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第12話 マギー視点

 神国。

 かつて、お姉様が(わたし)に語ってくれた、他種族の垣根ない平穏で安寧な暮らしができる理想郷を、あの裏切り者が平穏な世界を羨む神々の派閥と手を結び、建国された忌まわしき国。

 何が、他種族が手を取り合い、笑いあい、共に支えあい、諍いのない平和な国だ。

 御大層な事を言ってはいるが、裏切り者の子孫がしてきた事は、他種族を迫害し絶滅に追い込んだ帝国と同じ穴の狢だ。

 神々の権能の一部を借り受け、弱者を癒し、言葉巧みに信者として取り込み、金銭をむしりとり、弱者種族や人間種族を利用して、神々の権威を見せつけるかの如く、荘厳で華麗な神殿を建設した。

 そして、あの裏切り者は神々の代弁者たる資格があると宣い、神皇を僭称し、人間種族や他種族の支配者となろうとした。

 当時の妾は、まだお姉様に保護された幼生体であったが為、保有していた能力をうまく使えず足手纏いな存在だった。

 故に、お姉様が罠にかけられた瞬間、お姉様は妾を逃す事を優先した。

 妾を優先しなければ、お姉様は母神様の元へ逃れる事ができた。

 が、母神様の元に逃されたのは妾だけで、従者の二人は自決され、友であった他の神子様もお姉様を救う邪魔をされた。

 妾がお姉様の母神様に保護され、匿われた頃にはお姉様は既に裏切り者の虜囚となる身を拒絶し、裏切り者を支援した神々の残酷なまでの選択を強いられ、ある意味自決したような結果だった。

 お姉様の母神様は大地母神様に連なる神であり、大地母神様や姉妹神様方はお姉様が自決しなくてはならくなった事態に激怒された。

 大地は揺れ、ひび割れ、豊穣の実りは喪われ、大地に根付く生き物達は、大地母神様派閥の神々の怒りに恐れおののいた。

 が、そんな大地で唯一被害にあわなかった土地が神国であったせいで、神国の名が大陸に響き渡る結末に繋がったのは誤算であったようだ。

 というのも、神国が唯一被害にあわなかったのは、偏にお姉様の御遺体を利用して聖域結界が敷かれたからだ。

 まさか、お姉様の御遺体をそんな方法で活用されるとは、大地母神様派閥も露にもおもわなかっただろう。

 お姉様の母神様も、御遺体を取り返そうと試みるも、神国の聖域結界の要にされた点と、裏切り者を支援した派閥の神々の思惑もあり、今日まで取り戻す事は叶わなかった。

 妾も幼生体から成体に進化してからは、保護していただいたお姉様の母神様の元を辞し、幾度と御遺体を取り戻そうと手を尽くした。

 けれども、神国に敷かれた聖域結界は、裏切り者の子孫を害する意思を持つモノを弾き、神殿ではなく神国の地に妾や妾の眷属は一歩も入れないでいた。

 ならば、次に妾がした事は、裏切り者の子孫を害さない意思を持つ信者に、囁きかけた。


「神国が目指す理想郷とは何か? 真に他種族は争わず、身分の上下なく存在し、平等であるのか?」


 裏切り者の子孫は、己れが支援する神々の選民思考に染まり、信仰心ではなく金銭で聖職者の上位の座に就いていた。

 そうして、特権階級の身分を振りかざし、下位の聖職者の手柄を奪い、己れの名声と称賛を声高に喧伝する。

 まだ、あの裏切り者が生存していた時代は、他種族の聖職者でも上位の座に就いていた。

 だのに、いつしか裏切り者の子孫だけが、上位者となっていた。

 そんな神国の有り様に、疑問を抱く者達は少なからずいた。

 妾の預かり知らないところで、裏切り者の子孫に対抗する派閥がマグノリアの一門と称していたのには驚いた。

 妾は、ただ囁いただけ。

 まあ、運良く神国が揺らげばいいとは思った。

 しかし、妾のそんな行動を良く思わない神々がいて、裏切り者の子孫に神託を与え、妾は罠だと知りつつも奴らの意にそった。

 お姉様の御遺体を使った人造の神子誕生の狙いは、意図しない異能力者誕生となった。

 裏切り者の子孫は、自分達の血筋に箔を付ける為に、神託のなすがまま受け入れ、異能力者や異形の存在を産み出し、制御できないモノは帝国が邪法を使い、神国同盟国を進攻してきた証だと断言した。

 無論、帝国側も馬鹿ではない。

 異形の存在は帝国でも暴れ、甚大な被害を出していた。

 異形の存在の根元を突き止め、神国の非難声明に反論した。

 そうなると、後は口喧嘩の連続となり、収拾がつかない大騒動にまで発展した。

 妾は、そんな異形の存在となった巨人の身の内に、お姉様の御遺体の心臓があるのを発見し、どうにか取り除けないか躍起になっていた。

 その時期に、妾は世界神様の欠片を抱く神魔の青年と、歪な黒を持つ天人の青年二人と出会った。

 青年組もまた、お姉様の御遺体の心臓を奪取しようとしていて、妾は敵対した。

 詳細は語りたくないので省くが、その後黒の天人とは仲違いしたまま、妾は巨人を封印する役を背負わされた。

 裏切り者を支援した神々は妾の存在を嫌悪したからだが、妾にはお姉様とお姉様の母神様の加護があり、そのおかげで嫌悪する神々も妾を処分する事が叶わないでいた。

 また、本来ならば封印する場は深海海底の地となるはずだっだが、大地母神様の横槍で秘境地の魔王領の外れ地が選ばれた。


 《世界神様からの進言があり、その役目を数百の年月、反抗せずやり通せ。ならば、そなたの愛しき彼女に再度出会う事叶う》


 大地母神様からのお言葉に、妾は素直に従った。

 お姉様に再び会う事が叶うならば、どんな試練でもやり通してみせよう。

 妾を嫌悪する神々は、封印状態にありながら妾の意識を中途半端に覚醒状態にし、妾が封印の条件に約した誓約を破棄したならば、妾を処分しようと目論んでいた。

 妾が封印の要になった日より、妾を嫌悪する神々は数多の手段を用いて、妾が封印を放棄するよう画策したも、妾は全てを無視した。

 役目を全うすれば、お姉様と再会できるのだ。

 その日を待ち望む妾は、無関心でいられた。

 だが、もう幾数百年経ったが分からない年月を得たある日の事。

 懐かしいお姉様の悲鳴が聞こえた気がして、眷属を向かわせた事があった。

 眷属の視界を通して妾が見たのは、紛れもなく見間違う事ないお姉様の魂の輝きを持つ新しい種族の幼子だった。

 両親らしき妖精種の男女に庇われ、今まさに命を喪いかけていた幼子を助けんと、眷属を総動員して助けた。

 妾もその場に駆けつけたかったが、


「マグノリア。まだ再会の時期ではない。今、お前が封印を破棄すれば、あれ等はお前を処分する。今しばらくは、待て」


 神魔の青年に諭され、妾は幼子のお姉様が保護されるのを見守った。

 以降、神魔の青年は度々、お姉様がかつての従者の方々と再会され、健やかに成長されていると報告に来るようになった。

 また、大地母神様からも、今しばらくは待つ事を請願された。

 ならば、妾はただひたすら待てばいい。

 お姉様は、再びこの世に顕現されたのだ。

 再会が叶うのならば、待機は厭わない。

 そうして、そうして、念願は果たされた。

 お姉様。

 お姉様。

 妾を保護され、慈しんでくだされたお姉様と再会が叶った。

 従者の方々も、今生のお姉様と同じく両親を亡くされたが、お姉様とは血の繋がらない兄妹として傍らにおられた。

 それから、お姉様の友であらせられた神子様も、役目を放棄する代わりに神獣となり、お姉様の召還獣となる道を選ばれた。

 妾もすぐさま召還契約を結び、お姉様の今世が定められた寿命を全うするまで害悪な輩は全力でもって排除する所存だ。

 そんな矢先、神国がお姉様を確保するべき挙兵された。

 先鋒たる諜報員は捕まえ、お姉様の御遺体の一部は先の巨人の一部と同じく奪還できた。

 妾は、お姉様が拠点とする都市で神国を迎え撃つつもりでいたが、神魔の青年に神国に連れて来られた。

 どうやら、神国を根城にしていた裏切り者をしていた神々が、世界神様から権能を剥奪され神格を落としたそうだ。

 妾を弾く結界は無くなっていた。

 その隙を見逃す大地母神様派閥ではなく、彼の神々は神国に対して神罰を下した。

 数度目にした、神国の象徴ともいえたあの当初は荘厳華麗の言葉で済んだ神殿は、妾が封印されている間に改修され華美で下品な神殿に様変わりしていようだった。

 大地の神々の逆鱗が爆発した結果、その神殿は見る影もなく大地の奥底に飲み込まれ、倒壊していた。

 清廉潔白が常の聖職者が、倒壊場所から高価な品々を発掘しているのには、浅ましいとしか思えない。

 神魔の青年も地中を睨み、何かしらの魔法を行使した。

 すると、目の前に出現したのは、かなり損壊していたお姉様の結晶化した御遺体だった。


「マグノリア。お前が、この遺骸を豊穣神へ返してやってくれ。おれが預かると、力の差でこれ以上細かく損壊する畏れがある」

「承知致しました。そのお役目、謹んで拝命致します」


 お姉様の母神様より授かった保管方法で、お姉様の御遺体を収納する。

 と、背後で怒鳴り声が、複数あがった。


「き、貴様ら! 何をした。あれは、我が神国の御神体である。ただちに、我に返すがいい」

「喧しい。咎人の分際で、過去の忌まわしき歴史を解釈間違いした愚者どもよ。世界神ならび、大地母神派閥の神々の神罰を生涯かけて償え。世界神より、神国の腐敗極まりない悪質な行為に、世界神は神国を見限った。新たに神の代弁者たりえる人物が、世界神より任命される。

 貴様らは、伏して罪を償うがいい」


 普段は魔人族の姿でいる神魔の青年は、神族の姿に変化して、世界神様の代理者たりえる威光を見せつけ、断言した。

 後日、あの難癖つけてきた一団に、裏切り者の子孫がいたのを教えて貰い、妾も断罪したかったのは言うまでもない。

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