表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/197

第7話

 ミラルカに潜伏し、暗躍していた神国の諜報員の捕縛はあっさりと終了しました。

 といいますのも、マギーが単身行動して捕まえてしまったのです。

 アッシュ君が警邏隊の隊員を選別している間に、配下の眷族達を使役して麻痺毒を与え無力化し、絶対に破れない頑丈な特別種の蜘蛛糸で全身を簀巻き状態にし、自害防止の猿轡までして、工房に帰宅しました。

 慌てて警邏隊本部にいるアッシュ君に連絡して、戻ってきて貰いました。

 見事なマギー無双でした。


「はぁ。こいつを捕縛出来なかったおれ達警邏隊の無能が分からされたな」

「って言うか。俺達評議会もこいつに踊らされたんだよな。若手議員を犠牲にしてしまったのも、俺達の警戒心がある意味警邏隊に依存していて、無警戒を産んだんだよ。犠牲になった若手議員の遺族に謝罪しても、しきれないぞ」

「いや。治安維持の責任に置き換えたら、警邏隊の無能ぶりが、な」


 ミラルカの実質的支配者たるトール君と治安維持責任者のアッシュ君が、うちひしがれています。

 潜伏された諜報員が保有する固有技能(ユニークスキル)の熟練度が高いため、警邏隊は寸でのところで取り逃がすを繰り返していたのです。

 アッシュ君がミラルカの住人や町に被害を与えないよう配慮したのも、間が悪かったとしか言えません。

 ミラルカは冒険者の町でもあり、魔王領との交易都市でもありますから、悪評価となり得る行動を慎んだ為、秘密裏に捕縛して住人や交易に来た商人達に不安を感じさせないようにしたのが裏目になった理由の一つでもあります。

 まあ、トール君が未亡人の女性に暴力を奮ったと悪評が流されてしまいましたけど。

 すぐに、アッシュ君が子飼の情報屋さんを使い、実は暗殺者だったと噂を塗り替えるよう指示を出していました。

 ですので、未亡人云々の話題は立ち消えになる事でしょう。


「お姉様。(わたし)は、間違えてしまったのでしようか。それでしたら、大変申し訳ありません」

「いやいや、マグノリアは悪くないからな。若手議員に犠牲を出してしまったが、第二、第三の成り代わりの対象の犠牲者が出ないに越した事はない。セーラ、マグノリアを誉めてやってくれ」

「だな。今回の件は、警邏隊にも課題を見出だしてくれた。捕り物の訓練の精度を向上させる鍛練を見直すか」

 〔確かに、技能(スキル)を使用した隠者を見つけるのは、マギーの得意項目だしね。適材適所だったんだよ〕

 〔アッシュ兄様。隠密発見鍛練なら、マギーに頼むといいでしゅの~。マギーは見つけるのも、隠れるのも大得意でしゅの~〕

「ジェスが言うのも分かります。僕の幻術がマギーには通用しないですからね。僕も、一時は落ち込みました」

「ラーズ、同意。鍛練、攻撃、当たらない。回避、能力、高い」

「状態異常攻撃手段が豊富ですしね。耐性が高い私でも、効果ありますから」


 マギーを除く全員で、マギーの能力が優秀なのをべた誉めです。

 マギー曰く、ラーズ君の幻術には視覚に頼らずして、体温や呼吸音等で対処がしやすいのだとか。

 リーゼちゃんの体術や魔法攻撃が回避しやすいのは、筋肉の動きを予測出来るのと魔力感知機能が種族的に優れているからだそうです。

 私の状態異常耐性を抜く状態異常攻撃は、単純に私が認識していない状態異常手段を数多く有しているからです。

 こうして例をあげますと、如何にマギーが有能な人材か改めて理解できました。


「しかし、こいつ。何か、攻撃された時より印象が変わってないか?」

「ああ、固有技能保持者に有りがちな、固有魔力波形が薄いな」

「それも、申し訳ありません。これの固有技能は、後天的に得た技能です。あの裏切り者のアンゲメサールがお姉様のご遺体を流用した、後天的に技能を与える術にて生き残った被験者でもあります。妾の本分としては、お姉様のご遺体を回収したく思いましたので、これから奪還致しました。故に、能力や存在感が薄まる結果になりました」

「成る程。死に至らないのは、被験者になった期間が短いからか」

「はい。己れの体質に見合わない能力を後天的に受ければ、受け止めきれず肉体は爆散します。ですが、万に一人という確率で生き残り、希少な固有技能が後天的に得られる事になります。ただし、その成功例でも人格に障害を与え、まともな思考をもちうる被験者は更に確率が低くなります。これは、その唯一的な成功例ですね」


 マギーの説明に、言葉が出てきません。

 言うなれば、神国は多大な犠牲を出すのは分かりきっていながら、成功例が少ない固有技能保持者を生み出すのを止めてはいない。

 非人道的な行いに血の気が引きます。

 こんな事をしでかしている神国が、神々の代弁者を名乗っていい訳がないです。

 何故、神罰が下らないのか不思議でしかたありません。


「まさか、神国の連中が外道にも落ちた行為を平然としていたとはな。アッシュ、お前は把握していたのか?」

「……ああ。知っていた。だが、世界神より神国の行為を黙認しろとのお達しだ。おれが勝手に懲罰を与える訳にはいかない。それをやると、おれが消されるだけだしな。今は、おれも消されるのは御免被る」

「そうか。世界神も承知なのか。なら、何らかの理由あっての意義がある、か。まあ、親父が残した日記にも、世界神は何か思惑を抱いて、異世界人召還も黙認しているとあったな。だがなぁ、胸糞悪い話には違いない。神国が何が非人道的な行いをしていると、世間話ぐらいなら許されると思うか?」

「恐らく、許されるだろう。詳細は言えないが、世界神に近い位階の上級神が動く。如何に、世界神だろうと上級神が連なり意向に逆らったら、否とは言えない。もう、この世界は世界神一柱が絶対的な創造神であるとは言い難い。上級神や中級神が担う世界運営の権限は、世界神を上回る。世界神はその力を他神やおれに分け与え過ぎた。最早、世界神はこの世界の箱庭を維持する能力しかなく、運営には無益だ。まあ、それが世界神の在り方なのかも知れんが。到底、おれ達には理解出来ない理由があるんだろうな」


 驚きました。

 私の中では、世界神様は絶対的な世界を担う偉大な神様です。

 それなのに、アッシュ君は世界神様の権限が低下していると教えてくれます。

 何か思惑があるのだとの推測ですが、きっと計り知れない思慮があるとしか思えないです。


「まさしく、神のみぞ知る、か」

「そうだな」

「じゃあ、矮小な俺達は、こいつを潜伏させて、ミラルカに侵攻してくる神国相手に頑張りますか」

「その侵攻してくる神兵騎士団とやらは足止めをくらい、ミラルカに到着するにはかなり時間がかかりそうだがな」

「出鼻を挫くなよ。ほんじゃあ、ちょっくらこいつの尋問は、警邏隊に依頼しておく。俺は評議会を招集して、議会に再度の注意喚起を呼び掛けてくるわ」

「承諾した。まあ、こいつから新しい情報が得れるとは思わんが。どうせなら、非人道的な行いについて探るとするか」


 トール君とアッシュ君は、そう会話しながら出掛けて行きました。

 トール君は、お腹を刺された後遺症とかは平気なのでしょうか。

 後、アッシュ君は諜報員の足を掴んで引き摺って行かれましたが、変装されているのを忘れてないでしょうか。

 絶対に、善意の方に通報されますよ?

 それから、残された私達はどうしたらいいのでしょう。

 工房の店舗は臨時閉店しています。

 各自依頼されたお仕事は完了しています。

 気晴らしに、冒険者ギルドの依頼でも受けましょうかという運びになり、ギルドに行きました。


「あっ! 丁度良かった。クロス工房年少組に指名依頼、来てるわよ。それから、セーラちゃんにギルドの販売部門とお抱え薬師達から、交渉と新薬ポーションの調合実演依頼があるわ」


 久しぶりに来た冒険者ギルドは、時間的に閑散としていました。

 受け付けにいたアマリアさんが暇そうにしていましたが、私達を見るなり笑顔で迎えてくれました。

 ああ、そうでした。

 冒険者ギルド専属の薬師さん達は、私が開発した上級ポーションの劣化版の作製に至るまでになっていました。

 レシピを公開して大分時が過ぎて、漸く劣化版ですか。

 イザベラさんにも、教授してくれないか愚痴を言われてましたね。

 アマリアさんも、後者の依頼は無視しても構わないと注釈を付けて依頼票を見せてくれました。

 販売部門の交渉は、ギルドに卸しているポーション類の販売個数の上限値の撤回と、販売価格の値下げでした。

 こちらは、どうもギルド長のイザベラさんに報告してない販売部門の独善的な判断みたいですね。

 私がギルドに卸すポーション類に関しましては、保護者様であるトール君がイザベラさんと薬師ギルド長さんと念入りに調整して、卸す個数と価格を決めたのです。

 そうしなければ、薬師ギルドに所属している薬師さん達のポーションが売れなくなり、路頭に迷わせてしまう結果に繋がります。

 そして、私一人でミラルカの住人や冒険者達全ての方を賄うポーションを、用意するのは無理難題であります。

 また、素材の薬草不足になるのは目に見えています。

 幾ら、薬草がふんだんにあったとしても、休みなく調薬ばかりしている時間に追われて、身体が持ちませんしね。

 ですから、この依頼は却下一択です。


「アマリアさん。販売部門の責任者は交代でもされたのですか?」

「ラーズ君の指摘通りよ。ちょっと前にね、前任者が退任したの。それで、後任の責任者は販売部門の無駄を無くすとか言い出して、専属の薬師の給金を歩合制にしたいとイザベラさんと口論になったばかりよ。まあ、そちらは論破されて鳴りを潜めた形になったけど。次の手が、これでしょ? また、すぐに後任の責任者に代わるかもね」


 辛辣なアマリアさんの評価は、ギルド内に響いています。

 私達に聞かせるより、内部の職員に聞かせている様です。

 多分ですけど、値下げして購入したポーションは、値下げして販売するのではなく据え置きの価格で販売し、差額の利益の何割りかを当然の報酬として掠め取ろうとでも考えたのでしょう。

 それとも、前回クロス工房が休業した際の手法を真似て、賄賂を貰った商会に横流ししたりとかもですね。

 あり得そうな事態に、ギルド職員の規律違反も辞さない行為の横行は、ギルド職員の自覚なき弛みの現れでしかないですよ。

 だから、アマリアさんも注意の意味合いを込めて、わざと聞かせたのだと分かりました。

 また、イザベラさんの普段の口調とのんびりとした姿勢が、ギルド職員に舐められているとしか考えられません。

 身内だから忠告してあげたいです。

 怒れるイザベラさんは、容赦ないですからね。

 あののほほんとした外見に騙されては駄目です。

 荒くれ者との異名の冒険者達を上手に転がす方ですから、弱者のはずがありません。

 侮って、肉体的精神的にぼこぼこにされた先人達の教訓を受けて来てくださいな。

 後日、冒険者ギルドが半壊したとミラルカを駆け抜けました。

 それから、涙目で修繕費用を自腹で購ったイザベラさんがいました。

 追記、冒険者ギルドは職員並びに冒険者達が、暫くびくびくと怯えた様子でイザベラさんのご機嫌を伺う羽目になりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ