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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ミラルカ編
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第9話

金曜投稿です。


 ゼインさんに人数分の上級ポーションと欠損部位を治す特化型ポーションを提供して、ギルドを後にしました。

 特化型のポーションが渡されるとは思っていなかったらしく、涙声で感謝されました。

 それほど、酷い怪我をしていましたか。

 恩義があるティナさんと決別する訳です。

 夕刻時になりましたので、気分転換がてらに市場で夕飯の材料を買い物をして、帰宅することにしました。


「あっ、カボチャとニンジンをください」


 たまねぎと鶏肉がありますから、ポトフとカボチャコロッケでも作りましょう。

 そうしましたら、残りのお野菜とミンチ肉を買い求めましょう。

 ミンチ肉を作る魔導具は、トール君作成の物が出回っています。

 ハンバーグやコロッケといった料理は家庭料理として広まりつつあります。


「はい、あわせて36ジルだよ」


 一抱えはする大きなカボチャとニンジンを数個選びました。

 ラーズ君、リーゼちゃんと並ぶ大食感な職人が工房にはいますから、買い物量は必然的に多くなります。

 荷物持ち要員もいますし、魔法の鞄(マジックバッグ)もありましから、苦にはなりませんね。

 お会計を終えましたら、次はお肉屋さんです。

 良いお肉が手に入るといいです。

 ミラルカは豊穣の神子である私の恩恵がありますから、新鮮なお野菜とお肉が手に入り易いです。

 ただ、内陸部なため海産物が割高なのは致しかねません。

 魚介類は近場に湖がありますので淡水のモノが多いです。


 みゃあう。


「ジェス君。市場ではポーチから出てはいけませんよ」


 外に出たがるジェス君ですが今は我慢して下さい。

 ジェス君の小さな身体では人混みに紛れてしまいます。

 それに、稀少な幸運猫(フォーチュンキャット)ですから、好事家に狙われてしまいますよ。

 まぁ、ラーズ君とリーゼちゃんの隙をついて近寄ってくるスリはいません。

 安心しています。

 ですが、ミラルカは多種多様な種族が暮らす都市です。

 スラムはありませんが、何時なんどき事件に巻き込まれるかわかりません。


 なぅ。


 頭をポーチから覗かせることで落ち着いてくれないですか。

 ジェス君も私同様に外出禁止でしたので、興味津々でしょうね。

 観光案内はまた今度にしましょう。

 今日はお買い物に専念させてください。


「セーラ。危険」


 リーゼちゃんの警告の一瞬後、薬品を入れている小型ポーチ目掛けて手が伸びてきました。

 早速スリですか。

 リーゼちゃんがその手を払いのけてくれました。

 バチン。

 結構良い音が鳴りました。


「いてぇ。何しやがる」

「警告します。二度目はありませんよ」

「ちょっ、いてぇ。離してくれ。すれ違っただけだろうが」

「手にしているのは、セーラの装身具ですよ。警備隊を呼びますか?」


 あら?

 二段構えでしたか。

 背後でラーズ君が、もう一人のスリの腕を捻り上げていました。

 ええと、いつの間にか、チェーンベルトに装着していました赤い瞳型の召喚具を外されました。

 瞳の部分が紅玉(ルビー)で作られていますから、価値が高いと判断され狙われてしまいましたようです。

 早く手放した方が良いとは忠告しませんよ。

 盗難防止はしていませんがその装身具は召喚具です。

 所有者ではない魔力を感知しましたら、自動で自己防衛が働きます。


「うわぁ。何だこれ。おれの腕がぁ‼」

「だから、セーラの装身具だと言いましたよね。離さないからこうなるのですよ」


 ラーズ君に捻りあげられている人族の腕に、赤い靄がまとわりつき始めました。

 慌てふためく人族の腕を離したラーズ君は、力が抜けた手から召喚具を取り返してくれます。

 ですが、靄はまとわりついたままです。


「どうした?、何が起こっている」

「スリです。セーラの装身具を狙いました」

「ああ? クロス工房の年少組か。ミラルカに未だ狙う輩がいたとはなぁ」


 巡回の警備隊員が騒ぎを聞きつけやって来ました。

 そうなんです。

 私達クロス工房の年少組は保護者様が名高い方々だけに、金銭的に恵まれていると思われていまして、スリの被害に遭いやすいのです。

 装身具処か、ポーチ自体を狙うスリが一時期多かったです。

 そんなに金銭を所持している訳がありません。

 精々銀貨が数枚です。

 大金や貴重品は腕輪の無限収納(インベントリ)の中です。

 ああ。

 そう言えば、腕輪も狙われましたね。

 自分の持ち物を盗難した、といちゃもんをつけられました。

 そうなりますと、保護者様方の登場です。

 所有者登録をしてあります装身具を、着けれるのなら着けて見ろ作戦でした。

 堂々と自分の物だと主張する方の前で、第三者の警備隊員に装着させてあげました。

 皆さん惨敗されました。

 当り前です。

 腕輪には盗難防止の魔法陣が刻み込まれているのです。

 触る事ができませんでした。

 警備隊員が触れて、主張する方は触れない。

 目に見えて判る事実に警備隊は、どちらが嘘を吐いているか一目瞭然でした。

 厚顔無恥な方々は最後まで自分の物だと主張して、最終的に後見人様の威圧プラス【嘘発見(センスライ)】の魔法で罰金刑となりました。

 私達自身で自衛できる頃には、盗賊ギルドはクロス工房に関わらないと通告してきました。

 私達の知らない内にトール君が、冒険者ギルド経由でアッシュ君に依頼をしていたそうです。

 過保護で物騒な保護者様だと、苦笑いのアマリアさん情報です。

 こうして、私達に関わる盗賊ギルド員は駆逐された筈でした。


「ほら、立て。警備隊の詰所にご案内だ」

「腕が、おれの腕が動かねぇ」

「喚いてないで行くぞ。腕は半日は動かねぇぞ。そうだったよな?」

「はい、そうです」


 赤い靄は召喚具が私の手に戻れば収ります。

 罰の意味合いがあるのか、召喚具はラーズ君が持ったままです。

 リーゼちゃんに腕を払われた一人目のスリは、相方さんを見捨てて逃亡してしまいました。

 私達を狙うとは、ミラルカの盗賊ギルド員ではないかもしれませんね。

 それか、新人さんの実力試験ですかね。

 どちらにしても、いい迷惑です。


「今日は災難な日でしょうか。朝から不快な事ばかりです」

「あれ、今朝もあった奴。商人が関わってるはず」

「あぁ、どおりで見覚えがあると思いました。納得です」

「あんな方いましたか? 記憶にありませんが」

「いた」

「護衛の後ろにいましたよ」


 調書の為に警備隊に連行されていく人族さんを見送る私達。

 ラーズ君とリーゼちゃんの背後に庇われていたのと、グレゴリー氏の印象が強すぎていまいち記憶が曖昧です。

 警戒していました二人にははっきりと見覚えがあったのですね。

 だとしましたら、黒幕はグレゴリー氏となります。

 もしくは、商会の何方かでしょう。

 呑気に会話している場合ではなさそうです。

 トール君に報告した方が良さそうです。


「セーラ、お肉屋さん」


 そうでした。

 お肉屋さんに行きかけていた処でした。

 スリのお陰で工房に帰る道を歩いていましたよ。

 馴染みのお肉屋さんを通り過ぎていました。


「いらっしゃい。今日は何が必用だい?」

「ミンチ肉をください」

「量はいつものかい?」

「はい。いつものでお願いします」


 馴染みだけありまして、必用な量を把握されています。

 女将さんの背後では旦那さんが魔導具を操作し始めました。


「そういや。工房はいつ再開するんだい? 魔導具の修理をお願いしたいんだけど」

「僕達にはなんとも言えません。何せ商業ギルドからのお達しですから、撤回されない限りは休業のままです」

「それは、困ったね。何とかならないのかい?」

「そうですね。トール先生には一応伝えてみますが、あまり期待はしないでください」

「いいさ。あたしらが困っているのを知ってくれたら、何か手を打ってくれるだろうさ」


 女将さんとのやり取りを固唾を呑んで聴いている、他のお店のご主人さん達も頷いています。

 市場は工房がある通りに近いので、何らかの魔導具や鍛治製品の修理をクロス工房が担っていました。

 工房と言うよりは、何でも屋さんみたいな感じです。

 ミラルカの都市が村だった頃の名残で、商品の販売から魔物の討伐まで、工房で請け負っていたそうです。

 困り事があれば、双黒の賢者様の元へ。

 と、未だに頼りにされいるトール君です。

 本人は賢者呼ばわりが嫌いなので、面と向かい呼べませんが。

 どうしても、無図痒いらしいです。


「あいよ。ミンチ肉お待たせだよ」

「はい。お代です」

「毎度あり」


 ミンチ肉を魔法の鞄に仕舞いまして、今度こそ帰途につきましょう。

 市場通りを外れて路地裏にでます。

 筋を三回ほど曲がりました。

 すると、行き止りになります。

 私の身長の2倍はある赤煉瓦の壁しかありません。

 ひょいと、リーゼちゃんに続いて壁を飛び越します。

 魔力を内側に循環させて肉体強化を施せば、これくらいは朝飯前です。

 どうして、壁を飛び越しましたかは、追跡者がいたからです。

 聴覚に優れているラーズ君と、魔力感知に長けているリーゼちゃんが念話で警告していました。

 逃亡を図ったスリの相方さんです。

 諦めてはいないみたいです。

 反対側にも路地裏がありました。

 人目はありません。

 ラーズ君を壁の向う側に残して、リーゼちゃんが魔法を展開します。


 〔瞳を貸します〕

 〔同調を開始します〕

 〔了承〕


 リーゼちゃんとラーズ君は召喚者の私を介して、視界同調を行います。

 ラーズ君が見ている事象を私に発信し、更にリーゼちゃんと私が同調をする。

 これは、召喚の相性が良くないと出来ません。

 私達が、アッシュ君の訓練対策にて編み出した技能(スキル)です。

 視界に3人の人族が現れました。


「なっ、一人だけかよ。肝心のエルフの娘は何処に行った」

「教える訳がないですよ。諦めて雇い主の元へ帰った方が良いですよ」

「ポーションの秘匿レシピか、エルフの娘が持っているポーションをどちらか持って帰らないといけないんだよ」

「あっ、おい。何をぺらぺら喋っている」


 わざわざ、理由を教えてくださいまして、ありがとうございます。

 ラーズ君の魔法が掛かっているのですよ。

 秘匿レシピときましたか。

 街中にて所持しているとは思わないですから、暴力で聞き出そうとしていそうです。

 グレゴリー氏の意向でしょうか。

 アッシュ君から解放されたようです。

 わざと見逃されたかも知れませんね。

 でしたら、アッシュ君の使い魔が監視していると思っていいです。


 〔ラーズ君、リーゼちゃん。この方達に監視がありますね〕

 〔ん。了解した。【眠り(スリープ)】に切り替える〕


 リーゼちゃんがラーズ君を起点に魔法を行使します。

 ラーズ君はいち早く壁の上に離脱です。

 流石に抵抗できなく、追跡者の皆さんはバタバタと倒れ伏して行きました。

 この後は放置でいいですね。

 ラーズ君の視界に曲り角の陰で警備隊の制服が見え隠れしています。

 あの方々に任せてしまいましょう。

 同調を切りまして、ラーズ君がこちら側に飛び降りてきます。

 ラーズ君も放置選択ですね。

 リーゼちゃんは相変わらず私かラーズ君が関わらなければ関心がありません。

 既に帰る気です。

 私もリーゼちゃんに習います。

 さあ、工房に帰りましょう。


誤字脱字ありましたら、ご報告ください。


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