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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
シルヴィータ編
21/197

第21話

月曜投稿です。


「ラーズ君を街に残して来てしまいましたが、大丈夫なのでしょうか」

「安心しろ、あれらはトリシアに来ても水源地には来れない。シルヴィータの神託に巻き込まれるのを懸念して、帰国の準備に入ったらしい」


 再び水源地に向けて森の中を歩いています。

 面倒ですけれど、アッシュ君が魔素溜まりを潰しに行くそうなので、付き合う事にしました。

 浄化と潰す行為は違いまして、浄化は魔素溜まりを正し魔素が流れます地脈に還元します。

 絡まりました糸をほどいてまっすぐに直すと言った方がわかりやすいですかね。

 潰しは文字どおり魔素溜まりの発生原因そのものを跡形もなく消失させますから、地脈に多大な影響があります。

 こちらは絡まりました糸の部分の前後を切って、繋げる行為ですね。

 新たな結び目が正常に機能するまでには時間がかかりますし、精霊もいなくなってしまいましたから、水脈の流れに支障をきたすと思われます。

 アッシュ君はその辺りの配慮はしないみたいです。


「魔素溜まりを見つけたら、潰すのがおれの仕事。浄化は神官の専売特許だからな」


 言外にどなたかを揶揄していますね。

 お仕事で神官と何かがあったようです。

 まさか、聖女さんですかね。


「聖女? 使い魔越しだがな。甘ったるい臭いを撒き散らしていて、借り物の能力で魔素溜まりを浄化していたぞ。適性能力がありすぎでまともに制御できていないし、あれでは宝の持ち腐れもいいとこだ」

「適性能力ですか?」

「あぁ、属性は四大元素に精霊魔術、召喚に法術とある。本人は使いこなしていると勘違いしてるがな」


 辛辣な言葉ですが、魔力の扱いにたけた魔人族ならではの意見ですね。

 属性の四大元素は地水火風です。

 魔力持ちの方ならどれか一つは属性をおもちです。

 稀に無属性の方もおみえです。

 法術は神官が行使します術です。

 魔力ではなく、理力を消費します。

 となりますと、聖女さんは魔力と理力を保持しているのですね。

 私も神子ですから魔力と理力を保持していますけど、神官に勧誘されるのはご面倒なので、普段は理力は眠らしてあります。


「お前たち、其処で何をしている?」

「この先は禁則地だ、引き返せ」


 あっ。

 巡回の騎士さんにみつけられました。

 いつもの癖でリーゼちゃんの後ろに隠れてしまいました。

 ラーズ君がいませんので、隠蔽を掛けていませんでしたね。

 見覚えがあります。

 朝出会い頭に眠らした騎士さん達です。


「冒険者ギルドの依頼できた。この近くに魔素溜まりが発生した、との情報だが。確認しに来た」


 アッシュ君が懐から依頼状を取り出します。

 いつの間に、用意されたのですか。

 不思議です。


「ギルドからだと?」

「隊長からは、水源地の邪竜討伐だと連絡がきたが違うのか?」

「依頼されたギルドが違うな。こちらはテルハの冒険者ギルドだ」

「テルハ? トリシアの南の村か」

「そうだ。上流域に魔素溜まりが有り、飲料となる水が汚染されたと噂が広まっているぞ」

「ならば、トリシアの冒険者ギルドに一度むかってくれ。この先には邪竜が毒を撒き散らしていて、子供連れだと危険だ」

「その邪竜の情報はなかったな。わかった。一度戻るとするか」


 邪竜は討伐されましたから、安全なのですけど。

 隊長さんの連絡は遅れていますか、水源地の確認はされないのでしょうか。

 アッシュ君は躊躇なく来た道を引き返します。

 私とリーゼちゃんも続きます。

 トリシアに行くのでしょうか。

 ふと、視界の端に騎士さんの手が映りました。


「セーラに、何をするの」

「きゃっ」


 リーゼちゃんが反応して騎士さんの手を払いのけようとしましたが、アッシュ君にとめられました。

 目深に被っていました、フードがはずされます。

 勢いがついて髪の毛まで引っ張られて、痛かったです。


「ちっ、純エルフか。すまん。迷子のハーフエルフを探していたもんでな」

「お嬢さん、悪かったな。行っていいぞ」


 ここでも、神子疑惑ですか。

 フード被らなければ良かったですね。


「誰と間違えたか知らないが、冒険者に不用意に手を出さないと方がいいぞ。次は止めないから、連絡網で回しておけ」


 威圧の視線に魔力を載せまして警告するアッシュ君です。

 騎士の中には冒険者を格下と見下して、やりたい放題することがあります。

 酷い時には依頼の妨害等してきたりします。

 まだこの騎士さんはましな方達です。

 冒険者もランクがあがりますと、条件反射で得物を抜いてしまいまして、事件になってしまいます。

 気をつけてください。

 リーゼちゃんは伸ばした腕を折る気でしたよ。


「……す、済まない」


 謝罪の言葉が出ましたので騎士さんから視線をはずされました。

 若干名座り込んでしまう騎士さんも見えます。

 辛うじて声が出ました騎士さんも顔面蒼白になっています。

 こういうのが、蛇に睨まれた蛙と言うのでしょう。

 興味を失いましたアッシュ君は私とリーゼちゃんを促し、騎士さん達に背を向けました。

 背後から襲われましても知れませんよ、と思いましたが皆さん戦意喪失中です。


「むぅ。何で止めたの」

「さっきのか? ミラルカではないのだぞ。いらない喧嘩は買うな」


 ある程度距離が離れましたところで、リーゼちゃんがむくれています。

 アッシュ君は涼しい表情です。


「セーラが痛がったのに」


 保護者のアッシュ君がいますと、リーゼちゃんも年相応な言動を無表情ながらします。

 ラーズ君は私達のフォロー役ですから、アッシュ君やトール君がいましても、余り甘えた様子は見せてくれません。

 それどころか、自分を痛めつける様な武術の鍛練をしています。

 力ではリーゼちゃんに分がありますので、一撃必殺な敏捷性を磨いています。

 私は中・遠距離な位置的で支援か攻撃を担います。


「どうせ、これから困り果てるのは奴等だ。気にするな」

「どういう事ですか?」

「テルハに行けばわかる。転移するぞ」


 転移無効も魔人族のアッシュ君には、児戯に等しいしろものでしたか。

 あっさりとどこかしらの室内に転移しました。


「テルハの冒険者ギルドだ」


 アッシュ君の説明は簡素で困ります。

 ラーズ君がいましたら、注釈を入れてくれますが、今はトリシアにて単独行動中です。


「兄さん、意味わからない」

「私もです」

「……儂もだ。来るなら、先触れを出してくれ」


 室内にいましたおじいさんが、お髭を撫でながらアッシュ君に苦情を申し立てます。

 反対の手には武器らしき短剣がありますから、押し入り強盗かと思われたに違いありません。


「連絡しただろう」

「使い魔はトリシア水源地調査に赴いた弟妹と合流した、としかなかったが」

「魔素溜まりは水源地にあったが、騎士に咎められて潰せなかったぞ」

「噂の領主の息子がいたか。あのどら息子は帝国の思想にかぶれているらしいからな」

「いや。禁則地だから入るな、だと。録にこちらの話しを聴こうとしなかったし、妹が誰かに間違えられたから煩わしくて戻ってきた」

「例の神託の件だな。成る程、海の妖精族(メーアエルフ)の嬢さんがいたら、厄介ごとに巻き込まれかねんか」


 思案顔なおじいさんを横目にソファに寛ぐアッシュ君です。

 手招きされて私達も座ります。

 お知り合いなのでしょうか。


「依頼は魔素溜まりを潰せだったが、近づけないから未達成でいい。トリシアにて邪竜討伐と水源地調査の依頼で弟妹達が対応した。セーラ、じいさんはテルハのギルド長だ。水源地での事を話てやってくれ」

「あっ、はい。わかりました」


 ラーズ君がいませんと、説明役は私になります。

 口ベタなリーゼちゃんですと、支離滅裂になってしまいます。

 どこまで話せばいいのでしょう。


「儂が質問するから、嬢さんはそれに答えてくれないか」


 躊躇いました私を見かねておじいさんが、助け船を出してくれました。

 有り難いです。


「やはり、水源地には魔素溜まりが発生しとるのか?」

「はい、ありました。トリシアのギルド長さんと騎士の隊長さんは、水源地に邪竜がいて毒を撒き散らしているのでは、と言っておられました。私達は確かに邪竜を確認しまして討伐しました」

「水源地には、守護の精霊がいたはずだがな。いなかったか?」

「ギルド長さんは、帝国の聖女さんの一件をご存じないのですね。石碑の魔導具は取り外され、守護の精霊は聖女さんと契約を交わしたようです。必然的に守護はいなくなってしまいました」

「なんだ、それは。聖女がトリシアにてなにかしら面倒事をしでかしたとは、連絡があったが水源地の事迄はなかったぞ」

「情報規制だろうな」


 アッシュ君の説明に頷きます。

 柔和な感じな領主様でしたけれども、清濁合わせなければ統治は難しいかと思われます。

 どうやら、騎士の不始末だとは流せても、詳しい情報は流せることは出来なかったのですね。

 領主家の醜聞ですから、隠したかったのかもしれません。

 お話ししてしまうのは憚れます。

 けれども、アッシュ君から目配せがありました。

 これは、話せという合図ですね。

 では、お話ししましょう。


「シルヴィータの王族の方が聖女さんの騎士団に入られまして、乳兄弟の御領主様の御子息が聖女さんを水源地に案内したみたいです」


 なんだか、舌を噛みそうです。

 おじいさんの眉間に皺が寄せられました。

 そうですよね。

 シルヴィータは帝国とは不仲ですから、いきなり重要な場所に連れていく訳にはいきません。

 ましてや、水源地はトリシアだけではなく、近隣の農家さんには生命線です。

 本当に何を考えていたのでしょう。


「トリシアのギルド長さんのお話では、魔晶石を頻繁に取り替えなくてはいけませんので、財政難だとお聞きしました。御子息は聖女さんに助力を願いました結果が、今に至ります」

「確かに税金は高額な魔導具購入代として、ギルドも上納しとるが。ん? 邪竜はどこから来たんだ。精霊が封印でもしていたか?」


 ごもっともな質問です。

 口止めをされていましたが、トリシア近隣で起きた出来事の情報は、共有しなければ共倒れになってしまいます。

 犠牲者は少ない方が良いのです。

 決して聖女さん憎しではありません。


「帝国の落とし物。海からわざわざ取り寄せた」


 見も蓋もないリーゼちゃんの言葉です。

 ですが、概ねその通りです。

 帝国製の品々が物語っています。

 そして、トリシアには隷属状態な補佐官がいます。

 領主様の目の届かないところで、何かを画策していましたのは、間違いがありません。

 警告の意味を込めまして、トリシアで起きました一部始終をおじいさんに私は語りました。



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