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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
127/197

第19話

 うにゃ~ん。

 きゅう~ん。


 小型ポーチから寝台に飛び出した、ジェス君とエフィちゃんが伸びをしました。

 拡張されているとはいえ、ポーチの中でおとなしくしていたのですから、身体も凝っていることでしょう。

 思い思いに身体を動かしています。

 あれから、話し合いは終わり、ヴェルサス家でお泊まりすることになりました。

 身柄を預かる=監視される。

 レンダルク家と接触させない為にも、懐に囲いこむのは必定でした。

 前払いしていたお宿には、家人の方に説明させに行くそうです。

 まあ、ヴェルサス家所縁のお宿でしたので、事件にはならないでしょう。


 〔セーラちゃん。ジェス、お腹が空いた〕

 〔セーラしゃま。エフィもでしゅの~〕


 くるると、可愛い音が聞こえてきました。

 私達はお先に済ませていましたので、我慢をさせてしまいました。

 ジェス君は紹介出来ても、エフィちゃんが新たな騒動の種になってしまいます。

 龍種のエフィちゃんは、竜人族にとっても崇拝の対象です。

 私から取り上げようとするのは、分かりきっています。

 秘匿するのは、自衛の為にもなります。

 こうして、満足に食事が取れない時もあるかと、二人のご飯は沢山作りおきしてあります。


「お待たせしました。こちらに、食事をだしますね。リーゼちゃんが、防音と人払いの結界を築いてくれています。安心して食べてくださいね」

 〔はあい〕

 〔はい、でしゅの~〕


 エフィちゃんがジェス君を抱えて、宙を漂いテーブルに移動しました。

 ジェス君は、重力を扱い重さを軽減しています。


 〔いただきます〕

 〔いただきます、でしゅの~〕


 テーブルに着くと、行儀よく頭を下げて食べ始めます。

 今日のご飯は魚を中心にしたメニューです。

 二人の健康管理には、気をつけないといけません。


「ご飯食べて、大きくなる」

「ジェスもエフィも神獣種ですから、幼年期は長そうですね」

「二人の時間に付き合える種族で良かったです」


 妖精種(エルフ)で本当に良かったです。

 人族でしたら、寿命の短さにやきもきしたかもしれません。

 可愛いジェス君とエフィちゃんが、(ことわり)を無視して寿命を繋ぎそうで怖さがあります。

 私も神子の恩恵で、妖精種としては永い寿命を約束されています。

 充分にジェス君とエフィちゃんと、日々を過ごせます。


「時にリーゼ。儀式のある場所に、セーラを連れて行っても安全ですか」

「ん。山、飛竜(ワイバーン)がいるぐらい。危険種いない」

「飛竜に敵対されない保証があるのですか」

「騒がれる、とは思う。けど、攻撃はしないはず」


 ラーズ君は明日の行動に、些か過保護振りを発揮しています。

 初見の場所になりますからか、安全には気を緩めてはいないです。


「くれぐれも、セーラの安全には注意してくださいね。僕は召喚されても、呼応出来ない可能性があります。ご当主は、僕も王宮に同行させる気です」

「ん。いつも以上に、気をつける」


 私の召喚技能は、此方から呼掛けて呼応してくれてから、喚び出します。

 リーゼちゃん、ラーズ君にも日常生活があります。

 接客をしている最中に召喚なぞしてしまうと、障りがあります。

 他の召喚体は火急な災害級な出来事にでも、合わない限りは休眠させています。

 希に、安全でいるか問いてくれます。

 ラーズ君とリーゼちゃんが、召喚状態なのを知るとまた眠りについてくれます。

 他の召喚体も、随分と身を案じてくれています。

 私の召喚体は自身よりも、契約者を大事にしてくれる、過保護なお兄さんお姉さんです。


「セーラも、リーゼからは離れないようにしてください。万が一は、黒の騎士を召喚しても良いです」

「黒の騎士をを召喚したら、白の騎士にもバレてしまいますよ」

「そこは、契約者の意地で白の騎士を抑えなさい」


 黒と白の騎士は一対の召喚体です。

 嘗ては敵対関係にありました。

 今は関係は改善されていますが、無茶がたたって身体を休めていなくてはなりません。

 自身の存在を消失させてまで、相手を滅ぼし合う。

 悲しい宿願を背負って誕生した彼等。

 出来るなら、破壊行動には関わらせたくないのですが。

 リーゼちゃんが対応出来ない案件に、発展してしまいましたら真っ先にアッシュ君を喚びたいと思います。

 黒の騎士には、まだ休眠していて貰いたいのです。

 白の騎士、彼には容赦が通用しません。

 私の敵は一網打尽。

 そこに、無関係の誰かがいてもお構い無し。

 周りの土地事、敵を排除してしまう経緯がありました。

 やりすぎを嗜めるのですが、いっこうに理念を変えてはくれません。

 二人の騎士を御せないのは、ひとえに私の能力不足にあります。

 侮られているのではなく、心配性な一面が表に出すぎているのです。

 庇護の対象になってしまっています。

 彼等に、対等に見てくれるのはいつのことになるのか。

 単独でリーゼちゃんに圧勝出来るまでに、ならなくてはなりません。

 高い壁を乗り越えるには、大変なことだと思います。


「ん? セーラ、なに?」

「騎士さん達に対等に認めて貰うには、リーゼちゃんに勝たなければと思ったのです」

「力だけでは駄目だと思いますよ。精神面も鍛えなくては、常時召喚は無理です。今でさえ、僕とリーゼに魔力を流しているのです。幾ら、魔力保有量が多くとも、四体常時召喚は情報量が多くて処理できないでしょう。僕が、黒の騎士を召喚すればと言ったのは、リーゼとの召喚ラインが閉ざされた場合を、想定してのことです」

「ラーズ。過保護過ぎ。山、危険ない」

「だから、万が一と言いましたよ」


 ラーズ君は、ジェス君とエフィちゃんを数にいれてはいないです。

 ジェス君とエフィちゃんとの、召喚契約はラーズ君達とは違います。

 幼馴染であるラーズ君とリーゼちゃんは、魔力放出障害を打開する為に、私から魔力を受け流す役割をもってくれています。

 ジェス君とエフィちゃんの場合は、押し掛け契約でした。

 此方は、魔力の受け渡しがなく、召喚する時にだけ魔力を消費します。

 ジェス君とエフィちゃんの魔力回復には、魔力を込めた飴を渡す契約を結びました。

 幼年期の二人には、あまり他者の魔力を受けると成長を阻害してしまいます。

 トール君が頭を悩ませて、契約内容を考えてくれました。

 本来なら、ジェス君とエフィちゃんは召喚具を通じて、召喚体の控えの場である異空間に収容するべきです。

 その方が、ポーチに入るよりかは、伸び伸びできます。

 ですが、二人は常に私の側にいたがりました。

 召喚具越しだと、私に対する悪意を感じとりにくいと訴えてきました。

 私を守る役目を担う決心は堅く、ラーズ君とリーゼちゃん同様に常時側にいてくれます。

 私も、癒し要員のジェス君とエフィちゃんがいてくれるのは、心に響きます。

 最近は、ラーズ君がモフモフさせてくれません。

 ジェス君で満たしていますが、天狐のラーズ君を丸洗いしたい衝動にかられます。


「セーラ。真面目な話をしている最中に、良からぬことを考えていますね」

「うっ。少しだけです。お話の続きをどうぞ」

「全く、自身の身の安全は最優先に重きをおきなさいと、言ってるのです。どうも、僕の危険予知に何かがひっかかって仕方がありません」

「ん。風は悪意満載。セーラだけでなく、ラーズも心配」

「王宮に同行するのですよね。ラーズ君の方が、危険なのではないですか?」


 お爺さんが何を思って、獣人族のラーズ君を伴うのか判断がつきません。

 ドラグースは他種族排斥ではありませんが、竜人族は力が至上主義。

 試されるのではないでしょうか。


「セーラ。少々羽目を外すかも知れません。魔力をお借りします」

「どうぞ。自分では碌に扱い難い魔力です。ラーズ君に使用して貰っても構いません」


 自分では身体強化ぐらいしか、使い道がありません。

 ラーズ君とリーゼちゃんの為になるなら、本望です。


「ラーズ。魅了じゃない、花の匂いに気をつけて」

「花? 何の花か分かりますか」

「多分、百合。薔薇。」

「二種類ですね」

「ん。それ、竜人違う。妙な気配」

「亜種の竜でもいますかね」

「んー。兄さんに近い?」


 竜人族の王宮に魔人族がいるのでしょうか。

 リーゼちゃんも判別つかない相手がいるのは、初見の種族であるからです。

 アッシュ君は、魔人族と神族の気配を有しています。

 もしかしたら、神国繋がりで神族の眷族でもいるのでしょうか。

 天人族なら、トール君に近いと言います。


「何にせよ。どちらも身の安全には注意を払うべきです。僕はいざとなれば、幻惑で逃げ出せそうですが。魔人族がいたならば、少々厄介ですね」

「魔人、にしては弱い気がする。竜人の気を纏う魔人。おかしい」

「混血だったら、おかしくはないのでは?」

「混血、違う」

「それは、はっきりしているのですね」

「ん」


 竜人の気を纏う魔人。

 魔人族が竜人族に変化しているのかもしれません。

 としたら、目的は何になるのか。

 悩ましいです。


「セーラ。万能薬とポーションを分けてください。どうも、焦臭い気がしてきました」

「分かりました。各種状態異常耐性薬もつけておきます」


 儀式の山ではなく、王宮側が危険を孕んできてしまいました。

 魔人族を束ねる魔王様は、他種族との争いを好みません。

 人族の栄枯盛衰には、専ら関心がないと伝えられています。

 魔人が暗躍する。

 魔王様傘下の部下ではなく、はぐれの魔人が遊びで手を出していると、見ていいのでしょうか。

 ラーズ君単独で魔人と争うには分が重そうです。


 〔セーラしゃま。探索の魔法がきましたでしゅの~。反射しておきました~〕

 〔むう。おっきな攻撃魔法もきた〕

 〔反射しましゅの~〕


 悪意に敏感なジェス君とエフィちゃんが食事を終えて、何とはなしに警戒を促してきました。

 ジェス君が言った、おっきな攻撃魔法をエフィちゃんが反射しました。

 理解した瞬間に、何処かで大きな爆発音が聞こえてきました。


「ジェス、エフィはポーチに隠れていなさい。リーゼ、音の震源地は何処です」


 ラーズ君の指示に従いジェス君とエフィちゃんは、ポーチに潜りました。

 リーゼちゃんが、素早く窓を開けます。

 覗いて見ますと、闇夜に尖塔が並ぶ王宮の一角が崩れていくのが分かりました。


「探索で覗けないと分かるやいな、攻撃ですか。随分と短慮な性格をしていますね。明日、会えるのが楽しみです」


 ああ。

 ラーズ君が鼠を甚振る獰猛な目をしています。

 王宮にいる誰かが敵対者だと、認定されました。

 何処の誰だかは知りませんが、ご愁傷さまです。

 ラーズ君に存分に甚振られてください。


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