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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ミラルカ編
40/197

第12話

金曜投稿です。


 ポーション騒動の翌々日。

 工房は再開することになりました。

 研究三昧とは、残念ながらお別れです。

 開店後早々に上級ポーションを求めてお客様が来店してくださいました。

 有り難いことに数量限定で販売した上級ポーションは完売しました。

 追加販売を望むお客様の声があがりましたが、店主のトール君の意向で無しになりまして皆さん黙りました。

 上級ポーションは商業ギルドが取り決めた納品数を超えられて販売はできません。

 店主の不興を買ってまた休業になってしまったら。

 皆さん思われますのは一緒みたいです。


「南区の薬品専門のお店にも工房製のポーションが販売しているようですよ」

「ああ、あそこな。最近商業ギルドから品質が落ちたポーションを入荷して販売してるな」

「新人冒険者ご用達の店だろう」


 ラーズ君がさりげなくグレゴリー商会の話題を出して、情報収集をしています。

 私もお店に出ましてリーゼちゃんと二人で、上級ポーション以外の商品を棚に並べたりしています。

 珠に、お店に出るより上級ポーションを作ってくれ、と常連のお客様に訴えられました。

 リーゼちゃんに威圧の眼差しで撃退されましたが。

 うーむ。

 どうやら、常連のお客様はグレゴリー商会の事を知っている模様です。

 口止めの意味がないです。


「工房の御墨付だと触れ回っているみたいだな」

「そうですね。僕も先日知りました」

「やっぱり、ガセネタか。俺のパーティメンバーが手にいれたんだか、あの品質を工房が直に卸すとは思えなかったな」

「そんなに、品質が悪かったのですか」

「悪い処か、薄めて販売してたんだぞ」


 なんですか。

 薬品専門のお店の名を汚す行為を平然としていたのですか。

 それは、商業ギルドも見放すはずです。

 はい。

 グレゴリー商会は商業ギルド長から商業権の停止を勧告されました。

 ついでに、グレゴリー氏の副ギルド長職も役職を解かれました。

 何でも、ミラルカで種族差別をした発言と、クロス工房の調薬師の私を付け回して、勧誘と言う名のレシピ強奪を企んでいたのです。

 会頭自らの不祥事にグレゴリー商会は、クロス工房とは逆に休業状態になりました。

 商業ギルドも、品質が落ちたポーションを暴利で販売するとは予見できなかったと、謝罪されました。

 グレゴリー氏が何故副ギルド長職に就けました謎が残ります。

 商業ギルド長はその辺りの事情は、トール君には話さなかったようです。

 忘れがちですが、トール君は都市運営を担います評議会の議長です。

 いずれは、承認待ちの案件として、議長に話がいきます。

 二度手間になるのではと、思われます。

 大人の事情と言うのでしょうか。


「セーラちゃん。解毒薬は残っているかい?」

「在庫は上級ポーション以外でしたら、充分にありますよ」

「わかった。解毒薬を6瓶と麻痺毒消し薬を6瓶をくれ」

「はい。1200ジルです」

「はいよ」


 銀貨1枚と大銅貨2枚。

 確かにお預かりしました。

 各種毒消し系の薬品は一律100ジルです。

 ミラルカの物価では少々お高い値段設定です。

 これが、坑耐性薬になりますと一律500ジルとなります。

 下級ポーションが50ジル。

 中級ポーションが500ジル。

 上級ポーションが1200ジル。

 魔力(マナ)回復薬は、

 下級が100ジル。

 中級が1000ジル。

 上級が3000ジル。

 となります。

 大銀貨2枚、20000ジルで平民が楽にとはいきませんが、1月は暮らせます。

 高値ですよね。

 まぁ、工房の常連さん方は優に稼げます実力者ですから、心は痛みません。

 むしろ、商売繁盛で良いことです。

 ただ、グレゴリー商会は最大で6割増しで販売していたのですよ。

 どれだけの、新人冒険者が買い求めましたことか。

 騙された方が悪いとも思いますが、苦情が工房にこないといいのですが。


「中級のポーションと解毒薬をそれぞれ3本くれ」

「こっちは魔力回復薬の上級と中級を5本ずつ頂戴」


 お客様は次々と押し寄せてきます。

 何だか段々列を為していませんか。

 工房は基本的に薬剤店ではなく、魔導具販売修理専門を扱うお店でした。

 調薬を生業としますお店は他にもありますよ。

 この分ですと薬品の部類は完売しそうです。

 1日に製造しまして販売できる量は限られていますよ。

 是非、他の調薬店にも足を向けてくださいませ。


「ポーション、完売した」

「はい。こちらも薬品類は完売しました」

「うわぁ。また買えなかった。明日に期待しよう」

「中級ポーションでしたら、他のお店で手に入りますよ」

「いやぁ。クロス工房製のポーション類を知っちゃうと、他の店には行けないよ」

「どういう意味ですか」


 聞き捨てなりません。

 完売間際に来店された中堅クラスの冒険者の言葉に耳を疑いたくなりました。

 どの調薬店も同じ素材で同じ商品を扱っています。

 品質は少々お店によっては違ってくるかとは思いますが、そんなに差は感じないです。

 私も逸脱した品はお店には並べてはいません。

 むむ?

 この方以前に転売目的で出禁になった人ですよね。

 調薬店の間ではブラックリストに記載されていますよね。

 他店で手にいれましたポーションを態々ポーション瓶を入れ換えて、クロス工房製のポーションだと転売していました。

 どうしてお店に入店できましたのでしょう。


「あれ? 何で怒らせたの? 商売敵を斡旋してどうするのさ」

「逆にお聞きしたいのですが、商売敵とは何ですか? 」


 質問に質問で返すのはいけないと思いますが、問いただしたいです。

 ミラルカに何人の冒険者がいると思いますか。

 私独りで冒険者全員を支える気はありません。

 持ちつ持たれつの精神です。

 調薬師の横の繋がりを忘れて貰っては困ります。

 出禁にされるお店が増えますよ。


「ちっ。上級ポーションを独占販売しているからと、調子に乗るな。冒険者舐めんなよ。こんな店を潰してやる事なんて、他愛ないんだぞ」


 急に凄まれました。

 ざわり、とお店の中がざわめきました。

 注目を集め始めています。

 高圧的にでれば、言う事を聴くと舐められているのでしょうか。


「おい。よせ」

「なんだよ。邪魔するな」

「潰されるのはお前の方だ。ちょっと、顔を貸せ。店主自ら説教してやるからな」

「な、何だよ。俺が悪いのかよ」


 質問に答えて欲しいのですが、トール君にでばられてしまいました。

 見た目は華奢なトール君に引き摺られて行きますクレーマーさんです。

 工房の奥に入っていきます。

 あちらには鍛冶場がありますから、ちょっと騒いでも近所迷惑にはなりません。

 行ってらっしゃいませ。

 リーゼちゃんはもう関心がなくなりました。

 淡々と薬品の完売を告げる貼り紙をカウンターの上に置いています。


「馬鹿だな」

「ああ、大馬鹿だ」

「また、休業されたらどうするんだ」

「何で、アイツ入店できたんだ。出禁喰らってただろうに」


 本当にですね。

 何ででしょう。


 〔兄さん情報です。先生に連れて行かれた冒険者はグレゴリー商会と繋がりがあるようで、クロス工房の製品を転売している常習犯だそうです〕


 あら。

 では、わざと入店させて問題を起こさせる腹づもりでしたか。

 まんまと、思惑に引っ掛かりましたのは、後ろ暗い事があったとみました。


「セーラ。薬品類は完売しましたし、一段落したので奥に入って貰っても良いですよ」

「判りました」


 ラーズ君に促されまして、店舗から住居の奥に引き上げました。


 うにゃあ。


 と、リビングに入るなりお留守番をしていたジェス君が飛び付いて来ました。

 大分寂しい思いをしていましたか。

 そうならば、ごめんなさいです。

 今日は、工房の再開でいつもより大勢のお客様が来店されるので、ジェス君の身を案じました。


「ジェス君、お待たせしました。いい子でお留守番できましたね」


 本当は、アッシュ君に側にいてもらう予定でしたが、急遽魔王さんに呼び出されてしまいました。

 なんでも、直ぐに登城してくれないか、の一点張りでした。

 お使いの方が平身低頭されましたので、無視することが出来なくて、行かざる負えなくなりました。

 結果、ジェス君が独りでリビングに取り残されることになってしまいました。

 他の後見人様は少々難がありまして、ジェス君が慣れない相手に側にいてもらうよりかは、自由にリビングで日向ぼっこしていた方が良いとトール君に判断されたのです。


 なぁ~う。


「お店番は終わりましたから、ジェス君といられますよ。猫じゃらしで遊びますか」


 みゃあう。


 どうやら、遊ぶ気分ではないです。

 スカートに必死に爪をたてて、しがみつくジェス君です。

 抱き上げますのが、大変です。


「では、お腹は空いていませんか?」


 みゃあう。


 あら。

 また、違いますか。

 どうしましょう。

 ソファに座ります。

 ジェス君は、膝に転がりました。


 なぁ~う。


 鳴き声をあげて丸くなります。

 おねむでしたか。

 独りでお留守番は初めてでしたから、緊張して眠れないでしたか。

 もう、お店番は終了しましたので、安心して充分に休んでくださいな。

 次第に眠りにつくジェス君の身体を優しく撫でます。

 耳とおひげがピクピク動いています。


 みぃ~あ。


「どうしました?」


 ピクン、とジェス君の小さな身体が跳ねました。

 身体を起こしまして、一点を見上げています。

 毛並みは逆立っていませんから、警戒ではありませんね。

 見慣れた色の魔力が視線の先に陣を描いていきます。

 アッシュ君の転移魔法です。

 じかにリビングに帰還してきましたね。

 転移室の意味がありません。

 トール君に怒られますよ。


 みぃあおう。


 あっ。

 転移陣が消え失せました。

 ジェス君の仕業ですか。

 いい子ですね。

 転移室以外に転移しては駄目だと、トール君に怒られましたから理解してくれています。

 ジェス君は、空間属性持ちです。

 一度トール君の前でキッチンにいる私の処へ転移しようとしました。

 その時にこってりとお小言をいただいています。

 アッシュ君も頷いていましたよね。

 しっかりと記憶されていますよ。


 ふみゃぁ。


 アッシュ君の魔力が散りました。

 再挑戦しませんね。

 おとなしく転移室に転移した模様です。

 ジェス君。

 魔力の扱いが上手になってきています。

 撫で撫でしましょう。

 大分回復してきていますね。

 魔王様を遥かに凌ぐ魔力を保持しますアッシュ君を撃退できたのです。

 空間属性の扱いはジェス君の方が上ですね。


「アッシュ君、お帰りなさい」

「ああ。ただいま」

「転移魔法の失敗は大丈夫でしたか」

「それを聴くと言う事は、ジェスの仕業か」


 憮然とした面持ちのアッシュ君が、リビングに現れました。

 転移魔法はきちんと使用ルールを守ってください。

 リビングに直接転移は礼儀的に違反です。


「横着しないでくださいな。ジェス君が真似してしまったら、どうするのですか」

「そうだな、トールにお小言を貰うだけでは済まないな」


 そうですよ。

 理詰めでお説教です。

 何時間でも付き合わされるのです。

 私は庇いませんよ。

 一度で懲りましたから。


ブックマーク登録ありがとうございます。

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