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第13話

 ついに、神国から召喚者三人がミラルカに来ました。

 魔王都の偽称クロス工房対策を講じている中で、頭の痛い事態がまたもや発生してしまいました。

 メル先生の錬金術に憧れる召喚者ミノル少年が、メル先生の居所を調べあげてクロス工房に突撃してきたのです。

 少年は割り札がないと入店できない決まりを逆手にとり、冒険者ギルドに依頼して臨時パーティに入って入店資格を得ました。

 少年の探究心には恐れ入ります。

 何度も断るメル先生と工房主のトール君でしたが、ある日店番をしていたセイ少年と鉢合わせしてしまい、セイ少年の存在がバレてしまいました。

 セイ少年は髪色等で変装していたのですが、顔馴染みなだけにあっさりとバレたのです。

 セイ少年がよくて、自分が何故駄目なのか問い詰められてしまいました。

 そして、偽善者の自称本物の勇者だと宣うシンジ少年が、義憤に駆られてミノル少年の加入の是非をと口を挟んで来ました。

 その辺りで、トール君がご立腹になり、セイ少年が工房に保護された経緯を明らかにしました。


「あんた等が、神国で衣食住何不自由なく過ごしてこれていた間に、セイは生きるか死ぬかの選択を強いられた。あんた等が、神の使徒とやら持て囃されていた間に、拷問を受けていた。それを助けて保護したのを、あれこれ言われる筋合いはない」

「それに、興味本位で職人が大切な商売道具に無断で触る、勝手に断りを入れるのもなく素材を駄目にする。適切な対処をしないから、触れた手がかぶれるのは当たり前よね。だというのに、責任を取れだなんて愚かなことを主張する。そんな弟子はいらないわ」


 トール君とメル先生はにべもなく、お断りを宣言しています。

 ですが、頭がお花畑な思考をしている少年達は、聞く耳を持っていないのでした。

 一応、謝罪らしものはしたみたいですが、諦めることを知らない。

 二日に1度の割合で工房にやって来ます。

 割り札は、ミラルカの商業ギルドから買い求めたようです。

 そのお金がどこから発生しているのか、認識はせずに数点の買い物をしてセイ少年に絡んでは帰っていく。

 そんな日々が過ぎていきました。


「トール。彼等を出禁にして。セイのストレスが半端ないんだけど」

「リックもだ。根掘り葉掘り聞かれて、嫌味を言われている」


 保護者のギディオンさんとヒューバートさんが、弟子見習いの後見に就いた少年を労ります。

 なるべく、お店番にはラーズ君とリーゼちゃんが入っていましたが、おかしなことに、この二人の時には入店しないのです。

 まあ、一回だけ邂逅して、手酷く反論してやり込めたからだと思います。

 最近は常連のお客様も、セイ少年とリック少年を庇う発言をしてくれていて、新顔な余所者を警戒しています。

 彼等は冒険者ギルドでも、騒動を起こしていて、入宮禁止になった望月の迷宮、自称人食いダンジョンを踏破すると息巻いていたそうです。

 自分達ならやれると、自信満々で回りに吹聴していました。

 受け付け嬢の言葉に耳を貸さず、ギルド長預かりになり、A級保護者のお目付けを付けて入宮させてみました。

 案の定、幻惑に囚われて危ない目にあい、一階層も踏破することは出来ないでいました。

 彼等の弁明は、装備が貧弱だからだそうです。

 幻惑に対抗する装備がないから、踏破出来なかったと言っているそうです。

 そこで、有名なクロス工房に最新鋭の装備を発注してきました。


「否。作らない」

「僕もお断りします」

「工房の職人はやってもいいけど、予約制になるよ。二年待ちになるけどね」


 リーゼちゃんとラーズ君はお断りする方針で、ギディオンさん達職人は条件付きでの発注ならお断りしないみたいです。

 まあ、二年待ちとかで、遠回しにお断りしているようなものですが。

 果たして、反発する少年を黙らせたのはアッシュ君でした。

 暗くて狭い迷宮を嫌がる聖女候補な少女を除いて、比較的温厚な魔物がいる新人用の迷宮に少年二人を投げ込みました。

 念の為に、使い魔を配置して、結界は張ってでしたが、満足な準備をしたと宣っていた少年等、僅か数時間で倒れました。

 最弱な魔物のスライムすら倒せず、集られただけでしたが、恐慌状態でやらためったに武器を振り回して自滅した。

 阿呆さんです。

 最弱スライムは弱点がはっきりしている魔物です。

 核さえ破壊すればいいだけです。

 装備が充実しても魔物の情報を仕入れていない、お馬鹿さが露呈していました。

 その失敗が世間に流布され、最弱な魔物を倒せないスライムよりも弱い似非勇者だと評価をつけられた彼等の鬱憤が、充実した生活を送るセイ少年に向けられたのは当然ななり行きでしょう。

 ギディオンさんとヒューバートさんの陳情で、召喚少年二人の出禁が決まりました。

 漸く、穏やかな日々が戻ってきたと思いましたが、今度は少女が何やら画策していたのです。


「ここに、闇の妖精族(ダークエルフ)がいるんでしょ。出しなさい。聖なる私の祈りで改心させてあげるから」

「……お帰りはあちらです。直ちに、退出してください。こちらの、リーゼが怒りに満ちる前に出ていった方が身のためです」

「はあ? ノリが悪いわねぇ。でも、貴方気にいったわ。私の親衛隊に入れてあげる。感謝してね」

「頭が悪いのはお客様です。僕はお客様に何ら興味が湧きませんし、魅了魔法もお粗末です。虜にはなりませんので、悪しからず」


 お薬の補充にきた私は異質な魔力を感じて、隠れてみたのですが。

 どうして、聖女と名乗る人は一様に魅了魔法を保有しているのでしょうか。

 自称聖女さんも魅了魔法の使い手でした。

 自身の魅力で他者を虜にしなくて、魅了魔法にすがる気持ちが分からないです。

 この少女を連れてきた商業ギルド員は、魅了魔法にとらわれているみたいに見えました。

 充分な犯罪なんですが、理解しているのでしょうか。

 それとも、ニホンとやらでは合法なのでしょうか。

 悩まされます。


「レンカ、行きましょう。貴女の魅力が分からない、愚かな者はお側に侍る必要はないのですから」

「あら、でも。司教さんが言っていたわ。ダークエルフを帰依させれば、莫大な富が手に入るって。私、欲しいものがあるの。我慢したくはないわ」


 取り巻きらしき男性に忠告されて、小声で返す少女でしたが、丸聞こえです。

 びきり。

 リーゼちゃんの堪忍袋の緒が切れかかっています。


 〔リーゼちゃん。落ち着いて、情報収集の為に、我慢してください〕

 〔やだ。こいつ、敵、だ〕


 あちゃぁ。

 リーゼちゃんが完全に敵認定してしまいました。

 残念ですが、仕方がありません。

 私が側に行って宥めないと、お店が嵐にあってしまいます。


 〔セーラ、駄目です。待機していなさい〕


 よしっと、気合いをいれていましたら、ラーズ君にとめられてしまいました。

 ああ。

 ラーズ君もお怒りになっています。

 これから、反撃が行われますね。

 多分、いい笑顔でやり込めるのだと思われます。


「お客様。随分とこちらを馬鹿にした発言をされますね。そして、どうも世間知らずなお馬鹿なお嬢さんと、嘘の教義を教える団体に神国はなられたようですね」

「は? 何の事?」

「ダークエルフといった種族は、この大陸にはいません。ただし、肌色が濃いエルフは南の海側に棲息する海の妖精族(メーアエルフ)になります。メーアエルフは、海神の加護厚き種族。断じて、邪神を信仰する種族ではありません。そのことは、神国の信仰する神々が神託を降ろしている筈ですが、いつから教義を変更されたのです?」

「いや、そのっ……。彼女は世間に疎いんだ。まだ、勉強不足な所があり、誤解を与えた。済まない、謝罪する。ほら、君も謝って」

「何でよ。司教さんが言っていたわ、こ店にいるダークエルフを……」

「だから、違うって。ダークエルフだなんて、帝国に対する煽動だ。君に嘘の教義を教えた司教は、罰しなくてはならない」

「じゃあ、捕まえても財宝が手に入れるのは不可能なの?」

「ダークエルフが隠匿した財宝だなんて、夢幻だよ。誰も本格的に探さないガセだから」

「何なの。じゃあ、こんな店に来なくて良かったんじゃないの。時間を損したわ」

「ああ、ごめんね。帰りに、装飾の店に行こう。前に発注した髪飾りが出来上がっているはずだ」

「うん。すぐに、行きましょう」


 カランと、ドアベルが鳴り一行が出ていきました。

 影から覗いていた私達に向けて、喋っていた男性が頭を下げていきます。

 この方、どうやら少女を焚き付けて、私を狙う神国の聖職者がいるとわざとらしく教えてくれたみたいです。


「あの人は、兄さんの諜報員かもですね」

「わざと、教えた?」

「みたいですね」


 客足が途絶えて静かになったお店に行きましたら、ラーズ君とリーゼちゃんがぼそりと感想を述べました。

 それにしましても、ダークエルフの財宝だなんて、噂が噂を呼んで過大な誇張になっています。

 確かに、メーアエルフは海の幸で、真珠や珊瑚の加工で有名でしたけど。

 帝国に襲撃された際に、全て取り上げられたのですが。

 どこから、話が伝わってきたのか不思議です。


「兄さんなら、もっと詳しい情報を得ているでしょうから、聞いて見ましょう」

「是。謎、解明する」

「私も気になりました」

「それより、セーラ。ジェスとエフィは?」

「あっ。ポーチにいますよ。多分ですが、お昼寝中です」

「まあ、最近は張り切って周囲を索敵していましたから、疲れが貯まっているのでしょうね。それに、工房自体に先生と兄さんが新たに結界を張り直したから、安全だとは思いますが」

「はい。さっきまで、アッシュ君が居ましたよ。今は、呼び出しがかかったと言って、出ていかれましたけど」


 居住区にアッシュ君がいなくなりましたから、お店に顔を出したのです。

 ジェス君とエフィちゃんは侵入事件が起きた辺りから、夜は交代で見張り番をしているみたいなのです。

 二人が寝たかな、と安堵して休んでいたら、寝た振りをしていただなんて事がありました。

 それをアッシュ君に相談して、止めさせていたのでした。

 ジェス君とエフィちゃんは、アッシュ君の言葉には素直になります。

 お小言を頂戴して、今は睡眠に入っているのです。


「リーゼちゃん。今日は一緒に寝てください」

「了承。ジェスとエフィ、幼子。睡眠、大事」

「そうなのですよ。この間の事件で落ち込んでいましたから、私を守ることに集中してしまっています」

「あれは、僕も注意喚起させられましたので、ジェスとエフィを叱れないですね」

「同意」


 あらら。

 ラーズ君とリーゼちゃんも落ち込んでしまいました。

 あの侵入事件がもたらした注意点が、ラーズ君達をやる気にさせているのも事実です。

 魔王候補の選定に、神国の行ないといい、安心出来ない日々が続きます。





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