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第5話

 シルヴィータから退去を余儀なくされてしまいました神兵騎士団ですが、どうも属国の一つであるダズレイ国に移動を開始したそうです。

 ダズレイは属国の中でも小国の部類に入り、神国の盲目的な信者が集う国でした。

 国王は新法王の手腕によってその座に就いた恩があり、喜んで受け入れたとアッシュ君情報です。

 それから、ミラルカに商人と偽り潜入した神兵騎士団の諜報員ですが、一人を除いて捕縛され、警邏隊の詰所の牢獄に収監されています。

 一人だけ逃れられ、アッシュ君もミラルカの治安維持を担う責任者として、使い魔や情報屋さんを総動員して捜索をしているのですが。

 どうも、あちらの偽装工作と隠蔽の技能(スキル)が完璧過ぎるのか、熟練度が上級を通り越してマスターランクにあるかですね。

 となると、標的になるのは自衛手段を持ち得ないセイ少年と、半人前な精霊使いのリック少年か、外見年齢的に弱者と見受けられる私でしょう。

 ですので、少年二人にはくれぐれも単独で行動はしないことを約束して貰い、二人の保護者役のギディオンさんとヒューバートさんの護衛付きでのお店番をして貰っています。

 が、今の処は、不審なお客様は来店されていたないですし、そもそも割符を所持していないお客様は来店出来ない仕組みですから、店舗内にいる間は無事に済ませれます。

 そんな日々が過ぎ、緊張感を孕んでいたミラルカの住人も、神兵騎士団が足止めされていて進軍出来ない情報を把握され、周知されていきますと、少々緩みが出始めてきました。


「なんかさぁ、冒険者ギルド長から、待機を命じられてるんだが。あまりにも暇過ぎて、身体が鈍ってきそうなんで、許可貰ってあの糞意地悪い迷宮(ダンジョン)で、感覚を取り戻して来るわ」

「依頼も貯まってきてるんで、ちょっくら依頼受けて来るよ」


 高位ランク冒険者ほど、鈍るのを忌避してミラルカを出て行ってしまっています。

 まあ、その代わりに、イザベラさんがクロス工房に発注した、緊急連絡魔導具と漸く形になった転移魔導具を持たされるのが条件でしたけど。

 中位ランク冒険者は、ミラルカ周辺の魔物討伐依頼を受託して、同じ魔導具を持たされてます。

 必然的に、ミラルカに残されたのは警邏隊と下位ランク冒険者となります。

 ただし、上位ランク冒険者は持ち回りで、冒険者ギルドで待機しているそうです。

 待機時間の間は、冒険者ギルドからの依頼扱いになり、冒険者ギルドがお金を出しています。

 何割かは、ミラルカの実質的統治者のトール君が負担はしているようです。


「お姉様。少しお耳に入れたい案件が発生致しました」

「何かありましたか、マギー?」


 浮島ではなく工房の調薬室でお薬を調薬していましたら、マギーが入室してきました。

 マギーに頼んだ薬草が採取終了になり、持ってきてくれたのかと思いましたが、違っていました。

 マギーの表情は硬く、何事か良くない案件が発生したと理解しました。


「アッシュ様が見失いました諜報員が、動かれました。評議会の若い世代の議員に接触し、トール殿つまり評議会議長の悪評を広めています。未成年者を不当に働かせ、まともな賃金を支払わず、利益を搾取し、裏で神国とやり取りして、神子とおぼしき妖精族を大金で売り渡そうとしていると」

「……お馬鹿過ぎて、話になりません」

 〔本当だよ。そんな嘘、聞く人がいるの?〕

 〔でしゅの~。トールにいしゃまを、良く知る人なら嘘だって、わかりましゅの~〕

「ですが、マギーが知らせてくださるのは、その嘘を真に受けた人がいるんですね」

「はい。若い議員が義憤にかられ、トール殿を弾劾すると準備されています。が、それもお姉様の身柄を己れの元に引き取りたいが為の策です。その者の方が、諜報員に提示された大金を欲しているからです」


 成る程。

 義憤にかられたのを隠れ蓑にして、私を売り渡そうとしているのは相手側なのですね。

 その一派に属する議員は、おこぼれに預かろうとしているのでしょうか。

 先日、副議長さんにお叱りを受けた筈でしたが、反省する気はなかったと。


「この話は、トール君とアッシュ君にしましたか?」

「いえ、お二人共にお忙しくされていて、お話する機会に恵まれていません」

「分かりました。では、先ずアッシュ君に連絡します」


 腰のチェーンベルトに付けてある召還神器の白騎士を手に取ります。

 魔力を神器に通わせる事数秒足らず、アッシュ君に意識が繋がりました。


『どうした。神器を通した通話は珍しいな。何が起きた』

『マギーが、アッシュ君が見失いました諜報員の動向を認知しました。それによりますと、評議会の若い議員を取り込んでトール君の悪評を広め、私の身柄を確保しようと画策しているそうです』

『……。ああ。だから、トールというか、クロス工房所属の職人の悪評も広まっているのか。かくいう、おれのもあるようで、情報屋が苦情を呈する態度で話しかけてきて、情報を流してきた』


 どうやら、街を巡回しているアッシュ君も情報を掴んではいたみたいでした。

 けれども、不気味な事に、諜報員の姿を見つけるには至らないでいるようで、情報屋の間でも仲間意識に亀裂が入ってきているとの事。

 情報も二転三転しているのもあり、どれが正しいのか疑心暗鬼に陥っている情報屋さんもいると教えてくれました。


『セーラ。諜報員に関してはマグノリアの方が、より正確な情報を得られるようだ。眷族をミラルカに大量投入してくれるよう頼んでくれ』

『分かりました。後、トール君はどちらにいますか? 本日の予定を聞き忘れてました』

『トール? トールなら、一時間前に冒険者ギルドにいたがな。イザベラに呼び出されてたぞ。ああ、その後で評議会に顔を出さないとと言ってたな。まあ、いい。おれが伝えておく』

『では、お願いします』


 アッシュ君との通話を終えましたら、頼まれた事をマギーに伝えました。

 返事をする前に、マギーの影から様々な昆虫類が顕現し、闇に溶ける様にしてミラルカに配置されていきました。

 はい、蜘蛛を出さない配慮ありがとうございます。

 実は、出てきてしまったらどうしようか、迷ってしまっていました。


「お姉様。あの諜報員を見つけました」


 早いです。

 もう、見つかりましたか。

 アッシュ君が人探しを他人に任せるのも頷けます。

 一分も経ってない時間での捜索終了に、脱帽です。


「諜報員は商人から偽装を変え、言葉巧みに騙した若い議員を亡き者にし、議員に成り代わっております」

「何ですか、その諜報員の方。簡単に他人に成り代われるのですか?」

「恐らく、種族に由来する技能ですね。完璧偽装パーフェクトシェイプチェンジという技能で、お姉様を裏切った輩どもが保有していた固有技能(ユニークスキル)です」


 淡々と説明してくれるマギーの右拳がきつく握り締められました。

 爪が掌に食い込み、血が滲んできました。

 前世の私を襲った悲劇の末路を、マギーは未だに悔やんでいるのですね。

 記憶にないとはいえど、私は私なのですが。

 マギーにとりましては、忘れ去られる事が出来ない記憶なのだと思います。


「マギー。私は、今マギーの前にいます。前世の私を忘れなさいとは言えませんが、前世に固執しては駄目です。怒りのままに迂闊な行動をして、神国から宗敵認定されてしまいかねません。無論、私達の種族は人間種ではありませんから、人間種が建国した神国とはなんら関係はありません。ですが、ミラルカは他種族を分け隔てなく受け入れる自治都市であり、神国の宗教を異端扱いにはしません。それに、神国の聖職者の中でも末端の地位にいる聖職者はミラルカでも、種族差別なく治療や教育を施してくれます。マギーが赦せないと感じる聖職者は、神国からは出てはこれないでしょうから、私達が油断しない限りは平穏無事に過ごせますよ」

「それは、お姉様の神子としてお選びになった神からのご神託でしょうか」

「半分はそうですね。豊穣のお母様と大地母神様は、神国の有りように疑問を抱かれ、神国の守護神様と話し合いを持たれているようです。それから、神国の新法王は正規の手段で就いた訳ではなく、守護神様の神託が聞こえない方だそうです。いずれ、この情報は他国に漏れ、神国は大陸の覇権を狙う盟主の地位を手に入る事はなさそうです」


 豊穣のお母様からは、神国がミラルカに神兵騎士団を派遣した時点で警告をしてくださいました。

 それは、私の保護者様でもあるトール君と神族との取り決めで、私の身柄はトール君の元に預けられているからで、神域にての私の保護と養育が他の神々から反発を招いたからです。

 というのも、現在大陸に神子は私は一人だけ。

 世界神様は、私以外の神子が誕生するのを拒絶なさいました。

 故に、世界神様の何らかの思惑がある神子を掌中にしたい他の神々が、私の身柄を獲得したいが為に反発をされたのでした。

 私ももっと幼い時期は、トール君が神国で保護し養育してくれていました。

 けれども、常に神託を降ろす神々の意向と、唯一無二の神子を担ぎ上げて大陸の覇権を帝国と競う発端にされて、トール君は神国を見限り、元々暮らしていたミラルカに私と同じく保護されたラーズ君とリーゼちゃんを連れて帰りました。

 これも神々の反発を招き、神罰を下すと神託が降りましたが、豊穣のお母様や大地母神様の怒りを買い、撤回されるまでの数年間農作物の不作と地揺れによる被害が拡大し、矛は納められました。

 ただし、帝国の領土権戦争を避ける為にと、大地母神様にお願いされ、神国で豊穣を祈願する神事だけは神子として参加する約定を交わしました。

 まあ、その神事で強制転移され、シルヴィータの王族に神子を拐かせて、トール君から引き離そうと画策して、お母様からは神国の神事に参加は不要と言われましたけど。

 昨今、帝国では大規模瘴気発生に伴う国力低下と、神々の威光を間違った解釈で教義を広めようとしている神国からの神々離れ。

 近い未来に、大陸全土を巻き込んだ凶事が起きそうな気配がしてなりません。

 目下の処は、ミラルカに潜入した神兵騎士団の諜報員の画策阻止が優先ですね。

 マギーからもたらされた新しい情報を、アッシュ君に再度報告です。


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