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第8話

 ギルドマスターのイザベラさん大暴れ騒動が起きた冒険者ギルドは半壊したために、臨時のギルドが設置されました。

 本ギルドが建ってた大通りを挟んだ向かい側の空き店舗をイザベラさんの私財で借り受け、改修しての臨時ギルドはやや手狭なのもあってか、玄関口には入場規制するギルド職員が訪れた冒険者達や依頼者に説明する業務も発生しています。

 半壊したギルドと空き店舗の改修費用に、ギルド職員の増えてしまった業務への臨時給与等は全て、イザベラさんの私財から賄う罰をミラルカ評議会議長のトール君は下しました。


「あのなぁ、お前が暴れた理由は理解できるけどな。それで、ギルドを半壊させて業務を滞らせて、依頼者とギルド職員に所属しているギルド員に迷惑かけるのは間違ってねぇか? ギルド員の中には、低ランクでその日暮らしのヤツもいるんだぞ。幾ら、評議会からそういったヤツ等の支援策があるからといって、全ギルド員を救える程の金額はないぞ。超過した金額は、大半が俺かアッシュの私財で賄うしかないんだぞ。後、原因となったイザベラの私財も勿論接収だ。当然だろ? 次は、本気で私財全て接収するからな。いいか、二度とやるなよ」

「イザベラ、トールに賛同する。ミラルカの治安を担う責任者として、金に困ったギルド員が犯罪者になった場合も、原因を作った連帯責任と見なして取り締まるからな。勿論、保釈金やらはイザベラから接収する」

「イザベラ母さん。あれほど、暴れてよい加減をお説教しましたよね? ギルドマスターのイザベラ母さんが率先してギルドを半壊させ、私財で改修するのも、迷惑をかけた方々に賠償するのも当たり前です。これに懲りたら、二度とやらないでください。いいですか、イザベラ母さんが暴れたのは、これで五度目になります。ほんっとうに、いい加減にしてください。トール先生やアッシュ兄さんが怒るのも当然の成り行きです」


 と、トール君とアッシュ君とラーズ君の三人に、次々とお小言を貰う羽目になりましたイザベラさんは、涙目で頷くしかありませんでした。

 おかしいですね。

 ミラルカに神国から侵攻してくる神兵騎士団の話題が出てきてから、緊張感に包まれていたはずでしたが。

 他国で足止めを余儀なくされ続けたせいか、どうも侵攻の問題が薄れてきていました。

 アッシュ君も警邏隊の隊員も、本当に侵攻があるのか疑問を抱く方も増えてきていると教えてくださいました。

 ただし、先の諜報員騒動で真実であるのが伝わると、日々の巡回に態度を改めて臨んでいるようです。

 というのも、普段ミラルカの治安責任者たるアッシュ君は、魔素溜まりが発生していないか大陸中を見回り、度々不在になる月日が多いせいで、警邏隊の方々にもミラルカに帰還している方が珍しいと思われているのもあります。

 諜報員騒動では、偽装して評議会副議長さんの護衛を勤めていましたのも相成って、また不在であると認識されていたのでした。

 まあ、役付きの隊員さん方は、侵攻してくる神国の監視を行っていると思われていましたけど。

 ですから、警邏隊や冒険者ギルド員の方々は警戒が緩んでいた方もいて、ギルド半壊事件も笑い話で済むはずだったのでしたが。

 マギーが捕縛した諜報員を訊問して、ある事が判明したのです。


「迂闊だったな。ここは、確かにおれ達にとって盲点だった」

「ああ、そうだな。ここは俺がミラルカに拠点を移した際に、神国が入手した飛び地だったな。簡易聖域を張られ、易々と飛び地を探れなかったのを忘れてたな」


 ミラルカに接する隣国ハーゲン。

 その国土内のある領地を、神国が購入して飛び地として所有していたのでした。

 この問題は、私達年少組は知らないでいました。

 トール君とアッシュ君もそういえばあったな、ぐらいでしか認知してなかったからです。

 といいますか、完全に忘れ去られていました。

 その問題の飛び地を購入した神国は、ミラルカを含めた周辺諸国を布教する聖職者達の拠点目的と言い募り、ハーゲン国から領地を購入して本拠地の神国の本神殿を縮小した豪奢な神殿を建てたのは二人共に把握していました。

 当時は、トール君と神国は不仲を通り越して、会談に応じない没交渉な仲でしたし。

 神殿が完成すると簡易聖域が展開されたのもあり、飛び地の内側を覗く魔法関連が弾かれるのもありまして、アッシュ君による外部からの監視だけ残す形になっていたそうです。

 神殿の簡易聖域は、どの国に建立された神殿にも必ず展開されますから、トール君とアッシュ君もあまり気にしてなかった、と。

 ですが、捕縛された諜報員が大変看過できない情報を持っていたのです。

 簡易とはいえ、聖域は聖域。

 神々の権能を代行しえうる聖職者ならば、聖域を繋げる事が可能であり、施行する聖職者の能力によって大軍を指定する聖域に転移させる事も可能である。

 他国に足止めされている神兵騎士団の遅々として進まない現状を憂いた新神王が、側近の上位聖職者にハーゲンの聖域からミラルカの神殿の聖域への直接的な転移を指示をほのめかしているのが、分かりました。

 そうして、前準備としてハーゲンに食糧や備品類等の物資が集まりつつある、との事。

 諜報員がもたらした情報の真偽にアッシュ君が奔走した結果、真実であるのが判明しました。

 けれども、流石にミラルカの実質的な統治者たるトール君でも、神国の神殿に転移を止めさせるのは不可能な訳で、頭を抱えています。

 神国とトール君個人及びクロス工房に属する職人様や私達は、お互いに不干渉なのが暗黙の条件でした。

 しかし、新神王はこれをはっきりと誓約を交わした訳ではないので、意味をなさない問題と解釈されたようです。

 確かに、前神王が崩御した途端に、召還した少年少女をミラルカに派遣した方ですからね。

 付き添いの聖職者達も、クロス工房を下に見下していましたし。

 神国のなかった名声を盾に、クロス工房に無理難題な依頼を発注したり、引き抜きといった勧誘もひっきりなしでした。

 また、クロス工房へは割り符を所持してないと入店はできません。

 神国の聖職者はかなりお金を積んで評議会の議員経由で、一見さん扱いの割り符を購入していました。

 この割り符は一度だけ入店可能な割り符でしたが、それを知らない聖職者達はその割り符で何度も入店しようとして、トール君から入店拒否設定されました。

 最終的にトール君が、問題児達を強制送還した時点で、ミラルカの商業ギルドは神国の聖職者達に便宜を図った議員に警告を送っていました。

 彼等は、議員の後ろ楯があると宣い、クロス工房以外の商会で半ば強奪に近い寄付という名目で、商品を持ち去っていました。

 商会側は、名前を出された議員が後で購入してくれると勘違いして、幾ら請求しても支払われない状況を商業ギルドに相談し、発覚しました。

 無論、名前を出された議員も寝耳に水の状態で、商業ギルドが提示した金銭を支払う余裕はなく、便宜を図った聖職者に抗議の直談判をしたそうです。

 まあ、返ってきた言葉は、神の御加護の恩恵がありますように、でした。

 そこで、騙されたと認識した議員は副議長に泣く泣く現状を報告して、謹慎処分と議員職の返上との引き換えを条件に評議会議長のトール君が立て替えました。

 トール君個人の私財にたいして軽微な金額だったそうです。

 いったい、トール君の総資産は幾らなのか、聞きたいような聞きたくない気持ちになりました。

 話が逸れました。

 そうです。

 問題は、神国がミラルカ内部への移動手段を持ち得ていた事です。


「うーむ、厄介だ。神殿の簡易聖域に、介入できんな」

「魔導具の転移阻害も無効化されているな」

「これ、神殿自体を破壊しないと駄目な感じか?」

「いや、違うな。簡易とは言うが聖域は聖域だ。神殿が無くなった処で核となる土地か念入りに隠匿されている神具を消滅させない限り、聖域は維持される」

「そうだったな。じゃあ、あいつ等は聖戦をお題目にして、ミラルカを蹂躙し放題か」

「その場合、人種族以外の他種族は邪教徒扱いで、よくて奴隷か悪くて即処刑だな」


 えっ?

 アッシュ君が告げた内容に疑問が。


「待ってください。神国は他種族の信仰は容認してますよね? 異教徒扱いはしても、邪教徒認定は教義に反すると、以前聞いた覚えがありますけど」


 神国が信仰する神も一柱の唯一神ではなく多神教ですから、他種族が信仰する神を邪教扱いするのは教義的におかしな話です。

 それに、唯一神を信仰して他種族排斥主義の帝国を非難する際には、多神教の信仰を認めるべきだと主張して抗議してますよね?

 だというのに、ミラルカの住人を邪教徒扱い認定するのは、間違ってますよね?

 混乱する私に、トール君とアッシュ君は眉をしかめて重たい溜め息を吐き出しました。


「セーラ。お前には話したくはなかったがな。その教義は表向き帝国の思想に反抗して喧伝しているだけで、実際は抵抗する術を持たない他種族を邪教徒扱いして奴隷にしている。まあ、ヤツ等も不味い事をしていると分かっているから、秘匿しているがな」

「セーラが幼い頃に神国に拠点を置いていた時期の神王は穏健派で、他種族も同胞だとして聖職者に受け入れてはいた。しかし、前神王はその他種族の聖職者を全員地方に左遷した。現在、神国にいる聖職者は人種族のみだ」


 二人に説明されると、思い当たる出来事がありました。

 神子の職務を務めていた幼い頃は、他種族の聖職者がお世話係にいました。

 ですが、トール君が神国と不仲になり、拠点をミラルカに移した以降、その聖職者の方を見掛けなくなっていました。

 新しくお世話係になられた方に尋ねたら、地方の神殿の長に就かれて栄転されたと答えがありました。

 私はそのまま受け取り、祝辞を伝えて欲しいとお願いしましたが。

 栄転ではなく、真実は左遷で、トール君は言わないでいましたけど。

 おそらく、聖職者の身分は剥奪されて、奴隷以下に落とされたのでしょう。

 ゆえに、トール君もアッシュ君も悲劇を私には教えないでいてくれたのですね。


「セーラ、そんなに悲観するな。非遇の扱いをされた彼等は、アッシュが保護済みだ。全員がとはいえないが、救えた彼等は魔王領に移住しているし。セーラが知らないだけで、このミラルカにも移住しているぞ」

「警邏隊の事務担当に雇用されてもいるからな」


 ああ、そうなのですね。

 救われた方がいて良かったです。

 泣きそうな表情を見かねて教えてくださいましたが、やはり涙がこぼれてきました。

 リーゼちゃんに抱き寄せられ、ラーズ君に頭を撫でられ、ジェス君とエフィちゃんに頬擦りされ、私は安堵しました。

 マギーも、ほっとした様子で微笑んでくれています。

 今だけ、少しだけ、泣かせてくださいね。



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