第14話
金曜投稿です。
翌朝、リーゼちゃんのお蔭ですっきりと目覚めました。
昨夜の残り物と果物で朝食を済ませてから、冒険者ギルド長と共にギルドに赴きました。
「では、こちらが依頼内容になります。ご確認ください」
ギルド長室に通され特別待遇に疑問が湧きましたが、ラーズ君がいつも通りなので口は挟みません。
きっと、昨夜のうちにギルド長さんと打ち合わせ済みなのでしょう。
職員さんも未成年ばかりなパーティーに不審を隠せていません。
手渡そうとします依頼内容の用紙を中々離そうとしません。
「キャリー、彼等の実力は高ランク保持者のお墨付きだ。安心して任せるんだ」
「……解りました。ギルド長がそうおっしゃるのならば、異論はありません」
言外に責任はギルド長にあり、ギルドには非がないと職員さんは言いたいのですよね。
「確認しました。それでは、僕達は出発します」
「お待ち下さい。道案内の職員がまだ……」
「必要ありません。僕達にはエルフ種がいますから、水源地迄は迷いなく着きます」
「ですが、君達は他国の出身ですから……」
「あぁ、監視役ですか。解りました、待ちます」
ラーズ君の主導権にたじろぐ職員さんです。
ギルド長さんが額に手を当てています。
そうですよね。
他国の聖女がやらかしました後ですから、警戒するのは必然でしたね。
未だに返還の意志がないとのことです。
幾ら高ランク保持者の推薦が有ろうと信じられないでしょう。
室内に沈黙と冷気が漂っています。
私達には、馴染みの有る光景です。
未成年ばかりなパーティーですから、外見で判断され横槍を入れられるのは、当たり前なのです。
さすがに冒険者ギルドの職員さんです。
生意気と取られがちなラーズ君の対応に動揺しながらも、道案内役の冒険者を引退した方を呼びに退室されました。
「何故に、喧嘩腰なんだ? キャリーが何かしら粗相したか?」
「特には。ただ外見で判断基準しての、人物鑑定は止めさせた方が良いですよ。人種によっては無礼行為に当たりますから」
「キャリー……。また悪い癖が出たか。すまない、厳重注意してしておく」
人物鑑定は文字通り、目の前の人物を鑑定する技能です。
私は緊急時でもない限り視ませんが、自分の情報が第三者に筒抜けになるのは誰でも嫌いますよね。
それが、秘匿されているなら尚更です。
ラーズ君とリーゼちゃんは幻獣種であることを、私は神子と固有技能を秘匿しています。
職員さんは下級の鑑定持ち主でしたから、私達の情報はギルド証に載せている当たり障りのない部分しか鑑定できなかったでしょう。
擬装や隠蔽の技能は私達の方がうえですしね。
人物鑑定対策は万全です。
気不味い室内にトントン、とノックの音がしまして、ギルド長さんが入室を許しました。
「失礼します。お待たせしました」
入室したのは、ギルド長さんと同年代らしき男性です。
立ち振舞いが冒険者らしくない礼儀正しさを物語っています。
「彼はエディ。引退した元騎士だ。彼ならば騎士団も文句は言わないだろう」
「はじめまして、エディだ。よろしく頼む」
「はじめまして、僕はラーズです。竜人がリーゼでエルフがセーラです」
ラーズ君の紹介に合わせまして頭をさげました。
エディさん、引退した割には精錬された所作ですよ?
もしかしたら、籍は未だにあるかもしれませんね。
ラーズ君の言葉通りの監視役ですか。
「先に言っておく。ギルドは何ら画策してないからな。敵対する意味がないからな」
「ギルド長?」
「変に邪推しないで下さい。エディさんが、冒険者らしくない礼儀ただしい人だと思うだけです」
「はは。良く言われるよ。冒険者に鞍替えしたのなら、粗野にならないと舐められる、とね」
この人爽やかな笑顔の裏で人物鑑定してますよ。
リーゼちゃんの眉間に皺がよっています。
肉体的には害はなくても不快感は感じます。
ラーズ君の声が硬くなってきていますのを、ギルド長さんも理解できていることでしょう。
〔リーゼ、申し訳ありませんがこの人を人物鑑定してみて下さい〕
〔? 了承。エディは偽名。所属はトリシア騎士団〕
〔ありがとうございます。セーラはいつもの通りリーゼに引っ付いていて下さい〕
〔はーい〕
ラーズ君の指示に従いリーゼちゃんが人物鑑定を行いました。
私だと嘘が吐けませんから、リーゼちゃんなら気がつかれても隠しようがありますしね。
「騎士に戻られたら如何ですか。まだご縁があるみたいですし」
「……人物鑑定かな? 初対面の相手は了承がないとお説教では済まされないぞ」
「お互い様ではありませんか。トリシアのギルドは不躾で、マナーがなってなくて困ります」
「ギルド長! 何なんですか、この人を馬鹿にした子供は。本気でこんな子供に、任せるの……。なっ」
ラーズ君の挑発に易々と乗るエディ氏です。
騎士の隊長さんもそうでしたけど、騎士は直情な人が多いのですかね?
未成年と侮り実力を見誤ったエディ氏は、ギルド長さんに詰め寄ろうとして、ラーズ君に拳を繰りだしました。
予想していたラーズ君はその拳を受け止め捻り、余裕綽々でエディ氏を転がします。
「申し訳ありません、ギルド長さん。ご依頼はうけますが、道案内は必要ありません。ご覧の通り彼では、足手纏いにしかなりません。行くよ、二人とも」
ラーズ君に促されギルド長室を退室します。
その際リーゼちゃんが起き上がろうとしたエディ氏に、追撃とばかりに頭の横を加減して踏みつけました。
哀れな木目の床に穴が空きます。
「付いてきたら今度は頭やる」
ラーズ君を狙われて少々ご立腹なリーゼちゃんですね
私も何かしようかと思案していましたが、ラーズ君に腕を取られ笑顔でとめられました。
むぅ。
毎回なこととはいえ私も報復したかったです。
不機嫌な私とご立腹なリーゼちゃん。
冷めた笑顔で周囲を威圧するラーズ君。
こうしてトリシア異変の調査ははじまりました。
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