第15話
〈我はな。世界神と名を与えられたに過ぎぬ、世界の管理人よ。我に能力と役目を与えしは、我より上位の神々であり〉
世界神様より上位の神々がおられる事に、驚きしかありませんでした。
何故なら、世界を誕生させたのは世界神様であるが、この世界の常識であるからです。
ましてや、世界神様より上位の神々の存在がおられるなぞ、誰も疑問に思う訳がありません。
暫し、ティーカップを手に固まってしまいました。
〈豊穣の神子が驚くは、想像できる〉
「はい。初めて聞くお話にどう反応していいのか、分かりません」
〈さもありなん。我も、上位の神々より説明され、理解できなんだ。この世界は脆弱過ぎ、上位の神々が最低限の微細な干渉をするだけで、脆く壊れ易いと。故に、上位の神々が干渉できぬ世界は必要ない〉
「そのお話によりますと、世界神様より上位の神々様は、この世界を創造なさり、必要ないから見限られたのですか?」
世界を創造しておいて、干渉できないから必要ないだなんて非情、いえ些か傲慢ではないですか。
なら、何故に世界を創造されたのでしょう。
何の意味があって、世界を創造しようとされたのか。
また、必要無くなった世界を世界神様に押し付けて、維持させたのか。
ふつふつと疑問と怒りに似た感情が沸いてきてなりません。
〈彼の方々には、何かしら想いがあられる。然れど、この世界では庇護できぬと評価がくだされた。その庇護が何を意味するか、我は知らぬ〉
世界神様の表情が曇られました。
お言葉から察すると、上位の神々様は何か、誰かを庇護される為に世界を創造なされるも、庇護対象が世界に適応できないと判断され、新たな世界創造に移行されたのでしょうか。
それとも、上位の神々様が住まう神域に招く事になさったかですが、世界創造をなさったのが直接神域に適応されない理由となりますと、新たな世界創造がなされたと思われますね。
〈我が上位の神々より、この世界の管理人にと産み出されし時、世界は既に崩壊に近付いておった。我は問うた。消滅する世界に、我が産み出された意味は有るや、とな〉
確かに、世界神様が問い質すのは理に叶ってます。
いずれ消滅する世界に、管理する神を据えるのは不自然な行いですからね。
世界神様に与えれた命題が、世界の終焉を見定めるだけだとしたら、上位の神々様は本当に悪質な神々様です。
世界を創造し、意義が見出だせないから放棄し、管理人となる神を据えて、ただ崩壊を、終焉を監視させる。
分かりきった結末を把握されているなら、自らの干渉で世界の終焉を早めて後始末されれば良かったですのに。
〈我の問いに、彼の方々は応えはくれぬ。故に、我はただ見るしかできぬ。苛立ちし感情を得た我は、彼の方々に対し、我の権限すべてをかけて盛大に反抗的行動を取る。我は、彼の方々に敵意ありとみなされ、すぐさま権限を剥奪し、この世界と共に消滅を願われた〉
世界神様はグラスを傾け、一息に飲み干されます。
推測になりますけど、世界神様は反抗的行動を取ることで、崩壊に至る世界の消滅を自身と共に早めてしまおうとされたのでしょうか。
創造された上位の神々様が放棄された世界でしたから、当時の世界に生命体が存在していたなら、それは過酷な環境で日々を過ごされていた訳ですし。
消えゆく見放された生命体を思えば、自然崩壊に至る時間を掛けずに、世界の終焉を願っても仕方がない結果に行き着いてしまいます。
そうして、世界神様は反抗的行動を取り、この世界と共に消滅を選択し、期待どおりの対処がなされるはずだった?
〈ほんに、我も驚愕した。我が上位の神々と認識した彼の方々より、更に上位の神々がおられるとは一欠片も思わぬ。また、この世界が更なる真に上位の神々が創造されておられる世界の模倣であり、真なる上位の神々の愛し子を掠め取ろうと画策されておったともな〉
「それでは、世界神様が上位と思われていた神々様も、世界神様同様に更なる上位の神々様から産み出されていた方々だったのですか?」
〈然り。それも、我と等しく管理人となるべく産み出されし神であった。真なる上位の神々曰く、彼の方々は人種であれば負の概念を司る神の性質故に俗物的な野心を持ち、親たる真なる上位の神々の地位を狙い、下克上を果たそうとされておりし。その後の彼の方々の末路は、この世界が存続しておる修復の源とされた点だけ述べておく〉
何だか、混乱してきました。
要するに、この世界を創造された上位の神々様で世界神様を産み出された方々も、階級は世界神様と等しく下位の神々であられたという事になるのでしょう。
世界神様が御身をなげうって訴えた行動が、真に上位の神々様のお目にとまり、模倣な為に脆弱過ぎて放棄された世界があることが認識され、明るみになった。
真なる上位の神々様は、無慈悲な神々を罰し、模倣された世界の存続の糧とされ、この世界を見捨てられなかった。
こうして、真なる上位の神々様の恩寵で、私達の現在に繋がる未来が世界神様の願いを含めて叶われた。
〈この世界は救われた。然れど、真なる上位の神々もまた、世界を創造途中であり。結果、我の権限が管理人から世界神へと昇級し、創造の権限も知識も付与される。我は、喜んだ。世界は救われる。僅かながら生息する生命体を救えると。それが、いけなんだ。我は、間違えた。我を産み出しし、彼の方々と同様な間違いを侵した〉
救われたはずの世界に、救うはずの生命体に、争乱の種を植え付けてしまった。
世界神様は、懺悔なされます。
過酷な環境であった世界を生命体に害をなさない環境に適応され、糧となる植物や動物を創造された。
付与された知識も惜しみ無く生命体に伝授し、生命体自体も暮らしを豊かにする道具を創造された。
いつしか、個であった生命体は集団となり、国とはいかないまでの集落が多々できるようにまで発展していかれた。
〈さすがは、世界を修復の源となりし彼の方々は神であった。過酷な環境で生息していた生命体に、我は協力協同共存の和が芽生えるを、期待した。が、逆に不和不仲の猜疑心が生命体の精神に宿る結果となりしを知り、おのが間違いに気付いた。我が眷属神を産み出し、世界を安定、発展させようと、余所事に目を向けておった隙に、眷属神も階級付けに腐心しおり、地上は眷属神の代理争いの場になっておった〉
神代の時代の代理争いは、御伽にもなっています。
ですが、その時代では世界神様は既に眠りについておられたとありました。
神国が歪曲したか、第三者が捏造された御伽だった可能性が高そうです。
あれ?
もしかしたら、私の前世も関係していたりしますか?
〈豊穣の神子。汝の疑問は正解であり、否定である。当時の時代、汝は豊穣の愛娘ではなく、生命体が崇める樹木なり。生命体の祈りにより、樹木は自我を発露しかけ、代理争いの過程で消失した。哀れみ愛しんだ豊穣が、愛娘として汝を産みしは代理争い後。我は、争い続ける眷属神を残し、一度世界を巻き戻す〉
ええと。
代理争いの時代では、私は樹木であり祈りの対象でしか無く、存在はしていても知的生命体ではなかったのですね。
披露されるお話に、混乱しつつ少しずつ理解していきますが、暴露される内容にまたもや混乱させられました。
世界の巻き戻し。
発展していた世界を元に戻した選択は、世界神様にとりましても苦渋の選択だったかと。
御身をかけて救おうとした世界が誤った道に進まれていき、どれだけ葛藤なさったか計り知れないです。
良かれと思われた行為が、他者の足枷となり、苦境に貶める原因となる事案は、私達の身近にも起きていますから。
ですが、私達には世界神様が行われた巻き戻し等は出来ないです。
被害に遭われた方の手助けも、して良い場合と駄目な場合もあります。
偽善者気取りな救済は、身を滅ぼしかねない事実をアッシュ君やトール君から幾度となく言い聞かされてきています。
私個人が出来る事と言えば、適正価格でポーションを販売継続するだけと、隠蔽されている神子のお役目を果たす事。
〈豊穣の神子。汝に何ら瑕疵は無し。我等、神が引き起こし争いもまた、模倣された世界の欠陥に付随して起きし事案。我は、眷属神に命ず。欠陥を無くならない限り、知的生命体を世界に産み出さぬ。我が生命体に伝授した知識は、無に帰させた。永き時過ぎ、漸く知的生命体を世界に産み出せる許可与えし。が、我もまた、数多の感情を、負の概念を得た。ゆえに、我は世界を二つに別けた。数多の種族が生息する大陸と、一つの種族が生息する大陸と。我は、再度誤った〉
世界神様は俯かれました。
下克上を狙う神々が模倣した世界は、その神々が秘めた野心も世界の理に組み込まれていて、世界が発展するにつれ野心的な精神が生命体に広まりゆく流れの欠陥が発見された。
ですが、その欠陥を取り除くまで永い年月が過ぎ、彼の方々が世界神様より上位の神々であった事実を忘却されてしまった。
数多の種族が暮らす大陸は、世界神様が希望された協力協同共存の和の道をいき、一つの種族の大陸は修正したはずの他者を妬み、より上位の座に執着する種へと変質された。
そして、世界神様の想定外の交流が二つの大陸に起きてしまった。
一つの種族の大陸から排除された人間種族を、数多の大陸の種族を守護する神が庇護する種族を通じて招いてしまわれた。
再度の巻き戻しをなさない為に緩やかに発展させていた数多の種族が暮らす大陸に、爆発的な人口増加する人間種族によって無くしたはずの危険思想の因子が芽生えてしまう。
〈協力協同共存の願いは、帝国となりし人間種族の思想により、駆逐されし。我は、嘆き悲しみ、諦めを選択す。我の神子の苦言を無視し、眠りについた。我は、世界を創造した彼の方々と等しく、放棄を選択す神託を下ろす。結果、汝豊穣の愛娘の犠牲を生み、汝の忠実な友殉死し、汝を主とする牙持ちは神殺しに至る。我は、我の存在を否定す。神殺しを待つ。然れど、真なる上位の神々は我に罰を与えたもう。我の罪は、真なる上位の神々が定めし世界の終焉の時まで、存在すること。最早、世界神と名乗れぬと知る。が、我を諭す真なる上位の神々の一柱の慈愛に触れ、我も一欠片の慈愛を世に送り出す〉
アッシュ君の事ですね。
世界神様は神子の誕生を認められず、大陸は瘴気の毒が浄化されないまま蔓延していき、人間種族が数多の種族が生息する土地を奪うことで生息圏を脅かしていっています。
そうした過程で滅亡した種族が増大し、私の今世の両親の種族の片方は帝国によって滅亡しかけています。
魔王様が数少ない生き残りを保護されているのは、アッシュ君から聞いて覚えていますけど。
私の片親の身内はもう一人もいなくなってしまっていました。
海の妖精族は滅亡するしかないことを理解しています。
世界神様がもっと早く、代理者たりえるアッシュ君の存在を誕生させていたなら、ともたらればをらしくもなく頭の隅をよぎりますが、どう足掻いたとしても過去は返りはしないのです。
ごめんなさい、世界神様。
今だけ、今だけは世界神様を恨んでしまう気持ちを許してください。
一滴の涙が溢れ落ちていきます。




