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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
133/197

第25話

 謁見の間には、緊迫した空気がながれています。

 怒りを露にする国王。

 敵対行為は止めましたが、こちらを窺い警戒している猟兵団。

 索敵を掻い潜り私を狙われ、八つ当り気味なリーゼちゃんとラーズ君。

 三者に巻き込まれてまいと、傍観する宰相さんたち。

 均衡が崩れれば、また実力行使が始まります。

 三竦みの状態は、撤退を視野に考え始めました。

 ヴェルサス家の奏上が終わり次第、王宮からでましょう。

 ラーズ君に念話を送ると、了承されました。


「ご当主。当初の目的をはたしましょう」

「うむ。陛下、並びに宰相閣下。明日の午後にて、ここにいるベルナール殿の遺児が、竜召の儀式を、執り行います。王家は、ヴェルサス家の要望にお応えなさいますか。ならないのならば、我が屋敷にて執り行うことに致します」


 竜召喚の魔導具は、ヴェルサス家も保有していましたか。

 お庭が広かったのは、竜が降りても大丈夫なように設計されていたのですね。

 ならば、王宮の裏手の斎場は何の意味があって、管理されていたのでしょう。


「待て、それはならん。街中に竜が現れれば、民が恐慌をきたす。それに、有史以来の儀式を軽んじるのは、ならん」

「では、斎場にて執り行うのは、ご許可いただけますか?」

「ヴェルサス。本当に竜種は応えてくれるのか。大伯母の仕出かした小さな妬みが、王家に竜の呪いを得た。初代以来の竜種との婚姻が薄れた血筋は、復活なるか?」

「それは……」


 言葉に詰まったお爺さんが、リーゼちゃんを見ます。

 竜人族は、竜種と人の混血から産み出された種族になります。

 昨日は街並みを歩いて見ましたが、リーゼちゃん並の竜角や竜鱗を持った竜人の姿が、少ないように感じました。

 竜種が秘境のドラグースに引きこもりになってしまいましたから、竜種との婚姻が減り能力も減退していっているのではないでしょうか。

 国王さんも、リーゼちゃんと比べると、卵の殻を被ったヒヨコみたいな差が、浮き彫りになります。

 近衛兵も竜人にしては、華奢な体躯をしています。

 本来なら、身体強化した私と竜人族だと、分があるのは竜人族のほうです。

 が、ヴェルサス家のジェイナスさん然り、家令さん然り、私達にこてんぱにされています。

 鍛練の練度が低すぎます。

 力業に頼る闘い方は、帝国には対処されて、蹂躙されりるこては間違いなしです、


「竜王。竜人に興味なし。おまけに、ドラグースも興味なし」

「どうしたら、ドラグースは昔話の様に、竜種と手を取り合える」

「竜種。人の欲に狩られた。個体数、激減。竜人も、人も信用なし」

「その信頼はどうしたら、得られる」

「そいつらが、いるから駄目。後は、斎場のエルギラ、植えた。盟約違反」


 リーゼちゃんは猟兵団を差して、部外者であることを示唆しました。

 竜を狩る猟兵団の前に、獲物を差し出す行為は出来ません。

 そして、大量に植えられたエルギラの樹木は、竜を誘う目的に合致しません。

 むしろ、阻害しています。

 どうやら、大伯母と言われる方の悪意を、皆さんはしらないようです。


「エルギラ? 斎場に植えられた樹のことか。甘い匂いが竜を誘うのだろう」

「逆。匂い、気に入らない。だから、飛龍(ワイバーン)もこない」

「な、何だと⁉ どういうことだ、ガウェイン。貴様は、竜が好む樹だと言ったな」

「ああ? 俺に聞いても知らん。総長が植えたら、竜は匂いによって酩酊して、捕まえ易くなると言ってた筈だ」


 猟兵団も、詳しい智識がないみたいです。

 エルギラは酩酊感を与えますが、すぐに理性を溶かして発狂させます。

 暴れまわる飛龍は、殊更に厄介な相手と変貌します。

 理性を無くした飛龍は、A級冒険者でも討伐には前準備が必要になります。

 危険極まりない災害クラスの魔獣です。


「安全に対処する、ユルギラが必要。花の蜜、飛龍の好物。エルギラ理性を奪い、災害の魔獣にさせる」

「では、これまで何人もの竜騎士候補が、喰われたりしたのも、エルギラの仕業であると言うか」

「肯定。後、候補の技量不足」

「何たることだ。善かれとしたことが、裏目に出ていたとは」


 嘆いていても、過去は変わりませんよ。

 ざわめきを発する重鎮の中には、別の意味で歪んだ表情をしている竜人を発見してしまいました。

 口許が嗤っている。

 国王辺りに、余計な智恵を注いだ竜人かもです。

 許可はないですが、こっそりと人物鑑定をしていましょう。

 うわぁ。

 真っ黒です。

 名前から、生い立ちまで偽装の嵐。

 竜人ですら、ありません。

 私が着けている擬装の神器と、ためをはる指輪をしています。

 ラーズ君とリーゼちゃんに、念話で申告しました。

 要注意人物です。


「陛下。自分に、よい案がございます」

「申してみよ」


 早速、注意人物が手をあげました。

 前に出てきて、リーゼちゃんを胡乱な眼差しで見やると、阿呆なことを言い出しました。


「ヴェルサス家は、中々の実力な持ち主の魔導師がいる模様。彼の魔導師にエルギラを処分して貰い、安全が確認されましたら、陛下のお眼鏡に適った竜騎士候補を儀式に出しましょう」

「バラバラ卿。当家には、部門の一門故に魔導師はおりませんな」

「ご謙遜を。昨日、ヴェルサス家の屋敷にて、魔導師クラスの魔法が行使されたのを、当家の魔導師が感知致しました」


 あー。

 リーゼちゃんの風魔法ですね。

 悪い空気を一掃した件のことを言っていますか。

 うーん。

 正直に話しても、あれですね。

 リーゼちゃんと分かっていないだろうけども、魔導師の実力を公にして、消耗させるのが狙いでしょうか。

 それとも、単純に表に出ない魔導師を警戒していると、見てとれます。


 〔そのエルギラを僕は見ていませんが、対処方法は燃やす一択ですか?〕

 〔燃やしたら、阿鼻叫喚になりますよ。地道に抜いて害のない場所に植え替えたいです。ちなみに、本数は千を超えています〕

 〔風魔法で引っこ抜く〕

 〔リーゼちゃんなら出来ると思いますが、魔導師だから竜騎士になれないと、反発されかねないのでは?〕

 〔あり得そうですね。なら、この件は沈黙しましょう〕

 〔はい〕

 〔了承〕


 念話で、無視を決め込むことになりました。

 私達が沈黙していると、お爺さんに突っ掛かる注意人物の表情が、愉悦に歪んでいきます。

 人物鑑定で、趣味嗜好までは読み取らなかったのですが、劣勢におちいる相手を甚振る嫌な性格をしていると思います。


「大方、ベルナール殿の遺児は、魔導師なのではありませんか? 竜を喚べたとしても、竜騎士にはなれませんな。どうです。竜王に、陛下と盟約を結ばせてみては。そうなれば、初代陛下以来の竜王の竜騎士が誕生する。ああ、竜を喚べた遺児は、陛下の側室にでも侍れば、竜王も納得してドラグースの守護竜となりましょうな」


 誇大妄想もいい加減にして欲しいものです。

 竜王=ジークさんが、国王に従うことはありませんし、リーゼちゃんが側室になるのも有り得ません。

 注意人物で周りでは、妙案だと囃し立てる竜人もいます。

 ラーズ君から、冷気が漂ってきます。

 目も据わり、剣呑な空気がを纏いはじめました。

 当のリーゼちゃんは、我関せず。

 好みではないと、一刀両断しています。

 あの人、正体を暴いてもいいですかね。

 小型ポーチから薬瓶と魔石を取り出して、魔石を薬瓶に放り込みました。

 淡い水色から暗い緑に変わり、蓋を開けたままで投げました。


「いきなり、何をしますか」

「この場には相応しくない部外者がいたものですから、つい反応してしまいました」


 狙い違わずに投げた薬瓶は、注意人物に払われました。

 しかし、油断していたのでしょう。

 中の液体が右手にかかりました。


「ちっ。何だと!」

「バラバラ卿?」


 一滴でもかかれば、効果は現れます。

 右手から腕をつたい、竜鱗が剥がれ落ちていきます。

 床に落ちた竜鱗は、黒く変色して煙をあげます。

 次に頬にある竜鱗も剥がれ落ちました。

 最後に竜角が根元から消失していきます。


「小娘。何をした」

「えっ。ご存知ありませんか。人族は皮膚呼吸する生物です。身体に害になる接着剤を使用して、竜鱗を張り付けていましたから、危険だと判断して剥がさせて頂きました。それに、竜角の持ち主さんが、返して欲しいと呪っていましたので、元凶の竜角を消しました」


 意地悪く笑ってみせました。

 竜人に見せる為に無理して竜鱗を張り付けていたことと、殺してまで手に入れていた竜角。

 持ち主の無念を視た私は、呪いの解呪ボーションを投げたのです。

 露になった注意人物は、人族が偽装していました。

 竜人に偽装できる人族は、只の人族ではありません。

 保有する魔力量と、竜人だと誤魔化せる能力に存在感。

 三人ほど、近くにいます。

 人から、人であることを止めた集団。


「お仲間なところに、戻られては?」

「ぐっ、看破技能か」


 ラーズ君とリーゼちゃんが前に出て、私を背に庇います。

 注意人物は、暴露されたのが看破技能だと勘違いしています。

 視ることに特化した私の人物鑑定は、本来の姿も映し出していました。

 そして、示された所属先の名前。

 竜狩りの猟兵団。

 ドラグースに入り込んだ諜報員。

 猟兵団がドラグースで暗躍していた証拠の人物。


「ふむ。バラバラ卿は、五年ほど前に大病を煩い、領地に引きこもりになっていたな。病が癒えたら、出仕して陛下の重鎮になった。その際には、何処からか出土した魔晶石を献上していたな。それから、陛下はヴェルサス家をみ

限り、レンダルク家を重用しはじめたな」

「その魔晶石は陛下のお気にいりとなり、肌身放さず身に着けておられるが」

「精神干渉系なのでは。リーナ。分かりますか?」

「はい。お兄様。確かに、精神操作と操心系の波長をしています」


 国王の胸元を飾る石からは、装着者を意のままに操る系統の魔力波長が感知できます。

 それを聞いた、宰相さんが有無を言わさずに、むしりとりました。

 操心系の魔力に浸っている悪影響で、動きが鈍い国王は抵抗出来ずに、玉座に座っています。

 石を取り除いても、すぐには正気には返りません。

 精神操作を受けて長い時が流れています。

 五、六日は影響が残ります。

 私の状態異常回復の万能薬なら、二日に短縮できますが、差し出すつもりはありません。

 そこまで、肩入れする気はないからです。

 それよりも、猟兵団の対処が気になります。

 諜報員を送り込んでまで、ドラグースに固執した理由は何か、分かっていません。

 竜召の儀式で竜を喚び、狩りの対称にするには時間をかけすぎている気がします。

 一体、彼等は何を考えているのか。

 謎が残りました。



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