第16話
第8階層に降り立ちました。
どうやら、後続は第7階層に到着して休憩を挟むようです。
ラーズ君が会話を拾いました。
先頭を歩くラーズ君が、安全確認の為に転がした投槍を回収しました。
手渡せられまして無限収納に収納します。
ジェス君は熟睡しています。
「前方左から足音がしています。戦闘準備してください」
「後方からも接敵」
挟撃ですね。
慌ててはいけません。
こうした場合は壁を背にして迎え撃ちにします。
前方からは迷宮狼。
後方からは大型蝙蝠の群れに襲われます。
ラーズ君の双剣が牙を剥いて飛び掛かる狼を一閃二閃しました。
ぎゃん。
隙を伺い飛び掛かかろうとした狼の眉間目掛けて矢を射ます。
乱戦になりますと弓では不利ですね。
リーゼちゃんが風魔法で蝙蝠の群れを撹乱しています。
きぃきぃと、耳障りな悲鳴をあげています。
ジェス君が、起きてしまうではないですか。
むぅ。
接近専用の武器に持ちかえましょうか。
ラーズ君は流れるような剣捌きで狼を駆逐していっています。
リーゼちゃんは拳に風を纏わせて縦横無尽に舞っています。
これは、私の出番は無さそうです。
数分と経たずに群れは殲滅できました。
ドロップアイテムを回収して先を目指します。
リーゼちゃんの風魔法で、下に降ります階段の位置は大まかに判明しています。
迷子にならなくて良いです。
少し物足りないですかね。
いえ、緊張感は忘れてはいないですよ。
油断は大敵ですから。
私達の目的は第10階層の階層主の討伐ですから、地図は最低限の道順のみ記載していきます。
襲いかかる魔物を撃退していきながら、階段を目指します。
「階段を発見しました。他者と魔物の気配はありません」
「同意」
「また、投槍を転がしてみましょうか」
「いえ、リーゼの風魔法で一掃して貰います」
「了解【乱気流】」
リーゼちゃんの風魔法が階段下に展開していきます。
気圧の変化に伴いまして甲高い大きな音が迷宮の狭い空間内で反響しています。
リーゼちゃん。
何故にその魔法を選びました。
ジェス君が起きてしまうではないですか。
恐る恐るポーチの中を覗いてみます。
良かった。
ジェス君は熟睡しています。
トール君に防音の術式を頼みましたのが、功を奏しました。
「リーゼ」
「リーゼちゃん。ちょっと威力が高めです」
あまりにもな反響音に耳を押さえて、苦悶な表情を浮かべるラーズ君です。
私も耳鳴りが酷いです。
これは、因果応報です。
ラーズ君とジェス君に対して申し訳ないと、改めて思いました。
ちょっと涙目です。
「一掃。手っ取り早い」
「そうですが。せめて合図なり欲しかったです。先程はセーラに鼻を駄目にされ、今度はリーゼに耳を駄目にされました。僕の本日の運勢は最悪です」
ラーズ君が嘆きます。
ああ。
一端を担っていますから、追従はできません。
本日は厄日なのだと、思ってくださいませ。
「先頭替わる?」
「お願いできるなら、そうしてください。僕の耳はしばらく使い物になりません」
「ん。了解」
リーゼちゃんを先頭に替えて階段を降りていきます。
索敵能力が低い私には先頭を替われません。
固有技能を使用してしまいますと、身動きが制限されているからです。
手を引いて貰いませんと歩く事も困難です。
隙を突いて魔物に襲撃されましたら、一貫の終わりですね。
勿論、ラーズ君とリーゼちゃんが赦す訳がありません。
「ドロップアイテム。散乱してる」
「リーゼちゃんの風魔法で撃退できたのですね」
「随分と多いですね。待ち伏せされていましたか」
「そうみたいです」
魔石とアイテムがところ狭しと転がっています。
回収していいのですよね。
「魔物の気配薄い」
「自信はありませんが、こちらに近付く魔物はいません」
「二人は警戒していてください。回収は私が行います」
回収位やらないと、寄生しているみたいです。
実際ラーズ君とリーゼちゃんを頼りにしていますから、揶揄されても仕方がないのですが。
気分の持ちようです。
さっさと回収していきます。
状態異常持ちな魔物が多いですので、坑耐性薬や耐性上昇の装備品があります。
装備は一新したばかりですから、お店で販売してしまいましょう。
二人も異論はなさそうです。
「お待たせしました。先を目指しましょう」
「ん。魔物の気配は薄いまま」
「リーゼの魔法の威力が強すぎた結果ですね」
「ドロップアイテム沢山有りましたし、リーゼちゃんに恐れをなしてでしょうか」
迷宮の魔物に知性があるとは思えませんけど。
体制を整えて第9階層攻略です。
本当に静かなモノです。
私達の規則正しい息遣いや足音がわかります。
「魔物襲って来ませんね」
「無駄な体力を記消費しなくて良いですよ」
「階段前に魔物集結してる」
「魔物使いでもいましたか」
「魔物、密集して判りづらい」
密集ですか。
また、待ち伏せしているのでしょう。
やはり、知性が有る魔物がいるとみていいですね。
第10階層の階層主戦前に、戦闘が待ち構えていそうです。
まあ、ラーズ君とリーゼちゃんが張りきりますと、あっという間に終了してしまいます。
私の仕事は牽制か間引きに徹しようと思います。
それとも、近接武器に替えて闘いましょうか。
うーむ。
悩み処です。
私には、弓矢以外に鍛練しています武器があります。
接敵されても大丈夫なように、アッシュ君に訓練されています。
ですが、迷宮の狭い空間では少々扱いが難しいです。
「どうかしましたか?」
「いえ。武器を替えた方が役にたつかなぁ、と思っただけです」
「弓は鏃を替えて使えば良いと思います。迷宮内では、セーラの武器だと相性が悪いです」
鏃を替える。
そうですね。
貫通用の堅固な鏃なら、同時に撃破できるかもしれません。
そうしましょう。
足を止める事なく矢を取り替えます。
「後少しで階段に着く」
「了解しました」
「判りました。背後は任せて良いです」
「ん。先制する。【鎌鼬】」
リーゼちゃんの風魔法で魔物の首が胴体とおさらばしていきます。
私も負けていられません。
階段前に密集します魔物の群れが視界に入りました。
狙いをつけて斜線上の魔物を一射で撃破します。
肉体強化をして射る矢は狙い違わず、二体三体同時にドロップアイテムを落として消滅していきます。
想像していたより、魔物が集っています。
襲って来る訳でもなく、何かを守っています?
知性がある魔物の姿が見えません。
「中央、発光飛翔体有り」
リーゼちゃんの指摘に気付かされました。
一際盛り上がっている場所があります。
試しに矢を射ます。
カン。
弾かれました。
貫通の鏃では歯が立たないですね。
もしや、物理無効ですか。
「セーラ、背後は任せました。リーゼ、強力技行きますよ」
「はい」
「了承」
ラーズ君の指示に従います。
位置を入れ換え背後を警戒します。
新たな魔物は姿を見せません。
「「【炎の竜巻】」」
以前にも使用した技です。
魔物の姿が炎を纏った竜巻に呑み込まれていきます。
前回より魔力を込めていますね。
熱気が私にまで届きます。
リーゼちゃんが風の流れを制御していなければ、窒息していますね。
身内で良かったです。
兄妹喧嘩に魔法は厳禁ですけども、怒らせないようにしないといけません。
「むぅ」
「耐えきりましたか。セーラ、矢を射てください」
「判りました」
再び位置を入れ換えて、矢を射ます。
今度は命中しました。
硝子が割れる音がしまして、発光飛翔体は地に落ちました。
狙いをつけている間に鑑定をしましたが、名称は知性の核と言うそうです。
迷宮の核の同種ですね。
珍しく魔素に分解されません。
ドロップアイテムの中に埋もれています。
回収して良い物なのでしょうか。
「なに、あれ?」
「鑑定結果は、知性の核と出ていますね。迷宮の核の下位種です」
「拾って良い物なのですか?」
「動力は破壊されていますから、動きはしないと思われます」
「では、トール先生のお土産としますか。索敵は任せてください」
「魔物一掃した。気配無し」
「鑑定は後回しで回収していきますね」
「お願いします」
簡易な鑑定はして、分類はしていきます。
またもや、ドロップアイテムの山です。
どれだけ、魔物を集めていたのでしょう。
分類だけでもかなりの時間を費やしました。
戦闘するより回収時間の方が長いですね。
これも、二人のお蔭様です。
んん?
牙や爪に魔石。
わずかながら鉱石も混じっていました。
望月の迷宮という名称ですから、月に関する装備品やアイテムが出現してくるかと思いきや、この迷宮は鉱石が出易いです。
私の称号が関係していて、階層主を倒せばまた採掘の場所が出現して来そうですね。
「お疲れ様です。一息ついてください」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
粗方アイテムを回収していきませば、ラーズ君から水筒が渡されました。
安全地帯の階段に腰掛けて、休憩を取ります。
冷たいお茶が美味しいです。
いよいよ、第10階層に到着します。
5階層が苦手な昆虫でした。
出ない事を豊穣のお母さまに祈りたいです。
お母さま。
お願い致します。
どうか、蜘蛛だけは出さないでください。
こうしますと、フラグが建ちそうです。
「ようやく、鼻と耳の調子が戻りました。先陣は僕とリーゼで、後衛はセーラに任せます」
「了承」
「はい」
いつもの布陣です。
後衛と支援は任せてください。
そして、いつかは近接武器で先陣を任されてみたいです。
過保護なラーズ君の指示に不満はないですが、細やかな望みがあります。
もう少し時が重ねたら、過保護はなくなりますかね。
うーむ。
私の中でラーズ君は、過保護なお兄ちゃんです。
リーゼちゃんも、同じ過保護なお姉ちゃんです。
過保護ではない二人が思い付きません。
考えが纏りません。
「では、行きますよ」
いけません。
思案している場合ではありませんでした。
第10階層に到着していたのでした。
階層主が待っています。
気合いを入れ直しです。
さあ、どんな階層主が出現するでしょうか。
絶対に蜘蛛だけは嫌ですよ。
ブックマーク登録ありがとうございます。
9月からは月、金投稿です。
よろしくお願いいたします。




