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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
シルヴィータ編
23/197

第23話

金曜投稿です。


 再び映像が写し出されますには、少し時間が掛かりました。


 〈……。先生、やり過ぎです〉

 〈悪いなぁ。俺はこの手の解呪は苦手なんだ〉

 〈皆さん、先生の魔力に充てられまして気絶してます〉

 〈本当にすいません〉


 ラーズ君はトール君の魔力に慣れていますから、平気みたいでした。

 床しか写し出されていませんが、使い魔さんも無事みたいです。

 トール君は、魔導具を修復している模様です。


 〈よし、直った。アッシュ、セーラ、リーゼ見てるか?〉


 真正面にトール君の顔が写りまして、手を振っておられます。

 振り替えしかけまして、映像だと思い直しました。


「こちらは、受信専用だからな」


 アッシュ君は苦笑しています。

 あぅ。

 恥ずかしいです。

 空気を読んで下さいましたリーゼちゃんが黙って頭を撫でてくれました。


 〈先生。お約束な事をしていませんで、起こすのを手伝って下さい〉

 〈ラーズが冷たい。……マジで怒るな⁉ 俺が悪かったです〉


 何でしょうか。

 トール君がいますと賑やかになります。

 先程のお怒りが嘘のようです。

 リーゼちゃんとは対照的で感情表現が豊かなのです。

 ラーズ君とトール君は、まず始めに領主様側から起こしてゆきます。

 何気に聖女さん側との間に魔力の壁を構築しています。


 〈け、賢者殿⁉ 何をされたのだ〉

 〈だから、魅了の解呪だけど、あんたらを巻き込んだ。すまなかった〉


 律儀に謝るトール君です。

 領主様が恐縮されています。

 トール君は自分の行動がニホンジンだと言うお父さま譲りの、破天荒だと自覚なさっています。

 一体どんな方だったのか、知人の皆様遠い目をしてられました。

 トール君の性格に、勤勉・酒乱を足したお父さまだとの情報でした。

 ニホンジンなトール君のお父さまは、初代召喚勇者に巻き込まれてしまいました不運な方です。

 武の才能溢れる勇者と知の才能溢れるお父さまはやがて対立されました。

 私達には詳しく教えてくださいませんでしたけれど、トール君の勇者嫌いはここから端を期しているかと思います。

 何でも、人権を無視した物扱いだったそうです。

 息子のトール君の所有権を勇者教は主張して、大騒動に発展したのです。

 聖女さんも勇者教の息が掛かっていたのでしょうか。


 〈それでは、愚息と殿下は正気に戻ったのですか?〉

 〈どうかな。魅了魔法の効果は消したんだけど、感情まで消したら廃人になっちまうから、好意を抱いていたらそのまんまだけどな〉


 魅了魔法の厄介なところは解除したとしましても、直ちに干渉された精神がまともに戻る訳ではありません。

 相手に少なからず好意的になっていましたら、継続期間が長い程正気に戻りますのは困難です。


 〈今の内に隔離した方がいいんじゃねぇか〉

 〈その方が良さそうですよ〉


 トール君に同意しますラーズ君の視線の先には、聖女さんの周りに集います集団がいます。

 中には領主様のご子息がいらっしゃいます。

 王族の方はしきりに頭を振っておられますので、魅了魔法が解けているのではないでしょうか。

 微妙に距離を取っていますし。


 〈……オリバー=リオネスタ侯爵〉

 〈殿下? 何でございますか?〉

 〈……帝国からの使者を拘束しろ。……罪状は王族に対する不敬罪と許可なく魅了魔法を行使した罪だ〉

 〈はっ、直ちに〉

 〈そんなぁ。殿下は味方でしょう〉

 〈言っとくが、魅了魔法は俺がいる限り無効だぞ〉

 〈えっ、なに?〉


 聖女さんの腕に炎を型どりましたトール君の魔力が巻き付きました。

 周りの集団が炎を消そうとしますが、無駄におわります。

 やがて、魔力は腕に定着しまして魅了魔法を封じ込めました。


 〈いやぁ、なに、これ〉

 〈嫌がらせに決まってるだろ。暫く魔法は禁じたからな〉

 〈今すぐに、解呪しろ‼〉

 〈いやだね。俺の弟子を侮辱した件忘れてねぇから〉


 ご子息が腰から剣を抜こうとしますが、トール君の怒気に充てられまして身動きが出来なくなりました。

 さりげなく、ラーズ君が横に並びます。

 迎撃体勢です。

 あのぅ。

 壁を展開したままですよ。

 なにかしようにも出来ないと思いますのは、私だけですか?

 案の定、バンッという音と共に拘束しようとしました領主様側の騎士さんがぶつかりました。

 迂闊な隊長さんでした。

 鼻を押さえて悶絶しておられます。

 災難でしたね。


 〈あっ、悪い。壁を解除すんの忘れてた。ほっ。もう、いいぞ〉


 トール君の気を抜けました掛声で、壁がなくなりました。

 笑っておられる場合ではありません。

 ラーズ君は王族の方、殿下さんの確保です。

 そこそこ広い執務室ですけど、長剣を振り回すのは止められた方がいいですよ。

 格闘技術の高いラーズ君に隙をつかれまして、次々に転がされていきます。

 往生際の悪い方は、また気絶に逆戻りです。


 〈待ってくれ、私達は帝国の使者だ。抵抗は止める〉

 〈お兄さま⁉ どうしてですか?〉

 〈私達に敵意はない。全ては誤解だ。寛大な対処を求む〉

 〈お兄さま‼〉

 〈周りを見なさい。今は、何を弁明しても聞き入れてくれないよ〉


 粗方ラーズ君と領主様側の騎士さんに拘束されましたら、聖女さんのお兄さまが両手をあげました。

 聖女さんの騎士団の実力は壊滅的でした。

 見栄えの良い人材ばかりでは、いざという時には頼りになりませんよ。

 現に真っ先に伸されてしまいまして護衛の意味がありません。

 頼みの綱な聖女さんの魔法は封じ込められています。

 魅了魔法も効かない相手には、逆らわない方針ですか?

 大人しく捕縛されました。

 領主様のご子息は納得がいきませんのか、未だに暴れています。


 〈お客人には、魔法無効部屋に案内しなさい。尋問は後に行う〉


 領主様の宣言に聖女さんは青褪めていきます。

 他国の王族に魅了魔法を使いましたのですから、国際問題に発展しますのは、当たり前ですよ。

 よく、今までに大きな問題を起こさずにいられましたね。

 案外、頭の切れそうなお兄さまにフォローされていたと、思われます。

 私とラーズ君、リーゼちゃんとの関係に似てますね。

 嫌ですけど。


 〈序でに愚息は自室に閉じ込めておいてくれ〉

 〈判りました。さぁ、行きますよ〉

 〈離せ。父上‼ 聖女様に触れるな‼ 聖女様を尋問等許されざる行為です。止めさせて下さい〉

 〈いつまでも、うるせぇな。ラーズ、眠らせろ〉

 〈はい、先生〉


 領主様のご子息は相当魅了魔法と相性がいいのですね。

 覚めた感じがありません。

 ラーズ君に素早く後ろをとられまして、一撃見舞われました。

 煩く喚いた割に呆気なく意識を刈り取られてしまいました。

 エディ氏といい、ご子息といい、シルヴィータの騎士さんに幻滅しそうです。

 いえ、気にする必要はないのでした。


 〈賢者殿。愚息が大変失礼致しました。どうお詫び申し上げればいいのか〉

 〈あれは、魅了と言うより洗脳に近いな。気をつけて隔離しとけよ。二度は許さねぇからな〉

 〈はい。御言葉痛み入ります〉


 壁が破壊されました執務室に静寂が訪れました。

 領主様が再度頭を下げられました。

 ご子息の魅了具合いからみまして、重度な状態異常と見受けられます。

 手持ちの回復ポーションでも治せるかは、わかりませんね。

 聖女さん対策に魅了型に特化した状態異常ポーションを是非常備して置きます。

 アッシュ君も今後関り合いになる、と予見しています。

 魅了だけではなく、各種揃えて置きましょう。


 〈やることやったし、帰るぞ。ラーズ〉

 〈そう言えば、迎えに来て下さいましたね。ですが、転移門は使えないのでは?〉

 〈俺は弟子の危機に駆けつけるために、自前で翔んできたが、街の外に足が待ってる〉

 〈もしかして、ジーク先生の事でしたら、怒られますよ〉

 〈ラーズが黙っていれば、わからねぇよ。んじゃ、俺らは帰るわ〉


 ジークさんはリーゼちゃんの叔父様で竜族です。

 どうやら、街の外にて待機しているみたいです。

 きっと、トール君の手に負えない事態になりましたら、ジークさんが乗り込む手筈になっていたのでしょう。


 〈お待ち下さい。賢者殿に相談したいことが〉

 〈何だよ。俺には用はないし、女神さまの神託を降ろした天人族とは、知り合いじゃないぞ〉

 〈左様でしたか。後ひとつだけ、質問をお許し下さい〉

 〈いいぜ。あんたらには、後ひとつだけ助言してやる〉


 領主様が食い下がります。

 トール君は賢者殿と呼ぶ人には一回だけですが、相談に応えています。


 〈ありがとうございます。賢者殿は荒廃した大地を見事に実り多きな土地へと蘇らせたとお訊きします。是非その秘術をお教え下さい〉

 〈残念だか、秘術なんてものに心当たりがない。親父と俺がしたことは、全て時間が解決したようなもんだ。荒れ地に生命力が強い植物を植えたり、地道に水路を築いたりしてなぁ〉

 〈しかし、賢者殿は天人族です。同胞の方々のご援助等あったのではないのでは?〉

 〈普通の天人族に人の世なんか、どうなろうと関係ないね。俺は親父に似て人の世界と関わっているが、あんたらシルヴィータの国がなくなったとしても、なんの感慨も沸かねぇよ〉


 非情に聴こえるかも知れませんが、皆さん賢者様を万能で願いを叶えて下さる、と思いがちです。

 金銀財宝や、不老不死を願われた方もいます。

 ある亡国の王族さんに国を取り返せ、と命令されたりもしました。

 もちろん、そういった方は五体不満足でお帰り頂きました。


 〈あんたら賢者に夢を見すぎだわ。帰るぞ、ラーズ〉


 折り畳まれていた天翼を拡げまして、ラーズ君の片腕を掴むトール君は不機嫌な表情をしています。

 トール君の言う通りです。

 皆さん夢物語を語るのは結構なのですが、他力本願はやめて欲しいです。

 私も賢者様の弟子の調薬師だからと、万病に効く薬を寄越せと無茶ぶりされました。


 〈賢者殿。私にもお応えください。神子様にシルヴィータへのご援助をいただくにはどうしたらいいのでしょう〉


 床にへたっておられた殿下さんが声を張り上げます。

 解呪されます以前は聖女さんに侍り、気味が悪い印象しかありませんでしたけど。

 国を憂いていますのでしょうか、必死な様です。


 〈知らねえよ〉


 一言で終らせまして、飛び立つトール君です。

 あれ?

 使い魔さんおいてけぼりですよ。

 あっという間にトール君とラーズ君の姿が見えなくなりました。


「アッシュ君?」

「茶番劇はまだ終わってない」


 〈ちっ、聖女も賢者も使えないな〉


 暫くしまして、アッシュ君の言う通りの光景が動きだしました。

 殿下さんが立ちあがり、呟かれました。

 その表情に先程迄の憂いがありません。


 〈わざわざこの私が危険を侵してまで、聖女に侍ってやったのに収穫は無しか〉

 〈殿下。ですが、賢者様が自ら迎えに来たのは僥倖でした。やはり、賢者殿の弱点は弟子にあります。後日、愚息の失言の詫びと解呪の報酬を支払いに本拠地のミラルカへ参るとしましょう〉

 〈そうだな。その折りに、噂の妖精姫に情に訴えるとしよう。彼女が一番神子の可能性が高いからな〉


 妖精姫?

 私の事ですか?

 そんな噂があるとは知りませんでした。

 ミラルカの外を知ろうとしない弊害がでてしまいました。

 アッシュ君はこの事を教えてくれようとしたのですね。

 見上げますと頷かれました。


 〈会ったのだろう。どんな感じだった〉

 〈幼い少女でした。竜人の少女の後ろに隠れておりましたが、聖女よりは純真で操り易そうに見受けられます〉

 〈招聘に応じそうか。いや、なんとしても掌中に入れねばならんな。神子さえいれば我が国は安泰だ〉


 大層な事を考えていますね。

 アッシュ君のお蔭で騙されないで済みそうです。

 本当に茶番劇でした。

 自作自演がここにもありました。

 リーゼちゃんが、怒りに肩を震わせています。

 今にも領主様のところに殴り込みに行きそうです。

 止めなくていいですか?

 私も暴れてみたい心境です。


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