第10話 他者視点
神皇視点です。
何回も同じ稚拙な言葉が入るのは、仕様です。
それだけ、神皇が混乱しているのと、一族が偉いと勘違いしているからです。
何故だ。
何故だ。
何故に、神々の代弁者たりえる我々が、神罰を受けねばならないのか。
漸くあの忌まわしき制度を覆し、愚鈍な輩から神国の神皇の座を取り返した偉大なる尊師たるアンゲメサール一族の私が神皇に就任し、腹心の司教や司祭に祝福され、信者達に御披露目する、我が一族の耀かしい栄光の歴史を取り戻した記念の日となるはずだったのに。
われんばかりの拍手と偉大なる我が一族を賞賛する信者達に囲まれ、我が一族が惜しみ無く財産と人材をつぎ込んで築いた神秘なる神国の象徴である本教会が、神皇である私が偉大なる祖の方々に並び尊き身となった事を祝福され、耀かしい我が一族の歴史がまた繋がるよき門出の日に。
私が神国の国民や祝福に訪れた各国の要人達に、歴史に名を残す演説を披露する場で。
何故に、本教会は地の底へと崩れ落ちねばならなかったのだ。
『愚者よ。聞くが良い。これは、神々の総意である神罰である。速やかに、遥か過去から続く神国を支配する一族に対する報復よ。我等、神々の一族は神国の祝福を過ちと認める』
違う、違う、我が偉大なる建国の尊師たるアンゲメサールの一族は、神国の神皇の世襲制度が廃されるまで、神々から寵愛深き加護を誇りに、神々の偉大なる威光を大陸に知らしめていたはずなのだ。
我が祖父の代にて、我が一族に産まれながら神力の欠片も持たない祖父の異母弟が、我が一族の秘密を暴露したせいで、アンゲメサールの一族は神皇の座を追われていたが、私があの愚鈍な輩どもに制裁を与え、過ちは正したのだ。
元々、我が一族は偉大なる尊師と神の愛娘たる神子の血脈故に、聖なる属性を有し、聖人や聖女を代々数知れず輩出してきた名誉ある一族だ。
『阿呆め。そんな事実はないわ』
また、我が一族が信仰をあまねく広める為に各国へ布教に訪れれば、神の血脈を有する我が一族にその国の王すら恭順するのだ。
我が一族を寵愛してくださる神の権能を代行してみせれば、我が一族を貶した国は衰退していき、荒れた国民を助けるべく救いの手をさしのべてやれば、誰もが我が一族の尊さと優しさに涙し、神国は憎き帝国と比肩する大国となった。
それら全てが、我が一族が成した栄光である。
『阿呆め。それも、間違いじゃ』
神々の寵愛深き偉大なる尊師と、神の愛娘である神子の血脈を引く我が一族こそが、大陸の盟主の座にふさわしい一族なのだ。
『誇大妄想も、ここまで肥大すると道化でしかないわ』
そんな我が一族の耀かしい歴史上唯一の汚点が、祖父の異母弟だった。
祖父と異母弟とはかなり年齢が離れていて、事情を知らない他者からは親子に見えていたと聞いた。
異母弟は、我が一族が祖たる尊師から伝承され継承されてきた秘技を、神の逆鱗に触れる悪しき邪教の儀式だと宣い、一族から追放された。
『うむ。あの者は真に神皇の資格ある者であった』
当時の神皇であった祖父の代に、我が一族が願ってやまない最も神の寵愛深き神子が誕生し、直ぐに身柄を保護し、神国の新しき象徴として神皇と共に、神国のますますの発展となりうる存在となるはずだった。
しかし、何故か神々は神子の保護者に、双黒の賢者と最強の名で知られる狂暴な輩達を指名した。
無論、祖父は神子が世俗にまみえ穢れると神々に訴え、両者から取り返そうとしてやりすぎはしただろう。
だが、あろうことにも、異母弟と両者が手を組み、神国の暗部を公開してしまった。
内容は、神国の建国に尽くした神の愛娘の神子の聖遺骸を使い、人工的な聖人や聖女を作り出し、非合法な人体実験を非道に行い、表向きは他種族排斥はない神国が他種族を奴隷以下の扱いをしていると、嘘満載な情報を盛大にばらまいた。
当然、根も葉もない作り話である。
が、それに食いついてきた帝国の横槍の対応に追われていたら、、気付けば両者は拠点の地に神子を伴い神国から姿を消していた。
異母弟もどこぞへ、いなくなっていた。
神子が神国から喪われた。
その問題が、神皇の座から我が一族を追い落とす羽目に陥った。
それから、その日を境に、我が一族から優秀な神力保持者がいなくなり、聖人も聖女も誕生しなくなった。
おまけに、神の代弁者の資格も消失し、行使できていた権能も喪われた。
我が一族が衰退していくかわりに、代行してきたのがマグノリアの名を冠する一族で、先代の神皇は、彼の一族の出身だ。
詳しく調査すると、消えた異母弟の血筋であるのが判明した。
その情報を把握した我が父上は激怒して、私に我が一族の秘技を伝授してくれた。
それは、神国の大結界を維持する神の愛娘たる神子の遺骸を適切に処理して身に取り込む事で、飛躍的に神力が向上しては、類いまれなる秘術を行使できる高位の存在になれた。
おかげで、私は大司教の中でも一番位が高い地位に就け、数年の他国での教会責任者を勤めあげて、次期神皇に推挙され、先代神皇亡き後満場一致で神皇の座に就いた。
『愚者は、しらなんだだろうが。愚者の父が裏で暗躍した結果によるもので、愚者の人望でなった訳ではないわ』
流石に、一度は神皇の地位から追われた立場故に、目に見える実績が欲しく、唯一の存在となった神子を神国に迎えるのが最善策とおもい、かつて神子を神国から連れ出した罪人の拠点地に、神兵騎士団を派遣した。
ところが、運の悪さが出ては、ある国て足止めされる案件が発生した。
私の就任式までには、神子を確保したがったが、そうはならず渋々神子不在の式を開催したのだが。
意気揚々と耀かしい日となるはずの日に、前触れもなく本教会がつぶれた。
「さて、神皇殿。これは、どういう意味があるのだろうか。私には聖下の一人言に対して、何やら突っ込みが入っているように聞こえるのだが?」
「然り、少々反論は許されざるお方かららしいがね?」
「お二人がおっしゃる意味が分かりませんな。わたしには、何も聞こえませんが」
『あらあら、神罰の余波ね。あらまぁ、ちょっとやり過ぎたかしら。どうも、この阿呆から、神力とりあげちゃった。てへっ』
『そなた、わざとであろう。まあ、この阿呆が聖職者で無くなったは、いい仕事故にほめてやろう』
『あら、御姉様。ありがとうございます』
『じゃぁ、私も便乗して加護つけとくね。本音と建前が逆に発言させとおっと』
「いやはや、これも神罰なら、一体神国が神々の逆鱗に触れる行為を働いた内容が知りたくなりますなぁ」
何か、神国の同盟国である国王達が訳の分からない事で盛り上がりをみせているが、不快である。
囀りを止めようと、神兵騎士団に目配せするが、奴等は一向に動かん。
職務怠慢にも程がある。
奴等、首にした上で奴隷に落としてやる。
『あー。また、墓穴を掘っているなぁ。持ち場を一歩でも離れるなと指示したの自分じゃん?
本当に馬鹿丸出し。あっ、神国が神罰受けた理由はね。この馬鹿が、偉大なるとか栄光ある我が一族って自慢している祖先が、神の愛娘である神子に横恋慕して、罠に嵌めて亡き者にして、神々へ遺骸を取り返したかったら、自分を神の次に偉い特権を与えろと、神々に喧嘩売ったり、神子の遺骸を使って、自分達の一族の能力を爆あげしたり、人体実験で人工的に神子を誕生させようとしてたから。で、愛娘の遺骸を利用して、遺骸を損壊させたからで、ついに神々がキレた訳。だから、神国の神罰はまだ始まったばかりだからね。とばっちり受けたくなかったら、早めに帰国するのがお勧めだよ』
『然り。神罰は大地の神々が率先して行っておる。はよう、逃げるが吉ぞ』
は?
唐突に聞こえ出した神々の声。
神子の遺骸を損壊した?
そんな訳があるか。
聖遺骸は、地下の墓所にて偉大なる尊師と並び安置されている。
確かに、ある遺骸を使って我が一族の秘技は行っているが、あれは偉大なる尊師を穢した悪女の遺骸だ。
『だからぁ、それが勘違いだっての』
『然り。聖遺骸と崇めるあれは、神子たる方ではない、単なる治癒師の女よ。故に、我等神々は虚偽ばかりな貴様ら阿呆を見限る』
なっ?
それが真実なら、我が一族は神子の血脈に非ずか?
『そうだよ。って、言うかさぁ。あんた達が、偉大なるとか言ってるヤツこそ、極悪非道な犯罪者だからね。そんなヤツの血をありがたかって、偉大なるとか、栄光あるとか自慢ウケる。ただの、犯罪者の血脈の一族へ改めたら?』
そんな、そんな。
我が一族が犯罪者の家系である嘘は信じはせん。
どうせ、この声も神を自称する愚者の企みだろうが。
絶対に見つけ出し、耀かしい我が栄光の日に水を差したことを後悔させてやる。
待っていろ。
必ずや、報復してみせようぞ。
この後、我が一族と神国に更なる神罰がおりたことで、わたしはこの日を後悔する羽目になり、全てを喪うとは思いもしなかった。




