第14話
月曜投稿です。
ヴェルサス家のご当主たるお爺さんが、執事さんや護衛の方に、リーゼちゃんの出自を説明しています。
執務室に入室した方々は、お爺さんの信頼を寄せる方に間違いはなさそうです。
敵意を向けてきて護衛の方は、騙りではないかと評しましたが、審判の魔導具の成果は覆すことの出来ない事実です。
皆様、一様に驚き、納得されました。
〔良かったのですか? 竜王を喚ぶと断言して〕
〔ん。王家、呪いの発祥。被害、拡大する〕
〔そもそも、リーゼの身内探しはついでの理由だった気が、しないでもありません〕
〔むう〕
〔リーゼちゃんは、ヴェルサス家を救いたいのですよね〕
〔そう。父、実家無くなる、いや〕
〔滅多にない、リーゼちゃんのお願いは、叶えてあげたいです〕
〔ジェスもぅ〕
〔エフィもでしゅの~〕
ほら、四対一です。
私達の意思が勝ちです。
ヴェルサス家と因縁有りそうな、レンダルク家には召喚者がいます。
探りを入れるのにも、ヴェルサス家は適していると思いませんか。
それに、儀式とやらが竜召の意味を持つのならば、幼い竜の個体を選んで狙っていると教えて貰いました。
対策を練らないといけないのでは?
〔竜召の儀式を促してきていますから、ヴェルサス家が、善人だとは思いません。リーゼちゃんを利用して、竜騎士を誕生させたいのなら、利用し返してやりましょう〕
〔具体的には?〕
〔ラーズ君にお任せします〕
〔ん。任せた〕
〔はあ~〕
ラーズ君が溜め息を吐き出しました。
交渉役に続いて、策戦を練るのはラーズ君が適任です。
私とリーゼちゃんだと、力業になってしまいます。
リーゼちゃんは竜種の上位種ですから、亜種の飛竜種を確実に喚び、屈服させれますが、そこには信頼関係が結べません。
リーゼちゃんの支配勢威域が途切れれば、竜騎士を放り出して逃げ出すのは必定です。
反撃して食い殺しもあり得ます。
かといって、リーゼちゃんがドラグースに居を構えることは、出来ません。
ヴェルサス家は気になりますが、お父様の実家だからです。
私達とヴェルサス家を天秤にかければ、私達に重きを置くのは当然です。
私とラーズ君がミラルカに戻れば、リーゼちゃんも帰宅します。
次に、私が召喚契約した飛竜種をヴェルサス家に貸し出す。
此方は、ラーズ君が採用しない案です。
私は大地に属する神族の神子です。
空を飛翔する飛竜種とは、相性が悪いです。
召喚できなくはないのですが、大地に生きる獣種程には楽に使役は出来ないでしょう。
飛竜種も生き物ですから、大地の恵みや獣種を主食にしています。
希に、好意的な飛竜種もいます。
けれども、此方も私が側にいなくなれば、他者に関心がなくなります。
どちらの、案もドラグースに居を移さなくてはならないのが、欠点となります。
〔僕を信頼してくれるのは、有り難いですが。無茶振りはよして欲しいですね〕
〔むう。ラーズ、欲しがる石、贈り物、造る〕
〔んー。私はどうしましょうか。美容シリーズを贈呈しましょうか。お店番を代わりますか〕
〔どちらも、好意だけ貰っておきますよ。それより、話し合いが終わります〕
あら。
皆様の視線が、リーゼちゃんに集まっています。
期待の込められた眼差しが半分、胡散臭げに見られるのが半分といったところです。
警戒するのは、よいと思いますよ。
何しろ、リーゼちゃんの外見年齢が十代後半です。
実の娘にしたら、何時の歳の子であるかと、不審が沸きます。
お爺さんも遺児だとしか言っていません。
もしかしたら、孫と判断されているかもです。
「審判の魔導具を疑う理由はありませんが。ベルナール様の遺児だとしたら、年齢が合わないのではないかと」
「竜人族の寿命は、人族の倍は優に越える。それに、ベルナール殿の愛竜は竜王姫。何かしらの恩恵があるやもしれん」
「不老長寿の恩恵だとしましたら、リーゼ様の身の安全が脅かされるやも」
「だとしましたら、リーゼ様には当屋敷にてお守すべきかと」
「王家には、何と申し上げますかな」
皆様、口々にお喋りしています。
部外者の私達に聴かせてよいのでしょうか。
と、思っていましたら、リーゼちゃんが私とラーズ君の腕を掴んでいました。
離されるのを嫌がっている。
リーゼちゃんの意思表示です。
「リオンとリーナ。離す、駄目」
「分かっておる。獣人の兄妹とは、一緒におったらいい。皆も、その様にな」
「はっ」
「しかし、獣人族のご兄妹ですか。レンダルク家が、何と言い出すかわかりませんな」
「ドラグースでは、獣人族は排斥される種族ですか?」
ラーズ君が質問しました。
リーゼちゃんが反応して、腕を抱え込まれました。
眉根に皺が依っています。
「いや。他種族を排斥したら、帝国と同じだ。レンダルク家には、神国からの客人がおる。其奴がな、狐の獣人族の兄妹を探しておるのだ。恐らくは、お前達のことだろう。心当たりはあるか?」
「いいえ。初めて聴きました」
「何でも、兄は武勇に優れ、妹は回復・支援に適した腕前。己れのパーティに加わる人材だとな」
神国の客人とは、召喚者のことですよね。
何故に、私とラーズ君が探されて、パーティに加わらなければならないのか不思議です。
ラーズ君も、思考の海に入りました。
狐の獣人族と断定しているのが、更に不気味ですよね。
まるで、私とラーズ君がドラグースに来るのを、分かっていたかの様です。
宿屋の女将さんが、やたらと私を気遣っていたのも、これがあったからかも知れません。
レンダルク家か、召喚者のどちらかはわかりませんが、未来視・予知者がいるのかもです。
お付きの神官が怪しいですね。
「特に、妹御。召喚者には気を配れ。あやつには、一度会ったが焦臭い薫りがしておった。その薫りに包まれたレンダルク家の令嬢が、奴には骨抜きになりおったわ」
お爺さんの忠告によぎりましたのは、魅了魔法を使う聖女さんのことです。
魅了魔法は、大抵薫りが主流となって効果を発揮します。
竜人族の状態異常耐性は、人族よりかは高かったはずです。
竜人族すらも魅了魔法に捕らえる。
私に抵抗出来るかどうか、会って見ないことにはわかりません。
が、過保護なラーズ君とリーゼちゃんが、容易く会わせようとはしないでしょうね。
「ヴェルサス家、レンダルク家、対立してる?」
「対立とまではいかんが、ベルナール殿の出奔の原因になったのが、レンダルク家にある」
「ベルナール様には、王家の姫と政略結婚が決まっておりました。竜召の儀式にて竜王姫を召喚したベルナール様を、王家に取り囲みたかったのでしょう。しかし、レンダルク家に横槍を入れられ、ベルナール様は幸いと出奔されました」
「レンダルク家は、原因を作ったことも忘れて、ヴェルサス家を糾弾した。竜人族の恥さらしと称して、罪人扱いをしよって、竜王姫に断罪されたがな」
「王家も竜王姫の怒りを買ったと、聴きましたけど。王家も、リーゼさんのお父さんを犯罪者扱いをしたのですか?」
当時の様子を、お爺さんと執事さんが教えてくれます。
国に仕える竜騎士が出奔だなんて、相当な出来事がなければないかと思います。
威信をかけて、捜索はするでしょう。
「王家には、ベルナール殿を悪者に仕立てあげる理由があった。降嫁するべき姫が、レンダルク家の子を身籠っておった」
うわお。
それは、スキャンダルです。
他人の子供を宿した姫を、降嫁だなんて王家も狡猾ですね。
「勿論、ヴェルサス家は抗議をした。みすみす、竜王姫の竜騎士を放り出したのかの様に、極悪非道と大衆に植え付けたからな。その間違いは、竜王姫自らが正して王家を呪った。王家と王家の血が入ったレンダルク家には、竜騎士が誕生しなくなり、竜が去った。まあ、ヴェルサス家にも飛び火して、竜騎士が誕生しなくなったがの」
「ヴェルサス家、竜王姫呪いない。竜騎士、いてもおかしくない」
「羨まれたのだろう。ヴェルサス家が竜召の儀式を行うと、必ず王家やレンダルク家が見届け人となる。竜は嫌がって、近寄ってはこん」
国家的嫌がらせですか。
確実に、ヴェルサス家を潰しにかかっていますね。
ヴェルサス家がなくなれば、竜が戻って来ると考えているのでしょうか。
浅はか、です。
王家の質も落ちたものです。
リーゼちゃんが竜王を喚ぶと、ヴェルサス家には利があるでしょうか。
問題が大きくなるだけと思います。
単純に竜を喚んで終わり、とはならないですね。
長さんから依頼されたのは、竜召の儀式にあります。
王家やレンダルク家が、儀式を行っているのは事実です。
無駄に終わっていますけど。
好奇心旺盛な幼い竜が、応えてしまったら親竜が取り返しに来るのは必定です。
もしや、王家側は、これを狙っています?
成体の竜を支配出来ると、確信出来る何かがあるのかもしれません。
それには、召喚者が関わっていると。
その召喚者が、私とラーズ君を欲しがっている。
私達には、もれなくリーゼちゃんが着いてくる。
竜種のリーゼちゃんが。
未来視か予知者かしれませんが、そこまで読んでいるかもです。
〔納得〕
〔有り得ない話では、なさそうです〕
念話で、ラーズ君とリーゼちゃんに伝えてみました。
神国の未来視に長けた神官なりが、王家に肩入れしているのかもしれません。
竜人族は、帝国に対抗する勢力の大元と言えます。
人より優れた体力、魔力を有しています。
神国はドラグースが揺れる案件には敏感でしょう。
一致団結させて、竜騎士誕生を願っているでしょう。
下手をしたら、竜王姫の呪いを持った王家を見限り、ヴェルサス家を新王家になんて考えているやも。
穿った見方ですかね。
「旦那様」
「入れ」
開け放たれたままの扉越しに、メイドさんが声をかけました。
執務室には、異様な面々がいます。
家令さんは伸びたままですし、執事さんはその家令さんの首根っこを持ったままですし、護衛さんは私達を警戒しているか、期待の込められた眼差しをしているか。
声をかけづらいでしょう。
「用件は何だ」
「はい。あのう、レンダルク家の令嬢が客人を伴い、ヴェルサス家に拘束されている獣人族の兄妹を解放しろと、乗り込んで来ております」
あらあ?
どうしましょう。
彼方側から、接触してきましたよ。
ラーズ君の耳が、忙しなく動いています。
冷笑を浮かべていますから、令嬢や召喚者の騒いでいる様子を聴いていますね。
リーゼちゃんも、無表情でお怒りです。
風が言葉を運んでいるのでしょう。
「さて、どうするかね」
お爺さんが問いてきます。
勿論、迎え撃ちます。
念話で、ラーズ君がやる気に満ちています。
リーゼちゃんも援護すると張り切っています。
いよいよ、神国の召喚者と対峙が始まります。
さあ、何が出てくるか見物です。
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