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第4話

 シルヴィータにて足止めを余儀なくされています神国の神兵騎士団の総帥さんからの、ミラルカ評議会議長宛ての書状は毎日連日届くようになりました。

 何しろ、議長のトール君は一度も返信をしないで書状を無視していますし、副議長さんも相手にしない方針を議員に徹底させました。

 まあ、議員の中には、美味しい話に傾きかけている方もいまして、会談ぐらい応じてもとか発言しているそうです。

 そういった派閥の方々は、議員になって日が浅い方々ばかりで、ミラルカの実質的支配者たるのがトール君であるのを知らない世代でした。

 トール君を一議員だとしか思われておらず、単なる成功した工房主でしかないと侮っているようでした。

 ある日の議会で、自らの無知を披露して、トール君から財産を掠め取ろうと熱弁をして、とうとう副議長さんの勘気に触れてしまい、議員資格を剥奪されました。

 無論、反発した派閥の議員は、横暴な副議長の解任を求め、何と商業ギルドと手を組み、ミラルカの支配権を奪おうと画策したのです。

 が、商業ギルド長さんは取り合わず、逆にミラルカの治安を乱すおそれありと、トール君に報告してきました。


「ああ、以前のクロス工房休業騒動の貸りを返す目的か」

「だろうな。あっちはあっちで、かなり損失出してたからな」


 件の魔法薬(ポーション)騒動で、クロス工房を休業に追いやった原因が商業ギルドにあるとミラルカの住人に知れわたる事になった結果、日常生活に必要不可欠な商品以外の不買運動が起きたのですよね。

 それも、商業ギルドから優良店であるお墨付きを戴いた商会が、一番割りを食った形で商いが赤字に転落してしまい、商業ギルドが補填を支援したから潰れないで済んだのです。

 その補填額はかなりの額で、商業ギルド職員のお給料にも影響を与えてしまったとか。

 かわりに、商業ギルド長さんが私財を換金して、臨時報酬を出す羽目にまでなったとも聞きました。

 その辺りの裏事情を知ったトール君は、商業ギルドに納める上納金を五割増しで納金しました。

 ちなみに、トール君はミラルカの実質的支配者でして、己れが治める自治都市から税収を戴く権利があります。

 要は、トール君の元に還元される税金を納める必要があるのかが焦点となり、議長であるのを隠匿しているから納めない特別扱いは、他の商会や工房に対して不義理を欠いているみたいで嫌な気分になるからと説き伏せて、納金していました。

 また、自治都市に納める税金も同様な理由で納めています。

 トール君的には、クロス工房で稼いでいるから金銭には困ってはいません。

 納められた税金の内、トール君に還元される税金は、半分はミラルカの維持費に、半分の五割は警邏隊の維持費及びお給料に、残りの五割は未来に災害が起きた時の流用目的で貯蓄されています。

 それを聞いた私達クロス工房年少組も、密かに貯蓄していたりします。

 トール君の貯蓄額に比べたら、微々たる額でしたけど。


「で、突き出された元議員と、虎視眈々と議長(副議長)の座も狙っている輩を、どう対処(処分)する?」


 アッシュ君。

 夕食時に、魔物討伐を依頼されて危なげなく討伐してしまいそうなノリで、物騒な発言は止めて欲しいです。

 今日は、職人寮の料理長様が考案した新メニューの試食を頼まれて、初見のお魚料理を味わっているのですよ。

 食欲が落ちる話題は止めましょう。

 リーゼちゃんの前には、子ブタの丸焼きがどんと提供されています。

 ラーズ君は大角鹿(ビッグホーンディアー)がお気に入りでして、絶妙な配合されたベリーソースがけのステーキのお代わりをしていました。

 健啖家なアッシュ君は、既に料理長様に好物の海老グラタンを何回もお代わりしています。

 アッシュ君は海産物が好みでして、以前トール君が何気なく言ったお父様が残された料理レシピのたこ焼きを再現する為に海洋の魔物のクラーケンを嬉々として討伐してきたほどです。

 ただし、当時は料理長様もいなかったのと、たこ焼き専用の鉄板がなくて謎物質を大量生産しただけに終わったのでした。

 それから、料理長様をスカウトして、残されたレシピを再現して貰い、大半の料理が私にも伝授されました。

 今日は、ミラルカ近隣の河川で新種の魚が収穫されて、料理長様に新メニュー考案の指名依頼が料理店と卸の魚屋さんからなされたのです。

 新メニューのお魚料理は、白身魚でした。

 塩焼きですと、味に難ある料理になってしまい、焼き物には向きませんでした。

 ならば、揚げ物のフライにと試したところ、これまたレシピにありましたタルタルソースとの相性が良く、つい揚げ物と忘れて再現なく食べたくなってしまう美味しさとなりました。

 お肉派のリーゼちゃんも、お気に召したみたいであっという間に、完食してました。

 ラーズ君は、ちょっと駄目みたいで、一口食べてリーゼちゃんにあげてしまっていました。

 どうも、揚げ物は苦手なようです。

 油揚げは好きみたいですのに、不思議です。


「そうだな。ミラルカの住人には、神国が不条理に条件を出して、ミラルカへ進軍しているのは通達している。戦かう術を持たない市民へは、魔王領への避難誘導は実施済み。残っているのは、防衛の担い手の治安維持隊の警邏隊に、熟練の冒険者ばかり。戦を当て込んで、武器防具を売ろうと逞しく商売を続ける商会に工房。戦のどさくさに紛れて、ミラルカの支配権を獲得したい議員派閥に、食糧支援を申し出てくれた農家の生産者達。アッシュ、警邏隊の人員は、農家と後方支援してくれる側を重点的に配属させてくれ」

「承知した」

「ミラルカの治安維持は、イザベラに依頼して冒険者達に担って貰う。その対価に、うちの製品の割引きと、上級魔法薬の優先的配布を布告する。セーラ、悪いが魔法薬の増産を追加で頼む」

「分かりました。マギー、配下の眷属に指定する薬草と素材収集をお願いしますね」

「了解致しました。お姉様」


 マギーの眷属は昆虫類だけあり、人の目には探し難い薬草や木の実の採取にめざましい活躍を見せてくれる眷属がいまして、大助かりしてます。

 勿論、対価は支払いますよ。

 けれども、眷属の皆さんは一様に謙虚で、甘いお菓子類だったり、屑石に込められた魔力だったりと、容易に与える事ができてしまえる品物しか受け取ってくれません。

 皆さん、私の役に立つ事の方に重きを置いて、不平不満を言わないで、こなしてくれます、

 マギーに相談してみると、古参の眷属ほど、私に再会でき、また仕える事ができて喜んでいるのだそうです。

 前世の私への恩返しだとかで、遠慮なく使ってくださいとまで言われました。


 〔あの子達、セーラちゃんが殺されたのも、自分達の能力が低くて盾にも護衛にも成れなかったのも、嘆いていたからね〕

 〔名誉挽回ではないでしゅが~。同じ過ちを繰り返さないのを、固く誓ってましゅの~。下手をしたら、マギーよりも熱心に働きましゅの~〕


 とは、過去を知るジェス君とエフィちゃんの談です。

 アッシュ君も、彼等の私関連の情報収集能力は、アッシュ君の使い魔より優れていると。

 あれ?

 もしかして、私は過剰な戦力を保持してはないだろうかと、改めて思った次第です。

 そんな数日後、マギーの眷属からミラルカに商人に偽装した神兵騎士団の諜報員が入り込んだと、知らせがありました。

 すぐに、トール君とアッシュ君に報告しました。

 商人として潜入を果たした彼等は、諜報の専門家であっても、商人のなんたるかをモノの見事に学んではいませんでした。

 商人として商売をしながら情報を集める予定だったようなのですが、宿泊していた宿の主人から密告されて敢えなく捕縛されました。

 あのですね。

 商人には、その都市や街の商業ギルドの商いの許可申請が必要で、許可証がないと商いは出来ないという仕組みが大陸にはあるのですよ。

 それなのに、その許可証を申請して所有してないのに、商いの話を宿の食堂で他人に聞かせるとは。自分達は商人であると印象付けしたかったのでしょうが。

 不審を抱いた宿の主人が、警邏隊にこういう一団がいると従業員に知らせに走らせて御用となったのが真相です。

 警邏隊本部に連行された一団は、他国の商業ギルドが発行した商業権利を有する身分証を所持していて、商品の仕入れに来ただけだと説明に躍起になっている様子でした。

 が、発行された国はシルヴィータで、身分証に記載されていた経歴も偽造だと一目で分かる、虚偽の身分証だったのでした。

 これは、商業ギルドが大陸に浸透していない時代に、虚偽の身分証で取引してはお金を払わず商品を持ち逃げした事件が後を立たず、その事件の黒幕が大貴族や国の上層部で、権力にモノを言わせて商人ではない小飼の人物を商人に仕立て上げる片棒を強要した案件で使われていたものでした。

 そうして、幾つもの商業ギルドに責任を押し付け、大貴族や王族は罪に問われる事がなかったのです。

 よって、商業ギルドは権力や武力をちらつかせて、商人ではない人物に身分証を与えるように強要されることへの対策に、カードに所持者が商人ではない事実を潜ませ、特殊な魔導具がそれに反応する仕掛けを施すようになりました。

 案の定、彼等の身分証はその仕掛けが施された身分証でした。

 それから、警邏隊副隊長による自白を促す精神干渉魔法で、あっさりと彼等の正体と目的は判明し、アッシュ君の使い魔のロック鳥に鳥籠式の護送檻に入れられて強制退場されていきました。

 アッシュ君の護衛付きで、です。

 翌日、シルヴィータの衰退を招いた王族の後ろ楯があったと分かり、新国王に内定された王太子(後継者争いから身を引いていた)に自ら引導を渡され、生涯幽閉の処分がくだされました。それを見届け、アッシュ君は帰還しました。

 シルヴィータの現国王の議決権も王太子に移譲され、新体制となったシルヴィータは、神国の神兵騎士団の駐留契約を破棄する可能性が高く、近々追い出されるみたいです。

 唯一の受け入れ先を失った神兵騎士団がどうなるかはまだ分かりませんが、おそらく自暴自棄に走り勝手な憶測と責任転嫁を乗せて、ミラルカ憎しとばかりに、形振り構わず進軍を開始するでしょう。

 こちらは、リーゼちゃんとマギーの返り討ちが待機してます、

 どうやら、ミラルカが戦火に見舞われる前に片が付きそうです。


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