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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ミラルカ編
43/197

第15話

金曜投稿です。



「全く、酷い目に遭いました」


 うう。

 辛辣なラーズ君の言葉が突き刺さります。


 ふみゃあ。


 犠牲者仲間のジェス君も同意らしいです。

 ラーズ君にべったりと張り付いています。

 魔物の気配がない第7階層に急遽作りました休憩所にて、何度も水を被って唐辛子粉末を洗い流したラーズ君にジェス君。

 是非ブラッシングをさせてください。

 と、言えない雰囲気です。


「よしよし」

「リーゼちゃん。ラーズ君が許してくれません」


 私が仕出かしたのですから、甘んじて受け入れます。

 リーゼちゃんに慰められています。

 携帯用コンロに掛けられました小さめなケトルが湯気を吹き出しています。

 リーゼちゃん。

 お茶の準備はお願いいたします。

 傷心中の私は手だししないでおきます。

 私は項垂れていますから。


「どうしたら、忌避剤に唐辛子粉末を淹れようとしたんですか」

「何ででしょうか。しいて言えば思いつきですね」

「思いつきで僕とジェスはあんな目に遭ったのですか」

「うう。ごめんなさい」


 本当にたいした理由はなかったのです。

 こうしたら獣型の魔物は撃退できるかな、と思ったのです。

 私には必要がない商品でも需要があるかもしれません。

 などと思った私に言いたいです。

 最初の被害に遭ったのは身内では、ありませんか。

 レシピ登録しなくて良かったです。

 まさか、忌避剤とスパイスを容れた瓶が似ていたなんて。

 口が裂けても言えません。


「はい。お茶」

「ありがとうございます」

「ラーズとジェスは白湯」

「その方が助かります」


 にゃっ。


 刺激物は厳禁ですね。

 きっと臭覚がまだ完全には戻ってはいないようです。

 猫舌のジェス君には適温に冷ましてあります。


「まさか、迷宮の初ダメージがセーラに依ってだとは思いませんでした」


 まだ言いますか。

 根に持たれてしまいました。

 これは、暫くは言われ続けられますね。


「あの時は、最善の策だと思いましたのです」

「確かに、結果的には効果がありました」


 そうですよ。

 階段に偽装したミミックを退治できました。

 ラーズ君とジェス君には大変辛い結果になってしまいましたけど。


「ですが、一言あって然るべきでしたよ。リーゼの風魔法で僕らに被害がなくできました」

「はい。軽率でした。反省をしています」


 落ち着いて考えてみましたら、以前に私達に誘発剤を投げ入れて冒険者ギルドを追放されました猫族のティナさんと同じ事をしたのですよね。

 彼女と違いますのは、第三者がいないのを確認してから投げ入れた事にあります。

 しかも、相手は魔物にです。

 規約に反していませんから罰則は受けません。


「風魔法展開してた」


 あら。

 そうでしたか。

 リーゼちゃんの爆弾発言にラーズ君の獣耳が伏せられ、尻尾の毛並みが逆立ちました。

 私が思った以上に威力がありすぎましたか。

 小型ポーチから、唐辛子粉末入りの忌避剤をとりだします。

 ラーズ君とジェス君の身体が跳ねました。

 投げませんから。

 鑑定するだけです。


 ▽ 動物忌避剤


 唐辛子粉末入りの動物忌避剤。

 元から危険物質な上に手が加えられた為魔物にも有効。 



 はて?

 何が危険物質ですか。

 只の動物避けの忌避剤でしたはずです。

 私は何を作製したのでしょう。

 これは素材解析をするべきですね。


「セーラ⁉」


 みやっ⁉


 瓶の蓋を開けて確認して視ます。

 確かに刺激的な臭いがしますね。

 ラーズ君とジェス君が鼻を押さえています。

 早く鑑定してしまいましょう。

 鑑定結果は普通の素材に、唐辛子粉末に、激辛スパイスに……。

 んん?

 激辛スパイスですと。

 唐辛子粉末だけでも充分な辛さですのに、更にとどめのスパイス混入でした。

 あれれ?

 疑問符が飛び交います。


「どうしました?」


 淹れた覚えがありません。

 これは、私が作製した忌避剤ではないではありませんか。

 瓶が似ていますが内容物は違います。

 もしや、作製者は。

 小型ポーチをあさってみます。

 かさかさした紙切れが瓶の間に挟まっていました。

 なになに。


「ヤられました。エリィさんに悪戯されました」

「はぁ? どういう事ですか?」

「どうぞ」


 紙切れをラーズ君に渡します。

 紙切れには、痴漢撃退(身内にもご注意)と達筆な字で書かれていました。

 あれですか。

 ラーズ君が恋愛対象では云々の続きですか。

 完全に愉快犯ですね。

 そう言えば、昨日調薬室にて何か作業していましたね。

 その結果がこの忌避剤です。


「痴漢? 身内に注意ときましたら、僕が対象です?」

「多分ですが、この間ラーズ君に異性として意識してないのか、と問われたのです」

「異性? ラーズは雄なのに、変」

「この場合は(つがい)と言った意味合いですね」

「? セーラは妖精種、ラーズは幻獣種。種が違う」


 リーゼちゃんには、荷が重い話題ですね。

 特に、恋愛関連はですね。

 竜種は固体数がかなり激減していますから、リーゼちゃんのお婿さん選びは難攻することでしょう。

 激減とは、名声を求めた野心溢れる人族に討伐されているからです。

 いまは、竜種が棲息する地域は公にされていません。

 ジークさんも、詳しくは語ってはくれません。

 若い固体は片手の数に等しいそうです。


「要するにエリィさんは、いつもの悪戯でセーラの小型ポーチに紛れ込ませたと考えていいです」

「わかった。なら、納得」


 エリィさんの悪戯で通用してしまうのが、なんとも言えません。

 裁縫の製作が煮詰まりますと、何かしら悪戯をして鬱憤を晴らそうとするのです。

 専ら、被害に遭うのは年少組の私達です。

 命に関わらない酷い悪戯は、仕掛けて来ないのが救いです。

 ですが、今回はトール君にではなく、アッシュ君に報告して叱られて貰おうと決心しました。

 前回はポーション類を只の水に入れ換えてくださいました。

 無論、中身は棄てられたのです。

 手間暇掛けて栽培した薬草から作製したポーションを、悪戯目的で廃棄されたのです。

 怒らない訳がありません。

 私のお小言は右から左へと聞き流したエリィさんです。

 浮島へは、出入り禁止と提案させていただきます。


「そうですか、エリィさんの悪戯ですか。分かりました。セーラの謝罪は合図なしに投げ入れた事に対してだけです。危険物を作製したエリィさんには、それ相応な罰を受けて貰います」

「はい。私も小型ポーチの監理が行き届かなかったのを、反省します。そして、浮島出禁を言い渡したいと思います」

「ああ、それは良い案です。また、危険物を作製されるのは後免です。トール先生のお小言は、頭からきれいさっぱりなかった事にされているようですから。頭が上がらない兄さんに叱られてみればいいのです」


 そうです。

 一度徹底的に怒られれば良いのです。

 そうしましたら、視に染みて悪戯が無くなると思います。


 なぁ~う。


 話の通じないジェス君が頭を捻ります。


「セーラが投げ入れた危険物質を作製したのは、セーラではなくて別の人物だと判明したのですよ。ほら、セーラにブラッシングされて貰うと良いですよ」


 にゃっ。


 ラーズ君がジェス君を私の膝に乗せてくれます。

 手にしていました危険物は、元通り蓋を締めて無限収納にまとめて仕舞いました。

 リーゼちゃんが風魔法で周囲の空気を入れ換えてくださいました。

 不安げに見上げてくるジェス君です。


 ふみゃあ。


「安心してください。あの危険物は、もう、ありませんよ」


 撫でさせてくれましたが、身体が強張っています。

 ラーズ君と水を被りましたので、当たり前ですが身体が濡れています。

 ブラッシングの前に乾かしましょうね。

 乾いたタオルで拭いていきます。

 濡れた髪を乾かすドライヤーと言う名の魔導具がありますが、ジェス君は温風が苦手みたいです。

 みゃあみゃあ鳴いて隅に隠れてしまいました。

 ですので、安全に不安がある迷宮では使用できません。

 地道にタオルで乾かします。

 リーゼちゃんが気を利かして、回りの空気を暖めてくれています。

 ありがとうございます。

 拭き拭きしますと、湿り気は無くなってきました。

 では、次にブラッシングです。

 嫌がらない程度に力加減に注意してブラシを掛けていきます。


 にゃあう。


 心地好いのか、眼を瞑り寝息が聴こえてきました。

 取り外していましたジェス君用ポーチに、起こさない様慎重に入れてあげます。

 仔猫は一日の大半を寝て過ごします。

 ジェス君も例に漏れず睡眠時間は長いです。


「眠りましたか。ジェスは今日も大活躍でしたね」

「そうですね。索敵能力が特に高い訳でもありませんのに、少し不思議です」

「多分、悪意に反応してる」

「悪意ですか?」

「ん。セーラに悪意ある他人を近付くのが嫌がる」


 感情の機微に鋭い幸運猫(フオーチュンキャット)なだけに、悪意に反応してるのですね。

 こんなに小さな身体で守ってくださるのでね。

 感謝の念しかありませんよ。

 もしや、工房が再開した日も警戒して気疲れしていましたか。

 睡眠を邪魔しないよう気をつけて、撫でてあげました。


「セーラ、複数の足音がしています。ジェスを隠してください」


 ラーズ君の警告に取り外していたポーチをつけます。

 ティナさんの一件がありましたから、一応警戒しておいて損はないです。

 ポーチには鑑定阻害の術式が、刺繍してあります。

 内容は解らない仕組みになっています。

 希少な幻獣種なジェス君を守らなくてはなりません。

 まぁ、足音の主が敵対するとは限りませんが。

 迷宮を攻略しに来ました冒険者パーティだと思われます。

 私達も休憩を終えて攻略を再開しましょう。

 携帯用コンロとケトル。

 簡易椅子を仕舞いまして、準備万端です。

 ラーズ君の臭覚も大分本調子になってきました模様ですね。

 では、第8階層に向かいましょう。


ブックマーク登録ありがとうございます。


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