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第39話

 感慨に耽る間もなくアッシュ君に断罪された巨人が消滅していきますと、ジェス君が警告を発しました。


 〔あっ、大変。この迷宮、この部屋以外なくなっちゃった。どうも、大地の上位神が干渉して閉ざすのではないか、消しているみたい〕

 〔そのようでしゅの~。アッシュ兄さまの転移魔法で脱出しましゅの~。それとも、ジェス兄さまの空間移動しましゅか~〕


 エフィちゃんものんびりと評します。

 脱出手段を幾重にも保有する私達ですので、慌てる必要性がないのがありがたい限りです。

 大地の上位神様も、私達に配慮して今いる部屋だけは存在を許してくださっていますけども、風の流れが閉ざされてしまえば、窒息の危険が増します。

 まあ、私達には風を操るリーゼちゃんがいますから、現在は窒息の恐れはありません。

 閉ざされた場で何故に酸素が満たされ、窒息しないのかを疑問に持たれるかもしれませんので、お教えします。

 それは、リーゼちゃんが自身の魔力で淀んだ空気を、私が魔素を浄化するかのように新鮮な空気に変換しているからです。

 また、時空に干渉できるジェス君も助成して、常に外部の空気と入れ換えてくれているからもです。

 なので、大地の奥底で閉ざされた場にいても、私達は無事でいられます。

 あっ、でも。

 マグノリアの配下の魔物さん達はどうなったのでしょうか。

 まさか、迷宮と同じ運命を辿ってしまったのでしょうか。


「ジェス君。マギーの配下の魔物さんはどうなりました?」


 基本的に、私が身内を呼ぶときには、ちゃんづけや君づけするのですが。

 どうにも、マグノリアだけはマギーだと認識して呼んでしまうのです。

 自分でマギーと呼んでいて、おかしいなとは思いますけども、マギーはマギーで固定してしまっている気がします。

 何故でしょう。

 所謂、前世の全く覚えがない記憶が、そう呼ばせているのでしょうか。


「ご心配ありません、お姉様。配下の者共は、(わたし)の影に既に収納しております」


 私の内心の葛藤をよそに、マギーは自分の影に収納した魔物さんを呼び出してくれました。

 私達を道案内してくださった魔物さんは、現れては一礼してまたマギーの影に潜みました。


「妾の配下の魔物は、妾の魔力が尽きない限り、例え不意を付かれて倒されましても、復活できます故。ご安心くださいませ」


 マギーの説明によれば、配下の魔物は、私がリーゼちゃんやラーズ君と契約したように召還獣になった訳ではなく。

 マギーの魔力が産み出した擬似的な生命を持つ魔物だそうです。

 ですので、マギーが記憶している情報がある魔物は、万が一にも第三者に倒されても器を構成しているマギーの魔力が己に戻り、再生可能だとか。

 あら、とても魔力の使い勝手が良さそうな方法です。

 なら、私も余りある自分では使い道がない魔力で、擬似的生命を産み出す事が出来れば、危険度が高い冒険時には役に立つ魔物さんを……。

 いやいや、駄目です。

 その案は却下です。

 擬似的な生命を持つ魔物さんを囮にしたりとか。

 悪質な罠が仕掛けられて解除しないと後戻りも先へも進めない折りに、罠解除の為だけに産み出すだなんて。

 そんな、擬似的な生命とはいえ、魔物さんを使い捨てにしようだなんて考えはいけません。

 はい、ごめんなさいです。

 愚かな考えに至り、大変申し訳ありません。


「お姉様? いかがいたしました?」

「セーラ、いきなり、土下座、駄目」

「まあ、セーラが何を思い付いたかは、分かりますけどね」

 〔セーラちゃん。罠ぐらいは、僕でも対処できるからね〕

 〔はい、でしゅの~。セーラしゃまが、マギーみたいに魔物を産み出すのは、挑戦するだけ無駄でしゅの~〕

「セーラの魔力だと、魔物ではなく違うモノが産み出されるだけだからな。それは、世界の(ことわり)に違反する行いになるから、マギーの様な配下を持つことは最初から出来ないぞ」


 うう。

 付き合いの浅いマギー以外の身内には、私の至った思考を看破されていました。

 使い捨ての魔物さんは諦めて、調薬の助手の魔物さんならと足掻いた案も、当然の如くアッシュ君に駄目だしされました。

 そうですか。

 初めから、出来ないですか。

 多分でしょうが、世界神様の思し召しでもあるのでしょうね。

 こう、使い道が限られている余りある魔力を、充分に発揮できる機会は、神子の浄化ぐらいしかなさそうです。

 少しだけ、悲しいです。


「お姉様。もしや、また魔力回路不全でお産まれに?」

「はい。魔法が全く行使出来ません。出来るのは、浄化と調薬の魔力付与ぐらいと。後は召還契約したリーゼちゃんやラーズ君達を常時召還して、消費するだけです」

「左様でしたか。またもや、後方支援特化な魔力サポーターなのですね」

「前世の私も、魔法行使出来なかったのですか」

「セーラ、項垂れている場合ではない。大地から、早く地上に帰還しろとせっつかれた。転移するぞ」

「はぁい、です」


 マギーの話し振りに、前世の私も今世の私同様な体質だと判明しました。

 魔力サポーターとは、あまり馴染みがない名称でしたが、問いただす前にアッシュ君から大地の上位神様からのお言葉が届いて、地上に転移する事になりました。

 皆で、アッシュ君の側に集まり、足元に複雑な魔法言語の転移陣が光り輝きます。

 大人数での転移魔法行使は、陣を敷いて座標を指定しないと、危うい思ってもいない場所に転移してしまう羽目に陥り易いのです。

 アッシュ君一人なら簡易転移陣で済んでしまいますが、楽をして転移したら全員到着座標場所が違う転移しかねないですしね。

 過保護な保護者様は、そんな杜撰な転移はしないです。

 きっちりと、座標固定して転移です。

 私達を取り巻く転移陣が足元から頭上に移動していき、光りに包まれた束の間、私達は地上に転移していました。

 アッシュ君が座標指定した場所は、迷宮に入る前に休憩場所にした廃棄された集落でした。

 それも、私達が使用した携帯コンロやテントを使用した後が残された場所でした。


「むう、時間、変」

「まあ、確かに体内時計はそんなに過ぎた形跡はないのですが。これが、迷宮の迷宮たる所以でしょう」


 リーゼちゃんとラーズ君が、集落の端から見ているのは体感的には夕暮れだと思っていたら、朝焼けだった不思議に行き当たったからです。

 迷宮の内側では時間が想定していた以上に、過ぎ去っていた訳です。


 ぐうぅー。


 早速、リーゼちゃんのお腹が盛大に鳴りました。


 ぐぅ。


 続いて、右肩にいたジェス君のお腹も鳴りました。


「セーラ、ご飯」

「はい、すぐに準備しますね」


 リーゼちゃんの眉が酷く下がっています。

 いつもの倍は作らないとです。

 それとも、三倍ですかね。

 迷宮内で疑問に思った名称の件は後回しにしましょう。

 これからは、何時でもマギーに聞けるのですから。

 まずは、お腹を満たしましょう。

 無限収納(インベントリ)から、大きな携帯コンロと食材を取り出して、冒険には不釣り合いな大鍋も用意します。

 大鍋用にあわせて作って貰った大きな携帯コンロは、トール君謹製です。

 マギーに驚かれましたが、腹減りなリーゼちゃん対策には必需品なのです。

 エフィちゃんに大鍋に水を半ば程まで入れて貰い、これでもかとばかりに野菜を入れて、半煮えになったらリーゼちゃん用の味付け済みな巨大ソーセージと鶏肉を投入です。

 それから、クロス工房の寮専属な料理長様、考案のシチューの素で味を整えていきます。

 料理をする私の横では、ラーズ君が竈を拵えて同じく大きな鉄板を取り出しています。

 手際良く薪を組んで、火種に火を灯し、鉄板を暖めます。

 マギーが若干手持ちぶさたになっている所に、リーゼちゃんが誘って周囲の警戒に連れて行きました。

 きっと、戻ってきましたら、何かしらの獲物を携えてくるでしょう。

 料理をしている時は、ジェス君とエフィちゃんは邪魔になると思案して、それぞれアッシュ君の肩に移動(ジェス君)したり、私の頭上に浮遊(エフィちゃん)したりしています。

 私の具沢山シチューが煮える頃、お隣ではラーズ君がトール君から手解きを受けて伝授された焼きそばの良い匂いが漂ってきました。

 焼きそばの味であるソースは、トール君のお父様が苦労して苦労して造り上げた秘蔵のソースです。

 希に、冒険時に野外で料理をしていると、ソースの良い匂いに釣られて、他の冒険者さんだったり、近場に休憩していた行商人であったり、沢山の護衛に囲まれた商会の皆さんを誘ってしまい、ソースの希少性から売買を頼まれたりしてしまう曰くあるソースでもあります。

 抜け目ない大きな商会の会頭さんがいたりすると、お金を積んで強引に買い、自分の商会で解析したソースを高値で販売しようと目論む輩も惹き付ける程です。

 なので、ラーズ君は近隣に他者がいない場所でしか作らなくなりました。

 まあ、焼きそばじたいは、寮の料理長さんも作れますから、工房の職人様方には馴染みがある料理ですけどね。

 それに、ソースだけではなく、主体の麺もトール君のお父様が配合した特殊な麺で、私達の拠点のミラルカでも販売はしてません。

 うどんやラーメンやパスタ類は、トール君が商業ギルドにレシピを公開して、出回ってはいます。

 が、何故か焼きそばだけは公開はしてないのですよね。

 何でも、トール君のお父様にとって、焼きそばは大切な思い出がある料理なのだとか。

 だから、公開はしないそうです。


「ただいま。獲物、仕留めた」


 シチューと焼きそばがいい頃合いになったら、リーゼちゃんとマギーが戻ってきました。

 リーゼちゃんの両肩には、お土産の獲物である鹿が乗っかっています。

 マギーの両手には、兎が。

 短時間に仕留めた割には、血抜きは終わっていて、内蔵も処理してありました。


「リーゼ、流石に鹿はすぐには料理にならないと思いますよ」

「ん。料理長、お土産」

「ああ、そういえば。料理長が良質な鹿肉が、と溢してましたね」

「肯定。セーラ、無限収納。新鮮、保持」


 そうですね。

 無限収納にしまってしまえば、鮮度は落ちないですから、良いお土産になりますね。

 リーゼちゃんから渡されたお土産は、無限収納の中へ。

 マギーの兎は、リーゼちゃんが嬉々として捌いてお肉になりました。

 食事が済んで、一休みした後のご飯の食材になりそうです。

 捌き終わり、手を洗い、専用の特大お皿と深皿を取り出したリーゼちゃんに催促されて食事と相成りました。

 大量に作ったシチューも焼きそばも、一切残らず食べきったリーゼちゃんでした。

 新参のマギーは永く迷宮に囚われていた為、衰弱しているから普通の食事で良いか迷いましたが、私の手作りなら問題なく食べられました。

 ただ、ラーズ君の焼きそばは食べられなかったです。


「申し訳ありません。お姉様のお手による料理は、お姉様の魔力が含む為食せますが。ラーズ先輩の料理は、妾に無理なようです」


 マギーは申し訳ないを繰り返して、ラーズ君に謝罪していました。

 特段、ラーズ君は怒ったりはしてはいませんでした。

 マギーの体質は昆虫類に当てはまるからか、魔力を含む食材ではないと受け付けないみたいです。

 それも、私限定の魔力です。

 ふむふむ。

 では、ミラルカに帰還しましたら、マギー専用の食事を作り置きして、魔法鞄(マジックバッグ)に保管しましょう。

 お菓子類もですね。

 さあ、ミラルカに帰還したらやる事が増えました。

 楽しみです。


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[気になる点] >>お隣ではラーズ君がトール君から手解きを受けて伝授された焼きそばの良い匂いが漂ってきました。 お茶やお粥も作れないのに焼きそばの手ほどきは出来たんでしょうか?
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