第22話
水曜投稿です。
「そんな事になっておったか。あの小僧達はトリシアのみが重要だと思い違いしとるのか?」
小僧といいますのは、トリシアのギルド長さんと領主様の事ですか?
おじいさんに比べましたら、確かにそうなのでしょう。
語り終わりましたら、テルハの冒険者ギルド長のおじいさんは、苦い表情でアッシュ君を見やりました。
「アッシュ殿、依頼内容を変更したい。いっちょ、トリシアのギルド長と領主にお灸を据えてくれんか」
「阿呆らしい。いまだに、養育係の癖が治らないのか。変な依頼は御免だ」
「駄目か? いい年した大人がじい様に叱られるのは、小僧達にとって恥だと思うのだがなぁ」
気安いやり取りに人族のおじいさんが、アッシュ君の知人ではなく、友人なのだと思われました。
リーゼちゃんほど他人に無関心ではありませんけれども、アッシュ君も身内以外には排他的なものがあります。
冒険者ギルドに所属してますが、本業の情報収集が目当てだと自身で宣言しています。
本業のかたわら大陸中を放浪しては、訳ありな難依頼をこなしてしまいまして、最凶ランクにいます。
最強と違いますのは、依頼内容に齟齬がありますと、ギルドすら
敵対してしまうからです。
私のように母の一族を宗敵と断じました、勇者教や帝国の奴隷狩りに合いました弱小種族を保護し、関わっていましたギルドごと断罪した逸話が沢山有りすぎなのです。
私は運よく一人彷徨っていましたところを拾われました。
アッシュ君は両親と一族の仇を討ってくれました恩人なのです。
「それなら、自分で叱りに行った方が面白そうだけどな。ちょうど、茶番劇が始まりそうだぞ。リーゼ、鎧戸を閉めてくれ」
「わかった」
茶番劇とは?
アッシュ君の指示に窓の鎧戸を閉めますリーゼちゃん。
薄暗くなります室内を仄かな【灯り】の魔法が照らします。
「儂の許可なく行動するな、と何回言わせるんだ」
「どうせ、許すだろうから省いた」
「省くな。面目と言う言葉を思い出せ。それで、何が始まるんだ?」
「花畑の花畑喜劇団による茶番劇」
花畑とは聖女さんの事ですよね。
トリシアにもう来たのですか。
ラーズ君が心配です。
距離が開きすぎていますのか念話が届きません。
「安心していい。ラーズには、使い魔が張り付いている。それからの、通信だ」
アッシュ君に頭を撫でられます。
ついでにリーゼちゃんも撫でられます。
子供扱いですが、お子様なのは自覚していますから、むくれたりはしません。
リーゼちゃんも張り詰めた雰囲気が、鳴りを潜め自然に甘えています。
通信規制もアッシュ君には、関係ないのですね。
装身具のひとつを外しまして宙に放りました。
受信の術式が刻まれました陣が浮かび上がりまして、反対側の壁に映像が写し出されました。
〈今さら、何の様だ。神子様はまだ見つけていないぞ〉
〈父上、神子の件は後まわしです。水源地に邪竜が現れたと聴きました。安心してください。聖女様がご助力して下さりますから〉
音声付きなのですね。
トール君の新作の魔導具ですか。
場所は何処でしょう。
冒険者ギルドではなさそうです。
高級な執務机が見えますから、領主様のお屋敷でしょうか。
〈何時の情報だ。既に討伐され、水源地の調査も終了した。後は魔素溜まりの浄化を残すだけとなっている〉
〈なっ‼ 冒険者ギルドに依頼したのですか⁉ トリシアには、邪竜を討伐できる冒険者がいたのですか⁉〉
〈可笑しいな。そのような人材がいたのならば、何故に王都に行かない〉
王族の方らしきキラキラした衣装をされた方が呟かれます。
その衣装で邪竜討伐に行く気でしたか?
感性を疑います。
仮に着替えるにしましても、時間がかかりすぎですから、当日の討伐は無理なのではないでしょうか。
〈殿下。王族の方にあるまじき発言ですな。我が領の危機に王命はいかんともなく、恥を忍んで他国に応援を頼みました〉
確かに問題発言です。
彼はトリシアを軽んじているのです。
〈そうだったか、ならば依頼は終えたのだろう。直ちに王都に参じてくれ〉
うわぁ。
苦言を呈されていますのに、この方聞き流してしまいました。
アッシュ君がお花畑と言うだけあります。
〈それは、無理です。殿下。彼等は帰国しました〉
〈むっ、何故に引き留めなかったのだ〉
〈他国の者に招聘義務はありません。それに、私共にも説明はなく冒険者を招聘しておられます。この際です。教えて頂けますか?〉
〈そうなのか? 宰相も迂闊だな。王家専属の占術師が先読みの結果、王都に甚大たる被害をもたらす災いが訪れるそうだ〉
王族の方は胸を張り得意気に宣言されました。
災い、既に起きてませんか?
私=神子を拐かしまして、神託が降りていますよね。
神子を探して取り成して貰うのではなかったです?
ちぐはぐな印象があります。
〈あのぅ。お話中に失礼します〉
その声を耳にした途端に悪寒が走りました。
「セーラ? どうしたの? 大丈夫?」
リーゼちゃんには、わかりませんでしたか?
今の声には、過剰な魔力が込められていました。
気分が悪くなるの程の醜く絡み付く魔力です。
〈どうした、アンジェ。何か気になるのかい?〉
〈はい、殿下。そのぅ、邪竜を討伐した冒険者のパーティの中に妖精族がいませんでしたか?〉
〈……君がなにを知りたいか判るがね、あの子は断じて闇の妖精族ではないぞ。憶測で判断して、あの子に迷惑掛けないでくれ〉
〈……ごめんなさい。そう言う意味で聞いたのではありません〉
ストロベリーブロンドの髪が揺れます。
何故に聖女さんは、私の存在を気にしますのでしょう。
全身は写りませんでしたが、悪寒が止まりません。
「もう少しだけ、我慢してくれ」
「アッシュ君?」
ポフッ、と頭にアッシュ君の手の平が乗せられました。
暖かな魔力に包み込まれまして、少しだけ緩和されました。
〈アンジェが謝る必要はない。おいっ、無礼を謝罪しろ‼〉
〈父上、私に恥を掻かさないでください‼〉
〈…………〉
開いた口が塞がりません。
傍若無人なのはお花畑ご一行の方です。
しきりに謝罪要求しますご一行を相手に、よく忍耐力が持ちますね。
〈今の会話に私が謝る要素が何処にあるか、誰か判るか?〉
〈アンジェが、気分を害しただろう。やはり、貴様は闇の妖精族と通じていたな。おいっ、彼奴を捕らえよ〉
〈父上、残念です。我が領に宗敵を招くとは、前代未聞です〉
はい?
支離滅裂な戯れ言をよく言えますね。
王都から連れてきました護衛の騎士が捕縛しようと動き始めました。
ラーズ君は何処にいますか。
危なくないとアッシュ君はいいますけれども、お花畑ご一行が何をしでかしますか、不安です。
領主様のご子息は宗敵と仰有います。
完全に帝国の思想に漬かっていますね。
〈待てや、こらあ。よくも俺の弟子達を宗敵呼ばわりしやがったなあ〉
聞き慣れた声がしたと思いましたら、壁が吹き飛びました。
見ている壁ではなく。
画面の中の壁です。
伴いまして数人巻き添えを喰らいまして、反対側の壁にぶつかりました。
〈何だ、何が起きたのだ⁉〉
〈やかましい。俺の弟子達を宗敵呼ばわりしやがった輩はどいつだ〉
〈彼奴です。先生〉
あっ、ラーズ君の声です。
良かった、無事です。
天翼を背に折り畳み、壁を乗り越えて姿を見せましたのは天人族のトール君です。
〈てめえが俺の敵か。その喧嘩買ってやろうじゃないか〉
〈だ、誰だ。天人族が何故にいる?〉
〈ああ? てめえん処の冒険者ギルドも騎士も人手不足だから、俺の弟子が派遣されたんだよ。依頼が完遂したのに帰りが遅いから調べたら、転移門が使えねぇと言う訳だ。だから、迎えにきたんだよ〉
〈け、賢者殿、落ち着いてくれ。屋敷の結界が危険域に達する。屋敷が、潰れかねん〉
〈あぁ、悪い。今直す〉
腕を一振りしまして呆気なく結界を修復しますトール君です。
片方の手には宗敵呼ばわりした領主様のご子息の襟を掴んだままです。
〈貴方が賢者様?〉
〈双黒の賢者⁉ 本物か⁉〉
庇われました腕を抜け出し、トール君に聖女さんが近よりました。
〈本当に真っ黒だぁ。あのぅ、私、貴方に聴きたいことがあります。聴いて下さい。貴方ニホ……〉
〈ニホンジンか聴きたいなら、違うな。それは、俺の親父で何百年前に亡くなったぞ〉
〈嘘だぁ、そんなニホンジン顔してる癖に〉
〈親父を知ってる連中は、親父に瓜二つだとさ。それより、あんた。その魅了魔法は止めてくれ。臭くて仕方がない〉
〈‼ 臭くないもん。皆良い薫りだと言ってくれるもん〉
〈アンジェ‼ 黙りなさい‼〉
魅了魔法。
精神干渉系で、対人には禁止魔法です。
聖女さんの自白が録れましたね。
やはり、あの魔力は気味が悪いものでした。
これで、納得がいきました。
通信越しに魅了魔法に抵抗していたのですね。
理解してしまいましたら、気分が落ち着きました。
〈お兄さま?〉
〈いいから、黙りなさい。聖女らしくない行いはやめなさい。〉
〈はぁい〉
しおらしく項垂れる聖女さんですが、魅了魔法は止める気はないのですね。
それよりも、気になりますのは王族の方は易々と魔法に掛かってしまいまして、いいのでしょうか。
仮にも国の中枢にいる方なのですから、対処は万全ではないのでしょうか。
〈賢者殿、愚息は魅了魔法に掛かっているのですか?〉
〈あんたの息子がどいつか知れんが、聖女とか呼ばれてる小娘の周りは掛かってるが〉
〈僕らを宗敵呼ばわりしまして、先生に掴まれていますのが愚息さんです〉
〈あぁ、ならこいつもそうだな〉
〈解呪は出来ますか?〉
〈出来るが。何で俺があんたらの言う通りにしなくちゃあならん。聞く義務はないぞ〉
〈解呪の労力に似合います代金はお支払致します。是非ともお願い致します〉
領主様が頭をさげられます。
先程から、聖女さん側のお付きの魔法師さんが、トール君に向けまして魔法を跳ばしています。
全く効いていません。
人族の魔法が天人族の魔法抵抗を破るのは叶いませんよ。
余程解呪して欲しくはないみたいです。
疚しい事をしています、と言っているのと同じです。
お兄さまと呼ばれていた方も、トール君に何かしています。
トール君は片っ端から、無効にしています。
煩わしくないのでしょうか。
〈煩いなぁ。あんたら、さっきから俺に対して何をしてやがる。そんなに解呪して欲しくはないのか? 決めた。嫌がらせには嫌がらせで対応してやるよ〉
我慢してましたか。
執拗でしたから、トール君の堪忍袋の緒が切れてしまいました。
爆発的に魔力が膨れ上がりまして、室内を満たしていきます。
その影響力は映像に表れました。
映像と音声が途切れました。
ラーズ君と使い魔さんは、問題ありませんか。
大丈夫でしょうか。
トール君はしゃぎ過ぎです。
相手は人族です。
手加減してあげて下さい。
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