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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ミラルカ編
32/197

第4話

月曜投稿です。


「いやぁ。こっちに来ないでください」


 はい。

 ただ今、階層主(フロアマスター)と戦闘中です。

 リーゼちゃんの背後から複眼に矢を射ています。

 階層主の名は、ジャイアントスパイダー。

 熊並みに大きな蜘蛛です。

 私が大変苦手な昆虫の大型種です。

 ラーズ君の双剣とリーゼちゃんの風魔法で脚を斬り払ってくれていますが、何故か私の方に向かって来ていました。

 きゃあきゃあ、騒いでいるからでしょうか。

 弱い個体だと認識されていますか。

 実際にリーゼちゃんの背中から離れる事ができてはいません。

 全ての脚を切り刻まれましたのに、狙いが外れてくれません。

 執念深さに思わずリーゼちゃんに抱きついてしまいました。


「リーゼ。セーラの安寧の為に協力技をいきますよ」

「了承」


 ラーズ君、リーゼちゃんお願いします。

 早く視界から蜘蛛を消してください。

 戦闘中に騒いで煩いのは理解しています。

 危険な行為をしている自覚はあります。

 けれども、自分でも止められないのです。

 生理的に受け付けられないのです。


「「【炎の竜巻(フレアトルネード)】」」


 ラーズ君の火魔法とリーゼちゃんの風魔法によりまして、炎の竜巻に灼かれながら切り刻まれていく蜘蛛さん。

 申し訳ありませんが、オーバーキル状態ですね。

 涙目でリーゼちゃんの左腕に掴まりました私の肩では、ジェス君が落ち着いてとばかりにすり寄っています。

 うぅ。

 情けない姿を晒して、ごめんなさい。

 何故この迷宮には蜘蛛がいるのでしょう。

 視界に入らない小さな蜘蛛なら、なんとか騒ぎ出すことはないのですが。

 大型種はどうしましても無理です。

 ラーズ君とリーゼちゃんがいませんでしたら、最終奥義な最凶魔人様のアッシュ君を呼んでいました。

 召喚ではなく、危機的状態にあるときに叫べは転移で駆け付けてくださいます。

 ラーズ君や、リーゼちゃんの目から逃れまして、個人行動はできませんので滅多にやりませんけど。


「終わりましたよ、セーラ」

「うん。宝箱が出現。鑑定お願い」

「……はい。罠はありません。鍵もかかっていません。ラーズ君、お願いします」


 魔法の効果が消えまして、蜘蛛がいた場所にはメダルを発見した宝箱とは、色形が違う宝箱が出現していました。

 階層主を討伐した報酬ですので、罠や鍵はありません。

 蜘蛛ではありませんが、生理的に触りたくないです。

 ラーズ君にお願いしました。


「セーラの蜘蛛嫌いはドロップアイテムにも影響しますか」

「トラウマ? 何処でかな」

「うろ覚えな記憶ですが、リーゼちゃんに会う前の森の集落でだと思います。お父さんの困った顔が思い出されます」


 しがみついて離れがたい記憶があります。

 うんと小さな頃だと思われます。

 精霊術が使えない私に、嫌がらせをされた記憶だとは言えませんね。

 リーゼちゃんの報復がされかねません。

 ラーズ君も黙認してしまいませんね。


 にゃぁう。


 ああ。

 ジェス君には通じていましましたか。

 二人には内緒ですよ。

 森の集落では、落ちこぼれはいらないと弾き出されました。

 アッシュ君に拾われませんでしたら、今頃はどうなっていましたやら。

 ジェス君にも会えませんでしたね。


 なぁ~う。


 慰めてくださいますか。

 ジェス君に頬を舐められました。


「セーラ。和んでいますところを申し訳ないですが、こちらの鑑定をお願いします」

「はい。……ぎゃあ、いりません。麻痺毒が附与されました毒針です。早く仕舞ってください」


 ラーズ君に示されました宝箱の中身は、握りに蜘蛛を象りました意匠がある毒針でした。

 かなり精巧な創りです。

 先程討伐しました蜘蛛を思い出します。

 ラーズ君は苦笑気味にアイテムを仕舞ってくれました。


「迷宮の意地悪です。後、あちら側に採掘場所があります。採掘していきますか」

「採掘? 何が採れるかな」

「僕の鑑定には銀混じりの鉱石に見えますけど」

「私には、かなり上級な宝石の原石が見えます」

「ほんとだ。ちょっと離れて。採掘する」


 いけません。

 リーゼちゃんにしがみついたままでした。

 慌てて腕を解放しました。

 階層主がいなくなりまして、姿を変えました部屋の隅に出現しました採掘場は、キラキラと輝きを見せています。

 魔法の鞄(マジックバッグ)から、愛用のつるはしを取りだしまして、一振りしたリーゼちゃんの足元に数種類の鉱石が散らばります。

 蒼玉(サファイア)紅玉(ルビー)の原石に、銀と銅に鉄鉱石。

 二振り目で隕鉄(メテオライト)がでてきました。

 三振り目では、また蒼玉の原石でした。

 まだキラキラとしていますが、リーゼちゃんが退きました。


「これ以上採掘できない」

「? まだ輝いていますよ」

「光りない」

「僕の目には輝いています。と、言うことは僕とセーラも採掘できる訳ですか」


 ラーズ君は採掘技能を持っていませんけど、念の為につるはしは常備してあります。

 リーゼちゃん愛用のつるはしは私とラーズ君には重いのです。

 竜族の膂力と比較するだけ虚しいものはありません。

 試しにラーズ君が採掘技能無しで一振りしました。


「銅と鉄。不思議」

「石ころがでないだけ有り難いですが、リーゼとの対比がすごいですね」

「ラーズ、それ違う。本命はセーラ」

「ああ。納得しました。大地の恩恵ですね」


 そうでしょうか。

 鉱山に何度か一緒に行きましたけど、ラーズ君と同様な成果でしたよ。

 ラーズ君の二振り目も銅と鉄でした。

 が、ここでラーズ君は退きました。


「輝きが消えました。やはり、リーゼとの違いがありますか」


 私にはキラキラはまだ輝いています。

 次は私の番ですね。

 魔法金(オリハルコン)製のつるはしを構えます。

 森の妖精族(フォレエルフ)は、鉄製品と相性が悪いのです。


「ジェス。石が跳んで危ないですから、こちらに避難してください」


 なう。


 ジェス君が肩からラーズ君の差し出されました手の平に移動しました。

 てっきりポーチの中に入るかと思いました。

 さては、採掘に興味津々となりましたか。

 では、気合いいれまして一振りしましょう。


「よいしょっ、と」


 ガツン、と音がしました。

 足元に落ちました鉱石は、どんな種類がでましたか?


「やはり、セーラに敵わない。金剛石(ダイヤモンド)と虹色魔晶石」


 はて?

 同じ鉱床から各自違います鉱石や原石がでました。

 これも、迷宮の謎ですか。

 二振り目も魔晶石が数個採掘できました。

 三振り目は金剛石と紅玉の原石です。

 あら。

 キラキラはまだ続いていますよ。

 四振り目。


「謎は深まります。何故に超硬石(アダマンタイト)が出るのです?」

「大地の御方の思し召しだと思います」

「鉱石系の加護はないですよ」

「ステータス確認する。知らないだけ?」

「それは、誰が覗いているか判りません。安全な家での方が良いでしょう」


 それもそうですね。

 帰りましたら、確認してみます。

 鉱石はトール君に買い取って貰いましょう。

 魔晶石は純度が高い最高級クラスですから、売却はできませんね。

 もしかしまして、情報は出さないべきですか。

 アマリアさんには、隠し通せないかと思います。

 ラーズ君に対応はお任せ案件ですね。

 秘技、黙秘の出番です。


「採掘はこれで終わりで良いですか?」

「あっ、はい。終わりました」


 キラキラは無くなりましたので、鉱石や原石を収納して迷宮をでましょう。

 私達が入ってきました扉の反対側に、扉があります。

 6階層に続いてる階段と転移装置がありました。

 4階層の幻惑に惑わされましたから、装備を一新して再挑戦です。

 転移装置を起動します。

 ジェス君がポーチに入りましたのを確認しまして、移動開始です。

 転移失敗にならず、1階層の広場にでてきました。

 次回は転移装置で5階層に戻れます。

 他の冒険者とかち合うことなく迷宮をでました。

 迷宮脇には冒険者ギルドの出張所ができつつあります。

 休憩所には先輩パーティやギルドの選抜パーティが、陣取っています。


「あら、年少組じゃないの。何階層まで攻略したか、ここで報告してね」


 出張所にはアマリアさんの妹のアリシアさんが見えました。

 今日も艶やかな毛並みですね。

 簡易な依頼ボードには攻略の進捗具合いが貼られていました。

 明るいアリシアさんは、メモ帳とペンを手に近寄ってきます。

 暇なのですね。


「僕達は、5階層までです」

「おおぅ、遂に4階層の壁を踏破したか。5階層なら、階層主がいたのよね」

「はい。僕達が退治しましたのは、ジャイアントスパイダーです」

「うんうん、わかったわ。因みに4階層を攻略した情報はあげてくれるのかしら」

「いいですよ。攻略には状態異常耐性がないと、大変きついですよ。出現します魔物は全て状態異常を持ちます。あぁ、そうです」

「ん? 何かあったの?」

「3階層から4階層に降ります階段で風の天馬パーティの一人に絡まれまして、魔物誘発剤を投げ込まれました」


 ラーズ君の言葉にアリシアさんの表情が引き締まりました。

 ちゃかすことはせずに、溜め息をひとつつかれました、


「了解したわ。本部にも顔をだすのよね。姉さんにも報告してね。今の時間ならギルドマスターも本部にいるから」


 メモ帳に赤色のペンで緊急と書き出しますアリシアさん。

 ギルド員なだけに、理解は早いです。

 私達が帰還しまして、風の天馬パーティは帰還していない。

 いまだに、魔物から逃れられてはいないみたいです。

 非常事態です。


「はい。みんな聴いていたわね。お馬鹿な事を仕出かしたお馬鹿さんを救出に行って頂戴。状態異常耐性が高いパーティはいるかしら?」

「レベッカのパーティには、やたら耐性に詳しいのがいたな」

「3階層なら楽勝までいかないが、余裕で退治できるぞ」

「はいはい。マップはこれね。みんな気をつけてよ。状態異常耐性があがるポーションを配付するから、並んで頂戴な」


 休憩所にいます先輩パーティの中から名乗り出ます冒険者さん達を、手際よく振り分けますアリシアさんです。

 普段は能天気なテンション高めな方ですが、とても有能な人転がしなギルド員なのです。


「アリシアさん。これも配付してください。誘発剤の中和剤です」

「ありがとう」


 ポーションの無償援助は怒られますが、緊急事態に中和剤配付は懐が傷みません。

 救助後にギルドから補填されますのです。

 ラーズ君も黙したままでした。

 リーゼちゃんは、我関せずを貫いています。

 正直に言いますと、1階から降りますより5階層から登る方が早いのです。

 ですが、それを出来ますパーティは因縁をつけられました私達だけです。

 アリシアさんも気が付いているはずです。

 依頼がありましたら、吝かではありますが応えようと、ラーズ君から念話が入りました。

 リーゼちゃんは渋っていますが。

 どうなりますかは、迷宮内の風の天馬パーティ次第です。

 ティナさんが素直に救助に応じると良いですね。

 一騒動ありそうな予感がしました。


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