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第16話

 反撃を開始しました。

 まず、トール君が成したことは、魔王都に本家クロス工房の支店を作ったことです。

 アッシュ君の縁故がある犬人族(コボルト)さんの商店に間借りする形で、完全フルオーダーのみの扱いで既製品の販売はなし。

 ポーション類消耗品は間借りした商会が販売する手はずになりました。

 開店当日は、トール君と警護のアッシュ君と私達が売り子を務めました。

 まあ、ガチガチに私には幾重もの防御魔法が掛けられ、リーゼちゃんが始終張り付いていました。

 魔王位を狙う方々のちょっかいは、未然に防がれていました。

 愚かな魔王位に固執する方々の中には、私を買い求めるお馬鹿さんもいまして、トール君とアッシュ君の怒りを買いました。

 勿論、クロス工房のお客様に相応しくないありようでしたから、出入り禁止になりました。

 後で、人身売買であると魔王都の警邏隊に垂れ込みましたので、二度と来店することはなかったです。


「態々、ミラルカまで出掛けなくてもよくなって、助かった」

「ポーション類もあちらより効果は確実だし、これで嫁の体調も元通りになったよ」

「やっぱり、あちらはクロス工房の名を使った騙りだったんだな」


 開店当日は、ポーション類消耗品は、割り引きして販売しましたから、沢山のお客様に来店していただきました。

 他店の商会には事前に魔王都の商業ギルドに通達しておいてあります。

 魔王都の商業ギルド長さんは、自称クロス工房を査定し、騙りである事実を知り得ていましたから協力的でした。

 周辺の商会は、騙りを平然と行う自称クロス工房に不平があった様子で、皆さん工房を廃業にさせる作戦に乗ってくださりました。

 それに、本家クロス工房がフルオーダーしか商いをしないスタンスに、市場を独占販売せず、一時的な開店だと受け止めておられます。

 また、多少の魔導具の融通売買契約も結べて、非難は回避されました。

 この作戦には、周りの商会にも関わってくれないとなりませんから、多少の製作時間が長くなるのは仕方がないと諦めます。

 ミラルカでの通常販売もありますし、商業ギルドでの取りきめもありますから、一日に販売する量も限定されています。

 転売目的で買い占めようとする強欲な商会には、早速退場していただきました。

 自称クロス工房を廃業にさせる作戦には、魔王様にも相談されたそうです。

 孫可愛さに無茶な要求を求められるかと不安でしたが、沈黙すると言質をいただきました。

 それだけ、自称クロス工房はやらかしていたのです。

 既存のポーションを薄めて販売量を増やし、助かるはずの怪我が治らない。

 名工の作だと偽り、鈍の武器に、すぐに壊れる防具を販売していた。

 扱いが難しい魔導具を、子供でも扱えるて吹聴して大惨事になった。

 数えきれない苦情の嵐には、丁寧に対応することなく、ミラルカのクロス工房にと難癖を逃れる。

 商業ギルドも商業権利の剥奪を、魔王様に進言していました。

 これまで、自称クロス工房には魔王様の身内がパトロンとなり、非難が公然と出来ない環境にありました。

 魔王様の名を持ち出して、商業権利をもぎ取り、年会費も払わない傍若無人な自称クロス工房を誰よりも、腹に据えかねた怒りを抱いていたのが商業ギルド長さんでした。

 本家クロス工房の支店が開店した日に、魔王様の印を頂いた未払いの年会費の請求書を叩きつけたそうです。

 あちらは、アッシュ君の義妹さんが魔王様の権力をちらつかせたりしましたが、請求書にはきちんと魔王様の印があります。

 期日までに支払いがなければ、商業権利を剥奪すると記載されています。

 義妹さんが喚き騒ぎ、圧力をかけようが、公的文書には違いがありません。

 破り捨てようとされたみたいでしたが、正式な公的文書ですから破れるどころか、商業を司る神の罰が降るだけです。

 無恥な義妹さんは神の罰が降り、魔力を封印されたそうです。

 魅了魔法も封じられて、取り巻きの面々が我に返る人が連日出てきていました。

 ただし、数年来の取り巻きは最早自我がないにも等しい方々でしたから、取り巻きを離れることはなかったです。

 取り巻きを離れた面々は、比較的最近になって増やされた取り巻きだったらしく、魔王様に庇護を求めたそうです。


「彼女を認識した途端に、自分が自分でなくなる感覚でした」

「命じられるまま、何ら効果のないポーションを作製したり、クロス工房の製品の贋作を作らされてきました」

「苦情の連続には、魔王様の権力を使って被害者を潰したり、クロス工房の評判を貶める言葉ばかり告げるしか出来ませんでした」


 逃げた取り巻きさん達は、罪の呵責から聞かれもしない陳情を訴え、自らも被害者だと罪の厳刑を求めていたらしいです。

 呼び出されたアッシュ君の話によると、魔王様も庇いきれない状態になったということでした。


「自業自得」

「身から出た錆、ですね」

「何だか拍子抜けするほど、素早い事態になりましたね」


 支店を開店して五日です。

 たった、数日で自称クロス工房は追い詰められていました。

 それだけ、不満が蓄積していたのでしょうね。

 魔王都の住民も表に出せなかっただけに、魔王様のお墨付きを得た商業ギルドが動いた、一様に見放した。

 評判が底辺になっていたのだと思い付きます。


「それで、支店はどうしますか?」


 お昼の時間帯は、支店も昼休みに入ります。

 間借りしている商会は、交代で人員がお昼休憩を取っていますから、支店にお客様にさが来たら教えて頂くことになっています。

 商会の職員用のキッチンで簡単な食事を作り、いただいています。

 煮こみ料理にしましたから、商会の職員さんもお相伴いただいてください。

 健啖家のリーゼちゃんには足りないかもですが、情報収集もかねて屋台の皆さんから焼き串等を買い求めています。

 初日から、蒸し鶏をまるごと三羽も買ってきては、お腹に納めています。

 本日は、子豚を二匹買ってきています。

 ラーズ君も似たような献立をしていますので、二人が平らげる度に驚嘆の声があがらます。

 なかには、料理屋の名前を教えて大皿料理を堪能したらいいと、密やかに賭けが生じていたりします。

 まあ、賭けの内容が、お昼代くらいの金額ですから黙認されていますが。


「そうだな。俺もここまで、順調に事がいくとは思いもしなかったから、どうするか悩んでいる」


 ラーズ君の問いに、トール君は頭を掻いています。

 まさか、商業ギルドに睨まれていたとは、情報不足でした。

 そして、義妹さんがやらかすとは誰も想像してはいませんでした。

 トール君とアッシュ君を取り込もうとした義妹さんは、贋作を止めて新製品を開発して私達に打撃を与えようとしていました。

 腕の良い職人を得意の魅了で虜にして、強引に引き抜いたのが仇となったのです。

 逃げ出した取り巻きさん達は、ここ数週間にて取り巻きに加えた職人さんでした。

 また、引き抜かれて廃業に追い込まれた工房主も、魔王様に陳情をあげていました。

 魔王様と側近筋の方々も庇い立てするには不利と感じて、救いの手は出さない方針に変更してしまいました。

 陳情をあげた廃業に追い込まれた工房主には、幾ばくかのお見舞い金をだし、逃げ出した職人を引き取るか提案をしたそうですが、どなたも工房の再建には至らなかったりします。

 既に工房を手放した職人さんが言うには、魅了にとらわれたとはいえ、どの面下げて元サヤに修まるかと怒り心頭でした。

 一度失った信頼は復元に至らないそうです。

 魅了魔法の厄介さは、掛けられた職人に元の工房に関して不満があり、辞めたいと内心で眠っていた感情を揺り起こされたからに違いがないのです。

 別離の際に、不平不満を吐き出して辞めた方々ばかりでしたから、元の工房主は引き取らないでいたのでした。

 クロス工房は、名をなして有名になってしまい、ひっきり無しの依頼から保護する役割で設立しました。

 工房主のトール君は、職人の保護ありきの設立で構えた工房ですから、自由きままに依頼の取捨選択を選ばしています。

 無論のことに、選ばれなかった依頼人は暴れたりする方もいましたが、なまじかトール君が天人族でも強い部類に入りますから、暴力に訴える方々は力で対処しています。

 そうして、矢面に立つトール君に恩義を感じて、職人の皆様は居心地がよいクロス工房を離れたがらないのです。

 ただし、トール君の歓心を得たいが為に、私達幼年組に手を出して離反した方もいますけど。

 エリィさんは、今はどうしているでしょうか。

 数度、変更前の鍵で工房に帰還しようとして、阻まれたと聞いています。

 トール君を諦めずに、いるのでしょうか。


「……セーラ、どうかしたか?」


 ぼんやりしていたのか、トール君が訝しげに聞いてきました。


「済みません。ぼぅと、してました」

「なら、いいが。無茶をしているんではないな?」

「はい、元気ですよ」


 エリィさんの話題は禁句でしたから、慌ててごまかしてみました。

 嘘がつけない私にできるのは、話をずらすことだけです。

 トール君も把握しているので、突っ込んで聞いたりはしないでくれました。


「まあ、いい。でだな、当初の予定通りに一月は支店を構える。あちらさんがなにかしら、手を打ってくるのを待ち構える算段でいる。魔王の庇護がない限りでは、たいしたことは出来そうにないが、各自警戒はしておけよ。特に、セーラの単独行動は禁止な」

「はい。分かっています。魔王様のお膝下に、魔王位に関わる私がいる。魔王位を狙うには絶好な機会ですし、あちらも諦めてはいないでしょうし」

「是。宿泊施設、突撃、ある」

「兄さんの魔王都での拠点ですから、侵入者避けは充分に手配されてはいるのですが。諦めの悪い輩が多すぎですね」


 前回の教訓で、私個人に掛けられた保護魔法は、拠点にも張り巡らせてあり、トール君謹製の魔導人形(ゴーレム)が、警護にあたっています。

 それに、アッシュ君の使い魔さんも常駐しています。

 侵入者は、敷地に入る以前で排除がなされています。

 拠点ではリーゼちゃんとは同室ですから、私に害を成そうとするのは無理ではないかと思います。

 気付かない振りをしていますが、ジェス君とエフィちゃんが交代で不寝番をしているみたいなのです。

 日中は、鉄壁なガードが付いていますので、お昼寝したりしていますが、体調を崩さないで欲しいです。

 私からは止めてとは言い難く、アッシュ君に相談したいところでもあります。

 当のアッシュ君は、今現在は不在です。

 魔王領の西側で魔素溜りが発生して、魔物の大発生が懸念されて対処に行かれています。

 地脈の流れを良く視ると、確かに西側の方角で流れが溢れだしそうになっています。

 でも、この魔王都にも流れが順調ではない箇所もあり、心配しています。

 (くだん)の、自称クロス工房がある場所ですが。

 アッシュ君が帰還するまで、もつか微妙なところです。

 トール君には報告してありますが、少しだけ不安視しています。

 アッシュ君。早めの帰還を待っています。

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