大事にされる年少組が気に入らないんだと」
ほえー。
そうだったんですか。
だから、年々悪戯が実害を受ける様になってきていたのですね。
ラーズ君に異性云々は、私がトール君に保護者以上の感情を持たないか、牽制されたのですか。
私にとりまして、トール君は父親に等しい保護者さまです。
それ以上でも以下でもありません。
もしや、納品で我が儘言っていましたのも、トール君に構って欲しい女心でしたか。
「トールがラーズの報告で激怒していてなぁ。エリィの告白を受け入れなかった。自分の伴侶になるのだったら、年少組を大事に育てる心いきがないとだと、逆に憤りを見せて酷い喧嘩が勃発した」
トール君は、弱い者いじめが嫌いな方です。
小さな悪戯を繰り返してはトール君の歓心を求めたのかもしれませんが、逆に怒りを買う羽目に陥ってしまいましたエリィさんが哀れです。
トール君には、直球で恋心を露にしていましたら、違った結果になったはずです。
傷心なエリィさんに止めを刺しかねませんので、私が口を挟むことはないでしょう。
今一番トール君の気に掛けられていますのは私です。
新たな火種になり兼ねません。
「痴話喧嘩に巻き込むのはやめてほしかったな」
「エリィさんは、独立されるのですか」
「メルの説得にも応じない。トールが折れない限りはクロス工房には、再所属にはならないだろう」
「アッシュ君。質問に答えてないですよ」
はぐらかそうとしています?
ジェス君を撫でているばかりで、答えてくれません。
ラーズ君とリーゼちゃんの呼び出しは、この事が関わっているのでしょう。
私達の護衛と言いますのは、何事か厄介な事案に発展したからと思われます。
「まさか、私が神子だと暴露されたのですか」
「いや。その秘事は誓約の魔術で縛られているから、喋る事も字に書き出す事も出来ない。ただ、ジェスの事がバレた」
にゃっ。
ジェス君の尻尾が膨れあがりました。
アッシュ君の顔を見上げています。
「エリィは、盛大な憂さ晴らしにジェスが幸運猫だと、酒場で暴露したらしい。らしいと言うのは、工房の常連客からもたらされたからだ」
「私に関する話題は表に出せませんが、ジェス君の話題には誓約が掛かってないからですか」
「そうだろうな」
ふみゃあ。
ジェス君がアッシュ君の膝の上で丸くなってしまいました。
落ち込んでいますか。
ジェス君の責任ではありませんよ。
ああ。
何故にラーズ君は、いないのですか。
通訳がいないと、ジェス君の気持ちが分かりません。
慰めていいものなのでしょうか。
「ジェス」
にゃあ。
アッシュ君の呼び掛けに頭を挙げましたジェス君です。
再び見上げています。
横から伺える瞳には涙が滲んでいるように見えます。
「胸を張れ。ジェスは何一つ悪いことはしてないだろう。幸運猫の器は母親との絆だろう」
みぃあ、なう。
絆。
そのひと言でジェス君の身体が小さく揺れました。
涙で滲んでいた瞳が大きく見開いています。
私が聴いて良い話なのでしょうか。
ジェス君の魂は神獣で、器は幻獣です。
どちらも一度は死に直面していた形跡を視てしまいました。
なう。
アッシュ君の膝から私の膝に移り、今度は私を見上げています。
「どうしました?」
なぁ~おぅ、みぃあ。
〔セーラちゃんを守るの。約束した〕
か細い声でした。
幼子が精一杯の愛情を乗せた念話が聴こえました。
ジェス君の初お喋りです。
感動しました。
〔セーラちゃんを守るの。約束した〕
「はい、聴こえましたよ」
〔母様との約束。神子様を幸で満たすの〕
「約束ですか。ですが、ジェス君が側にいてくれますのは、私の癒しになっていますよ」
〔癒し? 幸と同じ?〕
「同じですよ。こうして、撫でさせてくれたり、ブラッシングさせてくれたり、私は嬉しいです」
どちらのお母様との約束で、私の元へと来てくださいましたのかは訪ねないでおきます。
ジェス君がお話ししたい時期にお話ししてくださいますことでしょう。
〔セーラちゃん嬉しい。ジェスも嬉しい〕
撫でてあげますと、頭を手のひらに擦り付けてきました。
いとおしく可愛いです。
ジェス君の存在が公表されてさそまいましたのなら、トール君に認識阻害の魔導具を作製してもらいましょう。
デザインは首輪に付けれるチャームタイプにしましょう。
いまは、日替わりでリボンを巻いているジェス君なのです。
男の子ですから、格好良い意匠が良いですか、悩みます。
クロス工房ね意匠も刻んで迷子札がわりになるようにしなくてはいけませんね。
「まずはこれを着けさせておいてくれ」
アッシュ君に渡されましたのはチョーカータイプな首輪でした。
中央にプレートがあるだけな武骨なデザインでした、
「トールの魔導具には及ばないが出来るだけの守護陣がを刻んである。トールの魔導具が完成するまでは外すのは厳禁だ」
〔わかったの。セーラちゃん、付けてください〕
「はい。わかりました」
チョーカーは自動調節が附与されてありました。
ちょうど良い負担を感じさせない大きさで、ジェス君の首に填まりました。
「苦しくはないですか?」
〔にゃいよ。アッシュ君の魔力の匂いがする。安心〕
誇らしげに胸を晴るジェス君、アッシュ君に撫でられてご満悦です。
それは何よりです。
エリィさんのその後も気になりますけども、ジェス君の安全も第一に考えなくてはいけなくなりました。
ミラルカの妖精姫に幸運猫。
トール君達大人組には気が休まらない案件が増えてしまいましたが、できりだけ邪魔にならないようにお手伝いはしようと思いました。
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