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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ミラルカ編
45/197

第17話

金曜投稿です。

 あはは。

 渇いた笑い声しかでてきません。

 しっかりとフラグが建ちました。

 第10階層の階層主(フロアマスター)は、大型のアラクネでした。

 はい。

 女性の上半身に蜘蛛の下半身の魔物です。

 私が嫌悪感に叫び出す前にリーゼちゃんが風を纏わせた拳で殴り、距離を取ってくれました。

 ラーズ君がすかさず背後に庇ってくれます。

 お陰さまで叫びはしませんでした。

 私も厄日みたいです。

 第5階層の階層主が主だけに、半分は覚悟していました。

 悪い意味で期待が裏切られました。


「セーラ。闘えますか」

「近付かなければ、何とか」


 ラーズ君越しに狙いをつけてみます。

 狙いは上半身の心臓付近です。

 人型の魔物とは戦闘経験がありますので、忌避感はありません。

 殺らなければ殺られます。

 四の五の言ってられません。

 狙い違わず心臓付近に矢が命中します。

 上半身の動きが多少鈍くなっただけです。

 下半身にも心臓が有るとみました。

 うう。

 どうしても、下半身に視線がいきにくいです。

 自然と狙いは上半身に集中しています。


「リーゼの加勢に行きます。セーラは離れて射撃して下さい」

「わかりました」


 幸いにも取り巻きはいません。

 リーゼちゃんが牽制してアラクネは私には近付けません。

 何とかなりますね。

 ラーズ君が双剣を抜いてアラクネに斬り掛かりました。

 リーゼちゃんが一歩引き、風魔法を展開します。

 蜘蛛脚が斬り払われていきました。

 私は上半身、ラーズ君とリーゼちゃんは下半身に絞って攻撃を加えていきます。

 喉、目、眉間と続け様に矢を射ってみました。

 上半身の動きがまた鈍くなりました。

 下半身は相変わらず蜘蛛脚を振り回しています。

 やはり下半身をどうにかしない事には討伐できそうにありませんね。


 ふしゃぁ。


 ジェス君?

 私の感情に反応して起きてしまいましたか。


「‼ セーラ。後ろ」


 リーゼちゃんの警告と同時に、ジェス君が背後に飛び出しました。

 私は振り返らずに、その場を退避するのに専念します。

 斜め方向に前転して体勢を低く保ちます。

 膝だちで先程いた場所を確認します。

 ジェス君が小型のアラクネと格闘していました。

 頭上から二匹三匹と小型のアラクネが降って湧いてきていました。

 取り巻きがいたのですね。

 そうですか。

 蜘蛛が一杯です。

 うふふ。

 あはは。


「セーラ、壊れた」

「リーゼ。戦闘中です。集中して下さい」


 そうです。

 ラーズ君とリーゼちゃんはそちらをお願いいたします。

 私は不意打ちをしようとしました小型のアラクネを、討伐しますから。


武器喚装(ウエポンチェンジ)!」


 合言葉によって私の手から弓が消え失せ、長戦斧(バルディシュ)が現れました。

 愛用の近接武器です。

 身体強化した腕力でぶんと一振りします。


「ジェス君。危ないですから、離れて下さいね」


 にゃっ。


 私の何時にない気迫にジェス君は、直ぐに小型のアラクネから退避しました。

 追撃をする小型のアラクネ。

 長戦斧を横凪ぎにしました。

 簡単に消滅していきます。

 踏ん切りがつきました。

 何時までも蜘蛛に脅えていては駄目ですよね。

 良い機会に恵まれました。

 克服とまではいかないまでも、叫び出さない度胸を身につけようではないですか。

 次々と天井から降りてきます小型のアラクネを、長戦斧で凪ぎ払います。

 みな一撃で消滅していきます。


 きしゃぁぁぁ。


 視界の端にラーズ君が双剣を大型アラクネに突き立てています。

 それが、止めとなりましたのか、大型アラクネは消滅ました。

 リーゼちゃんが私の援護に回ります。

 二人で小型のアラクネを撃破していきます。

 無心で長戦斧を振るう私。

 風魔法で駆逐するリーゼちゃん。

 ラーズ君が、ジェス君を確保してくれています。

 安心して長戦斧を振るえます。


 にゃあ。


「そうですね。本当に怒らして怖いのはセーラですよ」

「同意」


 失礼な。

 私は普通ですよ。

 一番怖いのは理詰めのトール君と実力行使のアッシュ君です。

 未だにトラウマものでした。

 一度で懲りました。

 それに比べたら、蜘蛛なんて。

 なんてことないですよ。


「これで、最後、です」


 最後の一匹を撃破しました。

 階層主の取り巻きはドロップアイテムを残しませんでした。

 少し残念です。

 アラクネの蜘蛛糸は柔軟性に優れていて需要が高いのです。

 エリィさんが欲しがる素材です。

 第10階層を越えましたら、小型のアラクネが迷宮に出現してくれないですかね。

 全身蜘蛛ではないですから、恐怖心がなくなってきていました。

 慢心はいけないですけど。


「セーラ、良く頑張った」

「壊れた発言していたではないですか。聴こえていましたよ」

「しかも、戦闘中にです」

「ジェス、お手柄」


 リーゼちゃん。

 話題を強引に変えようとしていますね。

 ラーズ君の腕からジェス君を奪い、高い高いをしています。

 それは、褒めているのでしょうか。


 ふみゃあう。


 ジェス君はされるがままです。

 たとえ、爪をたてて抵抗しても無駄なのを悟っていますね。

 大型のアラクネに気を取られ、頭上の注意を怠りました。

 イリュージョンバットに、小型のアラクネ。

 つくづく、頭上の索敵を蔑ろにしがちです。

 反省会は帰宅したらやりましょう。

 さて、大型のアラクネが残しましたアイテムはなんでしょう。

 恐る恐るドロップアイテムを鑑定します。

 おおう。

 エリィさんが喜ぶ糸の塊です。

 極上糸ですね。


「エリィさんに反省を促す良いアイテムが出てきましたね」

「ラーズに同意。悪戯は悪い」

「私も同感です」


 ラーズ君は忌避剤の一件根に持っています。

 リーゼちゃんが同意するのは、酷い目にあったラーズ君(お兄ちゃん)を思いあっての事でしょう。

 エリィさんの悪戯は感情の希薄なリーゼちゃんには効果がありません。

 その分ラーズ君や私が、被害に遭います。

 しかし、見ているだけのリーゼちゃんではありません。

 いつ堪忍袋の緒が切れて感情が爆発しエリィさんを敵対者だと判断されないか、私とラーズ君はハラハラし通しです。

 エリィさんも、命懸けの悪戯はしてこないと限りません。

 この際ですから、徹底抗戦しましょう。


 にゃあ。


「セーラ。鉱脈発見です」

「本当です。今回はどんな鉱石が採掘できるでしょうか」


 決意を新たにした私達に、ジェス君がキラキラした壁面を発見しました。

 どうせなら、薬草とか欲しかったです。

 迷宮と洞窟では環境が違いますから、期待はしないですけど。

 まずは、採掘技能がないラーズ君から始めてみます。


翠玉(エメラルド)の鉱石が出ました。後は銀鉱石ですね」

「前回よりかは向上してますね」

「ん。セーラのが楽しみ」


 リーゼちゃんが鶴嘴片手に採掘場に向かいます。

 ジェス君が肩に乗り鉱脈を好奇心旺盛に見つめています。

 私は前回超硬石(アダマンタイト)金剛石(ダイヤモンド)が出ました。

 それを上回る鉱石とは、一体どんな鉱石でしょう。

 また、虹色魔晶石ですかね。


「よっと。ほい」


 軽いノリで鶴嘴を振るうリーゼちゃんです。

 採掘されたのは魔法金(オリハルコン)精霊銀(ミスリル)です。

 続いて出ましたのも、同じ鉱石でした。

 最後に虹色魔晶石が数個出ました。


「バトンタッチ」

「はい。頑張ります」


 ジェス君をお願いしますね。

 採掘中は破片が当たるかも知れないですから。

 リーゼちゃんとおとなしく見ていて下さいね。


「よいしょっ」


 愛用の鶴嘴を振り下ろしました。

 一度に数個の鉱石が足下におちます。

 続いても同様に数個の鉱石が出ました。

 都合6回まで採掘できました。


「凄いですね。僕は鑑定できません」

「ん。虹色魔晶石だけで8個ある。後は魔法金と超硬石」


 前回と同じ鉱石が出ました。

 真新しい収穫はなさそうですか。


「セーラ。ヤバい鉱石がある」

「どれですか」

「これ、一部鑑定出来ない」


 リーゼちゃんに手渡された鉱石は赤味を帯びていました。

 どれどれ。

 リーゼちゃんが鑑定出来ないとは、一体どんな鉱石でしょう。

 鍛冶担当なリーゼちゃんは鉱石は詳しいです。

 どれだけヤバい鉱石ですか。

 視て観ましょう。


 ▽ 賢者の石


 錬金触媒。

 自然界には発生しない鉱石。


 はい⁉

 何て事が起きました。

 錬金術で作製できる鉱石が出て参りました。

 迷宮はある意味人工物です。

 自然界にない物質が出現してもおかしくありません。

 ありませんが、何てモノが出て来るのですか。


「ラーズ君、リーゼちゃん。これはヤバい鉱石です。アマリアさんにも、言えない鉱石です」

「ん。外に出せない」


 一部は鑑定できたリーゼちゃんが同意してくれました。

 冒険者ギルド長のイザベラさんに話して良い案件です。

 採掘能力が高いか、私みたいに大地の精霊王の加護持ちが大挙して迷宮攻略に訪れ兼ねません。

 下手をしたら一攫千金を狙いまして、自分の実力に相当しない階層に挑戦して命懸けになるかもです。

 状態異常耐性が高く幻獣種の二人が居てさえ、索敵能力を掻い潜る魔物に出合いました。

 悪意に敏感なジェス君がいませんでしたら、危ない目にあいました事でしょう。


「? 何が採掘できたのですか?」

「大きい声では言えませんが、賢者の石です」

「はあ? その石は自然界にはないでしょう。何故に採掘できたのですか」


 やっぱり、驚きますよね。

 採掘した当人でも信じられません。

 自然界にない鉱石が採掘できる迷宮。

 そんな謳い文句が浮かびました。


「それが事実ならミラルカに衆目が集り、警備態勢が手に追えなくなりますね」

「はい。私の称号が関係しているかもしれませんが、大地の精霊の加護持ちが騙されて連れて来ないと良いです」

「……僕なら、採掘できるかわからない加護持ちに頼るより、確実に採掘できるセーラを狙います」


 ああ。

 その例もありましたね。

 第5階層を制覇した他の冒険者パーティが、どんな鉱石を採掘できましたか、情報収集をしないといけないですね。

 アマリアさんには看破されそうですので、トール君と相談してイザベラさんに報告しましょう。


「セーラ、狙われる?」

「例え話ですが、事が知れたらそうなる可能性が高いですね。シルヴィータの輩にも狙われ、冒険者にも狙われる。また、暫くは独りでは外出禁止です」

「それは、構いません」


 常にリーゼちゃんやラーズ君が、側にいて下さいますのは当たり前です。

 私も異論はありません。

 独りの時間が欲しければ、そう告げれば良いのです。

 話せば分かってくれます。

 私の安全の為にラーズ君とリーゼちゃんの自由が奪われるのはあり得ません。

 工房にはトール君とアッシュ君が施した結界があります。

 押込み強盗は排除されますので安全面は大丈夫です。

 シルヴィータの王族さんの息が掛かった使者が私を捜しています。

 諦める気配はないみたいです。

 どちらにしても、私には迷惑極まりないです。

 また、浮島で研究三昧が待ってると思いましょう。

 方針が決まりましたら、迷宮を出まして出張所のアリシアさんに報告して帰ります。

 そろそろ、冒険者ギルドの依頼をこなさないとペナルティが課せられそうですね。

 帰宅しましたらラーズ君に要相談しましょう。

 指命依頼が溜まっていそうです。

 迷宮の依頼があると良いのですが。

 こればかりは、運任せです。




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