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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
シルヴィータ編
18/197

第18話

月曜投稿です。


「依頼を完遂しました。ギルド長に取り次ぎをお願いします」

「……わかりました。暫くお待ち下さい」


 お昼を過ぎた冒険者ギルドは閑散としていました。

 早朝と違い受付嬢も交代でお昼休憩なのか、一人しかいませんでした。

 キャリーさんです。

 今日は何だか良くないことが起こる日なのでしょうか。

 朝から気分が優れませんね。

エディ氏に絡まれましたので食事は手早く済ませまして、ギルドに報告に来たのです。

 エディ氏は放置です。

 神子捜索に人手がとられたからと言いまして、街の警ら隊は残してあるはずですから、何方かに発見されるでしょう。

 薄情ですか?

 これが、私達の日常です。

 外見で判断するミラルカの新人冒険者が一度は通る道なのです。

 猫君はお腹が満たされ、またおねむです。

 ポーチの中で熟睡しています。


「ギルド長がお呼びです。ギルド長室にお行きください」


 戻ってきたキャリーさん、案内する気がありませんね。

 早朝に来ましたから場所はわかりますが、職務怠慢ではないですか。

 普通は先導すると思うのですが。

 奥には職員さんが複数おみえですけど。

 ラーズ君に促され二階に上がります。

 勝手にして注意されましたら、キャリーさんのお名前だしておきますね。


「キャリーか、入れ」


 ギルド長室をノックしましたら、そう返事がありました。

 やはり、規定に反していますよ。

 私達はいわゆるお客様なのですから先導は必要です。

 また、ギルド長にお叱りを受けてください。


「失礼します」

 ラーズ君に続いて、ペコリと頭を下げて入室しました。


「あっ⁉ キャリーはどうした。受け付けが混んでいたのか?」

「どうやら、僕達と関わりたくないみたいです」

「何だと、何を考えているんだ。まぁ、今はいい。君達の話が先だ。依頼を完遂したと言うことだが」


 ソファを示され、私を挟む様にして座ります。

 体面にギルド長さんが座り、ラーズ君が討伐部位の竜角と数枚の鱗を、机上に出します。


「水源地には確かに邪竜と思わしき亜竜がいました。しかし、水を汚染していたのは亜竜ではありませんでした」

「どういう意味だ。なら、何故水が汚染していた?」

「水中に魔素溜まりが発生し、瘴気に晒され続けた亜竜が狂乱していました。僕達には魔素を浄化する術がありませんから、必然的に亜竜は討伐しました」

「なるほど、それでは浄化は神殿の分野だ。領主に掛け合い手配させて貰おう」

「領主様には此方も提出して下さい」


 更に封印球の欠片と帝国製の監視魔導具を取り出しました。

 動力原と記録媒体は外してあります。


「水源地で見つけました。恐らく、帝国製品だと思われます」

「帝国の? 聖女の一行が落としていったのか?」


 言葉を濁すラーズ君ですが、鑑定でははっきり帝国製だと情報に記載があります。

 政治的問題に発展しかねない案件に、一冒険者が首を突っ込んで良い訳ありません。

 そういうのはシルヴィータの上層部のお仕事です。

 どうぞ、頑張って下さい。


「偶然か故意かわかりません。しかし、悪意ある行動であるのは間違いないと思われます。亜竜は本来海が生息圏の海竜でした。内陸のシルヴィータに生息する筈がありませんし、故意ならば今日まで何ら情報を提供しない帝国に不審しか覚えません」

「確かに、王族の離宮には聖女が滞在中だ。万が一トリシアで収穫された農産物を、口にする機会がないとは言えんな。隊長ではないが、聖女が訪れてから問題が発生しすぎだ」


 自作自演ではとは言えません。

 何度もいいますが、内政に干渉する気は更々ありませんし、そこに気付いて対処するのはシルヴィータの人達です。

 神子誘拐を企てた王侯貴族の役にたつのは腹立たしいですから。


「聖女ご一行は離宮に立て籠りですか?」

「あぁ、王都のギルド情報ではそうらしいな。魔導具の返還要求には、訳のわからんことを言っているな」

「ちなみに何と?」

「何でも領主の悪事に荷担する気はないとか、人の身に余る力は滅びを呼ぶとかな。意味が解らん」


 精霊のことですね。

 やはり、水源地には高位の精霊がいたのですか。

 現在の領主のご先祖様が契約を交わして、水源地を守ってきていたと思います。

 それが、領主の血筋に連なるご子息の手によって外されたかしまして、契約不履行になり精霊は去ったのかもしれないです。

 当事者ではないので憶測でしかありませんけど。


「嬢ちゃんは、何か意味がわかるか?」


 私を見て発言を求められるのは、ギルド長さんは水源地の詳細な情報をお持ちなんですね。

 私でなくとも、石碑の術式を解読できる魔導師なら誰でも気付かれると思いますけど、問われるのならば答えます。


「水源地は精霊が守護又は魔素溜まりが発生しないように、調律してたのですね。けれども、契約を反古にされてしまいました。精霊は去ったか、聖女に憑いていったかしたのではないですか」

「正解だ、嬢ちゃん。水源地の精霊は初代領主夫人の契約精霊で、夫人が亡くなられた後も魔導具の魔晶石を捧げることを条件に、守護してくれていた。聖女は精霊使いの才があるようだ。シルヴィータに到着時にはいなかった水の高位精霊が、聖女と契約を結んだとの情報があった」


 知らず握った拳に力が入ります。

 精霊使いの才。

 エルフ種の私がもって生まれなかった才。

 正直人族の身でと羨まない訳ありません。

 大地の精霊は中位でしたから、高位な精霊に乗り換えたのもしれません。

 もしくは、精霊の能力を過信して見誤りでもしたのでしょか。

 精霊と会話できても使役できない欠陥がある私には、あの精霊を契約して救出する手段をとれませんでした。

 寂寥感が募ります。


 〔セーラ。大丈夫ですよ。僕もリーゼも傍にいます〕

 〔ラーズの言う通り。何処にも行かない。行かせない〕

 〔はい。ありがとうございます〕


 リーゼちゃんが手を重ねてくれます。

 不安がるのは無しですね。

 使えないモノに何時までも固執するな、とトール君にも嗜められそうです。

 私は私らしくあれば良いのです。

 公に出来ませんけども神子として、表向きに調薬師として胸を張れば良いのですから。


「それでは、依頼は完遂ですか?」

「そうだな。冒険者ギルドが関われるのはここまでだな。後は領主様の判断を仰がなくてはならんな」

「確かに、これ以上は領主様の……。? 何だか階下が騒々しくなっているみたいですよ」


 ラーズ君の耳がピコピコ動いています。

 リーゼちゃんが盛大にため息を吐き出しました

 何が起きていますか?

 二人とも教えて下さい。


 バダン‼


 勢い良く扉が開け放たれました。

 何事ですか。

 ラーズ君とリーゼちゃんが立ちあがり、臨戦体勢をとります。


「ギルド長。そこの3人を引き渡してくれ。広場で住民に危害を加えた疑いが掛かっている」


 騎士の隊長さんがエディ氏を連れて乗り込んで来ました。

 あら、もう回復しましたか。

 ラーズ君に一撃で伸されましたが、結構頑丈ですね。


「その事なら、弁護します。昼食中に喚かれたかと思いましたら、立ち眩みを起こされたのか、倒れたのはエディ氏ですね」

「また、詭弁か。お前達が魔法か何かしたんだろうが」

「それこそ、詭弁です。早朝から、絡まれているのは僕達の方です。ギルド長さんが証人です」

「あぁ、それは事実だ。広場での事は報告になかったが、大方やり込められた事が気に入らなかったか、キャリーに泣きつかれていい処を見せたかったのだろう」

「なっ‼」


 あらら、そういう事情がありましたか。

 職員との恋愛は禁止されていませんが、贔屓を産み出しますから、推奨はされません。

 エディ氏の場合は情報収集に使われていると思われます。

 何故ならエディ氏には複数の女性の臭いがする、とのラーズ君情報です。

 キャリーさん可哀相ですが、貴女は本命ではないらしいですよ。


「だいだい、いい大人が恥も外聞もなく、権力者に訴えますか。こんなのは、気に入らない相手に意地悪する子供と一緒ではありませんか」


 エディ氏はラーズ君の舌戦に反論出来ませんね。

 実年齢は私達の方がうえです。

 隊長さんも思い出されたのか、心なしか存在が空虚になってきました。

 外見で侮るから恥をかくのです。

 是非ミラルカに来て下さい。

 私達のように実年齢と外見年齢がかけはなれている種族が、一杯いますよ。


「隊長さん。お捜しの人物は見つけられたのか?」

「ま、まだだ」

「なら、冒険者同士のいさかいに首を突っ込んでる場合じゃないか?」

「そうなのだが、色々手は尽くした。それでも、みつけられないのだ」

「他の地域にいる可能性はないのか? トリシア近辺との情報は何処から出た?」

「王都の王族縁の占術師だ。評判と腕はよい 」

「彼の人か。それは確かな情報だな」


 そうですね。

 実際に神子はトリシアにいますから、正確ですね。

 名乗り出てはいきませんけども。

 体勢を戻したリーゼちゃんは飽きてわざとらしく欠伸がでています。


「もう終りなら帰りたい」

「リーゼに同意します。丁度隊長さんが訪れて来ましたので、報告します。ご依頼は完遂しました。後は領主様のご裁可待ちになります」

「昨日の今日でか? 素早いな、流石に賢者殿のお弟子さんだな」

「はぁ⁉」


 エディ氏が、すっとんきょうな声をあげました。

 知らされていませんでしたか。

 てっきり、存じて絡んで来ていると思いましたけど。


「あぁ、ここだけの話にしてくれ」

「えっ⁉ 待って下さい。彼等はミラルカの冒険者ギルドから派遣された、昇格試験組みではないのですか?」

「まさか、トリシアの問題を他国の冒険者ギルドに任せられないだろう。今のトリシアに竜殺しの冒険者がいるのか? 王都にとられていないだろうが」


 キャリーさん情報だとそうなっていたのですか。

 ラーズ君を見ると首肯いています。

 世間体というのでですね。

 エディ氏はどんどん青褪めていきます。

 まさか、賢者様に告げ口すると思われていますか。

 勿論、冒険者にとりましてホウレンソウは大事ですから、昨日からの出来事は報告、連絡、相談はしますよ。

 トール君が何を思いますかは、トール君次第です。

 私は関知しません。

 子供染みていますか。

 充分私は未成年者なので、子供ですから良いのです。



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