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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
シルヴィータ編
20/197

第20話

金曜投稿です。

 領主様から教えていただいた神託の内容に、私は無関心をつらぬきます。

 豊穣の神子として発言を求められています訳ではないですし、神託の内容は当然の結果だと思われます。

 大地母神さまの加護持ちが寿命を全うされ、新たな加護持ちが誕生しない理由を、シルヴィータは理解してないと思われます。

 お気楽に待ち続けても無駄なだけです。


「君達は依頼を完遂した。ミラルカに帰るといい。領主権限で転移門の使用許可をだそう」


 重苦しい空気の中領主様が、私達の帰還を促してくださいました。

 ギルド長さんも頷いています。


「報酬はここに準備した。シルヴィータは揺れる。帝国の使者がトリシア異変の解決に名乗りを挙げたとの情報だ。直に聖女が再びトリシアにやってくるぞ」

「恥ずかしながら馬鹿息子もな。何を勘違いしたのか、闇の妖精族(ダークエルフ)が暗躍していると言い出した」

海の妖精族(メーアエルフ)の嬢ちゃんの情報を流したのはキャリーだ。人身御供にされかねん。一刻も早く帰還した方がいい」


 キャリーさんは、どこまでギルドに泥を塗れば気が済むのでしょう。

 話の通じない方々が大挙してトリシアにくるのですね。

 今度はラーズ君やリーゼちゃんが実力行使に及びそうです。

 坦々と報酬を受けとりましたラーズ君はなにやら思案の表情です。

 何か気になっているのでしょう。


「ラーズ。帰らないの?」


 立ち上がらないラーズ君にリーゼちゃんが声を掛けます。


「リーゼはセーラを連れて先にミラルカに帰還してください。僕はこのトリシアの顛末を確認してから帰ります」

「ラーズ?」

「ラーズ君?」


 珍しいですね。

 単独行動は過保護なラーズ君にしては滅多にありません。

 腹芸が出来ません私とリーゼちゃんのフォロー役のラーズ君は、いつも最善の道を模索していますから、疑問に思いましても反対はしません。


「了解した。セーラ連れて帰る」

「解りました。トール君への報告は任せて下さい」

「では、この書状は君に渡せば良いかな。是非、賢者殿に渡してくれ」

「わかった。必ず渡す」


 リーゼちゃんが書状を受けとります。

 パチン、と音が鳴りました。

 誓約の魔法ですね。

 約束は反古にしませんけれども、初対面ですから無理ありせんね。


「では、転移門まで同行しよう」

「いいえ、その必要ありません。先程のお話しを聞く限り、セーラを街中に出すのは危険なのでありませんか? 御領主様に許可頂ければ自前で転移します」


 ラーズ君の警告に苦い表情になる領主様です。

 神託も広まってしまいましたし、水の汚染に寄る疑心暗鬼に陥っています街中に、私という肌色の暗いエルフの登場です。

 悪感情が膨れ上がりますのも、時間の問題ですか。

 領主様の息子が私を悪だと決めつけてしまいましたら、評判はどうあれ人心はそちらに傾きますね。

 転移門の管理は国がしていますから、領主様の権限では難しいかも知れないとラーズ君は判断しました。

 領主様も暴動の懸念がありますので私を帰そうとしているとみられます。


「自前だと? 今は国全体に転移無効の結界があるぞ。引っ掛かりでもしたら、目的地処か牢屋に一直線だと思うが」


 普通の転移でしたらギルド長さんの言う通りですが、私達にはリーゼちゃんがいます。

 他力本願になりますが、リーゼちゃんの翼で空の側から結界の効果範囲外に出て転移すれば、楽に帰ることができます。

 本性が竜なリーゼちゃんに魔力貯蔵庫な私が揃いますと、大概な結界は穴あけして通り抜けできてしまうのです。

 ばれてしまいましたら、盗賊ギルド等の裏ギルドにスカウトされてしまいかねません。


「手順は教えて差し上げられませんが、トール先生お手製の転移石があります。非常手段ですし、使い捨てです。それに、誰かが残りまして起動させなければならないといけません」


 成る程、今回はその手を使いますのですね。

 非常用の転移石の扱いは敢えて難しくしてあります。

 そうしませんと、犯罪に使用されてしまいますから用心の為です。

 一般販売はしていません。


「申し訳ありませんが、人払いをお願いします。賢者様の名に賭けて御領主様には、危害は加えません」

「……彼の言う通りにしなさい」


 領主様が連れて歩くだけありまして、護衛の騎士さんは素直に部屋からでていかれました。

 ギルドの職員さんも続かれます。

 ギルド長さんは責任者ですから、見届ける義務があります。


「リーゼ、机と椅子を片側によせて下さい」

「わかった」


 ラーズ君の指示に従うリーゼちゃん。

 私は転移に必要な魔力を石に注ぎます。

 転移石の起動には、かなりの魔力が必要なのです。

 ラーズ君は残りまして敵情視察するようですから、魔力温存してください。

 リーゼちゃんが開けた空間に転移石を東西南北の位置におきます。


【転移石起動】


 ラーズ君の魔法言語に転移石が鈍く発光します。

 領主様やギルド長さんがラーズ君の一挙一動を見られていますけど、実は転移石には欠陥と秘密があります。

 魔力をたくさん消費する事と、あらかじめ登録された場所にしか転移出来ない事と、転移できる距離が短く二人までしか同時に転移出来ないのです。

 普段の私達には必要のない品でしたが、今回は擬装に使えます。

 ラーズ君の念話の指示では、転移石でトリシアをでまして、そこからはリーゼちゃんの魔法で転移します。

 足元に陣が浮かび上がります。


【転移開始】


 ラーズ君の言葉を合図に私とリーゼちゃんは水源地の泉がある森の中に転移しました。

 

「むぅ。やっぱりつかえない」

「時空関連の魔法は扱いが難しいですから。それに、誰にでも使えてしまいましたら、犯罪や軍事利用にされかねません」


 距離の短さに不満なリーゼちゃんですが、開発に関わりました私としましては、トール君を擁護したいのです。

 もともと、空間属性持ちは魔人族か天人族にしかいませんでした。

 混血が進み人族の中にも生まれてきましたが、いまだに稀少な部類にはいります。

 都市にあります転移門には、遺失技術が使われています。

 その技術を独学で試行錯誤して、簡易版な転移石を欠点だらけとはいえ、開発に成功したのですから褒めてあげてください。


「セーラの言う通り、トールを慰めてやれ。後、気を抜きすぎだ」


 シルヴィータにいるはずのない人の声に肩が跳ねました。


「痛っ」

「アッシュ君⁉」


 勢よく振り返りましたリーゼちゃんと私。

 パチン、とデコピンされました。

 力加減を間違えましたのか、リーゼちゃんが額を押さえています。

 私もそれなりに痛かったです。

 漆黒紅眼に魔角を隠しもせずに魔人族のアッシュ君の登場です。


「う~。兄さん、気配なかった」

「消していたからな。しかし、リーゼなら見抜けたレベルだ。油断大敵だぞ。」

「どうして、アッシュ君がここにいるのでしょう。先読みですか?」

「まぁな。シルヴィータの国で神子関連で善からぬ出来事がおきる、と情報があったから警戒していた。シルヴィータ入りはおれの方が先だ。トリシアに魔素溜まりが発生したから、潰しにきたのだがな」

「セーラの転移は兄さんも関わってる?」

「いや。おれはトールから連絡貰って驚いた。シルヴィータが、帝国に対して優位に立つには神子の存在が不可欠とはいえ、ここまで愚かだったとは目測を見誤ったな」

「ですが、猫君には関わっていますよね?」

「猫? あぁ、ジェスの事か」


 眠っています猫君入りのポーチを外して目線の高さにさしだします。

 私の身長は年相応にありますけど、アッシュ君とはかなりの身長差がありまして、必然的に見上げてしまいます。


「なんだ、起きてくれたのか。おれが見つけた時には外を怖がり、封印の内側に隠れてしまってなぁ。危険なんで相性が良さそうなセーラに任せておくか、と言う話になっていた。あの祠を大地母神の領域に書き換えたのはおれだが、いつセーラをつれていくかは決めかねていた処だ」

「シルヴィータがやらかしたのは、渡りに船だった?」

「それも、否だ。豊穣は実りの聖女がシルヴィータに滞在している間は、頑としてセーラを関わらせたくなかったんだ。しかし、今度の一件でそうも言ってられなくなった」

「何が起きているのですか?」

「実りの聖女がジェスを探している」


 はい?

 ここで彼女が猫君をですか?

 どう話が繋がるのでしょう。


「話が見えない」


 リーゼちゃんに同意します。

 アッシュ君の本業は魔狩りです。

 魔素に侵され墜ちた精霊や人族の手に負えない魔物を狩ります。

 時には、同族や天人族も狩ることもあります。

 猫君みたいに封印された土地を回り、魔素溜まりが発生しないように潰して廻る日々を送っています。


「ジェスは空間属性持ちだ。詳しくは言えんが、能力目当てな発言をしていたな」

「なんですか、それは。猫君を導具扱いですか」

「最低」

「あれに関わらない方がいい。脳内はお花畑だぞ。見目よい男を侍らして悦に入ってる女だ。あれを聖女に選んだ実りの感性を疑うぞ」


 アッシュ君がそこまで貶しますのは、それだけ理由があるのですね。

 関わらない様にしてましたが、そうもいかなそうです。

 それにしましても、聖女さんは何方から猫君のことを知ったのでしょうか。

 案外実りの女神の神託ですかね。


「アッシュ君は、私に聖女さんと関わらせたいのですか?」


 アッシュ君に聴きたいことは山ほどあります。

 猫君のことや、消失した精霊のこと。

 ですが、一番知りたいのは聖女に関してです。


「亜竜や、精霊の件だな。答えは是、だ。あれは継ぎ接ぎだらけの偽物だ。いずれ、否応なしに関わってくる」


 継ぎ接ぎだらけとはどういう意味でしょうか。

 聖女さんは、先天的に称号をもって産まれたと聞いた覚えがあります。

 才能が開花したのはここ数年で、御年は十代半ばだそうです。


「兄さん、偽物とはどういう意味?」

「言葉の通りだ。他者から能力を奪い、人生を奪った。その事実を理解している人間で、おれ達とは感性が違う生き物だ」


 アッシュ君の言葉に棘があります。

 余程気に入らない行動をしているのですか。

 トリシアの異変を起こしたのは帝国の人達ですから、他の土地でも自作自演をしていてもおかしくありませんね。

 そんな人達が訪れるトリシアにラーズ君を残して良かったのでしょうか。

 不安になってきました。



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[一言] お気に入りに干渉しても基本平等なのに邪神紛いの神、なんちゃって勇者や聖女が魔王になる話多くない?
2021/05/10 04:50 退会済み
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