第11話
神国が信仰する神々から神罰を受けた。
その情報は、瞬時に大陸中を駆け巡りました。
どうやら、神々様方が、守護を授けている国にじかに神託をおろしたようでした。
「ん? 悪い、喚ばれた。少し、マグノリアを借りる」
「あっ、はい。いってらっしゃいませ」
ミラルカの教会が倒壊した後始末に終われていたアッシュ君も、どなたかの神様に喚ばれて出掛けていきました。
マギーもご指名だったみたいで、半ば拉致同然に意思確認せずに、強制的に連行していってしまいました。
〔うわぁ。あっち、何か大変面白い事になってるなぁ〕
〔でしゅの~。でも、当然な結果でしゅの~〕
ジェス君とエフィちゃんは、何やら通じあって感想を述べています。
神国側の結界が消失した為、神国がどうなっているか視えているとの事でした。
尋ねたら、教えてくれました。
「んで? あっちは、どうなってるんだ?」
トール君も気になったのか、倒壊現場近隣に臨時に設置した救済施設の一室で、忙しい最中漸く取れた休憩時間で一息ついている間も惜しむかの如く情報を求めてきました。
ミラルカに神国の神兵騎士団が攻めてくると一報が入った時点で、非戦闘員の住人は避難させてありましたから、住人が怪我をしたといった被害は軽微でした。
けれども、ミラルカにも神国の教会を拠り所にしていた住人もいて、倒壊した教会に所属していた聖職者の身の回りの世話役だとか下働きしていた方は、頑なに避難に応じないで残留していました。
その為、倒壊した教会の建物に巻き込まれているのではと、危惧されていましたが。
建物は被害甚大でしたものの、人的被害は皆無だったのでした。
まあ、その代わりに精神的疲労を負ったのですけどね。
教会の聖職者と従事する方は、倒壊した建物の破片が降り注ぐ中、淡い光に包まれて護られていたのは確認されています。
しかし、倒壊した建物の破片にいつ押し潰されてしまうかといった恐怖を、救助させる時間耐えなくてはならない状況になり、心酔する聖職者に助けを求めるも、聖職者達も神の代弁者たる資格と権限を喪い、どうすることもできない苛立ちを弱者にぶつけていました。
彼等にしてみれば、心酔する神国の聖職者の意のまま寄付し、賃金なく下働きしてきた自負があり、災禍には一番に守護される立場にあると思い込んでいただけに、見放されたも当然な見下しの言動と、騙されていた真実が明るみになり、自暴自棄な精神状態に陥っていました。
それから、救助にきた警邏隊や派遣されてきた冒険者ギルド所属の冒険者や職員達に、礼もなく自分を優先に救助するよう浅ましい崢いをやらかした聖職者達を目の当たりにして、見限りを決意し、評議会が設置した救助施設にこぞって、教会の不正を暴露しました。
そうした事情もあり、評議会は一議員の手に余ると判断して、評議会議長のお出ましを願い、トール君が事態の収拾に奔走する事になりました。
本来なら、警邏隊責任者のアッシュ君もいないとならないのでしたが、喚ばれたと戦線離脱。
負担はトール君に被さる羽目となり、何故か私達クロス工房年少組も駆り出される事に。
いえ、私は救助する側の皆さんが怪我をした際の治療薬提供として。
ラーズ君とリーゼちゃんは、人命救助のお手伝いにとしてです。
まあ、リーゼちゃんは私から離れるのをかなり渋りましたので、私も救助のお手伝いはしました。
私がどこに救助させる人がいるか捜索し、リーゼちゃんが力業で建物の破片を取り除く役割りでした。
ラーズ君は、水魔法を極めた魔法使いさんと組んで、火災を鎮火させる役割りを担いました。
そうした尽力をつくして、粗方の人命救助は終了となり、現在は休憩時間となったのです。
〔んー? 大地の神々と仲良い神々が、神皇になった馬鹿な人の世迷い言に突っ込みいれてたり、茶化してたり、事実を暴露したりしているよ〕
〔でしゅの~。それから、アッシュ兄さまとマギーが、悲願達成を果たしていましゅの~〕
〔悲願っていうか、奪還? あいつらが、好き勝手やらかして損壊していた、セーラちゃんの前世の遺骸を取り返したの〕
〔豊穣神様に、漸くお返しできましたの~。あっ、でもでしゅの~。セーラしゃまが、神子なのは代わりがないでしゅの~〕
そうジェス君とエフィちゃんに説明されて、マギーを連れていった訳が分かりました。
私の前世の遺体とマギーが回収した遺骸の一部を、豊穣のお母様にお返しに行ったのですね。
お母様の愛情は疑いなく、この身に受けてきましたけど。
お母様にとりましては、愛娘の遺骸を取り戻す事が叶わなかった悲願が達成できて良かったと思います。
ああ、ですけど。
どうして、前世の私の遺骸は取り戻せなかったのでしょうか。
「ジェス君。私は前世の記憶が全くないので疑問ですけど。私の前世の遺骸は、どうしてお母様の元になかったのでしょうか?」
〔……〕
〔……〕
湧いた疑問を単純に考えず、口に出してしまったと後悔しました。
私の両肩にいたジェス君とエフィちゃんは、沈黙してしまったからです。
トール君も知りえていたのか、静かに視線を逸らさています。
「セーラ。何か、僕達に明かせない事情があるんでしょう。聞かないであげた方が……」
〔ううん。マギーがいなくて良かったな、と思っただけだよ〕
非常に気まずい雰囲気を読んだラーズ君に嗜められかけて、ジェス君に取り直しされます。
ジェス君とエフィちゃんが肩から降り、私は眼前に浮かびあがりました。
〔あのね。ぼくとエフィとセーラちゃんは、前世の時代は幼馴染みだったんだ。ぼくは時空神の神子で、エフィは世界神の神子だった。神子だったから、天上世界に在らず、地上世界の安定と調律を使命としていた〕
〔ラーズ兄しゃまとリーゼ姉しゃまは、神子専属の従者であり騎士でしたの~〕
〔マギーは、セーラちゃんが助けたの。インセクトクイーン種は、同種族で争い一番の強者だけが生き残れる理だったんだ〕
〔でしゅけど~。当時は、他の大陸から流されてきた人間種族が、数少ない人間種族が生存できる領土権争いをおこしていて、大陸中に大規模な瘴気が発生して、それを浄化するのが大変でしたの~〕
〔マギーはそんな人間種族の争いに巻き込まれて、インセクトクイーン種自体が絶滅危惧種になったの。それで、マギーは産まれたててすぐに、人間種族に駆逐されかけて助けられたの〕
〔でしゅから~。マギーはセーラしゃまに、姉として母として慕われたでしゅの~〕
〔それが、気にいらなかったんだよ。あの裏切り者は〕
〔あの馬鹿は、人間種族でしたけど~。やけに、セーラしゃまに執着してましたの~。セーラしゃまの一番が自分でなくてはならないと、馬鹿な考えで兄しゃまや姉しゃまを罠に嵌め、マギーを人質にとり、セーラしゃまを独占しようとしましたの~〕
〔ぼくとエフィはちょうど違う場所にいて、急に途絶えた神子の同調を不審に思い、駆けつけたの〕
〔あの日の出来事は、一生忘れてはなりませんの~〕
ぽろぽろと、悔しい気持ちからか、ジェス君とエフィちゃんが涙を溢します。
当時の記憶が全くない私には計り知れない出来事を思い出させてしまいました。
泣きながら、途切れ途切れに説明は続きます。
前世の私は神子の使命を至上とし、その至上使命に固執して、私を求めた裏切り者の手を拒み、前世のラーズ君とリーゼちゃんを見殺しにしてしまった。
ただし、前世のラーズ君とリーゼちゃんは、私の足手纏いとなったのを恥じて、自害を選んだので見殺しにしたのは少し意味が違うとのこと。
ですが、眼前で二人を死なせたのは事実であり、私の神子のあり方に世界神様が罰を与えた。
つまり、神子の使命剥奪と永き眠りが、罰として身にくだりました。
ジェス君が言うには、前世の私の身体は綺麗な水晶体に変換されたそうです。
そうして、一番瘴気が濃い土地に据え置かれ、浄化をし続けるのが世界神様の罰でした。
〔でも、あの裏切り者は、それでも諦めなかった。浄化が終われば、セーラちゃんは戻れるはずだった。だから、豊穣神も地上世界に愛娘が必要とされるのを了承した〕
〔なのに、なのに。あの馬鹿は、その状況を利用したでしゅの~。水晶体の神子を野晒しにはできないと、セーラしゃまを騙したのを隠して、勝手に宗教国家を樹立しましたの~〕
〔その頃には、裏切り者もかなりな歳で老いていたよ。でも、執念は凄まじかった〕
〔人間種族でしゅから、寿命がありましたの~。それを、神子を託されたからとか、世界神様がお眠りになっているのも相成って、エフィも騙されてしまいましたの~。でしゅから、エフィも神子でいられなくなりましたの~。ああ、でしゅが~、その事は別にどうでもよいでしゅの~。エフィの~、自業自得でしゅから~〕
〔エフィも神子でいられなくなって、世界神様も流石に起きてこられて、裏切り者の策略に気付いたんだけど。もう手遅れな状態になっていたの〕
すなわち、裏切り者とされる輩に入れ知恵した神々がいた。
世界神の神子をも嵌めて、権能を奪取したのに成功した裏切り者は寿命ある人間種族を止めた。
精神的生命体になり、自身の血族の誰かに憑依し、器を奪い、神皇を名乗り、私の復活を待った。
けれども、それは世界神様に見破られ、水晶体になった私の身体から私の魂を乖離させ、輪廻の輪に戻し、豊穣のお母様には再会を約定した。
魂が宿らない無機物になった前世の私の身体は、大地母神様へ返納させるも、裏切り者は反発した。
また、既に宗教国家となった神国の結界の礎になっていたのもあり、返納すれば神国が消滅する。
となると、信仰の聖地と成長した神国を惜しんだ神々の思惑も重なり、前世の私の遺骸は神国に留め置かれる事が決定してしまった。
これにジェス君が逆に猛反対して、信仰を欲した神々に神子の座を取り上げられた。
奇しくも神子の座を喪ったジェス君とエフィちゃんは、代償を支払い世界神様に訴え、願いを叶えて貰った。
私が再び地上に神子として現れる時を待ち、ラーズ君とリーゼちゃんも同時に復活させて、裏切り者に制裁を下す。
マギーは難を逃れて復讐の機会を伺い、隠棲した。
そして、何らかの伝達ミスにより、前世の私の遺骸を利用した人体実験が行われ、孤独な回収をしていたも、世界神様を引きずりおろそうとしていた神々の目に止まり、暴走したあの巨人を封じる要にされてしまった。
「実はな、セーラの前世には親父が関係してた。親父の日記には慚愧の念一杯な文章が綴られていた。アッシュも世界神の代行者として、色々後始末何だと追われていた。だからかな、アッシュがセーラやラーズやリーゼを拾ってきて鍛え始めた時、俺がしてやれる事は居場所を作り、有事に備えて一人でも生きていけるようにしてやるしかないかなと、考えた。まあ、今じゃあ、お前達は立派な俺の弟子で大切な宝である子供だ。なんで、神国なんかにやれるかっての。いいか、お前達はまだ子供なんだ。俺達から巣だった訳じゃないし、独立を許した訳じゃない。勝手に、いなくなったりするなよ」
宙に浮くジェス君とエフィちゃんと、私達を両手一杯に抱き締めて、トール君は宣言しました。
はい。
私達も、分かっています。
トール君やアッシュ君や、職人の保護者様達から、どれだけ愛情をいただいているか。
両親を失くした痛みはありますけど、皆さんに出会えて良かった。
ラーズ君とリーゼちゃんとも出会えた未来をくれた、ジェス君とエフィちゃんに感謝します。
ありがとうございます。




