第14話
水曜投稿です。
とん。
軽い音がしまして、イリュージョンバットの羽根に矢が命中しました。
続きの二射目は反対側の羽根を居抜きました。
羽ばたきが出来なくなったイリュージョンバットが堕ちてきました。
すかさずにラーズ君の双剣が一閃します。
イリュージョンバットの悲鳴があがり、消滅しました。
はい。
私達クロス工房年少組は、迷宮にて新装備の御披露目兼馴らし作業をしています。
お店はトール君とアッシュ君にメル先生が売り子をやるそうです。
大丈夫ですかね。
快く送り出されましたが、ちょっと不安です。
それは、さておき。
トール君の新たな状態異常耐性装備は順調にイリュージョンバットを、発見次第に惑わされる事なく駆逐できています。
ラーズ君とリーゼちゃんは耳に沿う形のイヤリングで、私は髪飾り型です。
以前の蝶を象りました髪飾りを土台に、聖女さん対策の水耐性を上げる色とりどりな真珠が装飾されています。
可愛いです。
とても気に入りました。
そして、愛用の武器も魔改造されました。
弓の威力はあがりましたが、身体強化をしなくては引けなくなりましたよ。
トール君。
問題発生です。
「むう。少し使いづらくなりました?」
「そうですね。少々重くなりました」
「でも、身体強化をすれば重さは気になりませんね」
「慣れてしまえば気にならなくなりますか」
「つぎ、敵発見」
索敵しながらドロップアイテムを拾います。
今回は指輪です。
魔物が近付いてきていますから、鑑定は後まわしです。
私達は第6階層にいます。
イリュージョンバットの幻惑に対抗できませば、階層攻略は捗ります。
現に私達の他にも数パーティが第5階層を攻略したのです。
鋭敏な耳を澄ましてみますと、微かに剣戟の音が聴こえてきます。
「セーラ。上から接敵する」
「はい。分かりました」
リーゼちゃんの警告に上下を警戒します。
ここで、上だけを気にしてしまうのは悪手です。
暗がりの中から先頭を歩くラーズ君に向かう魔物と同じタイミングで、上から魔物が降ってきました。
事前に警告されていますので、慌てませんよ。
弓は精霊銀で作られています。
背に辺る金属部分で強打しました。
ラーズ君も難なく斬り払っています。
「6階層の魔物弱すぎ」
出番のなかったリーゼちゃんがぼやきます。
風魔法を待機していましたのを、散らします。
油断大敵は、前回の教訓です。
しかし、本性が竜なリーゼちゃんには余裕綽々でいてもらわないと、困ります。
リーゼちゃんに対抗出来ます魔物のランクはSS級です。
私には退治できません。
足手まといになりますよ。
「確かに、これでは手応えがありませんね。サクサク進みましょう。今日中には、第10階層の階層主を倒してみたいです」
ラーズ君も物足りなさを感じているようですね。
やるきが満ち溢れています。
それにしましても、第10階層ときました。
まだ、他のパーティも第7階層の攻略が進み始めたばかりですよ。
「それは、早過ぎではありませんか」
「そうですか? リーゼの鬱憤が貯まらない程度の魔物には、登場して欲しいのですが」
「ん。新装備、試したい」
「まあ、それは分かります」
にゃあ。
今日は新装備の試しですから、リーゼちゃんだけ活躍がないのはいただけないですね。
ジェス君用のポーチも改良されて重量が気にはならなくなりましたし、食糧やポーションの備蓄は充分です。
最悪、迷宮にてのお泊まりグッズも無限収納に、常備してあります。
狙ってみましょうか。
では、地図作りは一端止めまして、地下に降りる階段に向かいましょう。
「階段、右折した先」
「分かりました。階層主を目指しましょう」
「では、何時もの布陣で行きますよ」
「了承。殿、任せる」
先頭をラーズ君、中衛が私、後衛がリーゼちゃんです。
たまに、ラーズ君とリーゼちゃんが入れ替わります。
にゃっ。
ああ。
ジェス君も中衛ですね。
忘れてはいませんよ。
大分回復してきましたジェス君も重力操作で参戦してくれています。
助けられています。
ですが、無茶は駄目ですからね。
続け様な魔法は厳禁ですよ。
適度な休憩を挟んでくださいね。
「階段を降りますよ」
「はい」
「ん」
さて、第7階層には、どの様な魔物がいるのでしょう。
うう。
苦手な昆虫さえ出てこなければ幸いです。
「魔物の気配がありません」
「ん。他に人いない」
「安全地帯でしょうか」
意気揚々とは言えませんか、降り立ちました第7階層には魔物と一切出会いませんでした。
そうしまして、目の前には第8階層に続く階段があります。
拍子抜けです。
が、
ふしゃああ。
ジェス君が、階段を警戒しています。
ポーチの中から出て、私の肩に這い上がってきました。
威嚇の声は上がり続けています。
「幻惑には、掛かってはいません。けど、ジェスは階段を警戒したままですね」
「んん? 何か変」
「リーゼちゃんは魔物の気配を感じます? 私は何だか胸騒ぎがしてきました。なので、こうします」
えい。
階段に向かって特製の唐辛子粉末たっぷりのスパイス瓶を投げ入れてみました。
リーゼちゃんが人の気配がいないと教えてくれたからの、所業です。
果たして、ごふっと呼気が階段からあがりました。
唐辛子粉末が吹き上がります。
「なっ。何を投げ入れたんですか」
ふみゃあぅ。
あれ?
ラーズ君とジェス君の鼻にダメージが入ってしまいました。
そんなに量はなかったはずです。
肩の上のジェス君が滑り落ちていきます。
慌てて抱き止めました。
みゃぁぁ。
ジェス君は鼻と目を前足で掻いています。
弱々しく鳴いています。
あれ?
私、間違えましたか。
ポーションを入れていた小型ポーチを確認してみます。
「あっ。ごめんなさい。間違えました」
「一体、何をしたらこんな臭いになるんです?」
「臭い? ほんとだ」
「ごめんなさい。唐辛子入りの動物避けの忌避剤です」
くしゅん、くしゅん。
ラーズ君とジェス君がくしゃみを連発しています。
臭覚が鋭い二人には辛いですよね。
退避しないといけません。
その前に階段に偽装した魔物を退治しなくてはなりません。
この際です。
帝国領の薬草で作りました試験前の薬品の効果を試してみましょう。
ぽい、ぽいっと。
「セーラ⁉ 今度は何を⁉」
「ええと。新薬の効果実験です」
にゃあぁう。
大丈夫ですよ。
今回のは臭いがきつくありませんから。
そんな涙目で見上げないでください。
なけなしの良心が痛みます。
「あっ。化けの皮剥がれた」
薬品を投げ入れるのに夢中になってしまいました。
魔物の全容があきらかになりました。
ミミックですね。
迷宮の床の上で悶え苦しんでいます。
成人男性を丸呑みできるほどの大きな口から舌が暴れ始めました。
ひょっとしたら、やり過ぎました?
第7階層が安全地帯だとは限りません。
上り階段に退避です。
「リーゼ。すみませんが水をください」
「了承」
「ジェス君。お口を開けてください」
あーん。
と、ジェス君の開いたお口に清涼感が広がる水を数敵垂らします。
ラーズ君は、頭から水を被っています。
そんなに強烈でしたか。
忌避剤は販売を自粛しましょう。
臭覚が優れた獣人の方に対して危険な薬品となってしまいました。
ラーズ君とジェス君が身を以て体感してしまいました。
ごめんなさい。
何度でも謝ります。
きちんと確認せずに投げ入れてしまいました私の失敗です。
くしゅん。
ジェス君愛用の小皿に水を注ぎます。
相変わらずくしゃみを連発しています。
ジェス君も鼻先を水に浸しています。
「ごめんなさい。私が間違えてしまいました」
「わざとではないのですから、そんなに恐縮しないでください」
「ん。よしよし」
「ジェス君もごめんなさい。臭いが辛いですか?」
ぶみゃあぅ。
撫でてあげたいのですが、力ない鳴き声に触るのを躊躇います。
どうしてあげたら良いのでしょう。
忌避剤の中和剤はありますけど、使用して良いのやら。
行き場のない感情が怒りとなり、沸き上がってきます。
「リーゼちゃん。魔物の気配はありますか」
「ない」
即答ありがとうございます。
なれば、暴れて発散させるだけです。
「セーラ⁉ 危ないですよ」
ミミックは盛大に暴れています。
危険は承知です。
むしろ、危険でない魔物討伐はありません。
対岩竜用の太い矢を番えます。
身体強化を最大限に引き出します。
狙いは暴れている舌です。
動き回る舌が天井付近に来たのを見計らい矢を射ます。
ガン。
舌を天井に縫い付ける事に成功しました。
無限収納から、投槍を数本とりだします。
弓を仕舞い投槍を力一杯、ミミックの本体に投げつけてやりました。
舌を固定されたミミックは、哀れな針鼠と化しました。
喉が焼けましたのかくぐもった悲鳴をあげて、ミミックは動きを止めてドロップアイテムを落として消滅します。
ふん。
危なげなく勝ちました。
「セーラ。遣り過ぎですよ」
ミミックの消滅と共に忌避剤の効果がなくなりましたのか、ラーズ君が復活しました。
まだ少し眼が赤いですよ。
先頭にいましたから、唐辛子入りの粉末を浴びてしまったようです。
「リーゼ。風の流れはどちらにむいてますか」
「ん。あっち」
「……」
リーゼちゃんが指したのはミミックが擬態していた場所です。
ラーズ君が沈黙して私を見ます。
先程の所業を思い出していますか?
もう、しませんよ。
ミミックのドロップアイテムを回収するついでに、階段を覗いてみました。
胸騒ぎは収まっています。
試しにと、投げ残した投槍を転がしてみました。
軽快に転がる音が聴こえてきます。
暫くして音が途絶えました。
階段の終りに辿りついたのでしょう。
「大丈夫みたいです」
「何て確認の仕方ですか」
むぅ。
ラーズ君に額を小突かれました。
「大変遺憾ながら僕とジェスには、休憩が必要です。幸いにしてこの第7階層には魔物の気配がありません」
「ん。未だにない」
「ですので、休憩します」
「はい。分かりました。私に異論はありません」
ジェス君のくしゃみはなくなりましたが、忌避剤の副作用がでないか要観察が必要ですね。
潤った瞳が私を見上げています。
安心してくださいな。
もう、ぽいっとはしませんよ。
なぁ~お。
本当にしませんから。
そんなに疑わないでください。
ラーズ君も何とか言ってください。
お願いしますから。
黙々と休憩場所を造るラーズ君から、念話がはいりました。
〔自業自得です〕
はい。
至極ごもっともです。
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