第13話
月曜投稿です。
「勇者召喚だあ?」
「帝国領の勇者教は、其の準備に入ったとの情報だ」
夕飯後のまったりとしたお茶の時間に、アッシュ君がトール君にとりまして因縁のある話題をあげました。
勇者。
勇者教の定義では神の遣いに等しい人物ですが。
トール君に言わせれば単なる異界のお人好しな中二病患者らしいです。
いまいち意味がわかりません。
中二病と言いますからには、なにかしら病気持ちなのでしょうか。
勇者とくれば、五体満足健康的な方を呼べばいいのになぁ。
「いや。この場合の中二病とは、英雄願望の強いお馬鹿な少年少女を指すんだ」
英雄願望ですか。
ますますわかりません。
身近に憧れの対象な英雄様がいますので理解できなくもないですけど。
幼子がごっこ遊びに耽るみたいなものでしょうか。
「まぁ、概ね当たっているな。自分が特別な存在で何をしても許されると、勘違いしているんだ」
「話が通じない馬鹿な輩だ。ある意味道化師だな」
「それは、言い過ぎな気がするぞ」
「どこがだ? 勇者だと煽てられて、平気で他人の家に入り込み金や武器防具を根こそぎ強盗していく輩だぞ。捕縛すれば、悪怯れる事なく当然の成り行きだと豪語するんだぞ。悪意の塊だ」
アッシュ君が、ここまで貶しますのは珍しいです。
ですが、押し入り強盗までしますのは、もう勇者と呼ばわれないのではありませんか。
立派な犯罪者ですよ。
「豊穣のお母さまも勇者召喚が行われると仰っていました。お母さまの姉妹を邪神認定して討伐する目的だそうです」
「今回の勇者召喚は邪神討伐か。魔王討伐ではないのが不可思議だな」
「どうしてですか」
「勇者ときたら魔王討伐が定説だ。親父の代は魔王を倒して、豊かな大地を手に入れるのが目的だった。勿論、親父達には魔族が蔓延り人族を根絶やしにしていると、吹きこんでな」
魔族が人族を根絶やし?
有り得ません。
その逆ならわかります。
人族に土地と財を奪われた弱小種族は少なくありませんから。
滑稽なお話しです。
私の母の一族は肌色の違いで邪神の下僕だと認定されました。
帝国の海は棲息する他種族を根絶やしにしてしまい、年々荒れた海へと変貌しているそうです。
漁獲量が減り海の魔物が跳梁跋扈しているとの事です。
冒険者ギルドで希に帝国領からの依頼が舞い込んできています。
誰も請け負いませんでした。
他種族差別が激しい土地には、行きたがらないのが現状です。
アッシュ君にも指名依頼がきていますが、完全に無視を決め込んでいます。
「それで、勇者召喚とアッシュ兄さんが魔王様に呼ばれた経緯は、どう繋りますか」
「それは、勇者教が俺の身柄を要求しているからじゃないのか?」
まだ勇者教は、諦めてはいないのですね。
トール君のお父様が勇者召喚に巻き込まれて召喚されましたのに、戦闘に役立つ技能がないと知るや勇者教は独り放りだしました。
其の割には、お父様が持ち前の明るさで職人として名をはせましたら、掌を返して利益を横取りしようとしました。
厚顔無恥な諸行にはお父様もお怒りになり、勇者教とは敵対されました。
「それもあるが、問題なのは帝国が妖精姫の存在を嗅ぎ付けたことにある」
「私ですか」
「セーラがどう関わって来るんだ?」
「神子とバレた?」
リーゼちゃんの体が強ばりました。
今にも帝国に乗り込んでいきそうですね。
妖精姫の二つ名は誰が着けたのでしょうか。
ミラルカに徐々に広まりつつありますよ。
アッシュ君情報では、品質の高いポーションを作り、流行り病を駆逐しましたので、其の地では聖女さん並に崇められているそうです。
本人のいない処で、二つ名が独り歩きしています。
ふみゃぁお。
膝の上のジェス君が臨戦態勢です。
艶やかな毛並みが逆立っています。
落ち着いてください。
「いや。神子云々ではなく、調薬師として邪神討伐に参加させろ、だと言ってきた。無論、おれも参加しろだそうだ」
「なんだ、それ」
「兄さんが参加するのならば、勇者は必要ないのではありませんか」
「ん。兄さん最凶」
「私もそう思います」
私が参加しましたら、必然的に後見人様方の助力がありますし、ラーズ君やリーゼちゃんも着いてきますよね。
それを、見越しての参加依頼ですかね。
他種族を迫害している帝国が魔族に協力を求めてきたのですから、珍しい処か驚愕に値します。
不倶戴天の仲ですよ。
邪神認定されましたのはお母さまの姉妹ですから、私は勿論お断りさせて頂きます。
帝国の依頼は一切関わりたくないです。
絶対に聖女さんも参加されますのでしたよね。
嫌です。
彼女と関わりたくありません。
「所謂、回復要員としての徴集か」
「表向きは、そうだろうな。裏ではなにかしら企んでいそうだがな」
「邪神討伐が失敗したら、セーラへ責任転嫁して非難を交わす目論みか」
「だろうな」
私を闇の妖精族と断じて、処罰が目的なのでしょうか。
始まる前から失敗すると判断されていますのですか。
何の為の勇者召喚ですかね。
なんとも、お粗末な企みです。
根本的に大間違いですね。
何度も言いますが、帝国が関わる案件には無視が効果的です。
リーゼちゃん、ジェス君も安心してください。
私は不参加を貫きますから。
「トール先生? どうかしましたか」
「いや。この話、条件次第では受けても良いかと思ってな」
なにやら、トール君が企み始めていますよ。
表情が物語っています。
悪戯を思い付きましたね。
「いい加減、勇者教には煩わしさから解放されたいからな。いいだろう。セーラ。参加しろ」
はい?
たった今不参加を表明したばかりですよ。
トール君なら、当然参加しないと思いました。
「但し、アッシュとラーズにリーゼも参加しろ」
「先生、正気ですか。帝国ですよ。僕は、反対します」
ラーズ君は、大反対です。
リーゼちゃんも頷いています。
私も嫌です。
帝国の役にはたちたくありません。
帝国は両親の仇ですよ。
トール君のお父様もお怒りになりますよ。
「お前達、逆に考えろ。帝国を出し抜いてやるいい機会じゃないか」
トール君は、破顔一笑です。
出し抜くとは、これ如何に。
「あぁ。そう来たか。面白そうだな」
「アッシュ君。納得していませんで、説明をお願いします」
思わずアッシュ君の腕を掴み揺すってしまいました。
それくらい、困惑しています。
「つまり、トールは邪神討伐の手柄をおれ達で独り占めする気なんだな」
「おう。そう言う事だ。しかも、討伐ではなく解放な。邪神は豊穣神の姉妹神だろう」
「はい。何故邪神になってしまわれたのかは、教えてくださいませんでしたけど。先代の実りを司っておられたそうです」
「そうだ。罠に嵌められて牢獄送りになったのが事実だ」
代理戦争に負けたのでしたよね。
時の牢獄に送られていましたよ。
どんな処でしょうか。
不滅な神族には自死が赦されませんから、孤独な時間を発狂はできずに凄さなければいけません。
一体どうお過ごしか気になります。
罠に嵌められての牢獄送りなら、罪が軽くなっても良いかと思われます。
あれ?
何だか、参加に意義が出てきてしまいました。
聖女さんに出会いまして、平素な自分ではいられないかもしれません。
けれども、お母さまの姉妹を救えれるのでしたら……。
「帝国を出し抜く、ですか」
「セーラ、参加する気満々」
「正直、僕は参加には反対です。意義が見いだせません」
「ラーズにとってはだろう。それが、セーラの安寧に繋がるならばどうだ」
ラーズ君は、頑なに反対です。
帝国にされた仕打ちを忘れる事が出来ないのですね。
ラーズ君の目の前で起きた蛮行は聴かされた私でも憤慨ものでした。
幼いラーズ君には赦しがたい行為を、帝国人は行ないました。
私も身に起きた出来事は忘れる事はありません。
ですが、何時までも引き摺っている訳にはいられません。
いつかは、一矢報いたい。
そう思う私がいます
ラーズ君は、違いますか?
私達は、なにも出来ない幼子ではなくなりました。
対抗出来る実力を磨いてきたではありませんか。
それに、アッシュ君も一緒ならば、ラーズ君の負担も大きく減ります。
「セーラの安寧と、どう繋りますか?」
「ちょいと、耳を貸せ」
むう。
私には内緒話です。
ラーズ君に聴こえるギリギリの声量で、トール君は何事か語ります。
〔リーゼちゃんは聴こえていませんか?〕
私も人族よりは鋭敏な耳をしていますが、全く聴こえてはきません。
〔駄目。先生、防音してる〕
あぅ。
頼みの綱のリーゼちゃんでも駄目でした。
これは、相当な悪巧みを考えつきましたね。
アッシュ君は、いい笑顔ですから、聴こえていますね。
きっと、教えてはくれないのですよね。
「先生。それは、僕は反対できません」
「だろうな。可愛い妹分の為だ。諦めて手伝え」
ラーズ君が、折れました。
一体どんな企みでした。
視線を向けましたが、力なく首を横に振っています。
「僕らは、いつも通りでいいのです。工作は先生と兄さんがやってくれます」
「おう。裏方は任せておけ。ド派手な意趣返しをしてやるからな」
ド派手。
トール君が、随分と張り切っています。
これは、大分鬱憤が貯まっていましたね。
私の知らない場所で勇者教とトラブルが発生していたのかもです。
「装備の一新もお忘れなく。特にセーラの装備は重点的にお願いします」
そうです。
頼みました状態異常耐性効果が高い装備の出来上がりはまだですか。
トール君には迷宮で採掘した鉱石を売り払いまして、装備品の依頼をお願いしてありました。
高品質な魔晶石が採掘でしましたので、素材は半分以上は無料に近いです。
魔法金や超硬石が、どの様に装備品変わりますのか楽しみです。
「おう。ラーズとリーゼの分は出来上がっているぞ。セーラのは、これから念入りに調整し直すわ。アッシュが着いているとは言え、セーラが帝国の標的になるのは時間の問題だしな」
「トールの策ではセーラが要になるからな。足りない鉱石があれば、採掘してくるぞ」
「ほんじゃあ、セーラ用に精霊銀を採掘してきてくれ」
トール君。
容赦なくアッシュ君を扱き使います。
私は何をしましょうか。
明日販売するポーション類は作成済みです。
「トール君。私は何を準備したら良いのですか?」
「セーラは、何時も通りでいいぞ。できたら、消費期限がない薬品類を作り貯めしといてくれ。勇者召喚されたら、忙しくなりそうだからな」
また、お店は休業状態になりそうですね。
しかし、上級ポーションの改良版レシピは冒険者ギルドで暴露しましたので、イザベラさんに期待しましょうか。
専属の調整師に発破をかけてください。
お願いしましたよ。
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