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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ミラルカ編
38/197

第10話

月曜投稿です。



 幸いにして、追跡者は他にいませんでした。

 暫くしてラーズ君から召喚具を返してもらいました。

 これで、スリの人の赤い靄は消えました。

 半日は腕の感覚がなくて動かせませんけど。

 念の為にと回り道をして工房に帰り着きました。

 工房は南区の職人街の大通りに面しています。

 赤煉瓦と青い屋根に2階建ての建物が多い中で、一際大きな3階建ての翠の屋根の建物がそうです。

 工房と店舗に居住空間が併設されていますから、必然的に大きな造りとなりました。


「ただいまです」

「ただいま」

「ただいま帰りました」


 なぁ~う。


 店舗は閉められていますから、裏口から入りました。

 表には休業の札を出してあります。

 しかし、開店を望む人の目がそこかしこで注視しています。

 店舗が再開しましたら、どれだけの人が入店するか判りません。

 ラーズ君とリーゼちゃんだけでなく、私も駆り出されるかもしれませんね。


「おう、お帰り。迷宮はどうだったか?」

「5階層まで攻略しました」

「先生、お願いがある。状態異常耐性の装備作って」

「はぁ? ちょっと待て。竜種のリーゼが状態異常にかかったのか?」


 リビングで寛いでいたトール君にリーゼちゃんが詰めよりました。

 イリュージョンバットの状態異常に陥りましたのが、どうも悔しいみたいです。

 トール君は訳が判らずに困惑しています。

 そうですよね。

 充分な説明がないままでは、いくら聡明なトール君でも返事のしようがありません。


「リーゼ。それでは、先生には伝わりません。僕が説明します」

「うぅ、分かった。おとなしくする」

「話が長くなりますから、お茶を淹れてきますね」

「ああ、頼むわ。リーゼの様子だと随分と悔しい思いをしたんだな」

「はい。残念な事に僕もです。自分の能力を過信しすぎました」

「なんだぁ。ラーズもか。と言うとセーラも状態異常にかかったのか。見える場所に怪我を負っていないが、大丈夫なのか」


 キッチンに行く前にジェス君をポーチから、ソファの上に出して上げます。

 窮屈なポーチを出たジェス君は伸びをしました。


 にゃあ。


 ポンと軽やかに、定位置になりつつあるお気に入りのクッションに跳び移りました。

 詳細な迷宮での顛末はラーズ君にお任せしました。

 では、キッチンにてお湯を湧かしましょう。

 リビングをでてキッチンに移動です。

 ジェス君がついてこようとしましたが、リーゼちゃんに止められました。

 鳴き声をあげるジェス君ですが、我慢してください。

 キッチンはジェス君にとっては危険なモノで溢れていますよ。

 リーゼちゃん、ジェス君をお願いしますね。

 キッチンは最新の魔導具が一揃いしています。

 お湯を沸かたりお野菜やお肉を炒めたりできるコンロに、食材を冷やして保存できる冷蔵庫。

 トール君の発明品です。

 元はお父様の発案だそうです。

 水を淹れたケトルをコンロの上に乗せます。

 魔力を魔石に流すと着火しました。

 魔力ありきですが、本当に便利な魔導具です。

 茶葉は何にしましょうか。

 トール君は苦めな味わいの珈琲ですね。

 ラーズ君とリーゼちゃんは紅茶が好みです。

 ジェス君はミルクにして、私も紅茶にします。

 お茶請けはクッキーでいいですね。

 各々の茶葉を準備していますと、いかにも寝起きの格好の後見人様がキッチンに現れました。


「セーラ。わたしにも目覚めのすっきりする珈琲をくださいな」

「エリィ先生、また徹夜しましたか。私にはあんなに注意しますのに、本末転倒ですよ」


 エリィ先生は、人魚族(マーメイド)の裁縫師です。

 私の神子衣裳や、普段着を製作してくれています。

 たしか、オーダーメイドの依頼が休業前にきていましたから、その製作に根を詰めていたみたいですね。


「あら、気付かれちゃった。でも、幼子が徹夜等したら成長を阻害して大きくならないわよ」

「むぅ。確かに小さい事は認めます」


 妖精種(エルフ)の混血ですので、他のハーフ種と比べて見ると標準体型より小さいかな、と最近は思います

 アッシュ君とトール君にも、もう少し太れと言われてしまっています。

 その言葉は女の子には、禁句ですよ。

 盛大にむくれてあげました。


「セーラは研究に没頭すると、外に出る機会が減っているでしょう。幼子は陽に当たらないといけないわよ」


 言い返せません。

 薬草園の手入れは運動に入らないですか?

 浮島の泉で泳いでいるのはストレス解消になっていますけど。

 エリィさんも日に何度か泳ぎに来ていますよね。

 伝えますと渋い表情をされました。


「セーラは海の妖精族(メーアエルフ)の血が強く出てきているみたいだけど、森の妖精族(フォレエルフ)の血を忘れたら駄目よ。わたしの友人のエルフに聴いてみたら、森林浴も大事だと忠告されたのよ」

「森林浴ですか。それは、盲点ですね」

「他人事みたいに、言わないの。自分の事よ」

「あぅ」


 額を指で弾かれます。

 外見が海の妖精族寄りでしたから、森林浴は確かにあまりしてないです。

 専ら、泳いでいました。

 それがいけなかったのでしょうか

 森林浴と陽に当たらないから、小さいままなのですか。

 順当に成長しているラーズ君・リーゼちゃんと間近に接していますと、なんだか一人だけ取り残された気分になります。

 これが、劣等感ですか?

 ティナさんが優秀なお姉さんに嫉妬しています感情ですか?

 うーん。

 少し違う気がします。

 嫉妬ではなく、おいてけぼりな感じなのです。

 なんでしょう。

 寂寥感に近いかも知れません。


「セーラ。お湯が沸いているわよ」

「あっ、はい」


 ケトルが湯気を勢いよく吐き出していました。

 慌てることなく火を止めます。

 少し冷ましておきましょう。


「ぼんやりしてどうしたの。わたしは何か気になる事を言ったかしら」

「気になると言いますか。私は同性のリーゼちゃんが側にいても嫉妬しないなぁ、と思いました」


 人型のリーゼちゃんはメリハリのある体型です。

 竜族処か人族の方の視線を集めます。

 ラーズ君も人目を引く容姿をしています。

 私は劣等感ではなく、逆に優越感を感じますね。

 自慢の姉と兄だと自負しています。


「どうしてそう思ったのか気になるわね。けれど、質問に答えるなら種の違いじゃないかしら。それか、リーゼが過保護すぎて競争相手にならないのじゃないの」

「競争相手ですか? 何を争うのですか?」

「勿論、恋のお相手よ」


 恋の相手ですか?

 疑問符が飛び交います。

 未成年の私には早い話題ではありませんか。

 気になる異性は未だいません。

 いたとしましても、相手は被らないと思います。

 リーゼちゃんは竜種で私は妖精種ですよ。

 竜種は竜種としか(つがえ)ません。

 私は人族とか他種族と番ますが、人族は嫌いですから候補に入る余地はないです。

 同族はどうですかね。

 見放された経験がありますので、なんとも言えません。


「今一な反応ね。ラーズは相手にはならないのかしら」

「ラーズ君はお兄ちゃんですよ」


 いきなり何を言い出しますか。

 ラーズ君は家族ではありませんか。

 互いに恋愛感情は芽生えません。

 ありますのは兄妹愛ですよ。


「セーラに一番近い異性はラーズじゃないの。考えた事はないの?」

「ありませんね」


 念話で問い掛けるまでもありません。

 ラーズ君には、意中の人が既にいますよ。

 リーゼちゃんとこっそりデート中のラーズ君の後を追いました。

 邪魔しにではなく、完全な出歯亀です。

 後日こってり怒られましたよ。

 トール君とアッシュ君には、知られていると思います。

 ラーズ君自身が報告するのを待っているようです。


「あっ」

「えっ、なに……。痛い」


 パコン。

 エリィさんの頭を叩かれた音がキッチンに響きました。

 紙の束を丸めた即席の棒でしたから、それほど威力はなかったと思います。

 いつの間にか、メル先生がエリィさんの背後に忍び寄っていました。

 直前まで気が付きませんでした。

 流石は元神官戦士です。

 気配がありませんでしたよ。

 メル先生は神国では名の知れた神官でしたが、権力争いに巻き込まれたのを期に神官戦士を辞められました。

 私の調薬の手解きをしてくださいました先生です。


「セーラに要らないことを吹き込まないの。トールや、アッシュに絞られる事は間違いなし。庇わないからね」

「なにも叩かなくてもいいじゃないな。寝起きなんだから、手加減してちょうだい」

「だから、紙で叩いたでしょう」

「それでも、痛かったのよ」


 そろそろ適温に冷めましたね。

 お茶を淹れましょう。

 随分と時間が過ぎていました。

 リーゼちゃん辺りが催促に来ないと限りません。

 メル先生の分も追加しました。


「目が覚めたなら、仕事を再開するの」

「納期が近いのですか?」


 お茶の準備をしながら尋ねました。

 トール君は猫舌ですので、少し冷ましています。

 ジェス君用の小皿にミルクを注ぎました。


「後3日に迫ってきてるのよ」

「凝り性なエリィさんの事ですから、オーダーにない刺繍とかしてるのではないですか」


 エリィさんとメル先生に珈琲を淹れたコップを差し出しました。

 と、エリィさんの肩が揺れました。

 当りましたか。

 オーダーにない刺繍を施しては、返品されるのが多々あります。

 懲りてないですね。

 エリィさんは愛着が沸きますと、違約金を払ってまで依頼人に製作品を渡したがらない職人の筆頭です。

 私達がお手伝いに入る前は赤字経営でした。

 よく、工房が潰れなかったと思います。

 紅茶の蒸らし時間が終わりましたので、リビングに戻りましょう。


「次に、オーダー品を納入しませんでしたら、商業ギルドからペナルティを課せられるのを忘れないでくださいね」

「トールのお小言付きでね」

「わ、わかってるわ。トールのお小言は前回で懲りたもの」


 寝癖だらけの頭を掻くエリィさんです。

 本当に分かっていますのか、少々不安です。

 トール君も契約を不履行にしますエリィさんを庇わないですからね。

 メル先生はお目付け役ですね。

 テーブルに突っ伏したエリィさんを放置しまして、人数分のお茶を載せたトレーを持ち上げます。

 うっ。

 4人分とジェス君の飲み物を載せたトレーは結構な重さでした。

 身体強化を施して再度持ち上げます。

 今度はすんなりと持ち上げることができました。

 さて、リビングでは何処までお話が進みましたでしょう。

 私も耐性の装備を製作してもらいたいです。

 それに、工房の再開についてと、本日ポーションを巡り起きた出来ごとを報告しなくてはいけません。

 ラーズ君が報告してくれていると、手間が省けましてよいのですが。

 卒のないラーズ君の事ですから、きっと話してくれていますね。




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とてもうれしいです。

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