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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
シルヴィータ編
13/197

第13話 ラーズ視点

水曜投稿です。

ブックマーク登録ありがとうございます。

 ふと、2階からリーゼの魔力が漂い思わず見上げた。

 セーラの身に何か起きたかと、一瞬警戒しかけたが、すぐに念話が飛んできた。


 〔今無性にトール君に会いたいです〕

 〔考えちゃ駄目。もう寝ること〕


 口下手なリーゼが寝かし付ける為に、魔法を使用したとわかり安堵した。

 僕もそうだけど、リーゼはセーラに対して過保護すぎる。

 トール先生とアッシュ兄さんに注意される程依存しているのを理解してる。

 僕達3人は同時期に親兄弟を、人族の欲望によって喪った。

 その時の恐怖や絶望は幾ら年月が過ぎようと忘れられない。

 幼年期は互いに肉体的・精神的な傷痕を埋め合う様に生きてきた。

 中でもリーゼの精神は著しく壊れていて、歪んでいた。

 僕とセーラを自分の領域から一歩でも外に出さないよう束縛し、先生達を物理的に排除しようと竜体でブレスを吐く。

 理性を無くした竜は災害獣として討伐されても問題がなく、幼すぎた僕達はなにも出来ずにいて、只リーゼの傷が増えていくのを見ているしかなかった。

 先生達の苦渋の決断を鋭敏な僕達の耳が拾いあげ、リーゼの処断が行われる寸前にセーラの魔力が爆発した。

 僕より小さな身体から溢れだした魔力は、物理や魔法に対抗する結界を構築し、リーゼの傷を癒し精神をも落ち着かせた。

 それは瞬く間の出来事だった。

 アッシュ兄さんが呆けたリーゼを昏倒させ、セーラの魔力を押さえ込んだ。

 そして、兄さんはセーラの魔力が術として行使出来ない様に鍵を掛けた。

 それも半永久的に、だ。

 セーラは自分が魔力を爆発させた記憶がないことから、記憶も改竄されたのだろう。

 僕は兄さんにこの行為の意味を問い詰めてしまった。

 今の僕は何故聴いたか反省している。

 セーラには、先天的に複数の固有技能(ユニークスキル)があり、其れが同時に暴露してしまい、魔力の枯渇を招き生命を脅かした。

 何処に問題があるのか僕には理解できなかった。

 トール先生もまだ楽観していた。

 兄さんが重い口を開く迄は……。

 聴いた僕とトール先生は頭を抱えてしまった。

 兄さんはこれから起こる出来事を予測して、セーラに神子の地位を用意しようとして画策していた。

 つまり、豊穣の女神様にセーラの境遇をリークしたのは兄さんだということで、偶発的ではなく意図的にお膳立てされた事件だったということ。

 神子ならば保持していてもおかしくない固有技能だと思わせる事に成功したんだ。

 女神様は喪った娘の復讐が叶うと嬉々と協力してくれたけど、不仲な姉妹喧嘩に巻き込まれるセーラが哀れだった。

 しかし、此方が引きそうになる女神様の溺愛振りに良かったのだとおもう。

 セーラも母親の愛情を一心に受け入れて、神子の職を全うしていた。

 だから、セーラが豊穣を祈願する儀式を投げ出してまで、シルヴィータという国を気にかける筈はない。

 神子出奔の報が入った時、僕とリーゼはミラルカにいた。

 セーラの素性を隠す為に目立つ僕達は、いつも儀式の間は別行動をしていた。

 神子姿のセーラには、トール先生が嫌々ながら天人族の正装と変装をして、側にいた筈だった。

 それなのに、 神殿は狡猾にも先生を出し抜き、強行に及んだんだ。

 神託が下りるまで、セーラ不在に気が付かない己れの不甲斐なさに駆られた先生の怒りは凄まじく、神殿は文字通り潰れた。

 我に返った先生から連絡が来るまで、僕とリーゼはのほほんと製作活動に勤しんでいた。

 リーゼが少々情緒不安気味だったけど、何時ものことで、セーラが帰ってきたら安心するものだと思っていた。

 あの時の僕を殴ってやりたい。

 何の為の召喚契約か。

 兄さんが施した鍵のせいで、魔力を循環させる身体強化しか、身を守る手段を持たないセーラを喪わせない為だろう。

 僕の傍らで暴走寸前のリーゼは、血の盟約による念話を飛ばしていたが、反応がないことに酷く怯えていた。

 兄さん経由で神域にいる、と知らせがなかったらどうなっていたことか。

 きっと、胆が冷えるとはこういう状態なんだと自覚した。

 神域を抜けたらすぐに召喚が行われるからと、リーゼを説得すること2時間近く経って、漸く召喚の魔導具が起動したことに泣けてきた。

 セーラには、言えないけど。

 なのに、セーラときたらご機嫌の様子で僕に笑いかけてきた。

 あれは僕をもふろうとする手つきだ。

 今にもブラッシングする道具を取り出そうとするセーラを制して、リーゼを召喚させる。

 どれ程竜体でシルヴィータに、乗り出そうとするリーゼを止めるのに苦心したことか。

 少し八つ当たり気味なお説教をしたのは言うまでなく、僕は悪くないと思った。


「どうかしたかな」

「何でもありません。セーラが眠りについたか気になっただけです」

「それだけかい」

「そうです」


 セーラは意識して他者の情報を視ないようにしているけど、詳細なギルド長の情報が欲しかったな。

 絶対に兄さんに関連がある人だと思う。

 冒険者ギルドはトール先生と兄さんが発案し作り上げた組織だから、兄さんの本職の情報元になっている筈だし、敵対行動は取らないと信じるしかない。

 不甲斐ないなあ、と自分でも思う。

 いつまで半人前扱いで、庇護下に置かれるんだろう。

 早く一人前になって隣に並んで、兄さんの肩にのし掛かる重みを支えたい。

 リーゼとセーラ、妹二人が幸いに満ちた未来が迎えられるように頑張りたい。

 今は目の前にあるトリシアの異変を解決させる下調べに集中だよね。

 地図を睨みながら僕は改めて決意した。


とても難産でした。

何度も書き直しました。

ラーズが知るセーラが知らない情報をどこまで開示できるかで悩みました。


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