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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
シルヴィータ編
2/197

第2話

 祠跡の周囲には精霊や動物の気配がありません。

 行儀は悪いですけど、豪快に神子の衣装を脱ぎ捨て着替えました。

 生なりのシャツに空色の膝丈上のワンピース。

 同系色のボレロを重ね、厚手のタイツとショートブーツ。

 私は視る事に特化した神子なので、腕輪と対に創られた指輪は、能力を抑制するものです。

 蝶を象った髪飾りは認識阻害と偽装が付与され、通信用の耳の形に添う意匠の耳飾り、複数のチャームが付いたチェーンベルト。

 右腰には小型のポーチが二つと、ヒップバッグに護身用の短剣。

 ポーチとバッグは空間拡張されているので見た目以上に物が入れられますが、こちらは主に出し入れが多い身分証や、調薬の器材とポーション類といった薬品が入れてあります。

 ミラルカの街では調薬師としてお仕事を頑張っています。

 最後に若葉色のフード付きケープを羽織れば準備万端です。

 愛用の武器は直ぐ腕輪から顕在できますので、今のところ必要ありません。

 神子の衣装を腕輪に収納したら探索開始です。

 けれども、祠跡に背を向け歩き始めて3歩目で、中途半端に機能している結界に行き当たりました。

 強引に通り抜けることもできますが、よく視てみると一定量の魔力を持つ何かが、結界を維持しています。

 荒れ果てているとはいえ、壊してしまっていいものなのか悩みます。

 しかし、耳飾りの通信は機能してくれませんし、連絡を取るには結界をではなくてはいけないのです。

 そんな時です。


『 森と海の娘。お願いがあります』

『情報を対価に助力を願う』


 結界の向こう側の木々の隙間から、大地と樹木の精霊が姿を見せました。


『何か御用ですか?』

 

頭を下げる精霊達に精霊語で私も返します。


『 この森は嘗て神域でした。しかし、強欲な人族に守護獣が狙われました』

『数に勝った人族に祠は荒らされ、守護獣を喪った男神もまた天上に去った』

『守護獣の仔が残されているのも知らずに』

『我々は結界に弾かれ手を差し伸べることができず、見守るしかなかった』

『大地の精霊王にも進言しましたが、神域を守護できなかった守護獣は必要ないと、男神の勘気に触れ封印される結果になりました』

 

幼い子供の守護獣が永い年月を孤独に封印されていたとは。

 なんて重苦しい話でしょうか。


『我々の話に耳を傾けて下さったのは大地の最高位にある大地母神』

『森と海の娘が拐かされよう時に、機会が恵まれたと避難の地にこの場が選ばれた』

『頼みます。あの仔を救って下さい』

 

再び頭を下げる精霊達。

 あのぅ。

  どうも人気のない場所にいるなぁと思っていましたら、そういう事情でしたか。

 これはある意味神子の試練ですね。

 ここで、守護獣の仔を見捨ててしまうと、逆に私が封印される結末になるかもしれません。

 神子稼業も楽ではありません。

 念入りに魔力の流れを調べてみると、祠跡には祭壇らしき跡がありました。

 その石組みを魔力を循環させた肉体強化で、少しずつどかしていきます。

 ものの数分で上部に穴が開きました。

 慎重に中を覗いてみますと、確かに複雑な魔法陣が幾重にも重ねられ、魔法の鎖で束縛された子猫がいました。

 眠っているのか瞳は閉じています。

 あれ?

 微かに震えていませんか?

 もしかして、怯えさせてしまいましたか。


「驚かせてごめんなさい。貴方を解放するように頼まれのですよ」


 できるだけ優しく語りかけてみますが、子猫は反応しません。

 魔法陣が発光しているので、中は真っ暗ではないはずでしたが、いきなり日の下に出すのはまずいですよね。

 バッグから数枚のタオルを出し、子猫の姿を隠します。


「今から貴方を縛る魔法陣を無力化します。少しの間身動きしないで下さいね」

 

なぁ~う。

 

人族より鋭敏な耳が、子猫のか細い鳴き声を拾います。

 了承の意味ではない気がしますが、構わず指先に魔力を集め魔法陣に触れました。

 束縛系の魔法は魔法式を一部消してしまえば、たちまち効果を失います。

 神子なだけに魔力量が豊富にある私だから出来る力業です。

 魔法の扱いに優れている魔人族に教えてもらいました。

 あとは子猫と結界を繋がるラインです。

 こちらは力業に頼る訳にはいけません。

 子猫に悪影響がないよう、ゆっくり丁寧に魔法式を書き換えてゆきます。

 神族が残しただけにかなり厄介な魔法式です。

 鑑定技能の上位技能解析がありませんでしたら、とても手に負えないものでした。


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