第15話
月曜投稿です。
よろしくお願いします。
はい、やってまいりました。
水源地の泉です。
獣形のラーズ君の背に揺られ恙無く到着しました。
魔導具盗難から警備していると思われる騎士さんは、ラーズ君の幻覚で惑わされ、リーゼちゃんの魔法で夢の中です。
道中ですか?
ギルドからご立腹なリーゼちゃんの殺気で、魔物どころか小動物一匹たりとも遭遇しませんでした。
さすが幻獣種最強な捕食者たる竜なだけあります。
さくさく進みました。
私も燻っていましたので解消できるかなと、構えた弓の出番がなくなり少し残念でなりません。
「セーラ、調査を始めますよ。さっさと終わらせて帰りたいですから」
「はい、私も早く帰りたいです」
ラーズ君の言う通りですね。
同感です。
現実逃避している場合ではありませんでした。
水源地はちょっとした泉を形成していまして、中央付近から湧き出すその水の色が真っ赤に染まっています。
やはり、魔素溜まりは水の中と確定です。
泉の周辺に建てられた石碑には埋め込まれた魔導具を掘り出した跡がありました。
彫られた術式は浄化と供給。
対象は水属性の……、高位精霊⁉
亜竜ではありません。
どういう訳でしょうか。
思わずリーゼちゃんに拘束されています、亜竜の状態を鑑定してみます。
騎士さんを眠らせました後で泉に近付くと、さっそく亜竜に襲われました。
亜竜は体長三メートル位の大きな蛇の姿をしていまして、利き腕を竜化したリーゼちゃんに掴まれています。
▽ ステータス
名前 ――――
種族 幻獣種 亜海竜
年齢 82
状態 衰弱・狂乱
追記 生息圏は海
海竜でしたか。
泉は淡水ですから狂乱も頷けます。
さぞや、苦しみ抜いていることでしょう。
その怨嗟が魔素溜まりと相まって泉の水が汚染し、飲食した街の住人の精神に影響を与えていると推測できます。
亜竜を討伐したとしましても、魔素溜まりを浄化しない限り水の汚染は続きます。
依頼は異変の調査と亜竜討伐ですから、浄化は含まれてはいません。
慈善事業をする気は私にはありません。
これが、ミラルカでしたら悩みましたが、ギルド長さんには言質を取ってあります。
逸脱した行動で、神子だと素性を疑われるのは御免ですから。
「ラーズ君リーゼちゃん。亜竜は海竜ですけど、どう対処しますか?」
「討伐しないの?」
「討伐したら何方かの思い描いたシナリオ通りになりそうですが、私には選択の余地はない気がしまして、悩み処です」
「魔導具の返還に応じない件も気になりますけど、亜竜を正常に戻すことは出来ないですか」
「調薬師としましては秘薬でも使わないと、正常に戻せません。猫君と違いまして、亜竜は魔素に侵されすぎです。神殿の神殿長クラスの浄化が必要です」
「ならば、討伐一択ですね」
「同意する。理性ない。セーラ狙ってる」
身体に絡み付こうとします亜竜の胴体を、踏みつけて動きを制限しているリーゼちゃん。
素早い動きで亜竜を泉にぶん投げします。
あちらこちらに、帝国製の記録魔導具を確認しています。
通信規制がされていますから盗聴の心配はありませんけども、迂闊な発言は厳禁です。
念話でも会話はできますが、無言での討伐は逆に帝国に不審がられます。
決定的な呼称は避けた多少の情報流出は仕方ないと思いました。
亜竜は真っ直ぐに私を目指して、水中を異動してきます。
腕の竜化を解き徒手空拳の構えのリーゼちゃんと、双剣を抜いたラーズ君が前にでます。
私は愛用の精霊銀製の弓と、対竜用の矢を番え二人の間から狙いをつけました。
まずは一射。
水中から水上にでる隙をついて右目に命中。
「グギャアアア……」
二射目。
痛みに咆哮をあげる口中から上顎に命中。
「逆鱗は喉元です。ラストアタックは誰にしますか?」
「ラーズに譲る」
「任されました」
理性を無くし本能で魔力を求めて止まない亜竜は、美味しい獲物の私しか見ていませんでした。
私を喰らおうとするのに立ち塞がるリーゼちゃんは進路上にラーズ君を残して、横にそれ射抜いた右目の死角から亜竜を蹴りあげます。
手加減された蹴りでしたが無防備に曝された喉、にラーズ君の双剣が二閃し逆鱗が砕け散りました。
「ギャァァァァァァァ‼ 」
竜種の弱点は逆鱗です。
砕かれれば生命を脅かす程の激痛に見舞われ、耐えきれなければそのまま死に至ります。
はたして、亜竜は断末魔の咆哮を最期に息絶えました。
「さて、次はどうしますか。亜竜の討伐部位は竜角と鱗だと思います」
「わかった。鱗剥ぐ」
生命の終わりに何ら感慨を持たず処理をしていきます。
これが、冒険者の性ですかね。
淡々と数枚の鱗を剥いていきます。
今回は現場が水源地でしたので、水がこれ以上亜竜の血が流されて汚染が手に負えなくなります状況を鑑みて、短期決戦で挑みました。
亜竜の遺骸は無限収納に収納しました。
血肉は調薬の素材に、革と鱗は鍛冶の素材に利用します。
依頼書には引き渡しの条件はありませんでしたから、所有権は討伐した私達にあります。
トール君や保護者様が喜びますね。
後は水源地に居る筈の精霊が消え、海が生息圏の亜竜が出現した謎が残ります。
「ラーズ、セーラ。見つけた」
「何ですか?」
「これは……。対竜種用の封印球の欠片ですね」
リーゼちゃんが見つけたのは使用済みの封印球の欠片でした。
その名の通り幻獣種を生きたまま拘束・封印する球です。
やはり、トリシアの異変は第三者が介在している証拠ですね。
亜竜を捕縛して精霊のいない水源地に放ち水を汚染した。
トリシア近郊の農業用水や人や動物の飲料になる水。
人体に害となると速やかな水源地の浄化が必要ですね。
あれ?
シルヴィータには今帝国の聖女がいます。
「ラーズ君、嫌なことに気付いてしまったのですけど」
「セーラもですか。僕もです」
「? 何のこと?」
リーゼちゃんは気付いてはないですが、ラーズ君は盛大に眉をしかめています。
これは、帝国の自作自演になる予定ではなかったのでしょうか。
密かに魔導具を外して亜竜を水源地に放ち、毒を発生させる邪竜と偽り、帝国の息が掛かった冒険者で討伐するかしまして、泉の水を更に汚染させます。
そこへ、聖女ご一行がトリシアを訪れ浄化します。
彼女らの中にはシルヴィータの王族がいますから、快く引き受けて名声はうなぎ登りになること間違いないでしょう。
もしかしなくても、王位継承争奪戦に巻き込まれましたか?
関り合いになるとは思いもよりませんでした。
一体、アッシュ君は何を鑑みて私達を推薦したのですか。
ミラルカに帰還しましたら、いの一番に尋ねなくてはなりません。




