第26話
金曜投稿です。
「愛し子が無事で良かった」
「はい、お母さま。ご心配おかけしました。私は傷ひとつ無く戻りました」
ミラルカに帰還した翌日に、ジェス君を連れまして豊穣のお母さまの神域を訪れました。
昨日は慣れないお風呂に無理に入れましたので、嫌われてしまいましたかと不安でした。
初めは挙動不審で湯桶に前足を、浸けたり浸けなかったりしていましたが、徐々に慣れていきましてシャボン玉で遊んだりしてくれました。
藍色の毛並みは入念にブラッシングした結果、艶やかに輝いています。
あっ。
天狐の姿に戻って貰いまして、ラーズ君のブラッシングもしました。
久しぶりのラーズ君のブラッシングに、力を入れすぎていまい汗だくになりました。
良い運動でした。
其のかいがあって魅惑なモフモフ尻尾になりましたよ。
残念ながら、モフモフはさせてくれませんでした。
いいんです。
代わりにジェス君が堪能させてくれましたから。
話が逸れました。
豊穣のお母さまは、神域に降りるなり私を抱き締めてくださいました。
心配掛けてしまったので、大人しく抱き締め返しました。
豊穣のお母さまは、緩く波打つ黄金の髪と翡翠の瞳の派手目な顔立ちをしました美女です。
「お母さま、御胸で息ができません」
私の背は外見年齢相応にありますが、お母さまの胸元までしかありません。
お母さまが女性にしましては背が高いのです。
「それ位我慢しなさい。母はとてもそなたの安否を心配したのです。母神が愛し子の助力を願いましたので、守護国に預けました。なのに、神子を己の野心の道具にしようとするなど、到底赦しがたい」
「その事につきまして、お母さまとお話したいのです」
「良いですよ。では、母がお茶を淹れましょう」
四季折々の花が咲き乱れます神域には東屋があります。
お母さまに促されまして、席に着きました。
東屋には、ティーセットと焼き菓子が準備されています。
お母さまが自ら淹れてくださいましたお茶は、薫り高いハーブティーでした。
ジェス君には、ミルクです。
テーブルの上に小さなクッションが置かれていて、そこがジェス君の席です。
テーブルマナーには違反していますが、この場には煩く喚く他人はいません。
ジェス君大丈夫ですよ。
神域に招かれましたお客さまですから、もてなしは受けてくださいね。
「さて、邪魔者は来ません。話を聴きましょう」
「はい。私はシルヴィータの国情にはなんら関心はありませんでした。国が帝国領に属しましても、どんな感情は湧かないと思います。けれども、トリシアにて間接的に内情を知ることができました」
アッシュ君に教えて貰いました。
受け身のままではいられない。
聖女さんの台頭に対抗馬としまして、世間には秘匿されています神子を暴き出す勢力があります事を。
「神子を掌中にしようとしますのは、シルヴィータの王族だけではなく神国にもいたのですね」
「その様です。甚だしいことに権力にしがみつく愚か者が多い」
「トール君が神殿を潰した、と聴きました。アッシュ君は氷山の一角だと言ってましたし、神子の素生はミラルカの妖精姫だと疑われています」
シルヴィータの王族は、確信を持ちまして発言していました。
ミラルカには、妖精族は少なからずおります。
ハーフエルフもです。
内陸にありますので海の妖精族の血筋は私一人ですが。
それに、賢者様の弟子だとも情報が掴まれています。
高位の神官どころか、大神官クラスが知り得る情報提供がされていました。
情報規制はとうに破棄されているに等しいのです。
「私は神子であることに肯定をしないと決めました。神子を狙います権力者と闘う事も厭いません」
私の決意はある意味今までと変わりがありません。
保護者のトール君やアッシュ君には、噂がありますので迷惑かけてしまうかと思われました。
それを告げましたら、逆に怒らせてしまいました。
曰く、未成年なうちはどれだけ甘えても良いのだ、と。
ラーズ君とリーゼちゃんにも、甘え下手だと言われました。
そうでしょうか。
私は甘えていると思いますけど。
我が儘を言いまして私専用の、浮島を用意させてしまいましたけど、幾ら費用が掛けられましたのか、怖くて聞けないのですが。
トール君の様子ですと独り立ちしましても、弟子なのだから甘えて当然と言い出し兼ねませんね。
「お母さまのご意志で神子であることに束縛されること無く、自由にさせていただいているのです。最期の時まで私らしくありたいと改めて思い直しました」
ジークさん同様に旅行してもいいですし、新たな薬品の研究に明け暮れてもいいですし、冒険者として未発見な遺跡や迷宮を探険してみたいです。
やってみたい事が沢山あります。
「わたくしの神託は要らぬ手でありましたか」
「いいえ。お母さまは、悪くありません。悪手を打ちましたのはシルヴィータの王族です」
表情を曇らすお母さまです。
お母さまの神託はシルヴィータの国民にとりましては、重い罰かと思います。
特権階級にいます王族や貴族の驕り高ぶりが招きました状況です。
国民の怒りを甘んじて受けて欲しいのです。
悪足掻きをされるあの殿下さんとは、絶対に会いたくありません。
大人しく言う事を聴くと思わないで下さい。
「王族の方は容易く私を籠絡できると思われています。しかし、私はシルヴィータには参りませんし、取り成しも致しません。お母さまが降ろしました神託通りの未来が訪れますかは、静観したいと思います」
「驚きました。愛し子に神託撤回を望まれるかと、わたくしは踏んでいたのです」
「一晩考えました」
私も昨夜は神託を撤回できないのかと悩みました。
農業大国が不作に喘ぎ被害に一番遇いますのは、弱者の一般市民です。
どうしましたら良いのか私独りでは結論がでませんでした。
「今朝トール君から言われたのです。豊穣の神子がシルヴィータに関われば、我もと他国が押し寄せてくる、と」
そうですよね。
神子が動きましたら、恩恵にあやかろうとします国が増えるだけです。
本末転倒ですよね。
私は神子の称号を隠しまして生きると決めました。
ですのに、自分から種を撒いてどうするのでしょう。
アッシュ君は、いずれ聖女さんとは直接対決が待ち受けているだろうと、先読みしています。
トリシアで出合いました方々の顔が思い出されます。
善い方もいれば悪い方もおりました。
「愛し子。わたくしと実りを司る妹神とは不仲であります」
「お母さま?」
「お聞きなさい。賢者の父上が巻き込まれました勇者召喚が、再び行われようとしているのです。実りは己の聖女に勇者と共に邪神討伐を示唆しました」
この流れから行きますと、邪神とはお母さまの事なのでしょうか。
大地から豊穣の恵みが喪われてしまいましたら、どれだけの犠牲が出ますかわかりません。
「安心なさい。邪神とはわたくしの事ではありません。ですが、関連はあります」
「眷族神なのですか?」
「姉妹の一人が先の代理戦争で、時の牢獄に囚われています。先代の実りを司っていました。当代実りは姉妹の復帰に難色を示していますから、彼女が標的になるでしょう」
復帰されましたら、地位が奪われると思いましたか。
神族も人族と変わりがありませんね。
権力はそれほどまでに固執するものなのでしょうか。
私は神子の地位を返上しても良いとの覚悟を持ちまして、お母さまの神域に参りました。
お母さまが、愛し子と慈しんで下さいますだけで充分なのです。
「勇者教には気をつけなさい。あれらは光りのみが繁栄をもたらす唯一神だと盲信しています。わたくしの愛しい娘を闇の妖精族と断罪した狂信者の集まりです」
「はい、お母さま。充分心得ています」
「本当にですよ。何事かありましたら、気にせずに母を呼びなさい。決して、迷惑などではありませんからね。愛し子までも奪われたのならは、母は荒神となり仇を討ちましょう」
お母さま。
それほどまでに私を想い慈しんでくださいましたか。
涙が零れそうになります。
ありがとうございます。
ですが、お母さまの出番はないかとおもいますよ。
なぜならば、私には過保護な幼馴染と保護者さま方がいますから。
みぃあ。
そうですね。
ジェス君もいますね。
頼もしい味方が沢山います。
悲観的にはなり得ません。
「お母さま。気になっていましたけど、実りの聖女さんは豊穣の神子に対抗しまして誕生したのでしょうか。ならは、どうして実りの神子ではなかったのでしょう」
お茶を一口飲みまして、尋ねてみました。
アッシュ君が継ぎ接ぎだと言いました意味も気になっていました。
他人の人生と能力を奪いとも言っていましたね。
映像越しに見ました聖女さんの姿が奇妙に見えて仕方がありませんでした。
髪色はハッキリとみえました。
けれども、顔が思い出せないのです。
隠蔽とは違う、何らかの情報が隠されていたのは解りました。
「確かに対抗したのでしょう。しかし、実りの神格と聖女の心核が高くなく、また相性がない器を選んでしまったのが原因でしょうね」
「? 器を選ぶとは、意味がわかりません」
「そうですね。聖女の心核は異世界から弾き出された魂なのです」
「異世界と言いますと、トール君のお父様と同じく招かれたのですか。だから、ニホンジンに固執していたのですか」
「異世界人の召喚は双方の承諾がないと出来ない仕組みになりました。彼女はその仕組みの範疇外からの迷い子なのです。そうした魂はこの世界に受け入れられずに消滅してしまいます」
お母さまが、淹れなおしましたお茶に角砂糖をひとついれました。
そして、すぐにスプーンで取り出します。
お茶が世界で角砂糖が迷い子ですか。
「わたくし達のこの世界はに迷い子には優しくありません。この角砂糖のように世界に飲み込まれる運命にあります。わたくし達神族は、可能な限り保護する責務が世界神から賜っています。彼女も実りが保護した魂です」
そうなのですね。
ですが、角砂糖は溶けて形を崩しています。
剥き出しな魂も変質してしまって居ることでしょう。
「実りは保護した魂の何かが琴線に触れたのか、心核を弄り本来の器の持主を輪廻の輪に戻してまで、人の身には可分な能力を附与させ誕生させました」
お母さまの空いた手には色違いの角砂糖が現れました。
神力に導かれスプーンの角砂糖と一体化していきます。
純白の角砂糖が見るまに色を加えられまして、なんと表現していいのかわかりません。
暗色系な色合いになりました角砂糖が出来上がりました。
「愛し子の瞳ならば、彼女の歪が見えたでしょうね。実りは手を加えすぎました。本来の聖女にない能力を附与された彼女の寿命は永くありません」
自虐的に笑うお母さま。
神族も万能ではないのですね。
一人の魂に何人分の能力が心核に附与されたのでしょうか。
器が支えきれないと思われます。
私も他人事では、ありません。
複数の固有技能を保持していまして、魔力放出阻害がでてしまっています。
魔力をものに込める事と、常時召喚で魔力を消費していませんでしたら、魔力過多症を患い命が危なかったです。
こうして、お話を聴きますと聖女さんも被害者の立場にいるのですね。
「暗い話はこれで終わりにしましょう。聖女の運命を選びましたのは彼女です。愛し子が気にやむ事はありません」
そうでしたね。
彼女は見目麗しい男性に囲まれていましたし、人生を謳歌しているみたいでしたね。
私に心配される仲でもありませんでした。
忠告します義務もありません。
気ががりが解消されましたので、次はトリシアの話題にいきましょう。
お母さま、私がトリシアで見聞きしました想いを聴いて下さいませ。
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