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第28話

 痛い。

 苦しい。

 お腹空いた。

 喉が渇いた。

 あれが欲しい。

 自分のモノにしたい。

 あれは、自分にこそ相応しい。

 だから、邪魔は排除する。

 欲しいモノは、自分の為だけにある。


 共有?

 分け与える?


 何故。

 なぜ。

 ナゼ。


 あれは自分のモノ。

 自分だけのモノ。

 自分を輝かせるモノ。


 何故に、分け与えなくてはならないの?


 なら、みぃんな、いなくなればいい。


 あはは。


 みぃんな、いなくなった。

 これで、あれは自分のモノ。



 だから、お前は妾を慶ばせよ。

 早く、お前は妾の元に来よ。


 さあ、おいで、妾の……!


「我が姫!!」


 ぬるま湯に浸かっているような、たゆたゆしく微睡み、誰かが喚いているのをひたすら聞いています。

 アレキサンドラさんに纏わりついていた黒い影の気配が、段々と近付いて来るのが分かります。

 けれども、私の身体は指先一つも動かせなくて、距離を取ることもままなりません。

 もどかしさとあらがい続けていると、滅多に感情を荒げない彼の声が聞こえてきました。

 私を姫呼ばわりするのは、ただ一人だけ。

 果ての大地にいる黒の騎士。

 ある陰謀に巻き込まれて、神殺しにならざる負えなくなった孤高の王。


「我が姫。ここは危険地帯である。疾く、安全地帯に帰還されよ。ああ、あいつは何をしている。我が姫を、精神体でこんな場所に来させるとは」

 ❲ラグナ君?❳

「如何にも。我が姫よ。この場は、私が封印の要としている果ての大地。疾く、工房へ帰られよ。そら、我が姫の忠義厚き姉君や兄君が迎えに来られておられる。さあ、帰られよ」

 ❲待ってください。私は何故、ラグナ君の近くに来てしまっているのですか?❳

「恐らく、近くにおられる賢者殿が禁句を言われたか、お側近くにあれが関与している神々がいるのかも、知れません。それか、我が姫の身許に時空や水晶がおられるかもしれませぬ」

 ❲ジェス君とエフィちゃんが?❳

「ああ、すでに二柱は転生を果たされましたか。ならば、あれが復活する兆しやも知れませぬ。お気をつけくださいませ。あの女神と兄弟神が、我が姫を狙っております。白いヤツに警告しておきましょう。さあ、その手をお取りください。帰還できますゆえ、御身の周りを幾十にも警戒と災害避けをなさってくださいませ」


 黒の騎士ラグナ君に促されて見上げると、真上に見慣れた燐を顕にしたリーゼちゃんの腕がありました。

 先程迄、指先一つ動かせなかったのですが、ラグナ君の気配に包まれているのか、助力してくださっているのか、右腕が上に伸ばす事が出来ました。

 けれども、ラグナ君の声は聞こえてはいますが、姿は見えません。

 もしや、私が迷い込んで来たので、助ける為に精神だけ傍らに来てくださいましたか?

 そうなら、大変申し訳ないです。

 ラグナ君は、果ての大地にて自身の身体ごと、果ての大地と化した大地に眠る同胞を癒しているのです。

 果ての大地に縛られて、天の楽土にいけない悲しみを、一人だけ逃れたラグナ君は寄り添っているのです。

 ですから、わたしは余程の事案が起きない限りは召喚できないでいます。


 ❲ラグナ君、ありがとうございます❳

「いえ。我が姫の御身の為ならば、疾く駆け付け致します故、お気になさらずに」


 優しい言葉が、胸が響きます。

 きちんと、帰りますので安心してください。

 指先がリーゼちゃんの腕に触れました。

 途端に、がっしりと掴まえられて、身体が浮上していきます。

 上空に濃藍色の獅子と優美な姿で光にあたると虹色に輝く巨大な体躯の龍がいました。


 〔セーラちゃん〕

 〔セーラしゃま~〕

「「セーラ!!」


 あら。

 獅子からはジェス君の、龍からはエフィちゃんの幼い声が聞こえてきました。

 いつの間に、そんなに成長したのですか?

 私がいない間に、まさか季節を幾つか過ぎたとか言わないですよね。

 誰か答えてくださいな。


「愛しい子。再びの別離は、母は許しませんからね。さあ、帰りましょう。どうか、これを肌身離さず身に付けておきなさい。即死魔法を反射します。いいですね。母との約束ですよ」


 豊穣のお母様?

 お母様まで、迎えに来てくださったのですか。

 ああ、申し訳ないです。

 ぐんぐんと上昇していくにつれて、意識も浮上していきました。

 リーゼちゃんに掴まれている反対側の左手首が暖かくなっています。

 お母様がくださったアイテムですかね。

 気持ち悪い黒い影の気配が遠ざかっていきました。

 恐らく、神器ですよね。

 ありがとうございます。

 お母様。

 ラグナ君にも警告されましたので、これからは警戒心を忘れない様にします。

 優しいお母様の纏う空気と、過保護な身内の迎えに胸が暖かくなってきました。

 そうして、私は意識を取り戻したのでした。


「「セーラ!!」」

「セーラ、無事? 痛いとこ、ある?」

 〔セーラちゃぁあん〕

 〔セーラしゃま~~〕


 目を覚ますなりに、ジェス君とエフィちゃんの顔面突撃に遇いました。

 あれ。

 身体は小さいままでした。

 あの立派な体躯の神々しく威風堂々な姿は、夢だったのでしょうか。

 しかしですが、顔面にべったりと重みが加わり、息がしにくくなりました。


 〔ふにゅう〕

 〔ちょっとだけ、つかれましたの~。お休みなさい、でしゅの~〕

 〔ジェスも、少しだけお昼寝するの〕

「なら、セーラの顔から降りて、籠にいれますよ」

 〔はぁい〕

 〔はい、でしゅの~〕


 ラーズ君が脱力したジェス君とエフィちゃんを持ち上げて、息苦しさから解放されました。

 ラーズ君ありがとうございます。


「セーラ、大丈夫? 苦しい、ない?」


 リーゼちゃんに掴まるようにして、身体をお越します。

 半身を起こすなり、リーゼちゃんに抱き付かれました。

 急に倒れたので、驚かせ不安にさせてしまいました。

 ごめんなさい、リーゼちゃん。

 リーゼちゃんに取りましては、身内を亡くすのは禁制ですからね。

 感情も揺れに揺れて魔力が暴走して家具が、危なそうです。

 どうやら、リビングのソファに寝かされていました。

 急な事で、自室に運ぶのは止めたみたいです。


「それで、セーラ。急に倒れたのは分かっていますか?」

「はい」


 ラーズ君に幾つか質問されて、ラグナ君と精神だけ邂逅したのを話しました。

 序でに、ジェス君とエフィちゃんの大人になった姿を見たのも話しました。


「正直、済まん。俺が無くした記憶を揺り起こす発言したからだな。あー、アッシュにどつかれるのは確定か。あー、どうやって交わそうかな」


 あの、トール君。

 少しばかり、遅すぎです。

 ほら、背後に転移の魔法陣が展開しています。

 アッシュ君のご帰還です。


「トール」

「うわっ!? やべっ。マジに怒っているわ」


 地を這う低いアッシュ君の声音に、トール君も逃げられないのを悟りました。

 アッシュ君からは、身内には発しない威圧感が膨れ上がってきています。

 ラグナ君に、召喚ラインでの念話で散々と嫌味を言われたのでしょうね。

 私の白と黒の騎士は、大変仲が悪いです。

 それはもう、本当に宥めるのが苦難な程舌戦を繰り返すのです。

 ですから、同時間同場所に、二人を召喚しないのが暗黙の約束です。


「なあ、トール。何故におれが、あいつに苦情を言われないとならないんだ? おれは多忙を極めるから、子供達の安全は任せたよな。任せとけって、太鼓判押しやがったよな。なら、何故に延々とあいつに文句を聞かされないとならないんだ?」


 お怒りです。

 最凶最悪な魔人様の降臨です。

 まだ、そのお怒りがトール君にだけ向けられているのは良いですが、リーゼちゃんも固まってしまい身動きが出来ないです。

 ラーズ君も気迫に飲まれてカチコチになっています。

 どうしましょうか。

 どうしたら、落ち着きますかね。


 ふみゃぁおう。

 くるるるぅ。


 〔誰ですか? ジェスはねむねむだよ。寝たいの!〕

 〔アッシュ兄様、【状態異常回復(リフレッシュ)】でしゅの~〕


 お眠なジェス君とエフィちゃんによって、アッシュ君の攻撃的な威圧感が沈静化していきました。

 沈静化でも良かったのですが、寝ぼけているジェス君とエフィちゃんですから、上級の魔法を行使したのでしょう。

 トール君の胸倉を掴みかけていたアッシュ君の行動が制止されました。


「ええと、アッシュ済まない。セーラに口が滑って、余計な言葉を聞かせた。幸いにも精神攻撃は黒騎士が、抑えてくれた。ジェスとエフィが、精神世界からセーラを救出した。だが、ラーズとリーゼがかなり弾かれたのだが、理解できるか?」

「おれの見解だが、内包する能力の違いだな。ジェスとエフィは神々に列なる神獣で、ラーズとリーゼは幻獣の縛りだろう。幼くとも、保有する固有技能(ユニークスキル)の差だと思うがな」

「肯定。ジェスとエフィ、いない、精神世界、干渉、不利」

「そうですね。ジェスとエフィのお陰で助かりました。明日のおやつは奮発しましょう」

「肯定。木苺のケーキ、胡桃入りのパン、手にいれてくる」

「リーゼちゃん、これ使ってください。常連客専用の会員証です。三割引になる優れた会員証です」

「ん。朝から並ぶ」


 今ミラルカで流行しているケーキ屋さんの会員証は、偶然町中で引ったくりとぼったくりの、被害に遭いかけた、冤罪を晴らしてみたお礼なのです。


 店主の方が厳つい外見なものですから、毎日のように接客すると幼い子供には泣かれてしまうのが、ちょっとした有名店となっています。

 私は偶々、お買い物中に遭遇した、ライバル店への嫌がらせで食材を売ろうとしなかったお店の前で、堂々と食材を買い占めて、適正な値段で譲り渡しました。

 店先でやり取りをしましたので、目撃者は多数いました。

 恥しらずにも嫌がらせで売らなかった食材を、返還するように街の警邏隊を呼び、アッシュ君の部下の捜査で商品値段を不正に吊り上げていた犯罪と、立地の良い場所を転売目的で、お眼鏡に適ったお店を担保にして借金をさせて、家と店舗を手にいれていたのが、判明しました。

 会員証はそのお礼でした。

 会員証は盗難防止がされているので、近しい身内にしか、第三者は使用できません。

 リーゼちゃんとラーズ君は、私と良く買い物に付き添ってくださいますから顔は覚えられているでしょう。

 木苺を使用したミルクレープが、人気なメニューです。

 既に、頭の中はミルクレープ一杯です。

 明日が楽しみです。

 そうだ、明日はお気に入りの茶葉でお茶にしましょう。


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