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第4話

 魔王様の事情はあれど、私をだしに使われるのは拒否したいものです。

 結局、トール君とアッシュ君が対応しても、少年達は諦めませんでした。

 業を煮やしたトール君がキレて暴れださない前に、アッシュ君が強引に魔王城に連れ帰りました。

 また、再訪するのは目に見えています。

 ですので、トール君は工房の結界を強化し始めました。

 少年達を指定して、工房には近付けない迷路になるように設定しました。

 工房の職人や見習いのセイ少年達には、不審者情報を告げて単独では行動しない旨を注意勧告しました。

 私には、浮島での調薬時にもリーゼちゃんが護衛につきます。

 何と、迷惑なことでしょう。

 リーゼちゃんの自由時間が無くなってしまいました。

 本人は気にしてはいませんが。

 私が心苦しい結果になっています。

 過保護な保護者様方の皆様は、リーゼちゃんだけの護衛で大丈夫なのか心配されています。

 そこは、声を大にして言わせてもらいました。

 浮島はトール君とアッシュ君による結界に守られていますし、ジェス君とエフィちゃんの守護魔法が重ねられています。

 ひょっとしたら、工房より安全なくらいです。

 逆に魔王様側の襲撃があれば、浮島に避難していただけるかと。

 何とか、納得していただきました。


「皆、心配」

「それは、理解しています。皆様、親代りのような方々ですから」


 リコリスちゃんの依頼をこなす為に、浮島の調薬室に籠りました。

 工房の調薬室に素材がありませんでしたから、浮島の薬草園で収穫して調薬開始です。

 リーゼちゃんは少し離れた位置で、膝にジェス君とエフィちゃんを乗せて座っています。


 〔セーラちゃんを狙うの許せない〕

 〔そうでしゅの~。絶対に許せませんの~〕


 ぷんすかお怒りのジェス君とエフィちゃんです。

 リーゼちゃんも実はお怒りの様子なので、咎めたりはしません。

 ラーズ君も同様です。

 リコリスちゃんがお帰りになったので、天狐の郷まで送っていかれました。

 認識阻害をかけていたとはいえ、少年達はリコリスちゃんの側近くに来ています。

 魔力波形を辿られたら、気付かれます。

 万が一にも、リコリスちゃんが人質にならないように、用心に越したことはありません。

 依頼されたポーション類も、ラーズ君が郷まで納品に行ってくれるてはずになりました。

 序でに、魔王領の情報を得てくるそうです。

 宿泊していけば良いのにと、私は思いました。

 しかし、リコリスちゃんは頑なに、嫁入り前だから外泊は許されていないと主張していました。

 天狐の決まりは厳しいようです。

 いえ、お家の決まりでしょうか。

 ラーズ君がとかく言わないですから、私が口を挟むのは止めました。


 〔むう。お外、変なのが来た〕

 〔本当にでしゅの~〕

「肯定」


 調薬の微妙な配合に気をとられていましたら、招かざるお客様がまた来訪して来たみたいです。

 三人三様窓越しに、外を警戒しています。

 すると、ガツンと浮島の結界が揺れました。

 浮島自体は揺れてはいないので、物が散乱することはありませんでした。

 しかし、調薬の邪魔にはなります。

 手元が狂い、危険な配合になったら、どうしてくれますか。

 苛立ちます。


「空から来たと言うのならば、翼を持つ種族の方でしょうか?」

「微妙」

 〔何だろう? 気配がごちゃ混ぜ〕

 〔飛竜種に、乗っていましゅの~〕

「魔人種、獣種、色々」

 〔あっ。喧嘩になったよ〕

 〔セーラしゃまを、誰が連れていくかで揉めていましゅの~〕


 個人ではなく、団体さんでしたか。

 そして、意思の統一がなされていない。

 魔王位を狙うスタンドプレーによる、私の奪戦が行われているのですね。

 無駄なことに、労力を使われてご苦労様です。

 リーゼちゃんが外に飛び出して行かないのを見るに、脅威になりそうな輩はいないと判断していいです。

 放置して良さそうですね。

 ただ、調薬の邪魔にいらっと来ますが。


「邪魔、排除、する?」

「そうですね。リーゼちゃん一人で対処できる相手なら、お願いしますけども」

 〔少し、待って〕


 竜人のリーゼちゃんと獣人のラーズ君が、私の傍らにいるのは周知されています。

 何らかの、対応策を講じられているやも知れません。

 危険回避はしないといけないです。

 幸いにも、時空属性があるジェス君が、外の様子を探ってくれました。

 ジェス君の周囲に小さな魔法陣が浮かびます。

 すると、ミニチュアな浮島と赤い点が現れます。

 赤い点は敵対を表しますから、浮島の周りにいる方々は邪な思考をする輩であるのが分かりました。

 私は望んで同行する訳ではないですから、立派な誘拐犯です。

 犯罪紛いの手段に出てまで、魔王位に就きたいとする輩の気が知れません。


「結構な数ですね。トール君とアッシュ君と敵対しても、魔王位が魅力的なのでしょうか」

「肯定。権力だけ、狙い。魔王位、制約ある。理解して、ない」


 ああ、そうですね。

 希少種族の保護を、蔑ろにしそうな雰囲気ですよね。

 私も保護される種族であるのに、己の野心の道具にされていますから。

 そんな輩が魔王位に就いたら、人間種との騒動が持ち上がり、戦争に発展したりするのかもです。


 〔見つけたぁ。リーゼちゃん対策に、危険な魔導具所持しているよ。竜種用の捕縛罠と、隷属の首輪とかある〕

 〔嫌でしゅの~。此方の吸血種族の魔族は、魅力魔法を底上げして、セーラしゃまを捕まえる気でいましゅの~〕


 思っていた通りな展開に、溜め息しか出てきません。

 これでは、迂闊にリーゼちゃんにお願いする訳にはいかなくなりました。

 安全第一が最優先です。


「理解。浮島、出ない。攻撃、する」


 リーゼちゃんが宣言しましたら、赤い点が急速に落下していきました。

 視認外で、雷魔法を使用したのです。

 ジェス君が赤い点として存在を表してくれていましたから、距離を計り魔法を行使したのです。

 難なくこなしていますが、実際に行うと難しいどころではない離れ業です。

 流石は、リーゼちゃんです。

 細かな魔法はラーズ君が得意とするのですが、範囲を指定しない大技になりますとリーゼちゃんに軍配があがります。

 感性で行っているようで、リーゼちゃん自身も勘でとの答えが返ってきます。

 竜種が所持する特性によるものかも知れません。


「大分、減りました。ですが、まだいますね」

 〔次は、ジェスがやる〕


 にゃあ、とジェス君が一鳴き。

 赤い点がふっとんでいきました。

 ジェス君は結界魔法を極大に広げて、吹き飛ばしたのです。

 こうして、代わる代わる魔法を行使して、どうにか浮島に平穏が戻ってきました。

 終盤にはラーズ君が帰宅して仲間に加わり、良い笑顔で駆逐していました。

 私は途中から調薬の続きを再開して、依頼された品を用意出来ました。

 ラーズ君に預けて、工房にトール君のご機嫌伺いにいくことになりました。

 当然、浮島の一件はトール君に駄々漏れしていますから、ご機嫌は芳しくはないだろうと思っています。

 案の定、トール君は不機嫌丸だしでした。

 リビングで殺伐とした空気を醸し出して、手紙をしたためています。

 誰に宛てているのか、聞くのも憚れます。


「トール先生宛てに、手紙を受け取りました。その返事でしょう」

「魔王領でですか?」

「はい。あちらには、クロス工房から独立した職人がいます。その筋から、セーラを養女に迎えたいと宣う阿呆がいるそうです」


 あれは、独立したとは言えないのではないかと。

 古参の職人様方に付きまとい、商業ギルドを抱き込み、強引に弟子に入り込んできた見習いがいたのです。

 どこぞの、有名工房の出身との触れ込みでしたが、半人前以前の腕でした。

 基礎を大事にする職人様方の指示に従わない、貴重な素材を駄目にする、勝手に依頼を受ける。

 問題しか起こさない見習いに、工房を潰しに来た刺客なのだと認識するしかなかったのです。

 勿論、トール君は激怒して追放しました。

 徒弟制度も見直して、試験の意味で特定の製品を製作して認められてから、弟子に迎える。

 内外に徹底周知しました。

 一方、追放された側は厚顔無恥にも、クロス工房の名を掲げて魔王領に工房を立ち上げました。

 無論のこと、トール君は暖簾分けしてはいないし、支店を許可してはいません。

 粗悪な製品を買ったお客様が、わざわざミラルカまで訪れて苦情を言いにきます。

 そういった方々は、大半が贋物であるのを承知して買われたのです。

 賠償金目的と、トール君の弱味を握る為に、利用したのでした。

 ただし、その目的は叶いません。

 トール君は一貫して、魔王領でクロス工房を名乗る相手とは無関係であること。

 一時期は確かに所属していたが、一月も満たない期間であり、解雇したこと。

 弟子と言える実績はないこと。

 事細かく説明して、苦情は本人に、賠償も本人に。

 此方は、一切の補償はしないと伝えました。

 目論見が潰えたお客様は、逆ギレしてお店で暴れました。

 どうにか、お金をむしりとろうとしていました。

 まあ、クロス工房にはアッシュ君という最凶様がいます。

 見事に鎮圧されて、魔王様に直に突き出されていきました。

 そうした阿呆なお客様の矛先は、偽のクロス工房に向けられたのですが。

 何故か、お咎めは無し。

 未だに存続しているのには、理解が追い付きません。

 その辺り、余程の支援者がいるのでしょう。

 もしかしたら、アッシュ君の異母妹さんが画策していたりして。


「おう。お前達、ちょうどいい。座れ」


 私達に気付いたトール君が、ソファを勧めます。

 手紙に封をして、ぞんざいにテーブルに放ります。

 つい、視線がいきました。


「ああ、手紙が気になるか。何、頭のイカれた阿呆に対する返事だ。まあ、あっちが理解するか分からんがな」

「魔王領のあの工房からだそうですが、未だに健在なのは意味があるのでしょうか」


 疑問に思っているのを、この際に聞いてみました。

 トール君は、苦笑しています。


「まあな。あいつ等は元々、クロス工房に在籍していた事実だけが欲しかった。だから、堂々とクロス工房に師事していたと宣伝できる。営利目的ではなく、うちを貶めるだけにやっているのさ」

「その割には、目的は達成してはなさそうですけどね」


 ラーズ君は辛辣に評します。

 そうですよね。

 我がクロス工房は、繁盛しています。

 取引をしている商会が、縁をきる様子はないです。

 逆に、よしみを結びたい商会が増えていっています。

 有り難いことですね。

 けれども、胡座をかいて天狗になってはなりません。

 気を引き締めていかなくては、ならないです。


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