第5話
水曜投稿です。
ミラルカ西区、冒険者ギルドに着きました。
時刻は午後になろうとしています。
迷宮内の出来事をアマリアさんに報告をしてね、とアリシアさんにあれから追い立てられました。
救助に向かわれた複数のパーティからも、出張所にはいない方が良いと促されましたのです。
皆さん思いつくのが、逆恨みだそうです。
ティナさんのあの様子では責任転嫁されるのは、分かりきっています。
報告はしてありますので、私達も異存はなかったです。
人気のない場所まで歩きまして、リーゼちゃんの転移魔法でミラルカ門前に移動です。
お腹が空きましたね。
迷宮内で飲食しても大丈夫なように、片手で食べられるサンドイッチがありますが、どこか落ち着いた場所で食べたいです。
そう訴えましたら、ギルドに併設されています食堂で食べることになりました。
木戸を潜り抜けましたら、目当てのアマリアさんに目敏くまた今朝と同様に手招きされました。
お昼時ですから、ギルド内は閑散としています。
「アマリアさん、帰還しました」
「お帰りなさい。出張所から伝達がきているわ。ギルド長が待機しているけど、その様子ではお昼が先ね。ギルドカードを出して頂戴。暫くチェックしてないでしょう」
そうですね。
ここ数日は外出禁止がでていて、シルヴィータで討伐した精算をしていませんでした。
カードをポーチから取りだして、アマリアさんに預けます。
「リーゼとセーラは食堂で席を確保してください。僕が再度報告しておきます」
「ん」
「わかりました。注文は日替わり定食で良いですか?」
「お願いします」
ラーズ君は食欲より、情報収集にいそしみますか。
アッシュ君に連行されましたグレゴリー氏のその後も気になりますね。
ですが、私は食欲の方が我慢できそうにありません。
にゃあう。
食堂からよい匂いが漂ってきます。
ジェス君がポーチから頭を覗かせました。
ふふ。
ジェス君もお腹が空きましたか。
健康な証ですね。
ちょうど四人掛けのテーブルが空いてました。
席に着いてジェス君用の小さなランチョンマットをひきます。
その上にジェス君をのせます。
お利口なジェス君は、食事の際にはランチョンマットの上からでないことを理解してくれました。
今もおとなしくお座りしています。
「いらっしゃい。今日の日替わりランチは魚のムニエルか、豚肉のソテーの二種類よ」
「ムニエルが二人前とソテーが五人前ください」
「ソテーは大盛」
「はい。了解しました」
数があいませんが、何せ本性が竜と天狐の二人は巨大な身体を維持しないといけません。
普段からよく食べます。
これでも足りないぐらいです。
「猫ちゃんには生魚の方がいいのかしら」
他種族が利用する食堂ですので、メニューにない料理もできるだけ対応してくれます。
有り難いことです。
「生魚は余り好みでは、ないのです。どちらかと言えば焼き魚の方が好きですね」
「わかったわ。猫ちゃんには薄味な焼き魚をもってくるわ」
「ありがとうございます。お願いします」
ジェス君は、偏食気味です。
生物は好きではありません。
純粋な猫ではないからでしょうか。
食事は私達と同じ物を欲しがります。
ひとりぼっちが嫌なのかな、と思われます。
「お待たせしました。カードを返却します。確認してください」
「わかりました」
「ん。きちんと書き込まれてる」
ギルドカードは一種の魔導具です。
所有者の詳細な情報と討伐した魔物の情報が記録されるのです。
迷宮の踏破記録も記載されます。
わざわざ申告しなくてもよい便利なカードです。
開発には、トール君も関わっています。
勿論、盗難対策もしっかりされていますよ。
カードの所有者登録する時には、自分の血を用います。
血に宿る魔力波形を馴染ませるのです。
そうすることによって、他者が成りすますことはできなくなりました。
それに、カードの発行は初回は無料ですが、次回は10万ジル・金貨1枚費用がかかります。
かなりな高額です。
高位ランクな冒険者ならば優に稼ぐ事ができますが、下位ランクには懐に手痛い出費です。
金貨1枚で、個人ならば慎ましやかに1年は暮らせます。
また、ギルドカードには身分証明とギルド貯金の金額も記載されています。
亜竜討伐の報酬が3分割されて入金されていました。
割りきれない金額はパーティ貯金です。
この中から、ポーション代金や冒険者雑貨を買い求めています。
私達はクロス工房でほとんど揃えてしまいますが、身内とはいえきちんと支払いはしていますよ。
こう言うところは、トール君はしっかり商売人魂を発揮しています。
「あれ? なんだか報酬が増えていませんか?」
3分割した割には入金の金額が多めです。
確か200万ジルだったはずです。
80万ジル入金されています。
迷宮の情報代金は別途入金されています。
「僕もギルドに問い合わせしましたが、迷惑料と言う名目で領主側から振り込まれたみたいです」
「ふーん。財政難じゃなかった?」
「そうですよね。貴重な税金を使われたかと思うと、返還したくなります」
「そう言うと思われたので、大半はパーティ貯金に回してあります。折りを見てギルド経由で還元しましょう」
「賛成します」
「同じく」
意見の一致が得られました。
パーティ貯金を表示させますと、亜竜討伐の報酬の半額が増額されていました。
迷惑料の触込みでしたが、何らかの思惑がありそうですね。
大金に恐れをなして返還すると思われましたか、保護者のトール君がじかに還しに訪れると思われたかのかどちらかでしょうか。
あいにくと、これでも商売人の端くれです。
正当な報酬ですから、頂ける物は頂きます。
その後の使い道は、大半が孤児院等に寄付させていただきますよ。
文句は言わせません。
「お待たせしました。ムニエルが二人前にソテーが五人前、追加の焼き魚です」
大きめなテーブルにところ狭しと注文されたお料理が並べられました。
では、食事といきましょう。
「「「いただきます」」」
みぃあ。
ジェス君も行儀よく食前の祈りをしています。
この祈りはトール君のお父様がよくしていたそうで、私達はトール君に見習い覚えました。
焼き魚は骨が少ない白身魚です。
猫舌対策に冷まされて出してくださいました。
はぐはぐと美味しそうに食べるジェス君に、ホッコリとさせられます。
冷めないうちに私も頂くとします。
うん。
ムニエルは美味しいです。
エルフ種はお肉類は食べない傾向に見えがちですが、決して私はベジタリアンではありません。
お肉も魚も野菜もまんべんなくいただきます。
しかし、森の妖精族の中にはお肉が苦手なエルフがいます。
体質的に受け付けない方がいるので、エルフ種が皆そうだと、誤解されているのではないでしょうか。
食事時に勇者教に被れてる信者の方に合いますと、驚きと共に食事内容について苦情がとびかいます。
好きな物を食べて何がおかしいのでしょう。
なぁ~う。
美味しいとでも言っていますか。
これだけ、食欲がでていますから、体調が万全になるのも時間の問題ですね。
私が一皿食べ終わりますと、リーゼちゃんは三皿目に取り掛かっていました。
相変わらず早食いです。
ですが、テーブルマナーは流れるような動作です。
礼儀作法に厳しい後見人様からしっかり、教育されました賜物です。
「お代わりは入りますか?」
「ん、いらない。充分」
「セーラのサンドイッチがありますから、僕もいりません」
健啖家なラーズ君とリーゼちゃんです。
まだ、食べる気です。
お皿を空にしますと、、特大なバスケットを取りだし、サンドイッチを咀嚼していきました。
見ていて瞬く間に消えていくサンドイッチに、作りがいがありましたね。
なう。
ジェス君も参戦ですか。
ラーズ君が空いたお皿にサンドイッチを半分乗せました。
「ジェスはあまり食べすぎますと、消化に悪いです。程ほどにしましょう」
みゃう。
ラーズ君に頭を下げました。
解ってくれたようです。
おとなしくサンドイッチにかぶり付きました。
あらかたサンドイッチを食べまして、満足したラーズ君とリーゼちゃん。
食後のお茶タイムです。
ジェス君はミルクです。
私達は持参しましたお茶です。
まったりと寛いでいました。
そこへ、アマリアさんが苦い表情で近付いてきます。
迷宮問題で何か進展があったのだと理解しました。
「残念な知らせよ。風の天馬パーティは冒険者を廃業状態に陥ったようよ」
「自業自得な気がしますが、あちらは僕たちを訴えていますか」
「ティナと言う子がね。クロス工房の年少組に嵌められたと言い出してるわ。他のパーティメンバーは意識がない者もいて、事情聴取に応じられないわ」
厄介事が起きましたが、ラーズ君の言う通り自業自得です。
私達に疚しい事実はありません。
アマリアさんに訊問されてもよいですよ。
「魔物誘惑剤はティナが投げ入れた、間違いないわね」
「ありません」
「ない」
「実際見たわけではありませんが、上から降って来ましたのは事実です」
アマリアさんの両目に魔力が宿ります。
【嘘感知】ですね。
「貴方達は階段を降りていた。上から小瓶が降ってきたのね」
「そうです。直前にポーションを強請られましたから、意趣返しだと思い投げ返しました」
「助けてやるから、先払い云々言ってた」
「パーティの皆さんは諫めていたように思いましたけど、正直に言いますとティナさんを煽っていたように感じました」
ティナさんは冒険者としては新人の部類にはいりす。
ベテランな風の天馬パーティにどうして入っていたのか不思議です。
威圧的でしたし、装備も新品に近かったと記憶しています。
もしかして、風の天馬パーティは彼女の護衛でしたか?
「あちらは、貴方達が誘惑剤を撒いたと主張しているわ。アリシアからは救助のパーティにも噛み付いていて、自分の身を一番大事に扱わないと癇癪を起こして二次災害になるところだったらしいわ」
なんですか、それは。
帝国の聖女さんを思いだします。
自分本位な処が似ています。
ミラルカに戻りましても振り回されるのでしょうか。
嫌ですね。
また、暫くは浮島に籠りたくなってきました。
「いいわ。貴方達は嘘を吐いていない。後はあちらの言い分ね。アリシアからの通報によると、怪我を負ったのも全てが貴方達の仕業になっているけど、この分だとペナルティを負うのは彼女の方ね」
「当然だと思いますね。彼女の様子だと逆怨みされていますが、返り討ちにあっても仕方がありません」
「ん。了解した。やられたら、やり返す」
「そうね。保護者さん達が暴れない程度にやり返してもいいわ」
こう見えましてアマリアさんは冒険者ギルド残して副ギルド長なのです。
たおやかな外見に惑わされそうですが、れっきとしたAランクの冒険者でもあります。
そのアマリアさんの御墨付をいただきました。
ふっふっふ。
被害者振りしますなら、新薬の被験者になってもらいましょう。
帝国産の薬草と亜竜の素材から面白い効果のお薬が出来ました。
身内で試すのは憚りましたから、よい被験者が現れてくれました。
彼女に便乗して風の天馬パーティもやって来そうな気配です。
「セーラ、何を企んでいますか?」
「新薬の被験者が待ち遠しいです」
「セーラ。本音駄々漏れ」
あら。
つい本音がでてきてしまいました。
「程々にお願いするわ」
アマリアさんにも釘を刺されました。
そんなに非道な事はしませんよ。
ちょっと笑いが止まらなくなるだけですから。
その他生命を脅かさない状態異常に陥るだけです。
副作用は……。
ないと思われます。
安心してください。
各種回復薬と万能薬がありますから。
ですが、胡乱な視線は無くなりませんでした。
くすん。
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