第6話
金曜投稿です。
むう。
新薬の被験者云々発言をうっかりしてしまい、アマリアさんに隔離されてしまいました。
「セーラ。何かおやつになるものないかしら」
「クッキーとマドレーヌがあります。どちらが良いですか」
「両方ちょうだいな。後はお昼ご飯になるものが良いわぁ」
妖艶な笑みで強請られました。
本日のお昼ご飯に作りましたサンドイッチが残っています。
お菓子とサンドイッチを取り出します。
泰然とした魔人族の女性はミラルカの冒険者ギルドのギルド長さんです。
アッシュ君とは形が違う魔角の持ち主でナイスバディなイザベラさんです。
保護者様の一人でもあります。
「また、書類を溜め込みましたのか、サボりましたのか、どちらです?」
「どっちもよ」
辛辣なラーズ君に、悪怯れないイザベラさん。
イザベラさんはラーズ君の親代わりなのです。
リーゼちゃんはジークさん。
私はトール君が、其々親代わりに名乗りをあげてくださいました。
女の子な私に何故イザベラさんでは駄目でしたのかは、イザベラさんの性格にありました。
魔人族なだけにどこか退廃的でずぼらなイザベラさんに、子育てができると誰もが思われていませんでした。
面倒見がよいラーズ君を見れば、自ずと結果がわかります。
「貴女と言う人は。あれ程ギルド職員に迷惑掛けないよう、注意しましたのに。セーラ、お菓子は仕舞ってください」
「あら、残念」
ラーズ君の言葉は厳しいですが、てきぱきと書類に埋もれている机を整理しています。
残りもののサンドイッチとお茶を準備して、空いた空間に提供しています。
私達も備え付けのソファに座り、お茶にしています。
「そういえば、貴方達。新しい迷宮に挑戦したのよね」
「はい。5階層まで攻略しました」
「あらぁ。それは記録更新ね。階層主を討伐したパーティはまだ報告がなかったわね」
「実質僕達以外のパーティ攻略はまだらしいですよ」
「聴いてるわぁ。状態異常持ちが多くて攻略が難しい、と報告があるわ。貴方達でも危険なようなら、迷宮は閉ざした方が良いわね」
迷宮の魔物が外に出てくる事は滅多にありませんが、万が一にも溢れ出てきては大惨事です。
最凶なあの魔人様の登場ですね。
迷宮は迷宮の核を破壊してしまえば、時とともに消失していきます。
魔素溜まりを潰すやり方の力業で、核を難なく破壊してしまうことでしょう。
アッシュ君一人で無理ならトール君が控えています。
二人揃えば大抵のことは何とかしてしまいます。
「遠距離攻撃手段が複数いまして、イリュージョンバットに注意すれば、攻略は難しくはないと思われます」
「イリュージョンバットねぇ。浅い階層でも脅威なAクラスの魔物が出現するのねぇ。事前調査では、出現しなかったわぁ」
「誰が調査したのですか。まさか、兄さんではないですよね」
「あらぁ、そのまさかよぅ」
ラーズ君が頭を抱えてしまいました。
イザベラさん。
私もラーズ君と同じ気持ちです。
アッシュ君なら状態異常耐性が高すぎまして、異常にかからないではないですか。
あの人は、猛毒すらも平然と飲み干してしまいます。
イリュージョンバットの幻惑には、きっと掛かっていても気にしてなかったことでしょう。
「暇なのが、彼だけだったのよぅ。だからぁ、迷宮の階層だけ教えて貰って、地図作りは冒険者に任せているじゃないのぅ」
「だからと言いまして、兄さんに調査は不向きではないですか。兄さんでは、例え罠が有ったとしても力業で乗り越えてしまいます」
「人選誤り。苦情は兄さんに言う」
「あらぁ。貴方達もイリュージョンバットに惑わされたの?」
リーゼちゃん。
口が滑りましたね。
イザベラさんの瞳が私を居抜きます。
だから、私は嘘が言えないのですよ。
「セーラ。その表情は言っているのも同じです」
「あらら。貴方達でも状態異常にかかったのねぇ。本格的に考え直しましょうか」
「余程状態異常耐性に高いか、各種状態異常対策をしっかりしていないと攻略は難しそうです。僕達も装備を改めてから、再挑戦するつもりです」
「ん。その為の鉱石確保した」
リーゼちゃんが言いたいのは魔晶石ですね。
迷宮で採掘しました虹色の魔晶石を取り出しました。
純度が高い鉱石にイザベラさんの顔つきが変わりました。
「この魔晶石はどの階層で手にいれたの?」
「5階層の階層主を倒して現れました採掘場でセーラが採掘しました。技能がない僕も採掘しましたが、でできたのは銅や鉄鉱石でした」
「リーゼはどうだったの?」
「宝石の原石と隕鉄。セーラは超硬石が出た」
「採掘技能はリーゼの方が高いわよね。セーラは大地の恩恵かしら」
あっ。
思い出しました。
ステータスを確認するのでした。
ギルドカードを引っ張りだします。
技能は増えてはいません。
採掘のランクがひとつ上がっています。
そして、称号に変化がありました。
「大地の精霊王の加護が増えました」
「それね」
「それです」
「ん、それ」
異口同音で肯定されました。
私もそう思います。
「効果は、迷子にならないこと。採掘時にランクが高い鉱石がでること、だそうです」
迷子?
もしかして、迷宮でイリュージョンバットに幻惑かけられまして、迷子になりかけたのが正気に戻りましたのは、称号のおかげですか?
あの時はジェス君が正気に還してくれたと思いましたけど。
違っていたのですね。
「迷子。何だか微妙」
リーゼちゃん。
それは、言ってはいけません。
精霊王の加護ですよ。
精霊術を行使できない私がですよ。
宝の持ち腐れになること間違いなしです。
「セーラには積極的に採掘して貰いたいわねぇ」
「お断りします」
「あらぁ。珍しいわねぇ」
怪訝なイザベラさんですが、蜘蛛は遠慮したいです。
一度で充分です。
他の方にお願いしてください。
「階層主が蜘蛛でした」
「あぁ。成る程ねぇ。嫌がるはずねぇ。セーラは蜘蛛が大嫌いだったわね」
そうですよ。
大の苦手な昆虫です。
調薬でも蜘蛛は取り扱いはできません。
新薬に必要な素材時わかっていましても、無理なものは無理なのです。
「じゃあ、ラーズとリーゼに指命依頼でも出して、職人を連れていきましょうか」
「目先の欲に忘れないでください。行き着くまでにイリュージョンバットに遭遇しますよ。あと、魔晶石は懐に仕舞わないで、セーラに返却してください」
「なによ、ケチねぇ。一個位いいじゃないの」
「売却してないのですから、立派な収賄罪です。トール先生かアッシュ兄さんに告げ口しますよ」
親子喧嘩が始まってしまいました。
渋々魔晶石を取り出しますイザベラさんです。
すかさずリーゼちゃんが私に手渡ししてくれました。
そこまで警戒しなくても、と思います。
みゃう。
ジェス君がポーチから頭を覗かせます。
器用にポーチから膝元へと出てきました。
喉が乾きましたのか、コップの匂いを嗅いでいます。
「あらぁ。猫ちゃんにようやく会えたわぁ。はじめまして、イザベラよぅ」
なぁ~う。
ここ最近はギルド長の職務と新しい迷惑の発見で、ギルドに缶詰でしたから、イザベラさんとは初対面ですね。
ジェス君は前足を上げましてご挨拶です。
「あら、可愛らしい挨拶ねぇ。ラーズの時とは大違いだわぁ」
ラーズ君ですか?
確かに当初は怪我を負っていましたし、酷く警戒心が強かったですね。
リーゼちゃんもそうでした。
他人を怖がっていました。
私とラーズ君を亡くした兄弟だと思い込みまして、平常心を保っていたと記憶しています。
「可愛いげのない子供だとは自覚していますよ」
「拗ねなくてもいいじゃないのぅ。あの頃は3人とも大変な事態に陥っていたと知っているわぁ」
笑顔なイザベラさんですが、当時の記憶は曖昧です。
リーゼちゃんが中々私とラーズ君を離さなかったように覚えています。
「しんみりとした、話題はいりません。それより、迷宮内での規則違反を侵した風の天馬パーティの事は聴いていますか?」
唐突な話題転換ですね。
何か私に聴かせたくない出来事が起きていましたか。
無理に聴きだそうとはしませんよ。
いつかは教えてくださいますでしょう。
ジェス君用に小皿にミルクを注ぎ入れます。
みゃっ。
ご機嫌でミルクを飲んでいます。
和みます。
迷宮内での出来事も気になりますけど、見ず知らずの他人の悪意は気分を悪くさせられます。
階層主が苦手な昆虫だったのも悪くする一因ですね。
「聴いてるわぁ。猫族の小娘の事は以前から問題視されていたわぁ。姉が優秀な斥候職で部族の長に見初められたのが、矜恃を傷つけられたみたいねぇ」
「恋愛沙汰ですか。風の天馬パーティは何故新人の問題児をいれたのか、疑問が湧きます」
「それは、お金よぅ。風の天馬パーティは借金があるの。斥候職がいなかったでしょう。猛毒に麻痺毒が重なり、解毒に手持ちの薬が効かなくて困っていた処に、小娘が解毒薬を提供したのよ。それからは、小娘の言いなりよ。迷宮攻略で自分の価値を挙げて、姉より良い嫁ぎ先を見つけたいみたいねぇ」
「万能薬でも提供しましたか。それなら、納得できますね」
「そうよ。クロス工房製の万能薬だと触れ込みだったらしいわ」
「? 販売した記憶ない」
「僕にもありません。迷宮で出会いましたのが、初対面です」
万能薬は効果によって、金額が変わります。
それこそ、ピンキリです。
販売した二人の記憶がないのでしたら、商業ギルドや冒険者ギルドに卸した品物か、転売した品物かも知れませんね。
「今はクロス工房が自主休業しているじゃない。クロス工房製の薬品が高騰しているのよぅ。その表情では知らないわねぇ。集りには気をつけなさいな」
「まさに、迷宮で風の天馬パーティに強請りに合いましたよ。相手にしませんでしたが」
「まぁ、そうなのね。罪状追加かしら」
薬品が高騰ですか。
休業の余波が拡がっています。
グレゴリー氏の発言を撤回したとして、トール君が再開を直ぐにするとは考え難いですよ。
元々工房で儲ける気は、念頭にありませんでしたから。
聞き出しました事によりますと、魔導具を無償で修理していたのを、他の職人さんに営業妨害だと訴えられましたのが、きっかけだそうです。
商業ギルドにも叱られ、賠償金を支払う羽目になったとの事。
以降はお仕事として修理を請け負っています。
ラーズ君とリーゼちゃんがお店番になり、私が調薬師の資格を取得しましてからは、薬品類も取り扱いはじめました。
たまにリーゼちゃんの鍛冶製品も並びます。
このまま、休業状態が続きませば集りや強請りが増えそうです。
困った問題です。
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