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森と海の娘は平穏を望む  作者: 堀井 未咲
ドラグース編
122/197

第14話

月曜投稿です。

 ヴェルサス家のご当主たるお爺さんが、執事さんや護衛の方に、リーゼちゃんの出自を説明しています。

 執務室に入室した方々は、お爺さんの信頼を寄せる方に間違いはなさそうです。

 敵意を向けてきて護衛の方は、騙りではないかと評しましたが、審判の魔導具の成果は覆すことの出来ない事実です。

 皆様、一様に驚き、納得されました。


 〔良かったのですか? 竜王を喚ぶと断言して〕

 〔ん。王家、呪いの発祥。被害、拡大する〕

 〔そもそも、リーゼの身内探しはついでの理由だった気が、しないでもありません〕

 〔むう〕

 〔リーゼちゃんは、ヴェルサス家を救いたいのですよね〕

 〔そう。父、実家無くなる、いや〕

 〔滅多にない、リーゼちゃんのお願いは、叶えてあげたいです〕

 〔ジェスもぅ〕

 〔エフィもでしゅの~〕


 ほら、四対一です。

 私達の意思が勝ちです。

 ヴェルサス家と因縁有りそうな、レンダルク家には召喚者がいます。

 探りを入れるのにも、ヴェルサス家は適していると思いませんか。

 それに、儀式とやらが竜召の意味を持つのならば、幼い竜の個体を選んで狙っていると教えて貰いました。

 対策を練らないといけないのでは?


 〔竜召の儀式を促してきていますから、ヴェルサス家が、善人だとは思いません。リーゼちゃんを利用して、竜騎士を誕生させたいのなら、利用し返してやりましょう〕

 〔具体的には?〕

 〔ラーズ君にお任せします〕

 〔ん。任せた〕

 〔はあ~〕


 ラーズ君が溜め息を吐き出しました。

 交渉役に続いて、策戦を練るのはラーズ君が適任です。

 私とリーゼちゃんだと、力業になってしまいます。

 リーゼちゃんは竜種の上位種ですから、亜種の飛竜種を確実に喚び、屈服させれますが、そこには信頼関係が結べません。

 リーゼちゃんの支配勢威域が途切れれば、竜騎士を放り出して逃げ出すのは必定です。

 反撃して食い殺しもあり得ます。

 かといって、リーゼちゃんがドラグースに居を構えることは、出来ません。

 ヴェルサス家は気になりますが、お父様の実家だからです。

 私達とヴェルサス家を天秤にかければ、私達に重きを置くのは当然です。

 私とラーズ君がミラルカに戻れば、リーゼちゃんも帰宅します。

 次に、私が召喚契約した飛竜種をヴェルサス家に貸し出す。

 此方は、ラーズ君が採用しない案です。

 私は大地に属する神族の神子です。

 空を飛翔する飛竜種とは、相性が悪いです。

 召喚できなくはないのですが、大地に生きる獣種程には楽に使役は出来ないでしょう。

 飛竜種も生き物ですから、大地の恵みや獣種を主食にしています。

 希に、好意的な飛竜種もいます。

 けれども、此方も私が側にいなくなれば、他者に関心がなくなります。

 どちらの、案もドラグースに居を移さなくてはならないのが、欠点となります。


 〔僕を信頼してくれるのは、有り難いですが。無茶振りはよして欲しいですね〕

 〔むう。ラーズ、欲しがる石、贈り物、造る〕

 〔んー。私はどうしましょうか。美容シリーズを贈呈しましょうか。お店番を代わりますか〕

 〔どちらも、好意だけ貰っておきますよ。それより、話し合いが終わります〕


 あら。

 皆様の視線が、リーゼちゃんに集まっています。

 期待の込められた眼差しが半分、胡散臭げに見られるのが半分といったところです。

 警戒するのは、よいと思いますよ。

 何しろ、リーゼちゃんの外見年齢が十代後半です。

 実の娘にしたら、何時の歳の子であるかと、不審が沸きます。

 お爺さんも遺児だとしか言っていません。

 もしかしたら、孫と判断されているかもです。


「審判の魔導具を疑う理由はありませんが。ベルナール様の遺児だとしたら、年齢が合わないのではないかと」

「竜人族の寿命は、人族の倍は優に越える。それに、ベルナール殿の愛竜は竜王姫。何かしらの恩恵があるやもしれん」

「不老長寿の恩恵だとしましたら、リーゼ様の身の安全が脅かされるやも」

「だとしましたら、リーゼ様には当屋敷にてお守すべきかと」

「王家には、何と申し上げますかな」


 皆様、口々にお喋りしています。

 部外者の私達に聴かせてよいのでしょうか。

 と、思っていましたら、リーゼちゃんが私とラーズ君の腕を掴んでいました。

 離されるのを嫌がっている。

 リーゼちゃんの意思表示です。


「リオンとリーナ。離す、駄目」

「分かっておる。獣人の兄妹とは、一緒におったらいい。皆も、その様にな」

「はっ」

「しかし、獣人族のご兄妹ですか。レンダルク家が、何と言い出すかわかりませんな」

「ドラグースでは、獣人族は排斥される種族ですか?」


 ラーズ君が質問しました。

 リーゼちゃんが反応して、腕を抱え込まれました。

 眉根に皺が依っています。


「いや。他種族を排斥したら、帝国と同じだ。レンダルク家には、神国からの客人がおる。其奴がな、狐の獣人族の兄妹を探しておるのだ。恐らくは、お前達のことだろう。心当たりはあるか?」

「いいえ。初めて聴きました」

「何でも、兄は武勇に優れ、妹は回復・支援に適した腕前。己れのパーティに加わる人材だとな」


 神国の客人とは、召喚者のことですよね。

 何故に、私とラーズ君が探されて、パーティに加わらなければならないのか不思議です。

 ラーズ君も、思考の海に入りました。

 狐の獣人族と断定しているのが、更に不気味ですよね。

 まるで、私とラーズ君がドラグースに来るのを、分かっていたかの様です。

 宿屋の女将さんが、やたらと私を気遣っていたのも、これがあったからかも知れません。

 レンダルク家か、召喚者のどちらかはわかりませんが、未来視・予知者がいるのかもです。

 お付きの神官が怪しいですね。


「特に、妹御。召喚者には気を配れ。あやつには、一度会ったが焦臭い薫りがしておった。その薫りに包まれたレンダルク家の令嬢が、奴には骨抜きになりおったわ」


 お爺さんの忠告によぎりましたのは、魅了魔法を使う聖女さんのことです。

 魅了魔法は、大抵薫りが主流となって効果を発揮します。

 竜人族の状態異常耐性は、人族よりかは高かったはずです。

 竜人族すらも魅了魔法に捕らえる。

 私に抵抗出来るかどうか、会って見ないことにはわかりません。

 が、過保護なラーズ君とリーゼちゃんが、容易く会わせようとはしないでしょうね。


「ヴェルサス家、レンダルク家、対立してる?」

「対立とまではいかんが、ベルナール殿の出奔の原因になったのが、レンダルク家にある」

「ベルナール様には、王家の姫と政略結婚が決まっておりました。竜召の儀式にて竜王姫を召喚したベルナール様を、王家に取り囲みたかったのでしょう。しかし、レンダルク家に横槍を入れられ、ベルナール様は幸いと出奔されました」

「レンダルク家は、原因を作ったことも忘れて、ヴェルサス家を糾弾した。竜人族の恥さらしと称して、罪人扱いをしよって、竜王姫に断罪されたがな」

「王家も竜王姫の怒りを買ったと、聴きましたけど。王家も、リーゼさんのお父さんを犯罪者扱いをしたのですか?」


 当時の様子を、お爺さんと執事さんが教えてくれます。

 国に仕える竜騎士が出奔だなんて、相当な出来事がなければないかと思います。

 威信をかけて、捜索はするでしょう。


「王家には、ベルナール殿を悪者に仕立てあげる理由があった。降嫁するべき姫が、レンダルク家の子を身籠っておった」


 うわお。

 それは、スキャンダルです。

 他人の子供を宿した姫を、降嫁だなんて王家も狡猾ですね。


「勿論、ヴェルサス家は抗議をした。みすみす、竜王姫の竜騎士を放り出したのかの様に、極悪非道と大衆に植え付けたからな。その間違いは、竜王姫自らが正して王家を呪った。王家と王家の血が入ったレンダルク家には、竜騎士が誕生しなくなり、竜が去った。まあ、ヴェルサス家にも飛び火して、竜騎士が誕生しなくなったがの」

「ヴェルサス家、竜王姫呪いない。竜騎士、いてもおかしくない」

「羨まれたのだろう。ヴェルサス家が竜召の儀式を行うと、必ず王家やレンダルク家が見届け人となる。竜は嫌がって、近寄ってはこん」


 国家的嫌がらせですか。

 確実に、ヴェルサス家を潰しにかかっていますね。

 ヴェルサス家がなくなれば、竜が戻って来ると考えているのでしょうか。

 浅はか、です。

 王家の質も落ちたものです。

 リーゼちゃんが竜王を喚ぶと、ヴェルサス家には利があるでしょうか。

 問題が大きくなるだけと思います。

 単純に竜を喚んで終わり、とはならないですね。

 長さんから依頼されたのは、竜召の儀式にあります。

 王家やレンダルク家が、儀式を行っているのは事実です。

 無駄に終わっていますけど。

 好奇心旺盛な幼い竜が、応えてしまったら親竜が取り返しに来るのは必定です。

 もしや、王家側は、これを狙っています?

 成体の竜を支配出来ると、確信出来る何かがあるのかもしれません。

 それには、召喚者が関わっていると。

 その召喚者が、私とラーズ君を欲しがっている。

 私達には、もれなくリーゼちゃんが着いてくる。

 竜種のリーゼちゃんが。

 未来視か予知者かしれませんが、そこまで読んでいるかもです。


 〔納得〕

 〔有り得ない話では、なさそうです〕


 念話で、ラーズ君とリーゼちゃんに伝えてみました。

 神国の未来視に長けた神官なりが、王家に肩入れしているのかもしれません。

 竜人族は、帝国に対抗する勢力の大元と言えます。

 人より優れた体力、魔力を有しています。

 神国はドラグースが揺れる案件には敏感でしょう。

 一致団結させて、竜騎士誕生を願っているでしょう。

 下手をしたら、竜王姫の呪いを持った王家を見限り、ヴェルサス家を新王家になんて考えているやも。

 穿った見方ですかね。


「旦那様」

「入れ」


 開け放たれたままの扉越しに、メイドさんが声をかけました。

 執務室には、異様な面々がいます。

 家令さんは伸びたままですし、執事さんはその家令さんの首根っこを持ったままですし、護衛さんは私達を警戒しているか、期待の込められた眼差しをしているか。

 声をかけづらいでしょう。


「用件は何だ」

「はい。あのう、レンダルク家の令嬢が客人を伴い、ヴェルサス家に拘束されている獣人族の兄妹を解放しろと、乗り込んで来ております」


 あらあ?

 どうしましょう。

 彼方側から、接触してきましたよ。

 ラーズ君の耳が、忙しなく動いています。

 冷笑を浮かべていますから、令嬢や召喚者の騒いでいる様子を聴いていますね。

 リーゼちゃんも、無表情でお怒りです。

 風が言葉を運んでいるのでしょう。


「さて、どうするかね」


 お爺さんが問いてきます。

 勿論、迎え撃ちます。

 念話で、ラーズ君がやる気に満ちています。

 リーゼちゃんも援護すると張り切っています。

 いよいよ、神国の召喚者と対峙が始まります。

 さあ、何が出てくるか見物です。




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