表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ミラルカ編
35/197

第7話

月曜投稿です。



「ギルド長。風の天馬パーティをお連れしました」


 アマリアさんがギルド長室に問題児扱いされましたティナさんと、包帯だらけの風の天馬パーティの一人を案内してきました。

 対面は危険と判断されまして、私達は隣室にて待機です。

 そこで、魔導具の鏡で会話は筒抜けにします。


「さて、話を聴きましょうか。迷宮内での魔物誘発剤を使用した経緯はポーションを巡りですってね」


 お仕事モードのイザベラさんは、口調も普段の彼女とは違っています。

 魔力に威圧を乗せティナさんを萎縮させています。


「あれは、あたしは悪くないわ。ポーションを渡さないのが、いけないのよ」

「私は貴女が誘発剤を投げたかと聴いたのよ。否定するのか肯定するのか、どちらかよ。答えなさい」

「……投げました」

「そう。その理由がポーションですってね。しかも、クロス工房の年少組に絡んで断られた腹いせにね」

「確かに、軽率だったと反省しています。けど、ポーションを寄越さなかった、年少組が悪いです」


 その発言ですと、私達がなにかしら責任があるように聴こえます。

 包帯だらけの風の天馬パーティの方は沈黙しています。

 ギルド長室に呼ばれた意味を理解していますね。

 副ギルド長のアマリアさんが退路を断っています。


「その理屈は通らないわよ。貴女に代償も払わずにポーションを渡す意味が年少組にはないわね」

「ギルド長の言う通りです。ティナはポーションを寄越せとばかりで、年少組に楯突いていました。俺はティナに恩義があるので、止められませんでした」

「何でよ。あたしは悪くないわ。言う事を利かない年少組が悪いのじゃない。ゼインだって言っていたじゃない。あたし一人を悪者にしないでよ」

「それは、お前がパーティメンバーに金で言わせていたんだ。今回の一件にしても、お前が制止を振りきって誘発剤を投げたんだろうが。そのせいで、俺達のメンバーがどんな目にあったか、目の前で見ていたから解るだろう」

「なによ、なによ。あたしがいなかったら、あんた達の仲間が助からなかったのよ。あたしの役にたちなさいよ」


 ……私には、女難の相があるのかも知れません。

 支離滅裂な思考をした人に縁があるのでしょう。

 ティナさんは、パーティメンバーに相手を変えまして、舌戦を開始しました。

 ゼインさんも鬱憤が溜まっていましたのか、内心を暴露しています。


「だから、金は支払うと言っただろう。受け取らずに、未踏破な迷宮の攻略を手伝えば無料にすると言ったのは、お前だ。俺達が迷宮でどれだけ苦労したか、クロス工房の年少組に対してお前がしたことは犯罪だ。その片棒を担がせたのも、お前だ」

「なによ。ポーションを渡さないのが、悪いんじゃない。勝手に店を閉めて、ポーション不足にして荒稼ぎしているのだもの。迷惑しているのは本当のことでしょう」

「小娘、間違えないことよ。クロス工房を休業状態にしたのは、商業ギルドよ。苦情なら商業ギルドにしなさい」


 ゼインさんとイザベラさんが間違いを正していますが、激高しているティナさんは聞く耳ありません。

 商業ギルドに卸した商品を値上げして販売をしているのでしたら、イザベラさんが言う通り苦情は商業ギルドにお願いします。

 それにしましても、ティナさんの責任転嫁は見苦しいです。

 何故にポーションを渡すと思うのでしょう。

 強請れば望みが叶うと思い込みが激しいです。


「そんなのあたしに関係がないわ。冒険者ギルドにはクロス工房製のポーションがあるのでしょう。早く頂戴、傷跡が残ったらどうしてくれるのよ」


 どうしようもありません。

 やけにポーションを要求すると思いましたけど、傷跡が残るか気にしていたのですね。

 冒険者なら、傷のひとつやふたつあってもおかしくありませんから。

 私にも傷跡がありますよ。

 薬品の研究で火傷をしたり、訓練時の切り傷もあります。

 そう言えば、ティナさんはお姉さんと張り合っていましたね。

 美醜も争いの種ですか。


「見た目に拘るのならば、冒険者にならないほうが良かったのではないの。今回の事は自業自得でしょう。貴女には失望したわ」

「何ですって」

「貴女はギルド長の私に対してもポーションを強請ったのよ。何様のつもりかしら。貴女はギルド員でも新人のFランク。ポーションを使うとしたら、巻き込んだAランクの風の天馬パーティに使用するわ」


 イザベラさんもいい加減我慢の限界ですね。

 話の通じない相手に何を言っても無駄です。


「姉を見返してやりたいのなら、姉と同じ事をしていては比較されるばかりよ。冒険者の道を選んだのは自分でしょう。傷のひとつもない冒険者は一人前どころか、半人前と揶揄されてもおかしくなくてよ」

「なによ。あんたに何がわかるのよ。あんた達があたしの言う通りにしないのが悪いんじゃない」

「どうして、貴女の言う通りにしないといけないの。クロス工房の年少組にしても、そうよ。何でも思い通りになると思ったら間違いよ」

「何でよ。年少組だって優遇されているんでしよ。贔屓しているのは規約に違反してるじゃない」


 贔屓されていますか?

 外見で私達はランクアップ出来なくて困っていますけど。

 もしや、ティナさも私達を外見で判断していますか。

 確かにティナさんの外見は、私達より上にみえます。

 獣人種は実力主義な種族が多いです。

 ギルド員同士での争いはご法度ですから、実力行使はしませんでしたが舐められていますね。

 我が儘なティナさんです。


 〔闇討ちでもしましょうか〕

 〔同意。こちらを見下している〕

 〔猫族は危機能力に優れていると思いましたが。ティナさんは異端児ぽいですね〕


 なるべく、ラーズ君とリーゼちゃんの沸点を下げるために話題を変えてみました。

 ティナさんは私達に非があると、自分の都合よく責任を押し付けてきています。

 私達が5階層を攻略したとは思い付きもしなかったことでしょう。

 私達は外見年齢がギルドの規約に引っ掛り、ランクは実力以下なだけで、単独で野生の亜竜を討伐できます。

 何しろ、武術の師匠がアッシュ君です。

 生半可な訓練を積んではいません。


「俺は出来れば、謝罪がしたい。後はパーティメンバーの治療に必要なポーションを適正価格で買い取りたい。ポーションの値段が上がっているのは事実だ」

「何でよ。あんた達だって、クロス工房の連中からポーションを手に入れる良い機会だって、あれほど言っていたじゃないの」


 ティナさん。

 社交辞令をそのまま受け止めてしまっていますね。

 なんて、箱入り娘なのでしょう。

 他者の悪意に晒されずによく生きてこれましたね。

 これは、風の天馬パーティにも非難が向けられます。

 お金の問題があったとしましても、先輩冒険者なのです。

 きっちりと指導しなくてはいけなかったのです。


「もう、黙りなさいなぁ。ティナ、貴女のおつむの中は責任逃れで一杯ね。貴女がポーションを強請り、魔物誘発剤を投げた。喧嘩を売った相手が悪かったと思いなさい」

「どこがよ。あたしは悪くない‼」

「あらぁ。貴女は迷宮という逃げ場のない場所で誘発剤を撒いたのよ。自業自得になったのだけど、立派な殺人行為ね」

「だ、誰も死んでないじゃないの」

「それは、結果論よ。対処したのがクロス工房の子達ではなかったら、人死にがでてたわよ。現に貴女がいたパーティは被害が甚大ではなくて?」


 イザベラさんに説明されて顔が青褪めるティナさんです。

 今頃仕出かした事態を理解できましたか。

 狭い閉塞空間で魔物に囲まれるのは、恐怖しか産み出さないでしょう。

 貴女が経験した恐怖は、下手をしたら未踏破な迷宮を攻略にきた他のパーティを、全滅に追いやる結末になったかもしれないのですよ。

 ラーズ君が投げ返さなかったら。

 リーゼちゃんが風魔法を使えなかったら。

 絡まれたのが、私達でなかったら。

 挙げればキリがありません。


「アマリア。彼以外の風の天馬パーティのは被害状況は?」

「パーティメンバーはこの二人を加えまして六名です。猛毒による重傷者が二名、壊死による手足欠損が二名、比較的軽傷者がこの二名です」

「いいわぁ。アマリア、ティナを冒険者ギルドの規約に違反したことに加え、迷宮での殺人行為よ。ギルドから追放処分にするわ」

「なっ⁉」

「同意します。隣室に警備隊を控えさしています。呼びますか?」

「当然だわぁ」

「ま、待ってよ。なんで、たかがギルド員同士の揉め事じゃないの。何で、話が大きくなっていくのよ」

「言ったわよね。殺人行為を貴女は平気でしたのよ。相手が誰であろうと私はそう判断するわ。軽率な行動を諌めなかった風の天馬は救助代償を支払うこと。ギルドの治癒師が必要なら宣告をしてちょうだい」

「是非、お願いします。代金はギルド貯金から差し引いてください」


 ティナさんはギルド追放で、風の天馬パーティは罰金刑ですか。

 妥当な判断ですね。

 迷宮内での揉め事はだいたいが申告制です。

 魔物のなすりつけや、獲物の横取り等はランクが高いからと言ってしてはいけません。

 ミラルカのギルドには真実を見抜くアマリアさんがいますし、ギルドに所属する冒険者の行儀は良い方です。

 以前はっちゃけました皆さんは、アッシュ君の教育的指導を受けておとなしくなっています。

 ティナさんも指導を受けるといいです。

 価値観がかわりますから。


「何でよ。何であたしばかり不幸な目に合うのよ。皆、姉さんばかりちやほやして、あたしは放ったらかしで……」

「甘ったれたことばかり言っている場合ではなくてよ。貴女は先程から謝罪の言葉はなく、自分を擁護する言葉ばかりね。この場に年少組がいないことを感謝しなさい」

「何を感謝しろって言うの。あたしは悪くないわ。悪いのは、あんた達の方よ‼」


 ティナさんの様子はまるで駄々を捏ねる幼子みたいです。

 上手くいかないと、誰かに責任転嫁してきたのと見受けます。

 それにしましても、これ位で不幸と嘆かないで欲しいです。

 世間にはティナさんよりも不幸な方々が沢山います。

 私達年少組も貴女より随分な目に合っています。

 そして、努力を惜しみなくしてきたのです。

 私の両隣にいますラーズ君とリーゼちゃんは呆れたのか、怒りが薄くなってきています。


 〔ティナさんのことですから、警備隊の詰め所でもああ喚くばかりですね〕

 〔労働刑になったとして、逃げ出しそうな気配はします〕

 〔次、合う、即、意識、刈る〕


 鏡の向こう側ではアマリアさんに呼ばれた警備隊が、ティナさんを詰め所に連行していきます。

 暴れる素振りを見せましたので、魔法で眠らせられました。

 話の通じない相手とは二度と合いたくはないですね。

 ティナさんのお姉さんの縁談に響かないといいのですが、破談になりましたら大喜びしそうです。

 彼女には家族の情報が渡らない事を祈ります。



ブックマーク登録ありがとうございます。

とても励みになります。

誤字脱字ございましたら、報告お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何処ぞのアニメでも剣士は背中を斬られたり傷があると不名誉的な事を言ってたけど、傷があるから一流とかあり得ない。ヘマしたわけだし。カッコいいとかならまぁ有りかなとは思うが傷は恥以外の何物でもな…
2021/05/10 06:08 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ