第7話
月曜投稿です。
「ギルド長。風の天馬パーティをお連れしました」
アマリアさんがギルド長室に問題児扱いされましたティナさんと、包帯だらけの風の天馬パーティの一人を案内してきました。
対面は危険と判断されまして、私達は隣室にて待機です。
そこで、魔導具の鏡で会話は筒抜けにします。
「さて、話を聴きましょうか。迷宮内での魔物誘発剤を使用した経緯はポーションを巡りですってね」
お仕事モードのイザベラさんは、口調も普段の彼女とは違っています。
魔力に威圧を乗せティナさんを萎縮させています。
「あれは、あたしは悪くないわ。ポーションを渡さないのが、いけないのよ」
「私は貴女が誘発剤を投げたかと聴いたのよ。否定するのか肯定するのか、どちらかよ。答えなさい」
「……投げました」
「そう。その理由がポーションですってね。しかも、クロス工房の年少組に絡んで断られた腹いせにね」
「確かに、軽率だったと反省しています。けど、ポーションを寄越さなかった、年少組が悪いです」
その発言ですと、私達がなにかしら責任があるように聴こえます。
包帯だらけの風の天馬パーティの方は沈黙しています。
ギルド長室に呼ばれた意味を理解していますね。
副ギルド長のアマリアさんが退路を断っています。
「その理屈は通らないわよ。貴女に代償も払わずにポーションを渡す意味が年少組にはないわね」
「ギルド長の言う通りです。ティナはポーションを寄越せとばかりで、年少組に楯突いていました。俺はティナに恩義があるので、止められませんでした」
「何でよ。あたしは悪くないわ。言う事を利かない年少組が悪いのじゃない。ゼインだって言っていたじゃない。あたし一人を悪者にしないでよ」
「それは、お前がパーティメンバーに金で言わせていたんだ。今回の一件にしても、お前が制止を振りきって誘発剤を投げたんだろうが。そのせいで、俺達のメンバーがどんな目にあったか、目の前で見ていたから解るだろう」
「なによ、なによ。あたしがいなかったら、あんた達の仲間が助からなかったのよ。あたしの役にたちなさいよ」
……私には、女難の相があるのかも知れません。
支離滅裂な思考をした人に縁があるのでしょう。
ティナさんは、パーティメンバーに相手を変えまして、舌戦を開始しました。
ゼインさんも鬱憤が溜まっていましたのか、内心を暴露しています。
「だから、金は支払うと言っただろう。受け取らずに、未踏破な迷宮の攻略を手伝えば無料にすると言ったのは、お前だ。俺達が迷宮でどれだけ苦労したか、クロス工房の年少組に対してお前がしたことは犯罪だ。その片棒を担がせたのも、お前だ」
「なによ。ポーションを渡さないのが、悪いんじゃない。勝手に店を閉めて、ポーション不足にして荒稼ぎしているのだもの。迷惑しているのは本当のことでしょう」
「小娘、間違えないことよ。クロス工房を休業状態にしたのは、商業ギルドよ。苦情なら商業ギルドにしなさい」
ゼインさんとイザベラさんが間違いを正していますが、激高しているティナさんは聞く耳ありません。
商業ギルドに卸した商品を値上げして販売をしているのでしたら、イザベラさんが言う通り苦情は商業ギルドにお願いします。
それにしましても、ティナさんの責任転嫁は見苦しいです。
何故にポーションを渡すと思うのでしょう。
強請れば望みが叶うと思い込みが激しいです。
「そんなのあたしに関係がないわ。冒険者ギルドにはクロス工房製のポーションがあるのでしょう。早く頂戴、傷跡が残ったらどうしてくれるのよ」
どうしようもありません。
やけにポーションを要求すると思いましたけど、傷跡が残るか気にしていたのですね。
冒険者なら、傷のひとつやふたつあってもおかしくありませんから。
私にも傷跡がありますよ。
薬品の研究で火傷をしたり、訓練時の切り傷もあります。
そう言えば、ティナさんはお姉さんと張り合っていましたね。
美醜も争いの種ですか。
「見た目に拘るのならば、冒険者にならないほうが良かったのではないの。今回の事は自業自得でしょう。貴女には失望したわ」
「何ですって」
「貴女はギルド長の私に対してもポーションを強請ったのよ。何様のつもりかしら。貴女はギルド員でも新人のFランク。ポーションを使うとしたら、巻き込んだAランクの風の天馬パーティに使用するわ」
イザベラさんもいい加減我慢の限界ですね。
話の通じない相手に何を言っても無駄です。
「姉を見返してやりたいのなら、姉と同じ事をしていては比較されるばかりよ。冒険者の道を選んだのは自分でしょう。傷のひとつもない冒険者は一人前どころか、半人前と揶揄されてもおかしくなくてよ」
「なによ。あんたに何がわかるのよ。あんた達があたしの言う通りにしないのが悪いんじゃない」
「どうして、貴女の言う通りにしないといけないの。クロス工房の年少組にしても、そうよ。何でも思い通りになると思ったら間違いよ」
「何でよ。年少組だって優遇されているんでしよ。贔屓しているのは規約に違反してるじゃない」
贔屓されていますか?
外見で私達はランクアップ出来なくて困っていますけど。
もしや、ティナさも私達を外見で判断していますか。
確かにティナさんの外見は、私達より上にみえます。
獣人種は実力主義な種族が多いです。
ギルド員同士での争いはご法度ですから、実力行使はしませんでしたが舐められていますね。
我が儘なティナさんです。
〔闇討ちでもしましょうか〕
〔同意。こちらを見下している〕
〔猫族は危機能力に優れていると思いましたが。ティナさんは異端児ぽいですね〕
なるべく、ラーズ君とリーゼちゃんの沸点を下げるために話題を変えてみました。
ティナさんは私達に非があると、自分の都合よく責任を押し付けてきています。
私達が5階層を攻略したとは思い付きもしなかったことでしょう。
私達は外見年齢がギルドの規約に引っ掛り、ランクは実力以下なだけで、単独で野生の亜竜を討伐できます。
何しろ、武術の師匠がアッシュ君です。
生半可な訓練を積んではいません。
「俺は出来れば、謝罪がしたい。後はパーティメンバーの治療に必要なポーションを適正価格で買い取りたい。ポーションの値段が上がっているのは事実だ」
「何でよ。あんた達だって、クロス工房の連中からポーションを手に入れる良い機会だって、あれほど言っていたじゃないの」
ティナさん。
社交辞令をそのまま受け止めてしまっていますね。
なんて、箱入り娘なのでしょう。
他者の悪意に晒されずによく生きてこれましたね。
これは、風の天馬パーティにも非難が向けられます。
お金の問題があったとしましても、先輩冒険者なのです。
きっちりと指導しなくてはいけなかったのです。
「もう、黙りなさいなぁ。ティナ、貴女のおつむの中は責任逃れで一杯ね。貴女がポーションを強請り、魔物誘発剤を投げた。喧嘩を売った相手が悪かったと思いなさい」
「どこがよ。あたしは悪くない‼」
「あらぁ。貴女は迷宮という逃げ場のない場所で誘発剤を撒いたのよ。自業自得になったのだけど、立派な殺人行為ね」
「だ、誰も死んでないじゃないの」
「それは、結果論よ。対処したのがクロス工房の子達ではなかったら、人死にがでてたわよ。現に貴女がいたパーティは被害が甚大ではなくて?」
イザベラさんに説明されて顔が青褪めるティナさんです。
今頃仕出かした事態を理解できましたか。
狭い閉塞空間で魔物に囲まれるのは、恐怖しか産み出さないでしょう。
貴女が経験した恐怖は、下手をしたら未踏破な迷宮を攻略にきた他のパーティを、全滅に追いやる結末になったかもしれないのですよ。
ラーズ君が投げ返さなかったら。
リーゼちゃんが風魔法を使えなかったら。
絡まれたのが、私達でなかったら。
挙げればキリがありません。
「アマリア。彼以外の風の天馬パーティのは被害状況は?」
「パーティメンバーはこの二人を加えまして六名です。猛毒による重傷者が二名、壊死による手足欠損が二名、比較的軽傷者がこの二名です」
「いいわぁ。アマリア、ティナを冒険者ギルドの規約に違反したことに加え、迷宮での殺人行為よ。ギルドから追放処分にするわ」
「なっ⁉」
「同意します。隣室に警備隊を控えさしています。呼びますか?」
「当然だわぁ」
「ま、待ってよ。なんで、たかがギルド員同士の揉め事じゃないの。何で、話が大きくなっていくのよ」
「言ったわよね。殺人行為を貴女は平気でしたのよ。相手が誰であろうと私はそう判断するわ。軽率な行動を諌めなかった風の天馬は救助代償を支払うこと。ギルドの治癒師が必要なら宣告をしてちょうだい」
「是非、お願いします。代金はギルド貯金から差し引いてください」
ティナさんはギルド追放で、風の天馬パーティは罰金刑ですか。
妥当な判断ですね。
迷宮内での揉め事はだいたいが申告制です。
魔物のなすりつけや、獲物の横取り等はランクが高いからと言ってしてはいけません。
ミラルカのギルドには真実を見抜くアマリアさんがいますし、ギルドに所属する冒険者の行儀は良い方です。
以前はっちゃけました皆さんは、アッシュ君の教育的指導を受けておとなしくなっています。
ティナさんも指導を受けるといいです。
価値観がかわりますから。
「何でよ。何であたしばかり不幸な目に合うのよ。皆、姉さんばかりちやほやして、あたしは放ったらかしで……」
「甘ったれたことばかり言っている場合ではなくてよ。貴女は先程から謝罪の言葉はなく、自分を擁護する言葉ばかりね。この場に年少組がいないことを感謝しなさい」
「何を感謝しろって言うの。あたしは悪くないわ。悪いのは、あんた達の方よ‼」
ティナさんの様子はまるで駄々を捏ねる幼子みたいです。
上手くいかないと、誰かに責任転嫁してきたのと見受けます。
それにしましても、これ位で不幸と嘆かないで欲しいです。
世間にはティナさんよりも不幸な方々が沢山います。
私達年少組も貴女より随分な目に合っています。
そして、努力を惜しみなくしてきたのです。
私の両隣にいますラーズ君とリーゼちゃんは呆れたのか、怒りが薄くなってきています。
〔ティナさんのことですから、警備隊の詰め所でもああ喚くばかりですね〕
〔労働刑になったとして、逃げ出しそうな気配はします〕
〔次、合う、即、意識、刈る〕
鏡の向こう側ではアマリアさんに呼ばれた警備隊が、ティナさんを詰め所に連行していきます。
暴れる素振りを見せましたので、魔法で眠らせられました。
話の通じない相手とは二度と合いたくはないですね。
ティナさんのお姉さんの縁談に響かないといいのですが、破談になりましたら大喜びしそうです。
彼女には家族の情報が渡らない事を祈ります。
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